第46話 ミミズ少女の野営
ドーラは岩場を歩きながら、スコープワームで野営場の様子を確認をする。
野営場では特に変わった動きはなく、ライムはすでにテントの設置を終えてドーラの帰りを待っているようだ。
「レイヴィは野営場にいる冒険者達のことをどう思う?」
(見たところ、あの中には魔術師系の冒険者はいないようですねえ。もしも、先程の暴漢と仲間だとするのならば、口を封じた魔術師は別の場所にいるか、もしくは術式が刻まれたスクロールを何処かで入手したのでしょう。どちらにせよ、先程の暴漢は使い捨ての、ただの雇われ傭兵と言ったところでしょうか。ともあれ、襲ってきた者を始末したことはライムさんには伝えずに、このまま少し様子を見るのが良いかと思います)
「んー、力ずくで尋問をしてもまた自害されるだろうし、こちらから手を出すのは意味がないか。それに、あの冒険者達は全くの無関係と言う可能性もあるからね」
ドーラは今後の方針を固めて、何食わぬ顔で野営場へと戻っていった。
「ずいぶんと遅かったな。テントの設置はとっくに終わってるぞ」
「念のために、警戒をかねて少し周辺を見て回っていたので時間がかかりました」
ドーラは冒険者パーティーの様子を横目でうかがう。
どうやら、夕食の準備をしているようだ。
「ライムさんは、あの冒険者パーティーのことは知らないんですか?」
「ああ、知らないな。見たところ、砂漠地帯に良くある服装だから、オアシスの街にあるギルドで活動をする冒険者パーティーだろう」
(腕にバンドを付けている人はいないな。全員札付き冒険者なのかな? んー、この位置からだとよく見えないな)
「そんな事より、私たちも飯の準備をするぞ。一日中山道を歩いたから、腹が減ってもう限界だ」
ライムは荷物の中から黒毛ボアの燻製肉と数種類の野菜を出す。
それらを鍋に入れ、適当に調味料を加えて火にかけた。
「なんか、凄い適当ですね」
「食えりゃあ何でもいいだろ。文句があるのなら、明日はドーラが飯を作れよ」
ドーラはライムから顔を背けている。
「……お前、もしかして料理が出来ないのか?」
ドーラはダイフクの腹を撫でている。
「お前も一応は冒険者だろ? そのうち一人で野営をすることもあるだろうし、そんなんじゃこれからやっていけないぞ?」
いつでもディメンションワームで街に帰れるドーラには、野営の心配をする必要はなかった。
しかし、そんな事は言えないので、ドーラは聞こえない振りをしている。
子供のようなドーラの態度に、ライムは完全に呆れていた。
まあ、実際にまだ子供なのだが。
「はあ、仕方がないな。今回の旅で簡単に作れる料理くらいは教えてやるよ。やりたくなくても、明日はドーラに夕食を作ってもらうからな」
「良かったねダイフク。ライムさんが料理を教えてくれるって。しっかりと覚えるんだよ」
「ワン」
ダイフクは尻尾を振ってヤル気満々だ。
「犬に料理が出来るわけないだろ……」
「じゃあ、レイスにやってもらいます」
ドンガラガッシャン
ライムは後方に三回転くらい転がっていった。
「お、お前ら、そう言う関係だったのか!」
(相変わらずライムさんはリアクションが激しいな)
「冗談ですよ」
「な、なんだ…… 驚かせやがって」
ライムは鍋が煮たったのを確認すると、スープを器に取り分けてドーラに渡した。
「いただきます。ん、意外と美味しい」
モグモグ
魔族領の不味い食べ物で育ったドーラにとっては、ライムが適当に作った料理でもご馳走になるのであった。
美味しそうに食べるドーラを見て、ライムも満更でもない顔をしている。
「そう言えば、ライムさんはアダマスの森のレイスの事が好きなんですよね? モグモグ」
ブー
唐突に恋話を振られたライムは、口からスープを吹き出した。
「ゲホゲホ、そ、そうだよ…… それがどうした……」
「悪魔の岩山とその事に、どういう関係があるんですか? モグモグ」
ライムは気持ちを立て直すと、スープを食べながらドーラに悪魔の岩山についての説明をする。
「悪魔の岩山にはダークエルフ族が住んでいるってギルドの酒場で説明をしたよな」
「はい」
「遥か昔、ダークエルフ族が里を作るよりも以前の悪魔の岩山は、大地の精霊が住み処としていた場所だったんだ。私達ハーフスケール族は、大地の精霊と人族との間で作られた半魔だと伝わっている」
「へー。もしかして、ライムさんが聖属性の魔法を使えるのも、精霊の血筋があるからですか?」
「……レイスから聞いたのか? はあ、私が聖属性の魔法を使えることは誰にも言うなよ。冒険者ギルドでも信頼できる一部の奴にしか教えてないんだ。もしも、そのことが神殿勢力なんかにバレたら、王都に軟禁をされて、下手したら新しい聖女に祭り上げられてしまう」
「聖属性の魔法って、そんなに貴重なんですか?」
「ああ、聖女のいないこの時代には、使える者はいないはずだった。それなのに、私が聖属性の魔法を使えるのは…… 秘密だ。私からしたら、あのレイスが聖属性の魔法を使ったことのほうが驚いたよ。もしかしたら、あのレイスは魔物なんかではなく、精霊に近い存在なのかもしれない。だからこそ、悪魔の岩山にヒントがあるかも知れないんだ」
「ヒントですか?」
「本来、精霊とは実体を持たない高次元生命体だ。それが人族との間に子を作れたと言うのならば、わたしと実体のないレイスでも子を作れるかもしれない」
「なるほど。その方法を探すために、悪魔の岩山に行くんですね」
「そう言うこった。まあ、悪魔の岩山に大地の精霊が暮らしていたのなんて、何千年も昔の話しだからな。私がそこに行ったとしても、その方法が見つかる可能性は低いだろう。ただし、今でもダークエルフ族が悪魔の岩山を守護しているのは事実だ。もしかしたら、何か知っているのかもしれない。それに、私は精霊魔法も得意としているから、何も手がないと言うわけでもないしね」
ライムの説明を聞いたドーラは、何か腑に落ちないような顔をしている。
「んー、ライムさんの目的はわかりました。でも、その話しには一番大事なことが抜けていると思うのですが?」
「なんだ?」
「相手の気持ちです。子を作る方法が見つかっても、相手にその気がなければ意味がないですよ?」
ライムは不機嫌な表情を浮かべるが、ドーラの言葉に反論が出来ず、肩を落としながらため息をついた。
「はあ、分かってるよ…… どうやら、あのレイスは主とやらにお熱のようだった。だが、こう見えても私は外見には自信がある。ハーフスケール族の特性で見た目も若い。あいつはロリコンのようだったし、何とかして落としてみせるさ。あまり使いたくない手だが、いざとなれば責任を取ってもらうことも考えている」
「責任?」
ライムはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「クックック。あいつは森のど真ん中で私を裸にひん剥いた。乙女に恥をかかせておいて、無責任に逃げられるとは思わないことだ」
乙女と言う表現にドーラは若干の疑問を感じたが、笑い方がレイビィとそっくりなので、意外とお似合いなのかもと思っていた。




