第42話 ミミズ少女と聖女
ドーラはレイヴィのことを取引材料にして、ライムから悪魔の岩山への同行を許可してもらうことに成功した。
出発は三日後の早朝の予定で、一ヶ月ほどアダマスの街を離れる事になる。
ドーラは冒険者ギルドに借金があるため、遠くへの移動が制限されているが、ライムが一緒なら問題ないとクリスは許可をしてくれた。
マームの宿屋の長期の宿泊契約も、ドーラが留守の間は契約期間から除外をしてくれるとのことだ。
「そうそう、ドーラちゃん宛に荷物が届いてるよ」
「私宛にですか?」
ドーラは綺麗に包装された箱をマームから受け取る。
「誰からだろう?」
ドーラが箱を開けてみると、中には白い衣装が入っていた。
「なんか、どこかで見たことあるような?」
「なんだい? もしかして、ドーラちゃんのファンからのプレゼントかい?」
マームは笑いながら箱の中を覗きこんでいる。
箱の中には衣装の他に、一通の手紙が同封されていた。
「雑貨屋さんからみたいだ。えっと、何々…… 私がドレスを着ている事で宣伝効果があり、衣装売り場が大盛況になりました。感謝のお礼に、この衣装をプレゼントします。ぜひとも着用して宣伝をしてください…… だって。見たことのある衣装だと思ったけど、雑貨屋さんで見た衣装だったか」
ドーラは衣装を箱から出して広げてみた。
「えーと、たしか聖女の衣装だっけ?」
「何だと! あたしの衣装だと!」
後ろで話を聞いていたリサが、ドーラの背中に飛び乗ってくる。
「リサちゃん着てみる?」
「着るぞ!」
リサはその場で服を脱ぎすてて、聖女の衣装へと着替えた。
当然、リサにはサイズが合わずにブカブカである。
「んー、これは…… さすがに大きすぎるね……」
「解せぬ……」
リサは不満そうな顔で鏡を見ている。
「今度、一緒に雑貨屋さんに見に行こうか? リサちゃんのサイズに合う衣装があるかもよ?」
「分かった…… これはドーラが使え」
「んー、どうしようかな? 私は今の衣装が気に入ってるしな」
あまり乗り気ではない様子のドーラに、マームが提案をする。
「それなら、今着ている衣装は一度クリーニングに出したらどうだい? その衣装に付与されているクリーンの魔法はあまり効果が強くないから、定期的にクリーニングに出さないと直ぐに駄目になるよ」
「なるほど…… クリーニングって何処でするんですか?」
「それを買った雑貨屋に持っていけばやってくれるはずだよ。送られて来た衣装を着て持っていけば、きっと喜んでくれるんじゃないかい?」
「わかりました。着替えてから行ってきます」
ドーラは二階に上がって聖女の衣装に着替える。
以前に雑貨屋で寸法をしているので、送られてきた衣装はドーラにピッタリのサイズだった。
「どうかな? 似合ってる?」
「ワン」
ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。
「ありがとう。レイビィも見てるでしょう? どうかな?」
ドーラの影の中からレイヴィが答える。
(クックック、とてもよくお似合いです。個人的にはいつものドレスの方が好みですが、我が主は何を御召しになっても素晴らしいですねえ)
「ありがとう。でも、着替えをしていた時に、影の中から覗いていたでしょ? 後でお仕置きだからね」
(ひ、ひー すみませんー)
レイビィが着替えを覗いていた後には、魔素が大きくなっているのでバレバレなのであった。
着替えの終わったドーラは一階へと降りていく。
「あらまあ、驚いたね。まるで本物の聖女様みたいじゃないか」
「ぐぬぬ、なぜだ…… 私が聖女様なのに……」
リサが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ドーラの髪の色は聖女と同じ白色なので、その姿はまさに神話に出てくる聖女そのものだった。
「それじゃあ、ちょっと雑貨屋さんに行ってきます」
聖女の衣装を身にまとったドーラは宿屋から出ていった。
