第44話 カリウスの使命
宿屋へと帰ってきたドーラは、思いもよらない人物が待っていることに言葉を失っている。
(な、なんでカリウスさんが宿屋にいるの? まさか、私を討伐するためにアダマスの街まで追ってきた? カリウスさん、ちょっと仕事熱心過ぎでしょ…… マームさんやリサちゃんに、何か余計なことを話されたかな? んー、困ったな。どうしようか……)
以前、ドーラは騎士団と出会った時に、自分が魔神の眷族だと疑われていると勘違いをして逃げて来たのだ。
想定もしていなかった事態にドーラが狼狽えている一方で、当のカリウスは血走った目を見開きながら興奮をしていた。
(うおおお! ドーラたん、本当に居た! しかも、完全に聖女様バージョン! まさに神話のお姿そのままだ! や、やばい! か、可愛い! あ、目眩が……)
ブー
ドサ
カリウスは盛大に鼻血を吹き出しながら後ろへと倒れた。
これまでの疲労に加えて、大量の出血で完全に力尽きてしまったようだ。
「なんだい、また倒れちまったよ……」
(え、なんか良く分からないけど助かった? とにかく、今のこの状況の確認をしよう)
「マームさん、何でカリウスさんがここにいるんですか?」
マームは、カリウスが宿屋にやって来た経緯をドーラに説明をする。
(なるほど…… 聖女を名乗っていたリサちゃんに会うために、王都からやって来たのか。つまり、私のことを追って来たんじゃなくて、偶然ここで再開をしたということね。宿屋に来てすぐにカリウスさんは倒れちゃったみたいだし、とりあえずはセーフってことかな? 私が魔神の眷族だと疑われていることや、怪我人の治療が出来ることを話されたら、色々と面倒なことになるからな。何とかして、カリウスさんの口を封じをしないと…… 最悪の場合、カリウスさんのことを……)
「わかりました。カリウスさんとは知り合いなので、私の部屋で介抱をしてもいいですか?」
「それは構わないけど、その人も宿泊をするなら別の部屋を用意しようか?」
「んー、とりあえずはカリウスさんが起きてから聞いてみます。多分、すぐに目を覚ますと思うので」
ドーラはお姫様抱っこでカリウスを持ち上げると、急いで二階へと上がっていった。
カリウスが軽装備だったとは言え、大人を軽々と抱えて階段を上る光景は普通に考えれば異質である。
しかし、その光景を見てもマームは特に驚くことはなく、鼻歌交じりで夕食の準備へと戻っていった。
バタン
ドーラは部屋に入るとカリウスをベットの上に降ろした。
「相当疲れが溜まっているみたいだし、このままだと当分は目を覚ましそうにないな。仕方がないから、もう一度スレイブワームの先っぽ入れよう」
ドーラはスレイブワームの先っぽをカリウスの耳に挿入した。
前回先っぽを入れた時には見た目の変化は無かったが、二度目の今回はカリウスの髪が一部分だけ白色へと変化する。
「あ、二回目だから髪の色が少し変わっちゃった。まあ、細かい事はもういいや」
ドーラはいつも以上に適当になっているようだ。
「うーん、ドーラたん…… は、ここは何処だ? あ、ドーラたん!」
「カリウスさん、静かにしてください」
「モガモガ」
ドーラは騒ぎそうになったカリウスの口を慌てて塞いだ。
「カリウスさん、少し大事な話があります。大人しく聞いてもらえますか?」
「モガモガ」
口を塞がれた状態のカリウスは、首を縦に振って返事をする。
「カリウスさんが私を追ってきた理由は分かってます。虫のいい話なのですが、私のことはアダマスの街の人には黙っていてもらえませんか? 色々と誤解があるようですが、私は普通の冒険者として暮らしたいだけなんです。もしも、カリウスさんが私のことをこの街の住人に話したら、私はこの街から出ていかなければなりません。ようやく今の生活にも慣れてきたので、出来ればもうしばらくこの街で暮らしていたいんです」
コクリコクリ
カリウスはドーラの言葉に何度もうなずいている。
意外にもあっさりとカリウスを説得出来たことに、ドーラは胸を撫で下ろしている。
(ふう、良かった。これで最悪の手段をとらずに済んだな)
「モガモガ」
「あ、ずっと口を塞いだままだった。ごめんなさい」
ドーラはカリウスの口から手を離した。
カリウスは少し残念そうな顔をしている。
「畏まりました。聖女様の言葉は王命よりも優先されます。決してこの街の住民には口外を致しませんし、今すぐに聖女様を王都へとお連れするようなことも致しません」
(え? 聖女? カリウスさん何を言っているんだろう? 魔神の眷族だと勘違いをして、私のことを討伐しに来たんじゃないの?)
