第47話 ミミズ少女の見張り番
野営場での夕食を終えた後、ドーラ達は見張り番を決めて順番に休むことにする。
先に見張り番をする事となったドーラは、ダイフクと一緒に焚き火の前に腰を下ろした。
人拐いの疑いがある冒険者パーティーも、見張り番に女冒険者を残して就寝をしているようだ。
女冒険者は狩人職のようで、傍らに弓を置いて座っている。
後衛職の狩人は探知能力が高いので、見張り番には最適なのだろう。
ドーラもサーチワームで周囲を探知しながら、スコープワームを野営場の外にまで配置して警戒をしている。
「テントの中の冒険者達は、ぐっすりと寝ているな」
念のために、ドーラは冒険者パーティーのテントの中にもスコープワームを忍ばせていた。
今のところ冒険者パーティーに怪しい動きはないようだ。
「んー、誰も腕にバンドを付けていないから札付きの冒険者パーティーだと思ったけど、札を首にかけている人もいないな。確か、Sランクの冒険者になると札無しになるんだっけ? そんなに強そうな人達には見えないんだけどな。クエスト以外で冒険者が拠点の街を離れる場合は、トラブル対策で札を隠す人もいるって聞くし、これだと本物の冒険者かどうか判別が出来ないな」
ドーラはじろじろと見張り番の女冒険者を観察している。
執拗なドーラからの視線に、女冒険者は居心地を悪そうにして顔を反らしていた。
「うーん…… あ!」
ドーラは何かに気が付くと、突然立ち上がって女冒険者の方向へと歩いて行く。
無言のまま近付いてくるドーラの姿に、女冒険者は一瞬体を震わせると、怯えたような表情でドーラのことを見上げた。
スタスタスタ
ドーラは女冒険者の前を通り過ぎて行く。
「え?」
不可解に思った女冒険者は、目の前を横切っていくドーラのことを目で追っている。
ドーラはそのまま野営場の外まで進んで行き、岩場の奥へと姿を消して行った。
ドーン
「きゃ!」
ドーラの消えた暗闇の中から、鈍く重い音が野営場に響き渡る。
驚いた女冒険者は、慌てて暗闇へと弓を向けて構えた。
スタスタスタ
暗闇から戻ってきたドーラは、何かを引きずっているようだ。
唖然として立ち尽くす女冒険者にドーラは声をかけた。
「あっちにレッサーサラマンダーが居ました」
「え? あ、は、はい……」
「……それでは」
スタスタスタ
ドーラはレッサーサラマンダーを引きずりながら、自分のテントへと戻っていった。
「うーん、見張り番って暇だなあ。あの冒険者さんも、怪しい動きは特にないしなあ。何か面白いことないかなあ。ワイバーンでもいっぱい現れたら嬉しいんだけどなあ」
見張り番とは思えない発言である。
やることがないドーラは、再び女冒険者の観察をはじめる。
女冒険者はドーラの視線に耐えられないのか、気を紛らわすように弓の手入れをはじめた。
「なんか暇だし、私もダイフクの強化でもしようかな」
「ワン」
ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。
「まずは、ディメンションワームをあげるね。レイヴィも転移魔法で移動が出来るのに、ダイフクだけ空間を移動出来ないのは不便だからね」
ドーラの指先から現れたディメンションワームが、ダイフクの口から体内へと入っていく。
「次は、この前に約束をしたサンダーワームをあげる。これでダイフクも、レイビィのことを倒すことが出来るよ」
(ひ、ひい……)
ドーラの影の中からレイビィの悲鳴が聞こえる。
「あ、また向こうにレッサーサラマンダーがいる。ダイフク、サンダーワームの能力を試してみる?」
「ワン」
ダイフクは嬉しそうに尻尾を振りながら、岩場の奥へと走って行った。
ピュー
「きゃ!」
疾風のごとく目の前を走り抜けるダイフクに、女冒険者は驚いて背中からひっくり返ってしまった。
