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第40話 王都ミリア

 ランゲル王国の中央に位置する王都ミリアは、数日前から祭りさながらの熱気に包まれている。

 突如として王都近郊に出現したワイバーンの群れが、人族の守り手たる勇者率いる王国騎士団によって討伐をされたのだ。

 魔族との和平協定が結ばれて以降の最大の窮地を脱したとあり、王都ミリアでは連日連夜に渡り、様々な式典や催しが行われているのであった。

 そして、祭りの最終日。

 ワイバーン討伐の功労者である勇者と、王国騎士団長のベッジによる親善試合が闘技場で行われていた。

 日頃から、王国最強の剣士との呼び声が高いベッジである。

 魔法の使用を禁じた、剣技のみによって行われる今回の勝負では、純粋な剣士としての評価が高いベッジの有利と見られていた。


 しかし結果は……


「はあ!」


 キン


「くっ! とう!」


 キン


「あまい、ここだ!」


 バキ


「ぐわー」


 両雄りょうゆう一歩もゆずらない激しい攻防の末、勇者による強烈な一撃により、ベッジは観客席の壁まで吹き飛ばされた。


「そこまで! 勝者、勇者!」


 ワーワー


 会場は大盛り上がりで、観衆の皆が勇者の勝利を祝福している。

 王国最強のベッジも人気があるのだが、さすがに勇者の称号には敵わないようだ。

 しかし、腕に覚えのある者からすれば、この戦いは酷く退屈な試合に見えたようである。

 二人の戦いは、試合と言うよりも演劇の型のように見えたからだ。

 観客席に手をふり声援に答えている勇者を後目しりめに、カリウスに肩を抱かれたベッジは控え室へと戻っていく。


「はあ…… お疲れ様です団長。いえ、茶番に付き合わされてお気疲れ様です」


「ははは、そう言うなカリウスよ。勇者とは人族の希望のシンボルだ。万が一にも、敗北する姿など民衆にさらすわけにはいかないからな」


 つまり、八百長である。

 ベッジは勇者の人気取りに利用をされたのだ。

 事実、勇者の渾身の一撃を喰らったベッジは、かすり傷一つすら付いていなかった。


「本命に逃げられたからと言って、御輿みこしかつぐ側のことも少しは考えて欲しいですね」


「そんなことはないぞ。今の勇者も、その称号に恥じない強者なのは間違いないだろう。曲がりなりにも、超越者と呼ばれているだけのことはあるな。少し前までの私であれば、おそらく勝負にすらならずに歯が立たなかっただろうよ」


「今では団長に勝てる者なんて、この国にはいないですよ」


おごるなよ、カリウス。世の中には想像を絶する強者がいると、あの時に思い知らされただろ?」


「……次は負けないですよね?」


「負けるわけにはいかない……」


 ドルビィとの戦いを思いだし、二人の手に力が入っていた。


「ドルビィは強い…… 強さの次元が、我々の常識を遥かに凌駕していた…… だが、あの御方から授かったこの力があれば、私は誰にも負けないであろう! 否、負けられないのである!」


