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第55話 ミーシャvsドルビィ

 ランゲル王国の砂漠地帯を越えた大陸最南端の場所に、フォークラム火山はそびえたっている。

 この星に生命が誕生する以前から、絶えず噴火を繰り返している活発な活火山だ。

 そのふもとには、幾重いくえにも重なった溶岩で埋め尽くされており、まるでこの場所に足を踏み入れる者をこばんでいるかのようであった。

 そして、隔絶されたこの場所をねぐらとする、一匹のエレメンタルドラゴンがいた。


「フシュー…… 何奴じゃ…… 我が領域に足を踏み入れる愚か者は……」


 溶岩の中からその巨体を覗かせて、レッドドラゴンは火口の入り口を見上げていた。

 そこには、顔半分を仮面で隠した魔術師風の男が立っている。

 レッドドラゴンはその仮面を見つめ、いぶかしげに目を細めている。


「クックック、お久しぶりですねミーシャさん。かれこれ、三百年振りになりますか?」


「その仮面と口調…… お主はドルビィか…… なるほど、それが今のお主の体と言うわけじゃな……」


「クックック、察しが良くて助かりますよ。久し振りの再開なのに、忘れられていたら悲しいですからね」


 ドルビィはとても楽しそうに笑っているが、その表情からは友好的な雰囲気が感じられなかった。


「フシュシュ…… 忘れるわけなかろう。三百年前の大戦時に助力を求めにやって来ておきながら、我に振られてすごすごと帰っていった愚か者じゃからな」


 不適に笑うミーシャに向かって、ドルビィは舌打ちをする。


「ちっ、三百年の時が過ぎても、その横柄おうへうな態度は変わっていないようですね。まあ、いいでしょう。今となっては、そんな昔の話はどうでもいいことです」


 ドルビィは火口から飛び降りて、溶岩に浮かぶ岩場へと着地をした。


「三百年の間、息を潜め姿を消していた魔神の眷属が、今さら世に出てきて我に何用じゃ? りずにまた、我を勧誘にでも来おったのか? フシュシュシュ」


「クックック。貴方のような扱いにくい者など、こちらからお断りをしますよ。もっと素晴らしい方法を、私は思い付いたのでね」


 パチ


 ドルビィが指を鳴らすと、その手に漆黒の靄に包まれた鎌が現れた。


「……魔神の武器か。そんな物を持ち出して何をするつもりじゃ?」


「クックック、貴方も知っているでしょう? この鎌の能力を」


 ミーシャは呆れた表情でドルビィを見つめている。


「大鎌デスサイス…… 斬った相手の魔素を奪い力とする魔剣。魔神が昔よく使っておったな…… だからどうしたのじゃ? 魔神の奴が使っていればこその驚異だ。以前よりも優秀な体を手に入れたようじゃが、貴様のような者が使ったとしても無意味じゃよ。魔術師のような軟弱者では、我に刃を届かせることすら叶わぬぞ? 愚かな魔神の眷族よ……」


 ミーシャのあおりに、ドルビィは苛立いらだちの表情を見せている。


「この体は、この時代の賢者から譲り受けたものです。今の私であれば、貴方と互角以上に戦える力がありますよ」


「愚かな…… 貴様に体を奪われる程度の者の力で、我に敵うなど思い上がりもはなはだしい」


「クックック、この賢者は中々に優秀な人材でしたよ。それに、勘違いをしないでください。奪ったのではなく、譲り受けたのですよ。以前の私の体はすでに限界に達していたので、力で賢者から体を奪う事は出来なかったでしょうからね。だから差し出させたのです。私の魔術知識があれば、彼の長年の夢がかなえられると。同じ魔術の真理を探究たんきゅうする者どうし。実に扱いやすい者でしたよ」