バリバリバリ
ダイフクが消えた暗闇の中から、凄まじい閃光と轟音が野営場に響き渡る。
「きゃー!」
突然の出来事に女冒険者は悲鳴をあげると、うずくまるように身を縮めて、耳を塞ぎながら震えている。
光が収まり野営場が再び暗闇に包まれると、ダイフクは真っ黒に炭化した、レッサーサラマンダーだった塊を引きずりながら戻ってくる。
「ひいいい!」
女冒険者は完全に腰が抜けており、下半身と地面を濡らしてしまっているようだ。
「お帰りダイフク。はじめてなのに上手だったよ。でも、なんか向こうの冒険者さんをビックリさせちゃったみたいだな。ちゃんと謝っておこう」
ドーラは立ち上がって女冒険者へ近付いて行った。
「騒がしくしてすいません。大丈夫ですか? 震えてますよ?」
女冒険者は震えながら、ゆっくりとうなずいている。
本人は大丈夫だと言っているが、女冒険者の顔色があまりにも悪いので、ドーラは笑顔で優しく励ましてみた。
「ふひひひ…… 一人で見張り番をするのが怖いんですか? 大丈夫ですよ。近くで私が見ていますから。ふひひひ…… そう言えば、この辺には人拐いがいるみたいですよ? 一応さっき殺…… 何処かに消えましたが、仲間がいるかもしれないので、あなたも気をつけてくださいね」
女冒険者は震えながら、必死に何度もうなずいている。
ドーラは満足そうな笑顔をみせ、自身のテントへと戻っていった。
(んー、多分あの人は普通の冒険者だろうな。さっきからずっと震えているし、悪い人には見えないからね)
自身のテントに戻ったドーラが女冒険者の方に顔を向けると、先程までそこに居たたはずの女冒険者の姿が見えなくなっていた。
「あれ? どこ行ったんだろう?」
しばらくすると、テントの中から女冒険者が出てきた。
「あれ? さっきと服装が違うな?」
女冒険者はドーラの視線に気がつくと、恥ずかしそうに顔を反らして、再びテントの前に腰をおろした。
「?」
何で着替えたのか理解は出来なかったが、ドーラはあの女冒険者は人拐いとは無関係だと断定をしたので、もう彼女に興味がなくなっていた。
「ま、いっか」
「ワン」
何が起こったかダイフクは理解していたが、女冒険者の名誉のためドーラには黙っておいてあげた。
その後も、ドーラは暇潰しでレッサーサラマンダーを狩りながら、ライムとの交代の時間まで見張り番を続ける。
「ふぁ…… 交代の時間だドーラ」
眠そうに目を擦りながら、ライムがテントから出て来た。
テントの外には、大量のレッサーサラマンダーの死骸が山積みになっている。
それを見たライムは、一気に目が覚めたようだ。
「なんだこれ?」
「何も起こらず暇だったので、周辺のレッサーサラマンダーを狩っておきました。ライムさんが見張り番に飽きたら、暇潰しに魔石を取り出してもいいですよ」
「いや、何か起こったら不味いだろ…… それに、何だよこの数のレッサーサラマンダーは…… お前が狩ったのなら、自分で魔石を取り出せよ。まさか、魔石の取り方を知らないのか?」
「私は魔物を狩る役、ライムさんが魔石を取り出す役と言うことでお願いします。取り分は、半分個ずつでいいですよ」
「普通は逆だろ…… 何処のギルドに、暇潰しでレッサーサラマンダーを狩るFランク冒険者がいるんだよ…… 私は絶対にやらないからな、そんな面倒くさいこと」
「え、やらないんですか? じゃあ、私がやります」
「ワン」
「ダイフクもやりたいの? じゃあ、ダイフクがやる?」
「は? なんだよそれ。じゃあ、私がやるよ」
「どうぞどうぞ」
ドーラは笑顔でテントに入っていった。
「ぐぬぬぬ。何故だか、断ったらいけない雰囲気に感じてしまった…… くそ、訴えてやる」
ドーラがテントに入っていく姿を見た女冒険者は、とても嬉しそうな顔をしていた。




