第54話 レッドドラゴンの目的
夕食を終えたドーラは、焚き木の前に腰を下ろして見張り番をしている。
ドーラが暇そうに焚き木を眺めていると、炎の灯りが映し出すドーラの影から仮面とローブで変装をしたレイヴィが現れた。
「ライムさんはもう寝た?」
「はい、ぐっすりと休んでいます」
「レイヴィは、レッドドラゴンさんが私達の前にやって来た目的に心当たりはある?」
「クックック。あのような愚かなドラゴンのことなど、私は何も知りませんねえ」
「……多分、レッドドラゴンさんはレイヴィの中にあるドルビィさんの魔素を感じて追って来たんだと思う。今のレイビィには、ドルビィさんの記憶は本当に無いんだよね?」
「私が持っている記憶は、廃坑でドーラ様と出会ってからの記憶しかありません。ドルビィとやらの魔素をこの身に宿した時に、新たなる存在として生まれ変わったのです。ただし、記憶はありませんが、ドルビィなる者の使っていた魔術はレイスの私に受け継がれているようですね。若干、本来の性格が魔素に残る残留思念に引っ張られている様にも感じますが、私とドルビィとは完全に異なる存在であります」
「記憶を引き継いでいないのに、ドルビィさんの魔術が使えるのは何でなんだろうな? それって、なんか矛盾をしているよね。大盛デカライスの能力が関係をしているのかな? 魔素を他者に移動させる武器か……」
ドーラはレッドドラゴンの言っていたことを思い出す。
「あのレッドドラゴンさんの様子だと、ドルビィさんに何かをされたのかな? 本来の力が出せないってことは、大盛デカライスで魔素を奪われたとか?」
「クックック。おそらくは、過去にドルビィなる者に敗北を喫しているのでしょうね。傲慢な態度をしていたわりには、ずいぶんと情けない蜥蜴ですな。ドーラ様の見立てでは、ドルビィなる者よりも私の方が強いようではありませんか」
「まあ、聖属性の攻撃が効かないレイスなんて反則だろうからね。そう言えば、昨日よりもレイビィの魔素が大きくなってるんだけど、私が寝ている間に変なことをしてないでしょうね?」
「クックック、もちろん何もしていませんよ。ドーラ様がお休みになられている間の見張りをしていただけです」
ドーラは疑いの目でレイビィを見ている。
「まあ、あの感じだとレッドドラゴンさんはもう私たちと争う気は無さそうだし、このまま放っておいても大丈夫かな?」
「性懲りもなく再びやって来たら、次は私が懲らしめて見せましょう」
「……なんか、レイヴィはレッドドラゴンさんのことを異常に敵視してるよね? ドルビィさんは、レッドドラゴンさんのことを嫌いだったのかな? まあ、私達には関係がないことか。一応、ライムさんが見張り番をしている時には、レイヴィも周囲の警戒をしといてね」
「かしこまりました」
レイビィはドーラの影の中に消えていった。
翌朝、見張りをしていたライムがドーラの眠るテントに駆け込んでくる。
「大変だドーラ! 急いで起きてくれ!」
「むにゃむにゃ…… ダイフク美味しそう」
ガブリ
「痛たたた! こ、こらドーラ! 寝ぼけて胸を噛むんじゃない!」
ライムはドーラの頭を叩いて必死に起こそうとしている。
「むにゃむにゃ…… あ、ライムさん、おはようございます」
「はあ、はあ、本当にドーラは寝相が悪いな…… いや、それどころじゃない! またあいつが来やがった!」
眠たそうに目を擦りながら、ドーラはテントの外に出た。
「フシュー、起きたようじゃの。虫け…… ごほん、神官の娘よ」
ドーラのことを虫けらと呼びそうになったレッドドラゴンは、口を濁して神官と言い直した。
「あれ? レッドドラゴンさん、また来たんですか?」
レッドドラゴンは気まずそうに、もじもじと体を揺らしている。
「いや、なに…… じ、実は、昨日のことを詫びようと思っての…… 気が立っていたとは言え、初対面なのに見下した態度をとって悪かったのじゃ」
この星の頂点に君臨をするレッドドラゴンが謝罪をする光景に、ライムは目を丸くしながら驚いている。
「あ、はい。別に私は怒ってないですよ。ダイフクも気にしてないよね?」
「ワン」
嬉しそうに尻尾を振っているダイフクを見て、レッドドラゴンは大きく息を吐いて安堵の表情をしている。
「フシュー そうか、それは良かったのじゃ。それにしても、その犬…… ダイフクと言ったかの? 力を失っている状態とは言え、この我が手も足も出ないとは驚いたのじゃ。称賛に値する強さじゃのう。そして、ダイフクの主の神官の娘よ。差し支えがなければ、お主の名も聞いてよいかの?」