街の大通りを歩いていると、すれ違う街の住人は笑いながらドーラの姿を眺めている。
「ドーラちゃん、その格好はどうしたんだい? もしかして、ドーラちゃんも聖女様ごっこかい?」
「ち、違いますよ! これは雑貨屋さんの宣伝なんです! ほら、ダイフク急ぐよ」
「ワン」
ドーラは恥ずかしそうに手を振りながら、急ぎ足で雑貨屋へと向かった。
雑貨屋の中へと入ったドーラは、店内の客からも注目を浴びている。
ドーラは一階の雑貨売場で旅の準備もするつもりだったが、周囲の視線が気になるので、まずはクリーニングを頼みに二階の衣類売場へと上がっていく。
「店員さんはどこかな? あ、あそこだ。こんばんは、プレゼントありがとうございます」
ドーラは店員に贈り物のお礼を伝える。
「いらっしゃいドーラちゃん。ふむふむ、絶対にドーラちゃんに似合うと思ったから送ったんだけど、これは想像以上の可愛さだね。何処からどう見ても、本物の聖女様そのものだよ」
「店に来る途中に注目をされ過ぎて、少し恥ずかしかったですよ」
「ははは、それはいい宣伝になったな。送ったかいがあったよ。それで、今日はどうしたんだい? わざわざ着ている姿を見せに来てくれたのかい?」
「この前買ったドレスのクリーニングを頼みに来ました」
ドーラは持ってきたドレスを店員に渡した。
「なるほどね。それじゃあ、預からせてもらおう。新しい魔術の付与には、一週間ほどの期間がかかるけど大丈夫かい?」
(そうなると、受け取りは悪魔の岩山から帰ってくる一ヶ月後になるな)
「実は、一ヶ月ほどアダマスの街を離れる事になるので、受け取りは帰ってきてからでも大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないよ。一ヶ月後の受け取りだね。了解した」
クリーニングの手続きを済ませると、旅の準備をするためドーラは雑貨売場のある一階へと降りてきた。
ドーラは今回の旅をするにあたって、ひとつ考えがあった。
「えーと…… 確か、この前来た時にあっちの方にあったよね?」
ドーラのお目当ては仮面である。
悪魔の岩山で鉱物の探索をする時に、レイビィに働いてもらうつもりでいるのだ。
レイビィの話によると、実体のないレイスなら採掘作業をしなくても、岩の中を通り抜けて探索が可能だと言うことだ。
あまり目立たずに作業をする予定だが、万が一に備えて変装用の仮面を用意しようとドーラは考えていた。
ドルビィが元々つけていた仮面は回収をしていないので、今頃死体と一緒に荒野に転がっているだろう。
「なるべく特徴のない仮面がいいな。あ、これとか良さそう」
ドーラは真っ白で表情のない仮面を手に取った。
「極東にある島国の能面っていうのか。確か、食べ物の方のダイフクがある国だよね」
念のために、ドーラはレイビィ用の仮面以外にも、自分用とダイフク用の仮面も購入をする。
ついでに全身が隠れるローブ二着を買った。
「犬用のローブは売ってないから、残念だけどダイフクは我慢をしてね。仮面もダイフクには被れないけど、紐で背中にくくり付けとけばいいか。こう言うのは雰囲気が大事だからね」
「ワン」
ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。
「これで準備はバッチリかな?」
ちなみに、実体を持たないレイスであるレイビィでも、装備品を身に付けることは出来るらしい。
レイスの体に装備するのではなく、高濃度の魔素を体の表面に纏って、そこに定着をさせると言うことだ。
(この前、篭を手で持ってたのはそうやってたのか。結構難しそうだけど、レイビィは魔素の操作が上手いんだろうな)
レイビィへの疑問も軽く流して、雑貨屋での買い物を終えたドーラは宿屋へと帰っていった。
カランカラン
「ただいま戻り……」
宿屋の中に入ったドーラは、予想もしていなかった人物の存在に表情が固まっている。
「ドーラたん!」




