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第5話 ミミズ少女と老犬

 ドーラの気配に気付いた黒い犬は、ピクリと耳を動かしてからその場にゆっくりと立ち上がった。

 見たところかなりの高齢な犬ようで、小刻みに震える足で必死に自身の体を支えている。


(この村で飼われていた犬かな?)


 ドーラは周囲を見渡して村の様子を観察する。

 村の建物のほとんどは崩れているが、かろうじて残っている建物の様子から、さほど古びた印象は受け取れなかった。


(この村が滅んでから、あまり月日は経ってなさそうだな。何故この犬だけ生き残ったんだろう?)


 今にも倒れそうな老犬は、倒壊とうかいした家の裏側に向かって歩きだした。

 ドーラが不思議そうにその様子を眺めていると、老犬は途中で立ち止まり、振り向いてドーラのことをじっと見つめている。


(ついてこいって事かな?)


 ドーラは誘導されるように老犬の後をついていった。

 家の裏側へと回り老犬の立ち止まった場所を見ると、そこには何者かの人骨が転がっていた。

 その骨の状態から察すると、激しい炎によって焼かれたように見える。

 骨の前に座り込んだ老犬がドーラをじっと見つめている。


「この骨はあなたのご主人様? 埋葬まいそうしてくれってことなのかな?」


 ドーラには老犬の真意はわからないが、そう言われている気がしたのでその骨をその場に埋めることにした。

 穴を掘って骨を埋め、墓石の代わりに倒壊した家の柱を立てる。


「まあ、私に出来るのはこれくらいかな」


 老犬のれた尻尾がわずかに揺れ、それで良かったのだとドーラは安心をした。

 老犬は再び立ち上がると、またドーラを誘導するように歩き出した。

 どうやらこの家には地下室があるらしい。

 地下へと続く階段を下りていくと、そこは食料などを保存する倉庫になっていた。

 老犬は部屋の奥で何かをくわえると、それをドーラのもとに持ってくる。


「これは…… お礼ってことかな?」


 持ってこられた物は保存用の干し肉だ。

 少しかじられた跡があるので、きっと老犬が大事に食べていたのだろう。

 ドーラは倉庫の中を見回したが、他に食料になりそうな物は残ってなさそうだった。


(ご主人様をとむらってくれる人を待つため、ギリギリの状態で生き延びていたんだな。目的が達成されたから、もう自分には必要ないって言うことかな? んー、断ったら悪いよね)


「ありがとう。遠慮なくいただくね」


 ドーラは干し肉を受け取りかじりついた。


「うま、何これ! ただの干し肉なのに魔族領の肉と全然違う!」


 ムシャムシャ


 ドーラは夢中で干し肉を頬張ほおばっている。


「これが人族の国の肉か。父から聞いていた通り、旨味うまみも柔らかさも魔族領の物とは比べ物にならないな」


 ドーラはあっという間に干し肉を食べ終える。

 美味しそうに食べるドーラを見て、嬉しそうに老犬の尻尾は揺れていた。


「ごちそうさまでした。さてと、これ以上の食料調達はこの村では無理そうだし、これからどうしようかな?」


 次の街までの距離を考えると、ドーラの手持ちの食料では少し心許こころもとなかった。


「道中で食べられそうな動物でも見つかればいいんだけど…… 少し行き当たりばったりかな? まあ、今さらだけど」


 ドーラは老犬へと視線を移した。


「あなたも一緒に行く?」


 ブンブン


 老犬は何かを察したのか、今までにない素早さで首を横に振った。


「もしかして保存食にされると思ってる? 酷いなあ。そんなこと考えてないからね? 本当だよ? まあ旅をするには厳しい体だろうし、最後はご主人様と一緒のほうが幸せかもね」


 ドーラと老犬がそんなやり取りをしていると、展開中のサーチワームが村の中に現れた魔素を探知する。


「ん? どういうこと? 村の外からではなく直接魔素がサーチワームの探知内に現れた。もしかして誰かが転移してきた?」


「ウー」


 何かの異変に気が付いたのか、老犬が地上に向かってうなりはじめた。


「結構大き目の魔素だな。もしかするとこの村を滅ぼした魔物かな? 以前、魔族領の森に来たワイバーンほどじゃないけど、かなり強い魔物かもしれない」


 村の中に現れた魔素の反応は、ドーラが立てたお墓の方向に移動していく。


(んー、地上で何が起きているのか分からないけど、老犬のこの反応からして良くないことが起きているのかな?)


「私が様子を見てくるから、あなたはここに居なさい」


 老犬にそう指示を出して、ドーラは地上への階段を上っていった。

 地上への出口から頭を出しお墓の方向に顔を向けると、人族らしき男性がドーラの建てた墓を見下ろしながらぶつぶつとつぶやいている。

 魔導師風のローブを身にまとい、顔の上半分が隠れる仮面をつけている怪しい男だ。


(墓の前を行ったり来たりして何をしているんだろう? 動きが挙動不審で、なんか変態みたいな人だ)


「これはどう言うことでしょうか? もしや、あの犬コロが墓を建てたのですかね? クックック、そんなわけないですよね。そこの隠れているお嬢さんがやったのですか?」


 バレバレだった。


(後ろを向いているのに気付かれたってことは、何かしらの探知能力かな? んー、取り敢えず地上に出て挨拶をしてみよう)


 ドーラは地上に出て、変質者っぽい男に挨拶をした。


「こんにちは。こんな廃墟の村に何のご用ですか?」


 ドーラの問いかけをよそに、謎の男は品定めをするような視線でドーラを観察している。


(え、まさかロリコン? ロリコンなら殺しちゃおうかな…… って最後に私の顔を見て物凄く嫌そうな顔しなかった? おい、私の容姿に何か不満でもあるのか? ロリコンじゃなくても殺しちゃおうかな?)


 ドーラが心の中で怒りにいていると、謎の男はため息交じりに口を開いた。


「はあ、それはこちらのセリフですよ。この墓を立てたのはお嬢さんですか? 困るんですよね。せっかく良い感じに犬コロの魔素が絶望に染まっていたというのに。これでは全部台無しではありませんか。何の成果も得られなかったなんて、これでは犠牲になった村の住人も浮かばれませんよ」


(話の筋がまったく見えなけど、この人はあの老犬を使って良くない事をたくらんでいたのかな?)


「ワンワン」


「あ、出てきちゃ駄目だよ」


 地下から出てきた老犬は、謎の男への敵意をき出しにしてえている。


「ほら、ご覧なさい。あなたが優しさなんて与えたから、魔素に希望が灯ってしまったではないですか。これではその犬コロはもう使えませんねえ。全く無駄な期間を費やしてしまいましたよ」


(何かよくわからないけど、私のしたことがこの男の計画を壊していたのかな?)


「あなたは何者ですか?」


 ドーラの問いにたいし、男は踊るような優雅ゆうがな動きで一礼をしながら名乗りをあげる。


「クックック、自己紹介がまだでしたね。私の名はドルビィと申します。偉大なる魔神様の眷族けんぞくです」

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