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第34話 ダイフクvsワイバーン

 鉄鉱石の収納を終えたドーラは、受付のある建物に戻って出発の手続きをしている。

 本来であれば採掘場の警護もクエストの任務に入っているのだが、鉱山でのクエスト初日ということもあり、今日は運搬の手続きを覚えるだけで良いとクリスから指示をされているからだ。

 受付での手続きを終えたドーラが採掘作業を出ようとした時、高速で岩山の上空を移動する魔素の存在をサーチワームが探知する。


「ワン」


(そうだね、こっちに近付いて来てるね。今日は警護の任務はしなくてもいいって、クリスさんから言われてるんだけどな。んー、採掘場の人達は誰も気付いてないみたいだし……)


 このまま見て見ぬふりをして、ドーラはアダマスの街に帰ることも可能である。

 しかし、ドーラは明日からもこの採掘場でのクエストを受けるつもりなので、万が一にも採掘場を襲撃をされて運搬クエストがなくなる事態は避けたかった。

 悩んだ末に、ドーラは食堂にいるコイルの元へと戻った。


「コイルさん、少し気になることがあります」


「どうしたんだい?」


「おそらく魔物がここに近付いています」


「魔物がここに? 何故そう思うんだい?」


「えっと、ダ、ダイフクが探知しました……」


「探知? この犬が?」


「は、はい、ダイフクは鼻がいいので…… 多分レッサーサラマンダーよりも大きな魔素を持っている魔物です。岩山の上空をこっちに向かって飛んできています」


「この犬はそんなことまで分かるのかい? 普通の犬だと思っていたのだが……」


「ダ、ダイフクは普通の犬ですが、凄い犬なので間違いないです」


「ふむ、大きな魔素か…… この辺には強い魔物はあまり居ないんだがな……」


「山道を登っている途中に出会った冒険者パーティーが、今日は鉱山にレッサーサラマンダーが多いと言っていました。もしかしたら、何か関係があるのかもしれないです」


「なるほど、それは気になるな…… 君はどう思う?」


 コイルは正面の席に座っている魔術師に意見を求めた。


「彼女の言うことが事実だとすれば、その大きな魔素の魔物がレッサーサラマンダーの巣を襲ったのかも知れませんね。とは言うものの、この辺にはその様な魔物は居ないので、おそらくは余所よそからやって来た魔物かと。上空を飛ぶ飛行タイプの魔物、ワイバーンかグリフィンである可能性が高いですね」


 魔術師が自身の分析をコイルに伝えた。


(んー、ワイバーンにしては魔素が小さすぎるから、多分グリフィンっていう魔物だろうな。魔族領では見たことないけど、どんな魔物なんだろう? 一応、コイルさんにも伝えた方が良いかな?)


(ワン)


(そうだね。そこまで私が分かっちゃうと、変に疑われそうだしね。とりあえず様子見をしよう)


「それは困ったな…… いま採掘場に残っている冒険者で、戦力になる者はどれくらい居る?」


「見たところ、高ランクの札付き冒険者はいませんね。仮に、接近中の魔物がワイバーンやグリフィンのような脅威度Aクラスの魔物であるのならば、とてもではありませんが太刀打ちできる冒険者はいないでしょう。勿論、私一人での対応も難しいですね。せめて、盾役となる札付きの冒険者が一人でもいれば、追い返すくらいは出来たかも知れませんが。戦力の揃っていない現状、下手に刺激を与える行動は控えた方が良いと思います。採掘場への被害が出るかも知れませんが、一時的に坑道の中に避難をしてやり過ごすのが最善かと」


 魔術師の提案にコイルは頷いて同意の意を示す。


「……分かった。急いで休憩中の作業員達に事態を知らせて、坑道の中まで避難をさせよう。すまないが、ドーラは外の広場にいる冒険者達に呼び掛けて避難をさせてもらえないか?」


「はい、わかりました」


 コイルは休憩所のある二階へと上がっていく。

 ドーラも外へ出て、広場で待機している冒険者達の元に向かった。


「みなさーん、聞いてくださーい! 間もなくここに、強そうな魔物がやって来まーす! 危険ですので急いで坑道の中に避難してくださーい!」


 ざわざわ


 突然の知らせに冒険者達は戸惑っているようだ。


「強い魔物だって? 本当かよ、お嬢ちゃん」


「はい、ワイバーンかグリフィンの可能性があるようです。コイルさんも休憩所にいる作業員を避難させています」


 ドーラの言葉の通りに、休憩所にいた作業員達が急いで坑道へと避難する姿が見える。


「ま、まじかよ…… おい、俺達も急いで避難をするぞ!」


 状況を把握した冒険者達は、一目散に坑道へと避難をする。

 冒険者達の後を追ってドーラも坑道に移動をすると、全員を避難させ終えたコイルと魔術師が建物から走って来た。


「はあはあ、助かったよドーラ。君が知らせてくれたおかげで、魔物の襲撃よりも早く避難を完了することが出来た」


「冒険者になったばかりの私の言葉を、コイルさんが信用してくれたからですよ」


「ははは、さっきドーラの仕事を見ておいて良かったよ。あれを見ていなければ、私は君の言葉に耳を貸さなかっただろうな。さあ、入り口付近は危険だ。外の警戒は我々がするから、ドーラも作業員達と一緒に坑道の奥まで避難をしてくれ」


 バサバサ


 採掘場の上空を巨大な魔物が旋回するように飛行している。


「も、もう来たのか…… あの姿はやはりそうか……」


 ドーラはコイルの後ろから上空を飛ぶ魔物を見上げた。


(へー、あれがグリフィンか。鳥型の魔物だと本で読んだことあるけど、実際の見た目は爬虫類みたいなんだな。なんだか、小型のワイバーンみたいだ)


 はじめて見るグリフィンの姿を、ドーラは興味深く観察をしている。


 バサバサ


「くそ、ワイバーンが坑道の前に降りてきた…… ここは危険だ。我々も坑道の奥まで避難をしよう。最悪の場合、このまま坑道内で夜を過ごすことになるな……」


(え? ワイバーンもいるの? どこ? 魔物の魔素は一つだけしかないよ?)


