第41話 ミミズ少女とライム
調査団によるアダマスの森の安全が確認されたことにより、アダマスの森への立ち入り禁止も解除されていた。
鉱山でのクエストに飽きていたドーラは、嬉々としてアダマスの森での採取クエストに復帰をする。
同じ山道を往復する運搬クエストよりも、森の中を自由に散策できる採取クエストの方がドーラは好きなようである。
それでも、ダグラス商会との優先契約があるため、依頼がある時は鉱山でのクエストも行っているようだ。
午前中に森での採取クエストを済ませ、午後からは鉱山の運搬クエストを行うというハードなスケジュールだ。
この日も、森での採取クエストの他にダグラス商会からの依頼を達成したドーラは、上機嫌な様子でクエスト報酬を受け取りに冒険者ギルドへと訪れていた。
「ドーラちゃんお疲れさま。今日もクエストを二つ達成してきたのね。どこかの駄目冒険者と違って、ドーラちゃんは働き者で本当に偉いわね」
実際はこっそりとディメンションワームで移動をしているので、周囲が心配をするほどの大変な作業ではない。
鉱山でのワイバーン襲来の一件以来、ギルドの冒険者達からも人形姫なら平気だろうという変な信頼感が生まれていた。
「はい。慣れれば簡単なクエストですし、体力もあまり使わないので大丈夫です。それに、私には多額の借金があるので、普通の人の何倍も働かなくちゃ駄目なんです。普通の子供が遊んでいる時でも、私には青春を謳歌する余裕なんて1ミリもないんです。それでも、良いこともありました。私は冒険者になってお金の大切さに気が付きました。お金を稼いだ時の充実感は、普通の子供では絶対に味わえません。夜寝る前にベッドの上でお金を数えている時の幸福感は、何ものにも代えがたい時間です! そう、私は世界一お金が大好きな子供なのです! お金の事を考えると、心がピョンピョンするんです!」
ドーラの目が¥になっている。
「そ、そうなんだ…… なんか、少し罪悪感がわいてくるわね…… で、でも、指名依頼だし達成報酬もすごく高いわよね。ダグラス商会と契約が出来て、本当に良かったわね」
クリスはドーラに今日の達成報酬を渡した。
「薬草採取と鉱物運搬の報酬、合わせて銀貨50枚ね」
クエストの掛け持ちを始めてから、ドーラの収入は格段に上がっていた。
ダグラス商会からの依頼報酬が高いのもあるが、ここ数日での収入だけで雑費を引いても金貨5枚のプラスである。
クリスから報酬を受け取ったドーラは、満面の笑みで冒険者ギルドの出口へと歩みを進めた。
「はあ……」
ギルド内にある酒場から、大きな溜め息が聞こえてくる。
溜め息の聞こえてきた場所では、Aランク冒険者のライムがひとりで酒を飲んでいた。
(最近、毎日酒場に居るね)
(ワン)
ライムはアダマスの森での一件以来、ギルドの酒場で毎日飲んだくれているのだった。
(やっぱり、レイビィに全裸にされて負けたのがショックだったのかな? ライムさんはギルドでは強くて人気もあるみたいだし、少し悪いことしちゃったかな?)
ドーラが酒場の外からライムのことを覗いていると、酒を片手に持ったバウスが声をかけてきた。
「ありゃ恋だな」
「え? 恋?」
「ああ、間違いない。噂だが、最近ライムは誰かに負けたらしい。あいつは意外とモテるんだが、自分より弱い相手には興味ないといって、誰とも付き合わずにいたんだ」
(いやいや…… いくらなんでも、レイスに恋をするのはないでしょ?)
