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第60話 悪魔の岩山

「ミーシャさん、いつまで寝ているんですか? もう朝ですよ。早く起きてください」


 大の字になってベッドで寝ているミーシャは、ドーラに体を揺すられ起こされる。


「フシュー、もう朝か…… 昨夜は久しぶりの酒にありつけたとあって、ちと飲み過ぎてしもうたかの」


 大きな欠伸あくびをしながら、ミーシャは部屋の中を見渡した。


「ライムの姿が見当たらないが、すでに何処かへと出掛けたのかの?」


「ライムさんは朝風呂に入ってますよ。なんか全身がベトベトで気持ちが悪いそうです」


「ああ、そういえば昨日はお楽しみだったのう。ドーラとライムは恋仲なのかえ?」


 ガチャ


「だから違うと言ってるだろ!」


 汗を流し終えたライムが、下着姿のままで風呂場から出てくる。


「はあ、ドーラはめちゃくちゃ寝相が悪いんだよ…… 下手に一緒に寝ると、とんでもない目にうからな…… いや、待てよ。レッドドラゴンのミーシャなら、ドーラの力にあらがうことが出来るかもしれないな。そう言うわけで、今日の夜はミーシャがドーラと一緒に寝てくれないか?」


「ん? 我は別に構わんが、一緒に寝るとどうなるのじゃ?」


「クックック、それは今夜のお楽しみだ」


 本日の被害者が決定したのだった。


「私はこれから、悪魔の岩山での儀式許可を貰うために、族長に挨拶をしに行ってくる。二人は今日の予定は決めているのか?」


「この数百年でダークエルフの里も様変わりをしたようじゃし、我は観光でもしながら、のんびりと悪魔の岩山でも登るとするのじゃ」


「私は悪魔の岩山の調査許可が欲しいので、ライムさんと一緒に族長さんのところに挨拶に行きます」


「そうか、分かった。そう言えば、ミーシャはお金は持っているのか? 昨日の酒代はどうやって払ったんだ?」


「フシュシュ、昨日お主らと別れた後に、里の土産屋で我のうろこを売ったのじゃよ。我の鱗はアダマンタイトよりも硬く、炎に対する絶対耐性があるからの。鱗一枚で金貨300枚になったのじゃ」


 ミーシャは得意気に金貨の詰まった袋を出して自慢をしている。


「ききき、金貨300枚! ミーシャさんの鱗は何枚あるんですか!」


 ドーラは目を¥にしてミーシャの体を凝視ぎょうししている。


「ええ…… ドーラの視線が怖いんじゃが……」


「は! 危ない危ない。ミーシャさんのことが、お金に見えてしまいました」


「意外とドーラは俗物的なんじゃの…… 我の鱗をぐのは勘弁して欲しいのじゃよ……」


「すみません、反省します」


「馬鹿なことやってないで、もう行くぞドーラ」


 着替え終わったライムに急がされて、ドーラ達は族長の家へと向かった。


「フシュー、慌ただしい奴らじゃ。さてと、我はのんびりと散歩にでも出掛けるかの」


 ミーシャは金貨の詰まった袋を胸の間へと仕舞った。

 人型状態のミーシャの胸の間は、アイテムボックスのような空間になっているのだ。

 どのような原理かは謎であるが、そう言うシステムなのである。

 ミーシャは宿屋を出て、ダークエルフの里の観光へと向かった。


「本当に豊かな里になったものじゃな。三百年前までは、他種族との交流などもほとんどなく、旅人ですらダークエルフの里に近付くことが困難じゃったからの。三百年前に起きたあの出来事により、邪神の封印を護る必要がなくなったと言うことか…… この地が安全になったことで、誰でも気軽に訪れることが出来るようになった…… フシュー、果たして本当に安全なのかのう…… 我々は脅威の排除をしたのではなく、問題の先延ばしをしているだけなのじゃから……」


 多くの観光客で賑わう大通りを歩きながら、ミーシャは過去の出来事を思い返している。


「昔と変わらないのは悪魔の岩山だけじゃ。フシュー、相変わらず黒いのう…… 今はもう魔素を吸い上げてはいないはずじゃが、いったい過去にどれだけの魔素を溜め込んでいたのじゃ……」


 ミーシャは自然と悪魔の岩山へと続く裏門の前に来ていた。


「登山希望者ですか? 山道は整備されてますが頂上付近は気温が低いので、貸し出し用の防寒着ぼうかんぎをお勧めしますが」


 受付の男性が薄着うすぎのミーシャを心配して、奥から防寒着を持ってきた。

 ミーシャは胸と下腹部が鱗におおわれているが、明らかに露出度ろしゅつどが高い見た目である。

 実質的には全裸と表現をした方が正しいだろう。


「ふむ、我はレッドドラゴンなので寒さに弱いからの。ありがたくお主の好意を受けるのじゃ」


「レッドドラゴン?」


 受付の男性は不思議そうな顔をしているが、冗談だと受け取って笑顔でミーシャに防寒着を渡した。


「ドラゴンの姿で空を飛べば一瞬じゃが、それではちとおもむきに欠けるの。せっかくじゃし、のんびりと歩いて登るとするかの」


 悪魔の岩山は元々が巨大樹の切り株なので、頂上までの斜面はとても急勾配きゅうこうばいである。

 その為、頂上までは岩山の周囲を回るように、緩やかに山道が整備されていた。

 山道では、ミーシャの他にも多くの登山者が行き交っている。


「観光目的の者以外にも、魔術師や神官系の冒険者をちらほらと見かけるの。この地は魔素の濃度が高い場所じゃから、パワースポット的な聖地にでもなっておるのかの?」


 ミーシャの想像通り、悪魔の岩山はパワースポットとして冒険者に人気がある。

 特に、山頂付近では治癒魔法や癒しの祈りの効果が高くなるため、怪我の療養に来る冒険者が多いのであった。

 太陽が真上へと昇り正午になる頃、ミーシャは岩山の山頂へと到着をする。

 山頂は切り株の断面ということもあり、平坦へいたんでなだらかかな空間が広がっていた。


「人型の状態でこの場所に来るのは初めてじゃが、思っていたよりも標高が高くて空気も薄いようじゃの。防寒着を借りてきて正解じゃった。この場所に来るのも久しいが、ドラゴンの姿で来た時とはまた違った印象を受けるのじゃ」


 ミーシャがしみじみと山頂を見渡していると、中心付近に小さな小屋が建っているのを見つける。


「あれはなんの小屋じゃ?」


 ミーシャが不思議そうに山小屋を見ていると、ドアが開いて中からライムが出てきた。


「あれ、ミーシャも悪魔の岩山に登っていたんだな」


 ミーシャに気付いたライムが手を振りながら近付いてくる。


「むむ、ライムは族長の元へ挨拶に行ったのではなかったのか? いつの間に、我のことを追い越していたのじゃ?」


 ライムの後ろを着いてくるように、山小屋の中からドーラとダイフクも現れた。


「族長さんに挨拶をした後、裏門にある転移陣から山頂の山小屋まで移動をして来たんですよ。もしかして、ミーシャさんは歩いて登ってきたんですか?」


「むむ、せっかくの観光なのじゃから、自分の足で登らぬと意味がないじゃろうに。全く、最近の若い者は楽をすることばかり考えおって……」


「いや、私たちは観光に来たんじゃないからな……」


「ミーシャさん、老害みたいな事を言っていると若者に嫌われますよ」


「ガーン」


 老害認定をされたミーシャは、ショックを受け両手をついてうなだれている。

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