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第29話 ミミズ少女の休日

 ドーラはアダマスの森にあるゴブリンの集落を訪れている。

 ドンゴからの装備品の受け渡しが終わるまで、念のためにクエストを休むようにとドーラはクリスから指示をされていた。

 つまり、暇をもて余しているのである。

 宿屋にいても特にやることもないので、冒険者ギルドが調査の為にアダマスの森を立ち入り禁止にすることを、クーニへと伝えに来たのだ。

 もちろん、ディメンションワームを使って移動をしているので、ドーラがアダマスの森を訪れていることは誰にも知られていない。


「ふむ…… 冒険者ギルドから調査隊が派遣されて、アダマスの森の様子を調べに来るとな?」


「はい。そう言うことなので、調査隊がアダマスの森へとやって来ても、揉め事などを起こさないように赤毛さんや角付きさんにも伝えてもらえますか? 私としては、なるべく早くアダマスの森の調査が終わって欲しいので」


「あいわかった。皆にもそのように伝えよう」


「よろしくお願いします。私も調査隊が来ている間は、森のワームには、地中から出てこないようにと指示を出しますので」


 アダマスの森のゴブリンは、木々の生い茂る森の中を開拓して集落を築いて暮らしていた。

 一般的に、ゴブリンは暗くて狭い場所を好むため、人目を避けた洞窟などを住み家にしている場合が多い。

 一方、アダマスの森に暮らすゴブリンは、高い知能を持つゴブリンキングのクーニがその集団を率いているため、まるで人族の村のように秩序ある組織を形成しているのだった。

 ドーラが村の広場でクーニと会話をしていると、遠巻きに多くのゴブリンたちがドーラの周囲に集まっていた。

 クーニからどのような説明を受けているのか分からないが、ゴブリンたちは皆一様に平伏をしていたり、拝んでいたりしている。


「ウガーウガー」


「あの、クーニさん… あれ、何とかならないですかね?」


 ドーラは困った顔をしながら拝んでいるゴブリンたちを指差した。


「ほっほっほ、気にせんと好きにさせておくれ。あやつらの忠義の表現じゃて。ドーラ嬢には何も害はないでの」


「いえ、居心地が悪いんですが……」


「これ、おぬしら! ドーラ嬢が迷惑しとるでの、あまり困らせてはならぬぞ!」


「ウガ……」


 クーニに怒られたゴブリンたちは、立ち上がり照れくさそうに頭を掻いている。


「ふう、助かった…… そうだ、クーニさんに聞きたいことがあるんですが」


「何かの?」


「クーニさんはアダマスの周辺で、貴重な鉱石が採れる場所って知ってますか?」


「貴重な鉱石とな? この辺りの鉱山だとミスリルがよく取れると聞くが、ドーラ嬢はそれよりも貴重な鉱石を探しておるのか?」


「はい。出来ればアダマンタイトくらいの貴重な鉱石が採れる場所を知りたいのですが」


 クーニは考え込んでいる。


「ふむ、少し難しいかのう。確かに、大昔にはアダマスの鉱山でもアダマンタイト鉱石が多く採掘されていたと聞いておる。じゃが、わしがこの森で暮らすようになってからは、そのような貴重な鉱石が取れたという話は聞いたことがないのう。この辺りの鉱山では、アダマンタイト鉱石は全て取り尽くされてしまったとの話じゃよ」


「そうですか……」


 残念そうにしているドーラの姿を見て、クーニは必死に自身の記憶を絞りだして考えた。


「そうじゃのう…… アダマスの鉱山からは少し遠くなるが、可能性があるとすれば、悪魔の岩山かの……」


「悪魔の岩山?」


「うむ。アダマスの鉱山地帯を越えた先にある、ニール砂漠の中央に位置する巨大な岩山じゃ。悪魔の岩山と言っても、本当に悪魔が住んでいるわけではないがの。岩山に含まれる魔素の含有量が高すぎて、岩山全体が黒く変色をしておるのでそのように呼ばれているそうじゃ」


「そこに行けば貴重な鉱石が手に入るんですか?」


「可能性の話じゃの。悪魔の岩山の麓には、ダークエルフ族が暮らしてるのじゃ。彼らは大昔からその岩山の管理をしているらしく、無闇に鉱物の採掘をすることをかたく禁じているそうじゃよ」


「んー、鉱山地帯の反対側になると、日帰りで行ってくるには距離が遠すぎますね」


「灼熱の砂漠地帯を越える必要があるからの。もし行くのならば、それなりの準備が必要じゃの。まあ、機会があれば一度行ってみるとよい。ダークエルフ族は友好的な種族ゆえ、きっと歓迎もしてくれようぞ」


