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第48話 Sランク冒険者エマ

 エマは砂漠の街ウパの冒険者ギルドに所属をしているSランク冒険者である。

 本来、Sランク冒険者ともなれば顔や名前が国中に知れ渡っているのだが、彼女はSランクに昇格をしてまだ日が浅いのに加え、サポートよりの地味な狩人職と言うことで、その知名度は砂漠地帯の周辺に留まっていた。

 ただし、砂漠地帯に限っていえば、彼女の事を知らぬ者が居ないほどの有名人である。

 エマは無造作に切った短い紫色の髪をしており、その豊満な胸と健康的な褐色の肌は、男冒険者の間ではとても高い人気を誇っている。

 もちろん、その人気は男性だけにとどまらず、一般の女性や子供から老人に渡って、広く愛される砂漠地帯のアイドル的な存在であった。

 その人気の理由は、エマについてのある噂からきている。

 彼女には冒険者とは別に、もう一つ裏の顔があるのだった。


(私のために働きなさい)


 数年前のある日、エマの前に魔術師の男と仮面で顔を隠した一人の少女が現れた。

 当時、Cランク冒険者として伸び悩んでいたエマは、まだ幼い少女の体から感じられる圧倒的な力の波動に魅了され、仮面の少女への絶対の忠誠を誓うのであった。

 仮面の少女と魔術師は、ある秘密結社を立ち上げていた。

 その秘密結社はある目的のために、多くの幼い子供を王都ミリアへと集めているとのことだった。

 狩人職であるエマは、その優れた探知能力と危機察知能力を買われて、その秘密結社へと勧誘をされたのだ。

 組織が子供を必要とする理由は、所属をする一握りの上位の構成員にしか伝えられていなかったが、下部の構成員達の間では恵まれない子を救済するための活動だと日頃から噂をされている。

 以来、エマは冒険者としての活動をする裏で、身寄りのない幼い子供を保護する集団のリーダーとなっていたのであった。


「おい、お前ら起きろ!」


 勢いよくテントに入ってきたエマが、まだ寝ている部下の冒険者達を叩き起こす。


「ど、どうしたんですか? エマの姉さん?」


 就寝中に叩き起こされた部下達は、エマのあまりの焦り様に驚いた顔をしている。


「今すぐに野営場から出発をするぞ! 急いで準備をしろ! あの化け物が寝ている今がチャンスだ!」


 突然のエマからの指示に、事態を飲み込めない部下達は唖然とした顔を浮かべるが、すぐに全員がエマの指示に従って急いで出発の準備をはじめた。

 寝起きにも係わらず部下達の目はしっかりと覚めているようで、手際よく出発の準備をすませると、足早に野営場を後にするのだった。

 忙しないその様子を遠くから見ていたライムは、こんな時間に何やっているんだと首を傾げながら眺めていた。


「エマの姉さん、化け物ってあの『精霊巫女』のことですか? 戦闘特化の魔術師とは言え、相手はAランク冒険者ですよ? Sランク冒険者のエマの姉さんなら負けないんじゃないですか? そもそも、あいつらと争う理由はあるんですか? 臨時で雇った傭兵たちも何処かに行ったまま戻っていなですし、このまま置いていく事になりますよ?」


 足早にアダマスの街への山道を下りながら、部下の一人が先頭を歩くエマに疑問を投げかける。


「……奴を甘くみるな。『精霊巫女』のライムは、ソロでの活動でAランク冒険者にまでなったと聞いている。数多くのSランク冒険者パーティーからの勧誘もあったが、全てを断ったという話だ。それに、雇った傭兵は待っていても無駄だろう。あいつらに関しては、契約前から善からぬ噂が私の耳にも入っていた。大方、何か悪事を働こうとして、精霊巫女と一緒にいた神官の少女に始末をされたのだろう。人手が足りないからと言って、あんな奴らを雇うんじゃなかった…… 我々がとばっちりを食らう前に、一刻も早くあの場を離れる必要があったんだ。我々に与えられた使命をはき違えているような馬鹿共など、殺されようと私の知ったことではないからな。万が一、あいつらが捕まっていたとしても、正式な構成員以外には賢者殿からいただいたスクロールで口封じの術式を刻んである。秘密結社である我々の情報が、外部に漏れることはないだろう。いいか、よく聞け! 我々の目的は、恵まれない子を救うことだ! 姫様の善意に泥を塗るような行為は絶対に許さん!」


