第38話 レイヴィvsライム
ライムはアダマスの冒険者ギルドに所属をする、Aランクの札付き冒険者である。
彼女はハーフスケール族と呼ばれている種族だ。
精霊にもっとも近い種族として伝わっており、その起源は遥か太古から謎に包まれている。
扱える者が希少な精霊魔法を習得している他に、極めて高いレベルの土属性の魔法を得意としている凄腕の冒険者であった。
彼女の年齢は三十歳をとうに過ぎているが、ハーフスケール族の種族的な特徴により、その容姿はとても若く見える。
身長は低く、短い髪を左右で結んでいるため、まるで十代の少女のような見た目をしていた。
ただし、それはある一点を除いてである。
そう、ハーフスケール族の女性は胸が大きいのであった。
その妖艶な外見に反して、彼女の冒険者としての実力はとても高い。
アダマスの冒険者ギルドだけでなく、ランゲル王国全域においてでも、間違いなく上位に数えられる強さであった。
今回のアダマスの森での調査任務においても、他のメンバーを早々に街へと帰し、ライムは一人残ってアダマスの森の調査を続けていた。
そんな己の強さに絶対の自信を持っているライムであったが、篭の中に捕らえたミミズを眺めながら不貞腐れた表情をしている。
「まったく、何なんだよこのミミズは……」
ライムはミミズを掘り起こした時、これまでの人生で感じたことのない底知れぬ恐怖を感じた。
咄嗟に、ライムはミミズに対しての攻撃行動を行った。
彼女の扱える魔法の中でも、物理攻撃に特化した上位魔法のロックプレスだ。
しかしミミズは無傷だった。
その後に彼女が何度も攻撃を加えるが、一切ミミズを傷つけることは叶わなかった。
「あり得ない、固すぎだろ…… まったく、ふざけやがって…… ドラゴンが相手でも傷の一つくらいはついているぞ…… まあ、篭に捕らえても抵抗はしなかったし、こいつの事はギルドに帰ってからゆっくりと調べるか。それに、ゴブリンが襲って来たことも気になるな。まさか、ミミズを取り戻そうとしていたのか? アダマスの森で起きている異常現象に、ゴブリンが関与しているのか? まあ、ゴブリンには逃げられたけど、あの傷ではもう助からないだろう。その先の難しいことを考えるのはロレンに任せよう。一先ず、ここまでの調査を報告しにギルドへ帰るか…… そう言えば、新しくギルドに入った新人が、私の作った人形を壊したって聞いたな。外壁も破壊をされたらしい。そっちの方もどんな奴か気になるな…… 男かな? 強い男だったら戦ってみたいな……」
誤解のないように説明しておくが、別にライムは戦闘民族と言うわけではない。
彼女には思うところがあり、強い男を探しているようだ。
「クックック…… 残念なのですが、このまま貴方を帰すわけにはいきませんねえ」
「誰だ!」
ライムが後ろを振り返ると、そこには全身が真っ白の魔術師風の男が立っていた。
(冒険者? いや、人族の気配がしない…… まさか、魔物が人族に擬態をしているのか?)
「怪しい奴め…… いつの間に私の背後に近付いた?」
ライムは持っていた杖を前方へ向けて構えた。
「クックック…… いつでも、どこにでも私は移動をできますので……」
(まさか、転移で移動をしてきたのか? 個人で転移魔法が使える者など聞いたことないぞ? どっちにしろ、こいつは相当な手練れのようだな……)
「そう警戒をしないでください。そうですね、まずは篭の中のものを返して頂きましょうか」
次の瞬間、ライムの目の前にレイビィの姿が現れた。
「な!」
驚いたライムは慌てて後方へと飛び退く。
「しまった! 篭が!」
後方に着地をした時には、既にライムの手から篭が奪われていた。
「ふむ……」
ライムから篭を奪ったレイビィは、囚われたワームの無事を確認すると、篭に魔素を流し込んで破壊をする。
パキ
「嘘だろ…… 私の土魔法で硬化をした篭をあっさりと……」
「クックック、貧弱な硬化ですねえ。どうやら、貴方は魔素操作の修練がまだまだ足りないようですねえ」
篭から解放されたワームは、地面に落ちると何事もなかったように地中へと潜っていく。
「くそ、何なんだよコイツは! 無詠唱の転移魔法なんて常識外れにも程があるぞ! いや、そんなレベルの話じゃない…… ヤバすぎだろこの魔素…… 何でこんな化け物がアダマスの森にいるんだよ!」
「さて、主からは貴方を懲らしめるようにと指示をされてましてね…… 貴方のような可愛らしい女性を傷つけるのは不本意なのですが、我が主への忠誠を示すための礎になって頂きましょう」
ライムは魔法を詠唱してレイビィに杖を向ける。