 ミーシャは口から炎を漏らしながら、ドルビィをにらみ付ける。


「フシュー、そそのかしたのか? 三百年前に魔神と聖女を争わせたように……」


「クックック、心外ですねえ。それでは、まるで私が魔神様を裏切ったようではありませんか。私の行動原理は全て魔神様のためです。魔神様以外がこの世界を支配することなど絶対に許しません。それに…… そそのかしたと言うのは、人族が聖女にたいして行ったことを言うのですよ…… そう、あの時から彼女は変わってしまった……」


 ドルビィは空を見上げて、酷く悲しそうな表情をしている。


「……昔はもっと可愛げのある奴じゃったがのう。魔神に力を与えられようとも、所詮は人族の身であったか…… 長き時を生きるには、心が持たなかったのじゃろうな。どうやら、貴様の魔素はすでに壊れているようじゃ…… よかろう。お主とは昔馴染みの因縁じゃ! 今日この時をもってして、我が貴様の人生を終わらせてやろう!」


 ミーシャは大きく息を吸い込むと、ドルビィに向けて凄まじい魔素量のブレスを放った。


 ドカーン


 ドルビィが立っていた岩場が跡形もなく蒸発をする。


「相変わらず、出鱈目でたらめな威力のブレスですね」


 無防備なミーシャの背後に、大鎌デスサイスを構えたドルビィが現れる。


「ば、馬鹿な、ありえん! 詠唱無しで転移をしたじゃと!」


 ザク


「ぐわ!」


 予期せぬ転移魔法に反応が遅れたミーシャを、ドルビィが大鎌デスサイスで斬りつける。

 ミーシャの傷口から膨大な量の魔素が、大鎌デスサイスへと吸収されていく。


「くっ、全ては渡さん!」


 魔素が大鎌デスサイスへと流れていくも、ミーシャは振り向き様にその鋭利な爪をドルビィに向けて振り抜いた。

 ドルビィは再び転移をしてミーシャの攻撃を回避すると、火口の入り口へと移動をする。


「ふむ、一撃では魔素を奪いきれませんでしたか。相変わらず出鱈目な魔素量ですね」


「く、無詠唱転移からの大鎌デスサイスでの必殺の一撃…… なるほど、確かにそれならば格上にも届きうる…… じゃが、転移魔法には膨大な情報量の術式を必要とするはず。無詠唱での発動など可能なのか?」


「賢者の長年の研究を受け継ぎ、私が完成をさせました。彼は魔術師としてよりも、研究者としての資質に優れていましてね。転移魔法の術式を極限にまで圧縮することに成功したのです。とは言え、転移の術式が複雑なのは変わりません。無詠唱での転移魔法の発動は、私にしか出来ないでしょうね」


 ドルビィは再び大鎌デスサイスを構える。


「……我の魔素を奪って、いったい何をするつもりなのじゃ?」


手札てふだが物足りないのですよ。通常のワイバーンでは心許ないので、六体のエレメンタルドラゴンの魔素を使って最強のワイバーンを造るのです」


「なんじゃと! まさか、他の者も襲ったのか!」


「貴方で四体目ですよ。残りの二体は少々手強いので、先ずは四体のエレメンタルドラゴンの魔素を使い、究極のワイバーンを造るつもりです」


「それを使って、三百年前のように人族の国を襲うのか…… 仕方がないのう…… これはあまりやりたくないのじゃがな…… よかろう、特別にお主には見せてやろう」


 意味深なミーシャの発言に、ドルビィは警戒をして身構えている。


「フシュシュシュ! さらばじゃドルビィよ!」


 ドボーン


 ドルビィを嘲笑うように捨て台詞を吐きながら、ミーシャは溶岩深くへと潜っていった。


「な、逃げただと!」


 プライドの高いエレメンタルドラゴンが、迷うことなく逃走したことにドルビィは呆然と立ち尽くしていた。


「クックック、してやられましたねえ。さすがの私でも、溶岩の中までは転移で追えませんからね。まあ、これだけの魔素があれば十分でしょう。楽しかったですよミーシャ。機会があれば、いずれまた相まみえることもあるでしょう」

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