「……始末された? 精霊巫女にではなく、あの赤腕の子供神官にですか?」


「そうだ…… あれはヤバい…… 私の危機察知のユニークスキル『心理の眼』が極大の危険信号を警告していた。あんな化け物の近くに居るのなら、ワイバーン百匹に囲まれて寝ている方がまだ天国だろう……」


「姫様とどっちが強いですか?」


「分からない…… 姫様は強い。この星で姫様と戦える者など、絶対に存在しないと信じていた。だが、あの少女はあまりにも不気味だ…… あの力の波動、まるで姫様とはじめて出会った時のことを思い出した…… もしかしたら、あの少女は姫様と同列の理外の理に位置する存在なのかもしれない……」


「何が見えたんですか?」


「……」


 部下からの問い掛けに、エマは無言で震えていた。

 秘密結社に加入してからのエマは、Sランク冒険者へと登りつめる過程において数えきれないほどの修羅場をくぐり抜けてきた。

 部下達も過酷な任務において、エマのユニークスキルによって幾度となく命を救われており、その危機察知能力に狂いはないことを理解している。

 そのエマが、姫と呼ばれる仮面の少女とドーラを同列と判断したのならば、間違いなくそうなのであろうと部下達は納得をしていた。

 ちなみに、姫と呼ばれている仮面の少女が何者なのかは、秘密結社の下部の構成員には知らされていなかった。

 少なくとも、ランゲル王国には幼い姫はおらず、賢者が仮面の少女の事をそう呼んでいるので、他の構成員もその少女のことを姫と呼んでいるのだ。


「王都についたら、急いで賢者殿に報告をしないとな…… あの赤腕の神官は、姫様の計画の障害になるかも知れない……」


「そう言えば、エマの姉さんは何で服装が変わってるんですか?」


「……」


 部下からの問い掛けに、エマは無言で顔を反らしていた。

 そして、エマにとって長かった夜が明けた。


「おはようございます、ライムさん」


 目を覚ましたドーラがテントから出てくる。


「ああ、おはようドーラ。不本意だが、魔石は取り出しておいたぞ。約束通り半分は私が貰うからな」


 ライムは自分の取り分を荷物に仕舞い、残り半分の魔石をドーラへ渡す。


「黒焦げの奴は魔石が粉々に砕けていたぞ。どんな攻撃をすればあんな状態になるんだよ。完全に炭化してたじゃないか」


「ダイフクがやり過ぎてしまいました」


「ワン」


 ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。


「薄々は気づいてたが、お前ら絶対に普通じゃないだろ? お前が見張り番の時に、あの冒険者パーティーに何かしなかったか? 夜明け前なのに、震えながら逃げるようにして野営場から出発していったぞ?」


 ドーラは野営場を見回して、冒険者パーティーが居ないことに気が付く。


「えー、私は何もしてないですよ? 何かずっと震えていたので、優しく笑顔で話し掛けてあげました」


「本当かよ…… まあ、いいや。私たちも朝飯を食べたら出発をするぞ。今日中に鉱山地帯を抜けて、砂漠の入り口にあるバザーまでたどり着く予定だ。バザーの宿屋で宿泊をして、十分に休んでから砂漠地帯に入るぞ。砂漠地帯の中では、灼熱の炎天下を進むことになるから、その前に風呂に入ってしっかりと汗を流しておきたしな」


「分かりました」


 ドーラ達は軽い朝食を済ませた後に、自分たちが野営をしていた場所を綺麗に掃除する。

 掃除を終えたドーラは、冒険者パーティーが野営をしていた場所に目を向けた。


「あれ? 何か落ちてる?」


 何かを発見したドーラは、落ちている物を拾い両手で広げた。


「これってパンツ? あの冒険者さんが忘れていったのかな? クンクン、なんか臭いし濡れているな……」


「何してるんだドーラ? もう出発するぞ」


「あ、はい、今行きます」


(野営をした後は、その場所を綺麗に掃除するのが冒険者のマナーだって教わったし、この忘れ物のパンツは私が預かっておくかな)


 ドーラは黒い靄にエマのパンツを収納した。


(ふひひひ、今度どこかで会った時に渡してあげよ)

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