第49話 砂漠のバザー
アダマスの鉱山を越えてニール砂漠の入り口へと到達すると、ドーラ達が宿泊を予定している砂漠のバザーがある。
ここは街と呼べるほどの場所ではないが、砂漠地帯に暮らしている者達が、外部地域との交易を行うために出来た集落のような場所であった。
その為、この砂漠のバザーには宿屋や酒場といった最低限の建物しか見当たらないが、その周りには様々な種類の露店がところ狭しと軒を並べている。
砂漠を旅する遊牧民やオアシスの街から来た行商人により、その地域の特産品や、遺跡で発掘された珍しいアイテムなどが売られているのだ。
アダマスの鉱山を越えて砂漠地帯へと向かう者は、皆ここで休んだり準備をして出発をしていくのだった。
ただし、自然と人が集まって出来た場所と言うこともあり、砂漠のバザーは実質的に無政府状態となっていて、とても治安が悪い場所なのであった。
一応、有志による自警団は存在をするが、日々揉め事などが絶えない危険な場所である。
「暑い…… 死ぬ……」
ドーラは汗だくになって、空の水筒を口の上で逆さにしている。
「はあ…… まだ砂漠の入り口に来ただけだろ。こんな所で根をあげていたら、灼熱の砂漠地帯を越えるなんて不可能だぞ」
「私は生まれつき体が弱いんです…… ちょっとした環境の変化で、すぐに死んじゃうんですよ……」
「お前は、ただの我が儘なだけだろ……」
ライムは呆れているが、ドーラの体が弱いのは紛れもない事実である。
女王ワームの体液によって生かされてはいるが、ドーラはタンスの角に足をぶつけただけで死んでしまう程の病弱な半魔なのであった
ただし、ドーラは暑さ対策が出来る能力のワームを持っていた。
それを使わないのは、能力を隠したいからではなく、そのワームを使うと近くにいるライムが確実に死んでしまうからだ。
(一人なら暑さも何とか出来るんだけどな…… いっそ、ライムさんの事を……)
何やら物騒なことを考えているドーラであった。
「まずは宿屋で部屋を取ってから、バザーで明日からの準備をするぞ。砂漠用のマントと、移動に使うサンドタートルの手配がしたい」
ドーラ達は、砂漠のバザーに一軒しかない宿屋へと向かった。
「いらっしゃい。お二人さんと一匹かい? 部屋はどうする?」
「一泊しかしないし相部屋でいいよな?」
「はい、大丈夫です」
宿屋の店主は、ライムに鍵を渡して部屋の場所を伝えた。
指定された部屋は、一人で宿泊する部屋のように狭く、ベットも一つしか置いてなかった。
「相部屋って狭いんですね」
「そりゃそうだ。実際に一人部屋に二人で泊まるだけだからな。料金だけ二人部屋より少し安く泊まれるってことだ。私達の体の大きさなら、ベットひとつでも問題はないだろ?」
「……ライムさん、寝相は大丈夫ですか?」
「さあ? 寝てる時の自分の姿なんて、見たことないから分からないな」
(んー、あの激しいリアクションを見ていると心配しかない……)
「夕食にはまだ早いから、先にバザーで買い物を済ますとするか。この時間ならまだ開いている露店も多いだろうし、旅の準備もすぐ終わるだろう」
ドーラ達は宿屋を出てバザーへと向かった。
日が暮れるにはまだ早い時間なので、バザーは多くの人で賑わっている。
ライムはバザーを見渡すと、目当ての物を出品している露店を見つけた。
「お、あそこで売っているな」
ライムが見つけた露店には、沢山の種類のマントが売られている。
「子供サイズの砂漠用マントを二つくれ」
「おいおい、冗談はよしてくれよ。子供二人で砂漠地帯に入るつもりなのか…… ん? なんだ、よく見たらお客さんハーフスケール族か。なるほどね、目的地は悪魔の岩山かい? あそこはハーフスケール族の発祥の地だからね。お客さんみたいに、聖地巡礼に向かうハーフスケール族をよく見るよ」
「そんなところだ。まあ、こっちの子は人族だけどな」
