第50話 ライムvs白い悪魔
サンドタートルの手配を終えてた合流をしたドーラとライムは、砂漠のバザーにある酒場へと移動をして夕食を取っていた。
子供二人で夜の酒場で食事をしている光景にはじめは注目をされていたが、ライムが札付き冒険者のハーフスケール族なのが知られると、何故か回りからの視線が一切なくなるのであった。
「明日の早朝にバザーを出発すれば、三日後には目的地の悪魔の岩山まで到着が出来るだろう。まあ、道中で何も問題が起きなければの話だけどな」
「と言うことは、その間は砂漠の中で野営をするんですか? モグモグ」
ドーラは両手に持った骨付き肉を、口いっぱいに頬張りながらライムの話を聞いている。
「ああ、そうだ。だから砂漠のバザーを出発する前に、ドーラはアイテムボックスに出来るだけ沢山の水を保管してくれ。いやあ、ドーラがアイテムボック持ちで本当に助かったよ。砂漠を移動する旅では、水が一番の大荷物になるからな。ドーラのアイテムボックスには、どれくらいの量の水を保管出来る?」
「三日分の水なら全然余裕ですよ。体を洗う分も用意しておきますね」
「おお、そんなに入るのか。宿屋の店主には話を通しておくから、出発までに水を分けてもらってくれ」
「分かりました」
ドーラ達が明日からの旅の打ち合わせをしていると、酒場の奥からフラフラとした足取りで男の冒険者が近付いてきた。
「ヒック…… おい、お前ハーフスケール族だろ? ぐへへへ、中々いいもん持っているじゃねえか。今から俺と宿屋に行かねえか? そのぶら下げているデカイおっぱいを、朝までたっぷりと可愛がってやるぜ。ヒック……」
酒瓶を片手に持ったその冒険者は、完全に泥酔をしているらしく、倒れ込むようにしてライムの肩にのしかかって来た。
見たところ、その男は札付きの冒険者のようだが、髙ランクの冒険者になると強さだけではなく普段からの高い規律性も求められている。
酒場で呑んだくれているような冒険者は、せいぜいBランク止まりであろう。
そう、アダマスの冒険者ギルドにいるバウスのように。
ライムはこう言ったトラブルに慣れているのか、ため息をつきながら肩にのしかかる冒険者を払いのけた。
「はあ…… 酔っぱらいのロリコンとかどうしようもない奴だな」
「あ? 俺はロリコンじゃねえ! おっぱいが好きなだけだ! ヒック」
「なんだ、ロリコンじゃなくてマザコンか? 早くお家に帰らないとママが心配をしてるぞ?」
「なんだと! ハーフスケール族の女冒険者ごときが調子に乗りやがって…… ぐへへへ、このまま宿屋に拐ってヒイヒイ言わせてやるぜ! ヒック」
酒場の中は騒然としているが、その騒ぎを止めに入る者はなく、皆酒を片手にニヤニヤと成り行きを見守っていた。
「……そこまで言い切ったんだ。逆に自分がヒイヒイ言わされても文句は言うなよ?」
「あ? 出来るもんならやってみな。そういやあ、ハーフスケール族ってのは、子供を産まなくても乳が出るらしいな。この場でひん剥いて確かめてやる!」
冒険者は勢いよくライムに飛び掛かろうとした。
ガク
「あ、あれ? なんだ? 体が動かない?」
「どうした? 動けないのか? そりゃそうだ。お前の着ている服を土魔法で硬化した。クックック、全身を鉄で覆われているような気分だろ? それにしても、いい歳をした冒険者の癖におっぱいが飲みたいとはね。救いようがないマザコンの変態野郎だな」
拘束をされた冒険者は酔いが覚めてきたのか、真っ赤になっていた顔も次第に青白く変化していく。
「そう言えば、この砂漠のバザーは治外法権で私刑が許されてたよな?」
完全い酔いが覚めた冒険者は、ようやくライムの首にかけられた冒険者プレートに気が付く。
「札付きのハーフスケール族ってまさか……」
ライムは動けなくなった冒険者の下腹部に手を近付けると、勢いよく指先で弾いた。
パリン
冒険者のズボンの股間部分が粉々に砕けて、下半身の大事なものが丸出しになる。
「ちょ、な、何しやがる!」
冒険者は大事なものが丸出しになっているが、体が拘束されているので隠すことが出来ないでいる。
「クックック。でかい態度をしていた割には、ずいぶんと粗末な物をぶら下げているんだな。なあ、ドーラもそう思うだろ?」
ドーラは骨付き肉を頬張りながら、冒険者の股間をまじまじと見ている。
「んー、父以外の物をはじめて見ましたけど、小さくて形もちょっと違います。なんか、ミミズみたいで可愛いですね。モグモグ」
ぎゃははは!