「ドーラと言います。それと、私は神官ではありません。冒険者ギルドではテイマーとして登録をしています」
「ふむ、そうであったか。ところでドーラよ。折り入ってお主に頼みたい事があるのじゃが」
「私にですか?」
「うむ、実はのう…… 我は数年前に、魔神の眷属からの襲撃を受けて力を奪われてしまったのじゃ。力を取り戻すにはその者を倒さなければならぬのじゃが、今の力を無くした我では恐らく奴に勝つことは出来ぬであろう。そこでじゃ…… 魔神の眷族を倒すのに、是非ともダイフク殿の力を我に貸して欲しいのじゃよ」
ドンガラガッシャン
「ま、魔神の眷属だって!」
ドーラの後ろで話を聞いていたライムは、派手な音を鳴らしながら後方にひっくり返っている。
「そうじゃ…… この三百年間、歴史の表舞台から姿を消していたが、どうやら動き出したようじゃの。その者の名はドルビィ。お主らも知っておろう。人族の裏切り者と呼ばれた男じゃ」
(んー、やっぱりドルビィさんの仕業だったのか)
「ド、ドルビィって言ったら、あの伝説の国落としの…… 三百年前の聖魔大戦の時に死んだはずでは……」
「フシュー、奴は殺しても死なぬ存在なのじゃよ。奴の持っている大鎌デスサイスは、斬った相手の魔素を奪う能力がある。我は不意を突かれて、魔素の大部分を奴に奪われてしまったのじゃよ」
「え!」
レッドドラゴンの話を聞いたドーラは、何故か酷く動揺をしている。
(嘘…… 大鎌デスサイス? 大盛デカライスじゃないの? もしかして、間違えて冒険者ギルドでどや顔で説明をしていた? どうしよう、恥ずかしいな……)
顔を赤くしているドーラを見て、レッドドラゴンは不思議そうに首を傾げている。
ドーラは黒歴史から目をそらすように話を進めた。
「ごほん…… ドルビィさんは、なんでレッドドラゴンさんの魔素を奪ったんですか?」
「最強のワイバーンを造るためだと言っておった。そもそも、ワイバーンとは本来この星に存在をしない竜種なのじゃよ。三百年前の聖魔大戦の時に、ドルビィが竜種に似せて造った偽りのドラゴンなのじゃ。当時、奴は多くのワイバーンを造り出し、魔神軍を組織して人族との戦いを繰り広げた。その奴が動き出したと言うことは、最強のワイバーンを造り再び世界を戦いの渦へと陥れるつもりなのじゃろう」
大方の話は理解をしたが、ドーラは困たような顔をしている。
(んー、つまり魔族領に来たワイバーンは最強のワイバーンさんだったのかな? もう倒しちゃったよ。ドルビィさんの事も倒しちゃったし、レッドドラゴンさんの力をどうやって取り戻したらいいんだろう?)
「レッドドラゴンさんの力を取り戻すには、どうすればいいんですか?」
「おそらくは、我から奪った魔素を魔石へと宿し、ワイバーンの核としているのじゃろう。つまり、最強のワイバーンを倒してその魔石を奪えば、再び我の力も取り戻せるはずじゃ」
(んー、魔石ね…… あ、そうだ! 父が解体してくれた素材の中に確か魔石もあったな。それじゃあ、その魔石をレッドドラゴンさんに渡せば問題は解決だね)
素材を売却しなくて良かったと、ドーラは胸を撫で下ろしている。
「協力してくれないかの? ドーラよ」
「あ、はい。いいですよ」
「おお、助かるぞ。ダイフク殿と力を合わせれば、必ずや憎きドルビィと最強のワイバーンにも勝てるじゃろう!」
(んー、もう戦う相手はいないんだけどね。まあ、今はライムさんが見ているから、レッドドラゴンさんに魔石を返すのは別の機会にしておこう)
「そう言うわけで、我もお主たちの旅に同行をするのじゃ」
「え? 何でですか?」
「いつ何処で、奴の居場所が分かるかも知れぬからの。我が同行していた方が、何かと都合も良いじゃろう?」
ドーラはあからさまに嫌そうな顔をする。
「えー、レッドドラゴンさんがついてくるんですか? そんな大きな体でついてこられると迷惑なんですが…… 色々と目立つじゃないですか。そんな大きな体じゃ街の中にも入れないですよ?」
「フシュシュ、心配は不要じゃ。我は長き時を生きる最強のエレメンタルドラゴンじゃ。人化の法くらい身に付けておるわ」
次の瞬間、レッドドラゴンの体が光を放ち出す。
あっという間にレッドドラゴンの体は小さくなり、人族の姿へと変化をした。
成人くらいの女性の容姿で、赤い髪に豊満な胸をしている。
服は着ていないが、大事な部分は自身の鱗で上手く隠しているようだ。
ドーラは、人化したレッドドラゴンの胸を無言で凝視している。
「……チェンジでお願いします」




