第53話 砂漠のオアシス
「ぺっぺ、痛たた…… いったい何がどうなったんだ?」
爆風によって砂漠の中に埋もれていたライムは、ゆっくりと立ち上がって口に入った砂を必死に吐き出している。
ダイフクとレッドドラゴンの戦いは見ることが出来なかったようで、ライムは現在の状況をまったく理解出来ていないようだ。
「あれ、レッドドラゴンは何処に行った?」
「レッドドラゴンさんは帰っていきましたよ。なんか、こんなことをしている場合ではないらしいです」
「そ、そうか、よく分からないがよかった…… ダイフクがレッドドラゴンの炎ブレスを防いでくれたんだよな? 助けてくれてありがとうな」
「ワン」
「大したことないって言ってます」
「レッドドラゴンを追い返して大したことがないって、ダイフクは本当にとんでもない犬だな」
「ワン」
ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。
「でも、なんかレッドドラゴンさんは調子が悪かったみたいですよ? 本来の力がー、とか中二病みたいなことを言ってました」
「調子が悪くてあのブレスの破壊力かよ。出来れば、あいつには二度と会いたくはないね。おかげで、サンドタートルも甲羅にとじ込もって出てこなくなっちゃったよ。この様子だと当分は動きそうもないな。仕方がないから、今日はこの場所で野営をすることにしよう。ちょうど都合よく、夕食の食材も確保が出来たことだしな」
ライムは、先ほど討伐をしたサラマンダーの解体作業をはじめる。
レッサーサラマンダーと違い、サラマンダーは魔石以外にも色々と取れる素材が多い。
その肉は食べることも出来るため、ライムは今日の夕食に解体したサラマンダーの肉を使うことにした。
ライムが調理をしている間に、ドーラはテントの設営をしている。
「ちゃんと料理をすれば美味しくて、食堂でも人気のある肉なんだけどな。今は大した調味料も持ってないから、塩と胡椒をかけただけの味付けで我慢をしてくれ」
「余った肉は捨てるんですか? これだけ大きいのに、二人分しか食べないのはもったいないですね」
「せっかくだし、残った分はダークエルフの里にお土産として持って行くか。ドーラのアイテムボックスに残った分を収納は出来るか?」
「これくらい大丈夫ですよ」
ドーラは残ったサラマンダーの肉をアイテムボックスに収納をする。
「さてと…… サラマンダーは炎耐性があるからな。魔素抜きをしたとは言え、肉が焼けるのには時間が掛かる。待っている時間を使って、私たちは汗を流して体を綺麗にするか。ドーラ、水はいっぱいあるんだよな? 水浴びが出来る大きさのプールを作っても足りるか?」
「はい、泳げるくらいに大きなプールでも大丈夫ですよ」
「泳ぐのかよ…… まあ、せっかくだし大きめのプールを作るか。そうすれば、サンドタートルもゆっくりと眠れるだろうしな」
ライムは土魔法で地面に大きな穴を掘り、砂が崩れないように硬化の魔法をかける。
「ここに水を入れてくれ。それにしても、まさか砂漠のど真ん中で水浴びが出来るとは思わなかったよ。アイテムボックス様々だな」
ドーラは黒い靄を出して穴の中に水を入れた。
ちょっとした砂漠のオアシスの出来上がりである。
ライムは服を脱いで裸になり、オアシスで水浴びをはじめる。
「ふう…… 体中が汗と砂まみれだったから、めちゃめちゃ気持ちいいわ。ドーラも汗かいただから、早く入ったらどうだ…… あれ? 何処に行ったドーラ?」
ドーラはサンドタートルの裏で誰かと話をしているようだ。
「それじゃあ、よろしくね」
(かしこまりました)
ドーラがサンドタートルの裏から戻ってくる。
「今、誰かと話をしていなかったか?」
「気のせいですよ。それじゃあ、私も水浴びをしますね」
ドーラは服を脱いでオアシスへと入った。
「んー、冷たくて気持ちいいですね」
二人は向かい合わせの状態で水に浸かっている。
「あれ? ライムさんの胸に歯形が付いてますよ? 昨日はそんなのなかったですよね? どうしたんですか?」
「はあ、お前が言うなよ…… ドーラはまだ乳離れが出来てないんだろうな。きっと、母親は子育てに苦労をしたんじゃないか?」
「え、私に母はいないですよ? 物心がつく前の赤ん坊の頃から、父と二人だけで森の中で暮らしていましたので」
「……」
気まずい雰囲気が流れる。
「そ、そうなのか…… すまなかったな。まあ、あれだ。ハーフスケール族は子を産まなくても乳が出るからな。私に母親代わりは出来ないが、たまになら私の乳を飲ませてやってもいいぞ」
「え、何を言っているんですか? ライムさんって、そう言う特殊な性癖があるんですか?」
「……ドーラと話してると凄く疲れるよ」
「失礼ですね。それじゃあ、まるで私の方が変な人みたいじゃないですか。ペロペロ」
「いや、お前なに舐めてるんだ?」
「え、アイスキャンディーですよ? ペロペロ」
「ここは砂漠のど真ん中だぞ。どこからそんな物を持ってきたんだ?」
「アダマスの街を出発する前に買っておいて、アイテムボックスの中に入れておきました。ペロペロ」
「いや、普通は溶けるだろ?」
「私のアイテムボックスは、アイスが溶けない特別製なんですよ。ペロペロ」
ディメンションワームにそんな機能はない。
異空間に収納をしていても、時間が経てば普通にアイスキャンディーは溶けてしまう。
先程、サンドタートルの裏でドーラに頼まれたレイビィが、アダマスの街へと転移をして買って来たのだ。
仮面とローブで変装をして買いに行かせたので、レイヴィが魔物であることはバレてはいないはずである。
まあ、露店の店主には、完全に不審者だと疑われたに違いないだろう。
「……美味しそうだな。私の分はないのか?」
「んー、失礼なことを言われましたが、今回は許しましょう」
ドーラはライムにもアイスキャンディーを渡した。
ちゃんと意地悪をせずに、ライムの分もレイビィに買ってきてもらっていたのだ。
「お、やったね。砂漠のど真ん中で、水浴びしながら冷たいアイスキャンディーを食べれるとはね。本当にドーラといると私の常識が狂うよ。何故かは分からないが、そのことを疑う気持ちにもならない。不思議だ。ペロペロ」
もしかしたら、ライムがドーラに不信感を抱かないのは、先日のスレイブワームの影響が出ているのかもしれない。
辺りはすっかり暗くなっているが、砂漠の気温はまだ高く、ドーラ達は美味しそうに冷たいアイスキャンディーを食べていた。
サンドタートルも喉が乾いたようで、甲羅から頭を出してプールの水を飲んでいる。
ブルブル
突然、ドーラは全身を震わせると、何かスッキリしたような顔を浮かべる。
「ドーラ…… 今の動きは何だ?」
「え、何でもありませんよ? スッキリしたので私はそろそろ上がりますね」
「ちょっと待て! スッキリって何をしたんだ!」
「え、汗を流してスッキリしただけですよ?」
「本当かよ…… まあ、サラマンダーの肉も焼けたみたいだし、私も上がって食事を取るとするか」
二人が出た後のプールでは、サンドタートルが体ごとプールに浸かって涼んでいた。
体が大きいためにかなりの量の水が溢れてしまったが、サンドタートルの寝床にはちょうど良さそうであった。
味付けの薄いサラマンダーの肉であったが、ドーラは美味しそうにそれを食べている。
食べ物の不味い魔族領で育ったドーラには、人族の国の料理は全てご馳走のようだ。