酒場全体に歓声と笑い声が響き渡る。
身動きを取れない冒険者は、真っ赤な顔をしながら目から涙を流していた。
すると、酒場のカウンターからその様子を見ていた男が、ライムの元へと近付いてくる。
全身が鋼のような筋肉に包まれている大男である。
「ライムさん、その辺で許してやってくれないですか? 同じ男として不憫すぎますわ」
「ああ、もう連れて行っていいぞ。気は晴れたからな。後は、お前の好きなようにしろ」
大男は冒険者をお姫様抱っこで持ち上げると、ライムに一礼して酒場を出ていった。
(お、お前は誰だ? 俺をどこに連れていく?)
(動けないんだろ? 俺が宿屋に連れていって介抱してやるよ)
(ちょっと待て! 介抱って何するつもりだ! お、お前、どこを見ている! 下ろしてくれ! だ、誰か、助けてくれ!)
酒場の外から悲痛な冒険者の叫び声が聞こえてきた。
「なんか、助けを求めてますよ?」
状況を理解していないドーラが、不思議そうに首を傾げている。
「たっぷりと可愛がってもらうんだろ?」
ライムの言葉に酒場は笑いに包まれた。
「親切な人なんですね。お知り合いですか?」
「ムロって言うアダマスの冒険者だよ。普段はアダマスの街から離れて、この砂漠地帯を中心に活動をしている。まあ、変な趣味だけどドーラには害のない奴さ。さてと、食事も終わったし私たちも宿屋に帰るとするか。風呂で汗を流したら、明日に備えて早めに寝るぞ」
「はい」
ドーラたちは宿屋に戻ると、ダイフクを部屋に残して大浴場へと向かった。
「ここの大浴場は広いぞ。雨も滅多に降らない熱帯の砂漠だから、汗を流がしに来る宿泊客で連日大盛況だ」
女湯ののれんをくぐると、脱衣場は多くの女性客で混雑をしていた。
こう言った大浴場に来るのがドーラは初めてなので、興味津々に周りを見渡している。
「大勢で入る浴場って初めてなので楽しみです」
「ちゃんとマナーは守れよ。湯舟に入る前には必ず体を洗え。タオルを湯舟に入れたら駄目だからな。湯舟が広いからって泳いだりするなよ」
「子供じゃないんですから泳ぎませんよ」
ドーラは素早く服を脱ぎ捨てると、タオルを片手に浴場へと走って行く。
「うわあ、本当に広いな。これだけ大きい湯船だと中で泳げそうだ」
「はあ、やっぱり子供じゃねえか……」
キョロキョロと落ち着きのないドーラの後ろで、ライムは腰に手をかけながら仁王立ちをしている。
「……何ですかそれは? もしかして、見せびらかしているんですか?」
ライムは、小さな体に不釣り合いなほどの豊満な胸をしていた。
「まあ、私は大人だからな」
ピシ
「痛! 何をするんだドーラ!」
ドーラがライムの胸を叩くと、まるでスライムのように左右に弾んでいる。
ピシ
「痛、痛いから胸を叩くのやめ……」
ピシピシ
「本当にやめ…… ひん」
入浴中の客の視線がライムへと注がれる。
さすがにライムでも恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になっている。
「ふひひひ、どうしたんですか? 湯舟に入る前からのぼせたんですか?」
「く、訴えてやる…… 馬鹿なことはやめて、大人しく体を洗え……」
「はーい」
ライムへのちょっかいも終わりにして、ドーラは体を洗い始めた。
ドーラは隣で体を洗うライムに目を向けると、胸の横の部分に何かの紋章のような痣を見つける。
「ライムさんの胸にある星形の痣は何ですか?」
「ああ、これか? これはハーフスケール族の全員が持っている特徴だな。理由は解明をされていないが、ハーフスケール族は生まれた時にこの痣が体の何処かに現れるんだ。あくまでも推論だが、大地の精霊から与えられた、何かしらの加護ではないかと言われている」
「加護ですか? ふひひひ、もしかしたら大人になれない呪いだったりして」
ドーラは冗談のつもりで言ったのだが、ライムは少し不機嫌な表情をしている。
「それ、結構気にしているハーフスケール族が多いからな。冗談でも言わない方がいいぞ」
「はい、すみませんでした……」
反省をしたドーラは、体を洗い終えると湯船へと向かった。
浴場には中央の大きな湯舟とは別に、壁沿いに小さい湯舟がいくつも並んでいる。
ドーラはその中のひとつの説明文を読んだ。
「えっと、何々? 雷風呂? 雷の魔石による程よい痺れが筋肉の疲れを癒すのか」
ドーラは雷風呂に入ってみた。