 クーニからの有益な情報を得たドーラは、用事を終えてゴブリンの集落を後にする。

 アダマスの街へと戻ったドーラは、もうひとつの重要な用事のために街の大通りを歩いていた。

 アダマスの森が立ち入り禁止になり薬草採取のクエストが受けられないため、仕方なくドーラは鉱山でのクエスト活動をするつもりでいた。

 その際に必要になる、運搬クエストに重要なある物を探しに来たのだ。

 街の大通りには多くの店がのきを並べ、路肩ろかたには様々な露店ろてんも店を構えている。

 大通りを歩くドーラはある露店に興味を示した。


「あ、これってアイスキャンディーってやつだよね? 私これ食べてみたかったんだ。魔族領では甘い食べ物なんてなかったからな」


「いらっしゃい…… おや? とんでもなく可愛らしいお嬢ちゃんだね。もしかして天使様かい? おひとつどうだい? 冷たくて凄く美味しいよ」


「ください!」


 ドーラは褒められるのが大好きなのであった。


「まいどあり。アイスキャンディーひとつで銅貨十枚だよ」


 ドーラは代金を払いアイスキャンディーを受け取る。


「いただきます」


 ペロ


「うまああああ!」


 ペロペロペロペロ


 はじめて味わう甘い味覚に、ドーラは夢中でアイスキャンディーをなめていた。


「ワン」


 ダイフクが物欲しそうな顔でドーラを見ている。


「ダイフクも食べたいの? はい、なめていいよ」


 ガブ


 ダイフクはアイスキャンディーにかぶりついた。


「ぎゃー、ダイフク食べすぎ!」


「ワン」


「美味しそうだったから思わず食べすぎちゃった? んー、仕方がないなあ。すみません、アイスキャンディーをもう一個ください」


「あいよ。今度は取られないように注意してね」


 ドーラは再度お金を払いアイスキャンディーを受け取った。


「ペロペロ。んー、美味しい。ありがとうございました。また買いに来ます」


「まいどあり。気に入ってくれて良かったよ」


 ドーラはアイスキャンディーを片手に大通りを進んでいく。


「ペロペロ、どの店に売っているかな?」


 ドーラがアイスキャンディーを食べ終わると、遠くの方に雑貨店らしい二階建ての大きな建物が見えてきた。


「あそこなら色んな物が売ってそうだな。よし、ダイフク行ってみよう」


 雑貨店の中は大勢の客で賑わっており、多種多様な商品がところ狭しと棚に並んでいた。

 ちょっとした日用品から用途不明な謎の仮面まで、まさに何でも屋といった品揃えである。

 珍しそうに商品を眺めながら、ドーラは目的の物を探していた。


「あ、これが良さそうだな」


 ドーラは小さな巾着きんちゃく袋を手に取る。


「うん、鉱物を入れるのに丁度良い感じだ」


 ドーラは収納魔法(収納魔法ではない)を使えることを、ギルドの一部の人物以外には秘密にしている。

 それなので、この巾着袋をアイテムボックスと言うことにして誤魔化すつもりでいた。

 収納魔法やアイテムボックス持ちはとても貴重らしく、普通の冒険者は荷台を引いて鉱物の運搬作業をしているらしい。

 ドーラも荷台を使って運搬作業をしても良いのだが、テイマーの少女が荷台を引いて山道を歩くのは目立ちそうなで、アイテムボックス持ちということで鉱山のクエストを受けることにしたのだ。


「目的の物もすぐに見つかったし、もうこの店に用はないかな?」


 ドーラが店内を見回していると、店の奥に二階へあがる階段を見つけた。


「二階には何があるんだろう? ちょっと見にいってみようか?」


「ワン」


 ドーラは店の二階へと上がっていった。

 雑多ざったとしていた一階とは異なり、二階は主に衣料品を扱う売り場のようであった。

 あまり見たことのない珍しいデザインの服が多く、ドーラは興味深そうに商品を眺めている。


「変わったデザインの服ばかりだね。どういう場所に着ていくんだろ?」


 ドーラは衣装を着せられた人形の前で立ち止まる。


「それは神話の時代に、聖女様が着用していたと言うお召し物を、私が文献を元にして復元をした衣装だよ」


 店の店主らしき人が話しかけてきた。


「こっちの衣装は、『万物に終焉をもたらす者』を退治した伝説に出てくる、時の魔女様が着ていたローブをセクシーにアレンジした物だ」


 店主は自慢げに商品の説明をしている。


「ここはなんの売り場なんですか?」


「神話などに出てくる様々な偉人の衣装を再現した、誰でもなりきり衣装の売り場さ。どうだい、凄いだろ? これ全部、私の手作りなんだよ」


 言っていることはよく分からないが、ここの店主は裁縫さいほうがとても好きなのだろうとドーラは確信した。


「んー。どれもこれも、ヒラヒラしていて何か動きづらそうだな」


 ドーラはゴスロリ風の赤いドレスを手に取り、鏡の前で体に合わせてみる。


「それは吟遊詩人の物語に出てくる吸血姫をイメージして作った物さ。色違いのパターンもあったけど、そっちは少し前に顔半分を仮面で隠した中年の男性が買っていったよ」


 仮面の中年男性が買っていったと聞き、ドーラはドルビィの姿を想像した。


(まさかね……)


「良かったら着てみるかい? お嬢ちゃんは信じられないくらいに可愛いらしいから、きっとこの衣装も良く似合うと思うよ」


「これください!」


 ドーラは褒められるとチョロいのだった。

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