(ワン)


(あれがワイバーンじゃないかって? ふひひひ、ダイフクはワイバーンを見たことないんだね。ワイバーンはもっと大きな体をしているんだよ。魔素もあんなに小さくないし…… そうだよね?)


 念のため、ドーラはコイルに魔物の正体を訊ねてみた。


「あれって、何て言う魔物なんですか?」


「ドーラははじめて見るのかい? あれはワイバーンだよ。脅威度Aという非常に強力な魔物だ。討伐をするには、最低でもSランクの冒険者、もしくはAランクの冒険者パーティーが必要になるだろう」


(え…… 本当にあれがワイバーンなんだ…… 私が知っているワイバーンと全然違うよ?)


 ドーラは現れたワイバーンに興味が湧いたようだ。


「少し話をしてみてもいいですか?」


「話? ドーラはテイムしていない魔物とも会話が出来るのかい?」


「え? ワイバーンって言葉は喋れないんですか?」


「え? 魔物だし普通は喋れないと思うが……」


(んー、魔族領で見たワイバーンと全然違うな。人族の国のワイバーンは喋れないのか)


 ワイバーンは広場に人が居ないのを確認すると、坑道の入り口へと歩み寄って坑道の中を覗きこんできた。


「うわ!」


 坑道の奥で作業員達が悲鳴をあげて騒ぎ出す。


「しっ、慌てるな。ワイバーンの体では坑道の中にまでは入ってこれん。落ち着いて坑道の奥までゆっくりと移動をするんだ。間違っても、騒いだりしてワイバーンのことを刺激しないように注意するんだぞ」


 コイルの冷静な指示に従い、作業員たちは坑道の奥へと移動してワイバーンとの距離を取る。

 坑道内は暗いため、外のワイバーンからは中の様子がよく見えないようだ。


 ひょい


 ワイバーンは長い首を坑道内に突っ込んできた。


「ぎゃー!」


 あまりの恐怖に、堪らず作業員達が悲鳴をあげる。

 獲物の存在を確信したワイバーンは、不敵な笑みを浮かべながら大きな口を開いた。


「まずい! せてください! 風のブレスです!」


 魔術師は最前列へと踊り出ると、高速化した詠唱で障壁魔法を発動する。

 ワイバーンの開かれた口の前方に魔法陣が現れると、集束された体内の魔素が荒れ狂う風のブレスとなって解き放たれた。


 ブオー


「アースウォール」


 ドカーン


 ワイバーンから放たれた風のブレスが、魔術師の展開した土の障壁を容易に吹き飛ばす。


「うああああ!」


 坑道内は激しい衝撃に見舞われ、天井からは大量の砂利じゃりが作業員達へと降ってくる。

 坑道から聞こえてくる悲鳴を聞いたワイバーンは、再び口を開けて風のブレスの準備に入った。


「くそ、高速化した詠唱では障壁の強度が足りない! このままでは坑道全体が崩れてしまう!」


 このまま守りに回っていては状況が悪化すると判断した魔術師は、玉砕覚悟で魔法を詠唱しながらワイバーンへと走り出した。


(んー、仕方がないか…… ダイフク、殺っちゃっていいよ)


(ワン)


 パーン


 風船が破裂したような乾いた音が、坑道内に響きわたる。

 ダイフクがアイアンワームで強化した爪を振り抜き、ワイバーンの頭を吹き飛ばしたのだ。


「え?」


 頭を失くしたワイバーンは、首から血を噴き出しながら地面へと崩れ落ちた。

 コイルは何が起こったのか理解が出来ずに呆然としている。


「えっと、いきなり攻撃してすみません。なんか、危なそうだったので殺しちゃいました」


「は? 殺した? これはドーラがやったのか?」


「いえ、ダイフクに倒してもらいました」


 コイルは、首のなくなったワイバーンの前でお座りをしているダイフクへと視線を移す。


「ワン」


 ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。


「ダ、ダイフクは普通の犬ではないのか?」


「ちょっと強いけど、普通の犬ですよ」


(((強いと言っても限度があるだろう……)))


 その場の全員は心の中で同じ事を思っていた。


(あまり目立ちたくなかったけど、ダイフクの力なら見られてもセーフだよね? ワイバーンの死体はどうしよう。あのまま入り口にあると邪魔だよね? まあ、後片付けくらいは私がするかな)


 ドーラは首のなくなったワイバーンをの尻尾を掴んだ。


「ワイバーンの死体はここにあると邪魔なので、広場まで移動をさせちゃいますね」


 ズリズリ


 ドーラは無造作にワイバーンを引きずって、広場の方向へと歩いていった。


(((いや、運び方!!!)))


 その場の全員は心の中で同じ事を思っていた。

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