「帰ってきて早々に、こんなヤバい仕事を押し付けやがって…… ロレンの野郎、ギルドに戻ったら訴えてやるからな…… あのさあ、一応聞くけど見逃してくれたりしない? 私のことがタイプのようだし、ちょっとくらいならサービスをするよ?」
ライムは可愛らしくウィンクをする。
「残念ですが、貴方では我が主の魅力には遠く及びません。私は合法ロリには興味がないので……」
「そうかい…… なら死にやがれ! この変態ロリコン糞野郎が! ストーンスラスト!」
ガガガガガガ
レイビィの足元を中心にして魔法陣が広がると、地表から無数の
棘現れてレイビィの体を貫いた。
全身が串刺しになったレイビィを見て、勝利を確信したライムは笑みを浮かべている。
「クックック、効きませんねえ」
石の棘に貫かれたように見えたレイビィであったが、何事もなかったように棘をすり抜けて上空へと浮かび上がった。
「な…… 実体がないだと? レイス系の魔物だったのか?」
「クックック、単純な物理的な攻撃では、私を倒すことは出来ませんよ。いえ、この世界で私を倒せる者など、我が主をのぞいて存在をしません!」
レイビィは上空からライムに向けて手をかざした。
「ストームエッジ」
ブオー
無詠唱で放たれた暴風の上位魔法が、ライムを巻き込んで吹き荒れる。
「うわあああ!」
スパスパスパ
ライムを中心にしてに立ち昇る激しい竜巻が、ライムの着ていたローブを無惨にも切り裂いていく。
レイヴィの放った魔法はライムを傷付けるのが目的ではなかったらしく、ライムの体には傷一つ付いていないが、着ていた衣服はボロボロになり、かなり際どい見た目になってしまった。
「や、やってくれたな…… 訴えてやる……」
「クックック…… 貴方が怪我をしないように、手加減をして攻撃をしたのですよ? もっと感謝をしてもらいたいですねえ」
一見すると、レイヴィは優しい言葉をかけているように見えるが、明らかに鼻息は荒くなり顔もにやけている。
何故だか、レイヴィの保有魔素量も少し大きくなったようだ。
「これに懲りたのならば、今すぐにこの森から出ていきなさい。あられもないその姿で街へ帰ることを、貴方の犯した罪への贖罪と致しましょう」
「ははは、そりゃ優しいこった。ほんと涙がでるね。だが、消えるのはお前の方なんだよな。あれ? もしかして気付いてない? ブラフに使った土魔法の裏で、私がこっそりと魔法の詠唱していたことを? お前の正体なんて、はじめから気付いていたんだよ。お前がレイス系の魔物で本当に良かったよ。さてと、詠唱は終わった。私の勝利だ! ホーリーランス!」
ライムのかざした杖の先から、眩いばかりに光輝く槍が放たれた。
「私の奥の手、聖属性魔法だ! アンデットの魔物には効果絶大だぜ! 私のことを格下だと甘くみた報いを受けるんだな! 浄化されて消えちまいな!」
聖属性魔法とは、かつて聖女と呼ばれた者が使っていたとされる魔法である。
聖属性は聖女の力の源でもあり、その加護を授かった聖女の使徒にも使うことが出来たと伝わっている。
しかし、聖女の居なくなった現在のこの世界では、使える者は存在しないはずであった。
何故、ライムがこの魔法を使えるのか。
それは彼女の生い立ちに起因する。
「愚かな……」
迫り来る光の槍を前にして、レイビィは天を仰ぎながら両手を広げた。
まるで、自らその攻撃を受け入れるかのようにして、ホーリーランスの刃をその身で受け止める。
ザク
ホーリーランスがレイビィに刺さり…… 刺さり…… 何も起こらなかった。
「馬鹿な! あり得ないだろ! アンデッド特効の聖属性魔法に、なんでレイスが耐えられるんだよ!」
「クックック。奥の手と言うのは、無暗やたらに使ってはいけませんねえ。その場の状況を正確に分析し、真に相手に何が有効であるかを見定めなければいけません。相手の見た目や、自身の常識で判断をするのは愚の骨頂です。もっとも、貴方の攻撃には少々希望の魔素が足りないようです。ふむ、よろしい。教えてさしあげましょう! 希望に満ち溢れた聖なる力とは、こう言う力を言うのですよ! ホーリーフレア!」
ゴウ
ライムの足元を中心にして魔法陣が広がると、凄まじい光を放ちながら聖なる炎が空高くへと立ち昇る。
「せ、聖属性の、魔法だと…… な、なんで、レイスが…… そんな、馬鹿、な……」
聖なる炎はライムの体を傷つけることはなかったが、その光の衝撃により残っていた衣服は全て吹き飛んでしまった。
生まれたままの、あられもない姿になったライムは、そのまま意識を失い地面へと倒れ伏した。
「クックック、この世界はなんと希望に満ち溢れているのでしょう」
ライムの裸体に歓喜したレイビィの魔素がさらに大きくなった。