カリウスの言葉が理解出来ずにドーラは混乱をしていた。
しかし、ドーラは今の自分の姿を思い出して、稲妻に打たれるような衝撃をうける。
(ま、まさかカリウスさん…… この衣装を見ただけで、私のことを聖女だと勘違いをした? ほんの少し前までは魔神の眷族だと疑っていたのに、なんて純粋で子供のような人なんだろう…… エッチなことばかり考えているレイヴィとは大違いだ…… でも、否定をすると魔神の眷族に戻っちゃうし、どちらかと言えば聖女に間違われている方が何かと都合はいいのかな? よし、この流れに全力で乗っかろう!)
「あ、ありがとうございます。では、この話は二人だけの秘密と言うことでお願いします」
「は、はい!」
二人だけの秘密と言うパワーワードに、カリウスの鼻息が荒くなっている。
「ですが、やはり今後のことを考えると、聖女様には一度王都へと赴いていただく必要があります。今すぐにとはいかなくとも、近いうちに王との面会に王都へとお越しいただきたいのですが?」
(王様に会う? あ、思い出した! この前の報酬の残りを王様からもらえるって言ってた!)
ドーラの目が¥になっている。
ドーラは世界一お金が大好きな子供なのである。
お金がもらえると聞いたからには、行かないという選択肢は存在しないのであった。
「分かりました。ですが、私にはこの街でやらなくてはいけない事(借金返済)が残っています。それが終わったら、その際には必ず王様に会いに行きます。それと、私のことを聖女と呼ぶのは、恥ずかしいのでやめてほしいのですが……」
一応、カリウスが勝手に勘違いをしていると言うことにするため、ドーラは聖女と呼ばれることを曖昧な感じで否定しておく。
「は! 王にはそのように伝えます。聖女様とお呼びするのも控えます。お忍びで冒険者をしているのでしたな。それでは、ひとつお願いがあるのですが……」
カリウスはモジモジしている。
「なんですか?」
「ド、ドーラたんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
(たん? どういう意味だろう? まあ、聖女と呼ばれるよりはいいか)
「分かりました。カリウスさんの好きなように呼んでください」
「では、ドーラたん。私はこの件を王に報告をするため、すぐに王都へと戻ります。ドーラたんがこの街での使命を終えて、王都ミリアに来られるのを、騎士団一同心よりお待ちしております」
カリウスは迷惑をかけてしまったことをマームに謝罪をすると、大急ぎで王都へと引き揚げていった。
先程スレイブワームの先っぽを入れられたため、疲れもなくなり元気いっぱいのようである。
あまりのカリウスの慌ただしさに、マームは呆れたような顔で見送っていた。
「ふう、これで一件落着だな。最悪の場合、カリウスさんにスレイブワームを寄生させて完全に思考を誘導しようと思ったけど、先っぽを入れるだけで済んで良かったな」
問題が解決したドーラは、疲れた表情で夕食を食べに一階の食堂へと向かった。
一方、王都に戻る最中のカリウスは考えていた。
「人にはそれぞれの役割がある…… ようやく分かった。俺の成すべき使命、それは……」
王都へと戻ったカリウスは、ドーラを迎え入れるべく準備を始めるのであった。




