第61話 秘密結社ノーメン
「わ、我が…… 老害……」
ミーシャは両手で膝を抱えながら、焦点の定まらない目付きで何かぶつぶつと呟いている。
「……意外とミーシャはメンタルが弱いんだな。まあ、ミーシャのことは放っておいて、私は儀式の準備を始めるか」
ライムは山頂の広場に魔法陣を描きはじめた。
「岩山の地面の上に、直に魔法陣を描いても大丈夫なんですか?」
「族長からの許可はもらっている。それに、擦ったりすれば簡単に消える染料を使っているから何も問題はない」
ライムが儀式の準備を進めていると、山頂の広場に次々と観光客が集まってきた。
「なんか急に人が増えてきましたね?」
ドーラが不思議そうに周囲を見渡していると、里の族長が転移陣のある山小屋からやってきた。
「やあやあ、ライムさん。儀式の準備の方は順調に進んでいますか?」
「急に山頂に人が集まり出したが、もしかして族長が何かをしたのか?」
「ええ、もちろんですよ。精霊降ろしの儀式なんて、滅多にお目にかかれる物ではないですからね。しかも、対象は大地の精霊。きっと、これは運命なのでしょうね。いやあ…… 本当に待ちくたびれましたよ…… なので、こちらで少し宣伝をさせてもらいました」
満面の笑みを浮かべながら、族長は持っていたチラシをライムへと渡した。
そんな族長の顔を見た目ライムは、若干の違和感を感じているようだ。
「……まあいいか。何々…… 特別イベント開催中、精霊巫女による大地の精霊降ろしチャレンジ? なんだよこれ?」
「ふふふ、観光地としては見逃せないイベントでしょう? こう言う地道な努力の積み重ねで、ダークエルフの里は観光地として発展をしてきたんですよ」
ライムはチラシを持ったまま、ぽかんと口を開けて呆れている。
「ずいぶんあっさりと儀式の許可を出したなと思ったら、こう言う訳だったのか…… まったく商魂たくましいと言うか、ちゃっかりしてると言うか。まあ、儀式の邪魔をしないのであれば、族長の好きなようにしくれて構わないさ」
「はい、そうさせてもらいます。出来ることなら、すぐにチャレンジを成功させずに、数日間くらいは儀式を続けてもらえると助かります」
族長はライムにお辞儀をして、チラシ配りに戻っていった。
「それじゃあ、私も悪魔の岩山の調査に行ってきます」
「ああ、わかった。それにしても、ドーラは採掘をしないで、どうやって岩山の中を調べるつもりなんだ?」
「ふひひひ、内緒です。簡単には見つからないと思いますので、こっちの様子も見に来ながらのんびりと探しますよ。ミーシャさんは、ここでライムさんの儀式を見てるんですか?」
ミーシャは膝を抱えながら、何かぶつぶつと呟いている。
「そんなに老害と言われたのがショックだったのか…… ミーシャのことは私が見てるから、気にせずにドーラは調査に行ってきていいぞ」
「はい、行ってきます」
ドーラは山頂の山小屋に入ると、転移陣で悪魔の岩山の麓にある小屋まで移動をする。
小屋の中に誰もいないのを確認してから、ドーラは調査の準備を始めた。
「なるべく目立たないように調査をしたいから、人気の少ない岩山の裏側まで移動をしてから調査をはじめよう。レイビィ、能面とローブを付けて出てきて」
ドーラに指示をされ、変装をしたレイビィが影の中から出てくる。
「とりあえず、歩いて岩山の裏側までぐるっと回ってみようか。一応、私も正体がバレないように能面とローブを付けてっと…… ダイフクは能面を被れないから、背中に括りつけようね。顔は隠せないけど、ダイフクの見た目は普通の犬だから変装をしなくても大丈夫でしょう。ダイフクだけ能面を付けないのは可哀想だからね」
ドーラはダイフクの背中に能面を括り付けた。
「ワン」
ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。
「うん、似合ってるよ。これで調査中に誰かに見られても安心だね」
「クックック。ドーラ様とお揃いの衣装を着れるとは、恐縮至極でございます」
「ふひひひ、なんか謎の組織みたいでちょっと格好いいね。よし! この格好をしている時は、秘密結社ノーメンを名乗ることにしよう!」
「ワン」
「仰せのままに」
「よし。それじゃあ、岩山調査に出発!」
ガチャ
ドーラ達は小屋から出ると、岩山の裏側に向かって歩きだした。
突然、悪魔の岩山に現れた謎の集団に、まわりの観光客は何事かと興味を寄せている。
「なんだ? 仮装大会のイベントでもやっているのか?」
「あの犬は見たことあるぞ。確か、精霊巫女と神官の少女と一緒にいた犬だな」
「なるほど、精霊巫女の仲間か。そうなると、精霊降ろしの儀式の宣伝か何かだな」
一瞬で街の人たちに正体がバレるのであった。
(突然、街中に現れた謎の組織にみんな驚いているな。ふひひひ、変装をしているから見られても平気だよ。秘密結社は、誰にも正体を知られてはいけないからね)
手を振ってくる観光客に手を振り返しながら、ドーラはご機嫌で歩いていった。
ほどなくして、ドーラ達は岩山の反対側までたどりつく。
ダークエルフの里とは反対側になるため、辺りには観光客の姿もなく、閑散とした空気に包まれていた。
「この辺なら誰にも見られずに調査をしやすいかな? それじゃあレイビィ、作戦通りにお願いね。急がなくてもいいから、鉱物を見逃さないよう慎重に岩山の中を調べて来て」
「かしこまりました。ともあれ、この大きさの岩山の内部を調べるとなると、一日では全部を調べきれませんね。ドーラ様はここでお待ちになられずに、里の観光でもされては如何でしょうか?」
「んー、暇になったらそうする。スコープワームを里のあちこちに配置してあるから、ここから里の様子をダイフクと一緒に観察してるよ」
「御身のままに」
レイビィは仮面とローブを収納魔法で仕舞い、吸い込まれるように岩山の中へと姿を消していった。
「それじゃあ、私たちは里の観察でもしようか。まずは岩山の山頂はどうなってるかな? ライムさんが魔法陣の中央で、目を閉じながら座っている。もう儀式を開始してるんだね。ミーシャさんは、まだ膝を抱えて座っているな。可哀想だから、後で老害と言ったことを謝ろう。回りには凄い大勢の観光客が集まっているな。いつの間にか、出店もたくさん並んでいる。後で私たちも何か食べようね」
「ワン」
ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。
「里の方も見てみよう。こっちの方も賑わってるな。裏門の前で族長さんがチラシを配ってる。ここの里の人たちは、お祭り好きで陽気な感じだね。父のガイドブックには危険な場所って書いてあったけど、やっぱり別の場所と勘違いをしていたのかな? あ、今チラシ受け取った人、ローブを深く被っていて謎の組織みたいだね。顔は見えないけど、手の感じからしてダークエルフの女の子かな? あ、ダークエルフは長寿だから、見た目は子供でも年上かもしれないのか。それにしても、かなりの量の魔素を持っているな。魔の森で見たワイバーンには及ばないけど、ドルビィさんよりもずっと大きい魔素量だ。んー、これは本当に謎の組織だったりして。気になるから、少し後を追ってみようか? ノーメンのライバル組織になったら面白いね」
「ワン」
意外と感の鋭いドーラなのであった。




