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第52話 ダイフクvsレッドドラゴン

 ドーラ達の目の前に降り立ったレッドドラゴンは、何かを探すかように周囲を見渡している。

 どうやら、レッドドラゴンがこの場所にやって来た目的は、ドーラ達とは別にあるようだ。


「冗談だろ… なんでこんな場所にレッドドラゴンがやって来るんだよ……」


 ライムは短剣を片手に身構えているが、恐怖と緊張によって体を激しく震わせている。

 レッドドラゴンから漂う圧倒的な王者の迫力に、ライムは完全に萎縮をしているようだ。

 サンドタートルも頭と手足を甲羅の中に引っ込めて、その場から一歩も動こうとしなかった。

 当然である。

 レッドドラゴンとは、竜種の中でも最上位に位置をするエレメンタルドラゴンだ。

 太古の時代にこの星の意思から誕生したとされる、六体のエレメンタルドラゴンの内の一体なのであった。

 あらゆる生命があらがうことなど許されない存在であり、脅威度を付ける事すらおこがましい天災そのものなのだ。


「フシュー こっちの方角から奴の気配を微かに感じたのじゃが、どうやら気のせいであったか…… わざわざ火山から出向いてきたというのに、そこに居たのはちっぽけな虫けらだけとはの…… まったく、無駄な時間を費やしてしまったのじゃ、フシュー」


 レッドドラゴンが言葉を発する度に、牙の隙間からから灼熱の炎がれでている。

 ただでさえ暑い砂漠地帯の気温が、更に高くなっていくようだ。

 何かを探している様子のレッドドラゴンを前にして、ライムは静かに成り行きを見守っていた。

 レッドドラゴンの目的が自分達でないのならば、このまま黙ってやり過ごそうと思っているのである。


「誰かを探しているんですか?」


 ドンガラガッシャン


 空気を読まずにドーラがレッドドラゴンに話しかけた。

 それを聞いたライムは、勢いよく後方に転がっていき、頭から砂の中にもれている。

 何故だか、何もない砂漠のはずなのにテーブルを引っくり返したような効果音が周囲に響き渡っていた。

 誰が音を鳴らしているのかは謎である。


「ぺっぺ…… ド、ドーラ! ここは無視してやり過ごす流れだろ!」


 砂まみれになった頭を振りながら、ライムはサンドタートルの上のドーラを怒鳴り付けた。


「え? せっかく来たのに無視をしたら可哀想じゃないですか?」


 ドーラの言葉にレッドドラゴンが関心を向ける。


「ほう…… この我をあわれむか…… 虫けらの分際で言いよるの…… フシュー」


 虫けらと言われたドーラは、あながち間違っていないと納得をしている。

 とてもこの場から逃げられる状況ではなくなってしまい、観念をしたライムはレッドドラゴンとの交渉を始めた。


「ほら、興味を持たれちゃったよ…… はあ、仕方がないな…… レッドドラゴンよ、私達は貴方と争う気はない。もしも何かをしているのならば、私達にも協力出来る事があるかも知れない。良かったら話を聞かせてくれないか?」


 レッドドラゴンは口から炎を漏らしながら笑っている。


「フシュシュ…… この我に協力が出来ると? 地をうだけの虫けらごときが、永遠とも呼べる長き時を過ごして来たこの我に、協力出来ることがあるじゃと?」


「あはは、ですよねー。それじゃあ、力になれそうにないので、私たちは先を急ぎますね。ほら、サンドタートル! 頭を出して出発をしろ!」


 ライムはサンドタートルの甲羅を叩いて、急いでその場を離れようとした。


「待て……」


 レッドドラゴンがドーラ達を引き留める。


「はあ、なんですか?」


「後ろの小娘…… その髪、その服、似ているな……」


 レッドドラゴンはドーラの姿に興味を持っていた。


「誰にですか?」


 ドーラはレッドドラゴンの言葉に首を傾げる。


「聖女と呼ばれていた人物じゃ」


 ドーラは自身が聖女の服装をしていることを思い出した。


「あー、そうですよ。この衣装は、聖女が着ていた服装を真似て作った物らしいです。見た目が似ているだけの衣装なので、私は聖女ではありません」


「当たり前じゃ。貴様の様なちんちくりんな小娘が、聖女であるわけがなかろう。あやつは今、狭間の世界におるのじゃ。しかし、よりにもよって貴様のような虫けらほどの魔素しか持たぬ小娘が聖女の真似事とはのう。人族とは実に愚かしい生き物じゃ」


 レッドドラゴンは再び興味をなくした目でドーラを見下ろす。


「話は終わったか? ふう、じゃあ今度こそ先を急ぐか。サンドタートル、早く頭を…… なんだ、あの仮面は?」


 レッドドラゴンの正面に表情のない仮面が浮かんでいる。


(なんか、レイビィの機嫌が悪い? 私が馬鹿にされたと思って、怒っているのかな? よく分からないけど、異常にレッドドラゴンのことを敵視しているみたいだ)


