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第43話 カリウス来襲

 聖女目撃の報せを受けたカリウスは、極秘裏に聖女を迎え入れるべく、一人王都を離れてアダマスの街へと向かっていた。

 王都からアダマスの街への移動には、通常であれば早馬を走らせたとしても十日以上の日数が必要となる。

 しかし、カリウスは僅か三日間という短期間で、アダマスの街へとたどり着いていた。

 自腹で用意した高級ポーションを惜しげもなく馬に飲ませて、大急ぎでアダマスの街へと走らせたのだ。

 カリウス自身も寝不足とポーション酔いにより、アダマスの街に到着した頃には、明らかにおかしな状態のテンションになっていた。

 目をわらせたカリウスは早馬から飛び降りて、鬼気迫る表情をしながら正門にいる守衛へと詰め寄った。


「ぜい、ぜい…… せ、聖女様は…… 今…… 何処にいる……」


「な、なんだ貴様は! 見るからに怪しい奴め! みんな急いで集まってくれ! 正門に不審者が現れたぞ! おい貴様、詰所つめしょまで連行をするから、抵抗をせずに大人しくついて来るんだ!」


 詰所から待機中の守衛が出てきて、全員でカリウスのことを拘束する。


「え? いや、私は王都からの…… ちょ、ちょっと待て! 違う、誤解だ! 私の話を聞け!」


 カリウスは連行をされた。


「私はランゲル王国騎士団副団長のカリウスだ。王の勅命ちょくめいを受け、急ぎアダマスの街までやって来たのだ。断じて怪しい不審者などではない!」


 カリウスは目を血走らせながら説明をしているが、その必死さがますます守衛の不信感を募らせていた。

 その後、遅れて詰所にやって来た守衛長がカリウスのことを知っていたらしく、なんとかカリウスは不審者の誤解を解くことに成功をする。


「それで、カリウス殿はどのような要件でアダマスの街に来たのですか?」


 ようやく本題に移れることに安堵あんどしたカリウスは、気を取り直して自身の目的を守衛長へと説明をした。


「ごほん…… アダマスの街に聖女様を名乗る人物が現れたという情報が王都まで届いた。私は、王命によりその聖女様を迎えに来たのだ」


 ざわざわ……


 カリウスの言葉を聞いた守衛は、驚いて顔を見合わせている。


「あ、あの…… まさか、彼女を王都に連行するのですか?」


「ん? そうだ。王都へお連れする」


 その場にいる守衛の顔が一斉に青くなった。


「し、しかし、相手は子供ですよ? 高々、聖女様を名乗ったくらいで、そこまでしなくても良いのではありませんか?」


 守衛長は必死にカリウスのことを説得している。


(ふふふ、さすがはドーラたん。王都にお連れするだけで、街の住人がこれほど悲しんでいるとは。きっとこの街でも、多くの人々をお救いになったのだろうな)


「アダマスの街の住人の気持ちは痛いほど分かる…… しかし、王命は絶対だ。たとえ悲しむ者が居ようとも、我々にこれを拒否することは出来ないと理解をしてほしい」


 確かに、この国の住人なら王命に逆らうことは難しいだろう。

 しかし、守衛達が焦っている理由には、王命以上に心配をすることがあるようだ。

 守衛達は話し合い、最悪の場合を想定しながら苦渋の決断を下した。


(こうなったら、後のことはマームさんに任せるしかない。無駄だとは思うが、我々も完全武装をして宿屋までついていくぞ。もしもマームさんがキレたら、アダマスの街どころかランゲル王国も終わりだ……)


(((はい)))


「……分かりました。カリウス殿を宿屋までご案内します」


「ご協力を感謝する」


 守衛長は正門に一人だけを残して、残り全員を連れてマームの宿屋へとカリウスを案内する。

 カリウスの回りを取り囲むようして、大通りを進んでいく完全武装の守衛の様子に、街の住人は不安そうな表情をして見守っている。


「……つきました。この宿屋に彼女はいます」


「ご苦労…… ふふふ、やっと会えるのか……」


 守衛長が先頭を進み、宿屋の中へと入っていく。


 カランカラン


「夜分遅くに失礼します。こちらは、王都より参られた王国騎士団副団長のカリウス殿です。少しお話があるようなのですが、マームさんよろしいでしょうか?」


「なんだいなんだい? 大人数を引き連れて仰々《ぎょうぎょう》しいねえ。うちの宿屋に犯罪者でも泊まっているってのかい?」


 カリウスは守衛長の前に出て、不思議そうな顔をしているマームに要件を伝える。


「私は王国騎士団副団長のカリウスと申します。こちらの宿に聖女様を名乗る人物が居ると聞き、王命により王都から参りました」


「は? まあ、居るには居るが…… もしかして、王都ではそんなに騒ぎになっているのかい?」


「いえ…… 事が事だけに、現状この件は王と一部の貴族以外には極秘事項になっています。一刻も早く、聖女様を名乗る少女を王都へとお連れせよとの王命です。あの…… それで、その人物は……」


 カリウスは落ち着きなく体を揺らしている。

 マームはどうしたものかと頭を掻きながらため息を吐いた。


「はあ、分かったよ。ちょっと待っていな」


 マームは宿屋の奥に移動をすると、リサを連れて戻って来た。


「この聖女様に用があると言うのはお前か?」


「……」


 カリウスは無言でリサのことを見つめている。


「あー、すまないね。子供のお遊びなんだよ。まさか、王都で騒ぎになっているとは驚いたねえ。もし謝罪が必要なら、私が王都に行って直接王に謝るから許してやってはくれないか?」


「……」


 マームの言葉にもカリウスは無反応だ。


「おい、お前! 黙ってないで何か言え! この聖女様に用があって来たんだろ…… し、死んでる?」


 カリウスは立ったまま、その場で気を失っていた。

 無理な行軍とポーション酔いの状態に、リサの登場で止めを刺されたようだ。


「それではマームさん、後のことはお任せしても大丈夫なんですね?」


「ああ、心配いらないよ。責任をもって、私がこの人の面倒を見ておくさ。それに、この感じだと当分は目を覚まさないだろうからね」


 カリウスはカウンターの脇にあるソファーで、死んだように眠っている。

 守衛達はいったい何だったんだと、苦笑いをしながら正門へと戻っていった。


「うーん…… ドーラたん……」


 時折、カリウスはうなされながらドーラの名前を口にしていた。


「ドーラたん? なんだい、あんたドーラちゃんの知り合いなのかい?」


「うーん…… 誰かがドーラたんの話をしている……」


「おい、間抜けそうな奴。お前はドーラの知り合いなのか?」


「うーん…… ドーラたん……」


「ドーラたんドーラたんって、うるさいぞ! このロリコンめが!」


 ペシ


 リサに頭を叩かれたカリウスは、意識を戻して飛び起きる。


「いて! は! こ、ここは?」


「なんだい、リサに叩き起こされたのかい。もう少し休んでいた方が良いんじゃないかい? 見たところ、相当疲労がたまっているように見えるよ」


 カランカラン


「ああ、ちょうど帰ってきたみたいだね。あんた知り合いなんだろ?」


「ただいま戻り……」


 カリウスは入ってきた人物を見て絶叫をする。


「ドーラたん!」

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