ピリピリ
「おお、体がピリピリする。なんか、くすぐったい。ふひひひ」
初めて体験をする雷風呂に、ドーラはご満悦のようだ。
「お、雷風呂か。これ凄く肩こりに効くんだよな。胸が大きいとすぐに肩が凝るんだよ。変わってくれドーラ」
ライムは肩を回しながら雷風呂の前で仁王立ちしている。
イラ
「分かりました…… どうぞライムさん……」
ドーラは雷風呂から出る前に、サンダーワームで湯舟に雷を流す。
ゴゴゴゴゴゴ
「あ、あれ? な、なんか、今日は雷の効きが強すぎじゃないか?」
「えー、ちょうど良かっですよ。もしかして、ライムさん怖いんですか? クスクス、お子様ですね」
「そ、そんなわけないだろ。私は大人だから、こ、これくらいがちょうどいいぞ」
ライムは恐る恐る雷風呂の縁に手足をつき、四つん這いの状態になる。
「いいか! 押すなよ! 絶対に押すなよ!」
色々と問題のある光景である。
「いいから、早く入ってください」
ドン
ドーラはライムの背中を押した。
ザパーン
ビリビリビリビリ
「うぎゃー!」
ライムの体が雷で激しく痙攣して、骨まで透けて見えていた。
プカプカ
ライムは失神をして湯船に浮かんでいる。
「あ、いけない。やり過ぎちゃた。ごめんなさい、ライムさん大丈夫ですか?」
ドーラはライムを湯舟から引き上げて、スレイブワームの先っぽをライムの耳に挿入した。
ライムはすぐに目を覚ますと、勢いよく飛び上がった。
「おお! なんか凄い体が軽いぞ! 入った瞬間は少しビックリしたけど、雷の効きが強かったから効果が抜群だな!」
ライムは肩をブンブンと回して元気そうだ。
「あはは、元気そうで何よりです……」
「よし! せっかくだから、もう一回入っておくか」
ライムは再び雷風呂に入ろうとしたが、ドーラに止められ大湯舟へと連れていかれた。
ゆっくりと旅の疲れと汗を流し終えるてから、ドーラ達は部屋へと戻っていった。
「ふう、いい湯だったな。こんなに体が軽いのは何年ぶりだろうな」
「明日の準備は終わりましたし、今日はもう寝ますか?」
「そうだな、砂漠の旅に備えて早目に休むとするか」
ドーラとライムは、部屋にひとつしかないベットに横になった。
一人用の小さなベットではあるが、二人とも体が小さいので、一緒に寝ても問題のない大きさである。
「ライムさん、本当に寝相は大丈夫なんですか? 心配で寝付けませんよ」
「大丈夫だろ? もし寝相が悪かったら、叩き起こしてくれても構わないぞ」
「スースー」
すでにドーラは寝ているようだ。
「いや、寝付き良すぎだろ…… はあ、私も寝るか…… グーグー」
二人とも寝付きが良いようだ。
しばらくして、二人が静かに寝ていたベットの上である事件が起こる。
(むにゃむにゃ。なんか顔に当たってる。なんだろうこれ? 丸くて柔らかくて、なんか美味しそうだ。そうか、これが食べる方のダイフクだな。いただきます。パクパク)
「……」
(むにゃむにゃ。なんか袋に入ってる。これじゃ食べられないな。ごそごそ。袋が取れた。いただきます。パクパク)
「……!」
(むにゃむにゃ。味がしない。あれ、何か付いてる。これはキャンディーかな? いただきます。ペロペロ)
「!!」
(むにゃむにゃ。味がしない。吸ってみよう。ちゅーちゅー)
「!!!」
(むにゃむにゃ。なんかミルクの味がする。美味しい。ちゅーちゅー)
「!!!!」
そして、夜が明けた。
「んー、よく寝た。ライムさん朝ですよ。早く起きてください」
ドーラは顔まで覆ってあるライムの毛布を引き剥がした。
毛布の中にいたライムは、さらに両手で顔を隠している。
「たっぷり可愛がられてしまった……」
「何を言ってるんですか? もう朝ですよ、早く起きてください」
「く、この悪魔め…… 訴えてやる……」
「?」
「お前、本当に寝てたんだよな?」
「はい。寝てましたよ?」
「お前は寝相が悪すぎだ…… て言うか、力が強すぎ…… はあ、もういいや。胸が…… 体中がベトベトだから、出発の前にもう一度風呂に入って来るわ」
「もしかして、夜が暑かったんですか? 私はまったく汗をかいてないですよ?」
「うるさい、暑かったんだよ!」
ライムは替えのパンツを荷物から取り出した。
「パンツも替えるんですか?」
「うあああ、パンツも汗でベトベトなんだよおおお」
ライムは叫びながら浴場へと走っていった。