 ベッジは強い。

 もしも彼が冒険者であったのならば、Sランクにすら匹敵をする実力の持ち主である。

 そして、死の淵から甦った謎のパワー()を得た今のベッジは、超越者すらを凌駕する逸脱した力を持っているのであった。

 そのベッジの力を持ってしても、あの時のドルビィの脅威は次元をさらに超えているようである。

 まあ、この二人はドルビィのその後を知らないのだが。


「この後は王宮に呼ばれているんですよね? 何の話なんですかね?」


「王も勇者の扱いで、だいぶ苦労をしているらしいからな。もしかすると、愚痴ぐちでも聞かされるのかもしれないな」


 あながち冗談にもならないと、二人は苦笑いをしている。

 ベッジが王との謁見えっけんへとおもむいたあと、カリウスは訓練場で一人剣を振るっていた。


「あの…… 少しよろしいですか?」


 訓練場の外から聞こえた声に、カリウスは剣を持つ手を止めて静止する。

 そして、不機嫌そうな声でその人物へと語りかける。


「これはこれは、勇者殿ではありませんか…… このような場所に来られて、如何いかがなされましたか?」


 そこには、全身を真っ白なフルプレートの鎧で覆う勇者が立っていた。


「ベッジさんは居ますか?」


「……団長は王との謁見に赴いています。ご用があるのなら、副団長をつとめる私がおうかがいしますが?」


「そ、そうですか…… あの、さ、先程の親善試合でご迷惑をおかけしましたので、せめて謝罪にと来たのですが……」


 若干、挙動不審な振る舞いをして、勇者は兜を脱いでカリウスに礼をする。

 勇者と呼ばれるにはあまりにもパッとしない態度と冴えない顔に、カリウスは拍子抜けをしている。

 だが、カリウスは勇者の姿に何か違和感のようなものを感じていた。

 冴えないと言っても、何故だか憎めないような、何かが引っ掛かる印象を感じたからだ。


「……カリウスです。何も迷惑なことはないですよ。団長も勇者殿も、己に与えられた使命をまっとうしているだけなのですから」


「僕は勇者なんて呼ばれていますが、そんな資格が無いことは自分でも分かっています。僕なんかよりもベッジさんの方が、よほど勇者と呼ばれるに相応しい力を持っています」


 予想外の勇者の言葉に、カリウスは苛立った表情をしている。


「……そんな事はないですよ。団長も勇者殿のことを強いと褒めていました。それに先程も言いましたが、団長にも勇者殿にも、それぞれの役割と言うものがあります。それは必ずとも、強さだけで決まるものではないのです。貴方も覚悟を決めて、勇者としての己の使命をになっているのでしょう? そうであれば、どんな場所であっても、卑屈な振る舞いなど見せることは出来ないと思いませんか?」


「……そうですね、ありがとうございます。ベッジさんやカリウスさんのような強者が居る騎士団に守られていて、この国の住民はさぞかし心強いでしょうね」


「……」


 カリウスの眼光が鋭くなる。


 シュ


 カリウスが剣を抜き、勇者に斬りかかった。


 キン


 不意の攻撃にもかかわらず、勇者は即座に反応をして容易くカリウスの斬撃をさばいていた。


「……謙遜けんそんも過ぎると、それは嫌みになります。少なくとも、勇者殿は私より遥かに強い。そんな弱気では、そう遠くない時に、私にさえ追い抜かれますよ?」


「す、すみませ…… いえ…… ありがとうございます」


 勇者はカリウスと握手を交わし、訓練場を後にした。


「悪い奴ではなさそうなんだが…… ただ……」


 カリウスは握手を交わした手を見つめている。


「俺よりも剣を振り込んだ手をしていたな。それに、何かが引っ掛かる。あいつの目か? 分からない…… ただ、生物として俺の本能が、あの勇者のことを危険だと警告をしているような…… 気のせいであってくてれば良いのだが…… とは言え、己の使命ね…… 偉そうに説教をしてしまったが、俺の使命ってなんなんだろうな?」


 勇者に対して何かしらの不信感を感じたカリウスであったが、遠くから走ってくるベッジの姿に気が付いて視線を向けた。


「カ、カリウス! 朗報だ!」


 初めて見るようなベッジの慌てように、カリウスは何事かとほうけた顔をしている。


「そんなに慌てて、どうしたんですか?」


「アダマスの街に聖女を名乗る少女が現れたそうだ! 緊急で騎士団から迎えの使者を派遣する事になったぞ。聖女様のご帰還は、まだ王族と一部の貴族以外には公表をしていない。そのため、極秘裏にことを運ばなければならないとの命令だ。アダマスの街への使者の派遣は、騎士団の中から一人を選ぶことになった!」


「俺が行きます!」


 食い気味にカリウスは立候補をする。


「おい、カリウス! それはズルいぞ! 私だってお迎えに行きたいぞ!」


「何を言っているんですか! 団長が騎士団を離れて迎えに行けるわけないでしょう!」


「それを言うなら、副団長も同じですよ!」


 いつの間にか、騎士団全員が訓練場へと集まっていた。

 普段は中の良い騎士団であったが、我こそはと一触即発の雰囲気に包まれている。


「……分かった。それならば、騎士団での揉め事は己の剣で勝負を決めようではないか!」


 ベッジ剣を抜いて提案をした。


「そうですね、私もその案に賛成です。それでは、団長をのぞいた他の団員だけで勝負をしましょう」


 カリウスが非情な宣告をする。


「カ、カリウス? な、なんで?」


「当たり前でしょうが! 団長の力はズルいじゃないですか!」


 頭を抱えるベッジのことを無視するかのように、他の団員も全員がその案に賛成をする。


 そして、訓練場に夜のとばりが下りた頃。

 戦いの勝者が、肩を切らせながら雄叫びをあげていた。


「よっしゃああああ! 待っててねドーラたん!」

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