「ああ、なるほどね……」
ハーフスケール族は人族の子供のような外見だが、大人になったハーフスケール族の胸は大きい。
店主は二人の胸の大きさを見比べて納得をしている。
「ライムさん…… 別の店で買い物をしませんか?」
ドーラの目が据わっていた。
「ははは、悪かったよ。お嬢ちゃんの成長はまだこれからだろ? 今でも可愛いから、大人になったら間違いなく美人さんだな」
「マント二つください」
ドーラには商売の駆け引きは向いていないようである。
砂漠用のマントを購入した後、ライムは砂漠での移動に使うサンドタートルの手配へと向かう。
「手続きには少し時間がかかるから、その間ドーラはバザーでも見てまわったらどうだ? 色々な露店があるし、珍しい食べ物もいっぱいあるぞ?」
「んー、そうですね。夕食の前だけど、食べ物には少し興味が引かれます。それじゃあ、ダイフクを連れて見に行ってきますね」
「ワン」
ドーラはダイフクと一緒にバザーを見に行った。
「色んな露店があるね。あ、あの店から何かいい匂いがするよ。行ってみようかダイフク」
「ワン」
ドーラが見つけた露店は串焼きの店だった。
「いらっしゃい可愛いお嬢ちゃん。焼きたてで美味しいよ。お一つどうだい?」
「ください」
ドーラに迷いはなかった。
「まいどあり、どれにするかい? お勧めは砂漠飛びバッタのバター焼きだよ」
「じゃあ、それください」
ドーラは串焼きを受け取った。
バッタを丸ごと串に刺して焼いただけの食べ物だ。
見た目は少し悪いが、焼けたバターの匂いがドーラの食欲を誘う。
「いただきます。パクパク」
「へえ。女性はこう言う食べ物を嫌がるもんだけど、お嬢ちゃんはいい食べっぷりだね」
「私は別に平気ですよ。それに美味しいです。パクパク」
食べ物が不味い魔族領で育ったドーラは、美味しければ何でも食べるのだ。
ドーラは、お金の次に食べることが大好きなのであった。
「ご馳走さまでした」
串焼きを食べ終えたドーラは、再びバザーを見てまわる。
「あっちの露店には、何か変な仮面がいっぱい売っているよ。見に行ってみようダイフク」
「ワン」
ドーラが向かった露店には、多種多様な怪しい仮面が並んでいる。
「色々な仮面があるね。でも、同じ仮面が一つもなくて統一性がないな。これは何の仮面だろう? 笑ってるような怒ってるような、角が二本ついている」
ドーラは仮面を手に取って、顔に付けようとした。
「やめときな嬢ちゃん!」
それを見ていた露店の店主が、仮面を付けようとしたドーラのことを急いで止める。
「あ、はい」
仮面を顔に付ける寸前でドーラは手を止めた。
「この店で売っている仮面は、遺跡で発掘をされて価値が不明の怪しい代物や、冒険者などが持ち込んだ出所不明の曰く付きの代物ばかりだよ。どんな危険な呪いがかけられてるか、分かったもんじゃないからね」
「そんな危険な物を売っているんですか?」
「まあね。あくまでも観賞用の土産品さ。買っていくのは物好きな仮面愛好家か、特殊な性癖を持つ変態くらいだからね」
そんなので商売になるのかとドーラは疑問に思った。
店主の言う通り、並んでいる仮面は汚れていたり悪臭を放っている物ばかりだ。
その中に、ドーラは何か見覚えのある仮面を見つけた。
「あれ? この仮面、どこかで見たことがあるような……」
「その仮面かい? それは先日、荒野から来た冒険者が置いていった仮面だね。汚いし価値も分からないから売値は安いよ。まあ、かなり悪臭が酷いから、荒野で野垂れ死んだ冒険者から剥いで来たのかもな。嬢ちゃんもあまり触らない方がいいぞ」
その仮面は顔半分が隠れる物で、それ以外にこれといった特徴はなかった。
「んー、どこで見たんだろうな? ダイフクは分かる?」
「ワン」
「え? 臭いからあんまり近づきたくない? そうだね、臭いからもう行こうか」
ドーラは臭い仮面に関心がなくなった。