「なんじゃ、その仮面は? 虫けらの小娘よ、貴様の仕業か? いや、待て…… この気配、似ているぞ…… しかし、奴にしては色が白すぎる…… 成る程、そう言うことか…… どうやら、その仮面が持つ魔素を奴のものだと勘違いをしていたようじゃの。もうよい、早々に我の前から立ち去るがよい」


 仮面はプルプルと震えている。


(んー、レイビィは限界みたいだ。はあ、仕方がないな。このままだと、レイビィがライムさんの前に姿を出しちゃいそうだから、ダイフクが代わりにやっちゃっていいよ)


「ワン」


 ダイフクは勢いよくレッドドラゴンの前に飛び出した。

 それを見た仮面はその場から姿を消していく。


「フシュー、なんじゃ? 虫けらの飼い犬ごときが、我の前に立ちふさがって何をするつもりじゃ?」


「どうやら、私の仲間が怒ってしまった様なので、レッドドラゴンさんには少し痛い目をみてもらいます。ダイフク、殺さないように手加減をするんだよ」


 耳を疑う様なドーラの発言に、レッドドラゴンとライムは大きく口を開けて呆然としている。


「ド、ドーラ…… お前は何言っているんだ? いくらなんでも、それは無理だろ。鉱山に現れたワイバーンとはわけが違うんだぞ?」


「でも、グレーターワイバーンより弱いですよね?」


「フシュー!」


 レッドドラゴンの口から漏れる炎が勢いを増す。

 明らかに、ドーラの言葉に不快感を抱いているようだ。


「そんなわけないだろ! グレーターワイバーンは強いが、せいぜい災害級の魔物だ。レッドドラゴンは天災級、この星の頂点に君臨する存在だぞ!」


「愚かな虫けらの小娘よりも、そこのハーフスケールの娘の方が現実を理解している様じゃの…… この我が…… よりにもよって、あの様な紛い物のドラゴンよりも劣るとは…… 無知を通り越して、なんと愚かなことよ……」


(え? だって魔族領で見たワイバーンよりも、遥かに魔素が小さいしな。それじゃあ、あの時のワイバーンはグレーターワイバーンでもなかったのかな?)


「フシュー! 我が力をみて後悔をするがよい!」


 レッドドラゴンは上空を見上げて大きく息を吸い込んだ。


「いきなり炎ブレスだと! 本気で私達を殺す気かよ!」


 ドーラ達へと狙いを定めたレッドドラゴンの口の前に巨大な魔法陣が出現する。

 しかし、レッドドラゴンが炎ブレスを放つよりも先に、ダイフクの肉球がレッドドラゴンの横顔へと叩き込まれた。


 プニュ


「ぐへ!」


 レッドドラゴンの首がくの時に曲がり、放たれた炎ブレスが横へと逸れて飛んでいく。


 ドゴーン


 遥か彼方に着弾をした炎ブレスが、凄まじい爆音と熱風を砂漠地帯へと撒き散らす。

 熱風にあおられたライムは、後方に転がっていき頭から砂の中に埋もれている。


「うぐぐぐ…… く、首が…… い、いったい何が起きたのじゃ?」


 レッドドラゴンは首を曲げたまま痙攣けいれんをしている。

 ダイフクが二発目の肉球を叩き込もうとするが、慌ててレッドドラゴンは上空へと飛び上がって避難をした。


「く、ただの犬だと油断をしたわ…… 見事な一撃、称賛しょうさんに値するのじゃ! しかし、上空ならその攻撃も我には届かぬぞ。フシュシュシュ…… 今度こそ我がブレスを喰らうがいい!」


 レッドドラゴンは再び大きく息を吸い込む。

 しかし、力を溜めるレッドドラゴンの目の前に黒いもやが出現して、その中からダイフクが飛び出してきた。


 プニュ


「ぐへ!」


 ダイフクの肉球により、再びレッドドラゴンの首がくの時に曲がる。


 ピクピク


 ドーン


 白目を向いたレッドドラゴンは、受け身も取れずに地面へと落下をした。

 落下の衝撃により、辺り一面が砂煙に包まれている。


「お疲れさま、ダイフク」


「ワン」


 ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。

 薄れいく砂煙の中では、必死に起き上がろうとするレッドドラゴンの姿が見えた。


「ぐぎぎぎ」


「へー、まだ動けるんですか?」


 レッドドラゴンは何とか意識を保っているようだが、フラフラと体を揺らして息も絶え絶えの状態だ。


「フ、フシュ…… こ、こんな筈では…… そ、そうだ、我はこんな事をしている場合ではないのじゃ…… 一刻も早く奴を探し出して、我の力を取り戻さなくては…… く、本来の力さえあれば、こんな無様な姿になど……」


 レッドドラゴンは上空へと飛び上がり、砂漠地帯の奥へと消えていった。

 その光景をドーラは不思議そうな顔で眺めている。


「行っちゃった。なんだったんだろう?」

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