「あんな見た目でもあいつは30歳を過ぎているし、そろそろ身を固めるのも良いのかもな。まあ、本当にそんな相手が居ればだがな。わははは」
バウスは持っているジョッキを飲み干すと、追加の注文に酒場のカウンターへと向かった。
「はあ…… やっぱり、悪魔の岩山に行くしかないか……」
ドーラの耳に興味を引く言葉が聞こえてきた。
(今、悪魔の岩山って言った? 少し前に、ゴブリンの集落でクーニさんから教えてもらった場所だよね? もしかしたら、珍しい鉱物があるかもしれないってクーニさんが言ってた場所だ。あの後、父のガイドブックでも調べたけど、かなり危険度な場所だから、なるべく近付かないようにって書いてあったな)
興味がある話題なので、ドーラはライムへと話かけてみた。
「あの、ライムさんですよね? もしかして、悪魔の岩山について詳しいんですか?」
「あ? なんだお前? 子供がこんな場所に来ちゃ駄目だ…… ん? ギルドの酒場に子供? もしかして、お前が噂の人形姫か?」
「あ、はい。自己紹介が遅れました。新人のドーラと言います」
「ふーん」
ライムはじろじろとドーラの事を観察している。
「訓練場の人形を破壊したってのはお前だろ? 見たところ、そんなに強そうには見えないがな。で、そっちの犬がワイバーンを倒したっていう従魔の犬か?」
「ワン」
ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。
「ふーん、想像してた感じと全然違うな。まあ、見た目に騙されて、痛い目を見たばかりだからな。クリスが嘘をつくはずもないし、多分お前らは強いんだろうな。で、お前は悪魔の岩山に興味があるのか?」
「はい。知り合いから聞いた話では、悪魔の岩山には珍しい鉱物があるかもしれないと聞いたんですが?」
「珍しい鉱物? まあ、悪魔の岩山は過去に一度として採掘をされた事がないらしいからな。その可能性はあるだろう。ただ、悪魔の岩山で採掘なんてしたら、そこで暮らすダークエルフ族が黙っていないぞ。神話の時代よりも遥か昔から、あそこはダークエルフ族が護っている土地だからな」
(んー、ダークエルフ族の暮らす場所か。そう言えば、クーニさんもそんなことを言ってたな。それなら、ダークエルフ族を説得すれば悪魔の岩山での採掘が出来るのかな? 一応、採掘以外の方法でも調べるだけなら多分出来るし、とりあえず悪魔の岩山に一度行ってみたいな)
「ライムさんは、悪魔の岩山に何をしに行くんですか?」
「え、いや、ちょっとな…… ヤボ用だよ……」
ライムはあからさまに動揺している。
ドーラは冗談のつもりで、バウスが話していた事を聞いてみた。
「もしかして、恋ですか?」
ドンガラガッシャン
ライムは後方に三回転くらい転がっていった。
「ななな、なんで分かった!」
(リアクションが激しい…… これは図星だな。でも、まさか相手はレイビィじゃないよね?)
ライムは立ち上がると、何事もなかったかのように椅子に座り直す。
「相手はどんな人なんですか?」
「あ、相手は…… 私より強い奴だ……」
「どこで出会ったんですか?」
「アダマスの森の調査中にだよ……」
(……これはレイビィだ)
「相手はレイスですか?」
ドンガラガッシャン
ライムは後方に三回転くらい転がっていった。
「ななな、なんで分かった!」
ゴン
(リアクションが激しい…… 最後は頭にタライが落ちてきた。どこから落ちてきたんだろう?)
ライムは立ち上がると、何事もなかったかのように椅子に座り直す。
平静を装っているライムを見て、ドーラは名案を思い付いた。
「ふひひひ、ライムさんに一つ提案があるんですが」
「な、なんだよ……」
「もしも、ライムさんが悪魔の岩山に行くのなら、私も一緒に連れていってください」
「は? なんで私がお前を連れていかなきゃいけないんだよ」
「私はアダマスの森での採取クエストをメインに活動しています。あの森の魔物達とも仲良くなりました。実はレイスのことも知っています。もしも、悪魔の岩山まで私を案内をしてくるのなら、あのレイスのことをライムさんに紹介しますよ」
ドンガラガッシャン
ライムは後方に三回転くらい転がっていった。
「ほほほ、本当か!」
ゴンゴン
何処からともなく、タライが2個落ちてきた。




