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第27話 魔神の組織

 ランゲル王国の北部に連なるアム山脈。

 一年中雪に覆われたこの険しい豪雪地帯は、300年前に聖女と魔神が最後に争った聖魔大戦の戦場となった場所である。

 聖女の使途と魔神の眷族という、両雄の全勢力をあげて激しい死闘が繰り広げられた。

 人族の国ではそう伝えられている。

 そして、互いに死力をつくしたその戦い結末は、参戦した者すべての消息不明の報と共に、長き戦いの終わりを全世界へと告げるのであった。


 そして、それから三百年の年月が過ぎた……


 窓一つない長く薄暗い通路を、顔の上半分を仮面で隠した少女が走っていた。

 少女は夜を想起させるような漆黒の肌色をしており、肩に触れるくらいの緑色の髪を無造作に後ろに結んでいる。

 ダークエルフと呼ばれる種族だ。

 まだ十代半ばくらいに見えるであろうその少女は、目的の扉の前に到着をすると、勢いよく扉を押し開けて部屋の中へと飛び込んでいった。


 バーン


「おい、エイス! いったいどうなってやがる! ドルビィの馬鹿野郎は、まだ連絡を寄越さないのか!」


 少女の視線の先には、ソファーに腰を下ろしながら優雅に紅茶を飲んでいる男がいた。


「いらっしゃい、ラト。何度も言うが、部屋に入る時にはもう少し静かに入ってきてくれないか? 突然押しかけられると心臓に悪いじゃないか。おかげで、びっくりして紅茶を服に溢してしまった。洗剤の備蓄も少なくなっていると言うのに、無駄な作業と支出は増やさないでおくれ。それとも、この上着はラトが洗濯をしてくれるのかい?」


 少女と同じくして、顔半分を仮面で隠しているその男は、腰まで伸びた長い金髪の隙間からとんがった耳を覗かせている。

 エルフ族の男である。

 エイスはソファーから立ち上がると、無造作に自身の上着を脱いでラトへと差し出した。


「きゃー! エイスのエッチー! 女の子の前で服を脱がないでー!」


 ラトと呼ばれる少女は、可愛らしい仕草をしながら両手で顔を隠す。


「女の子? そんなの何処にいるんだい?」


 エイスは周りを見渡しながら首を傾げた。


「テメエ、殺されたいのか! この露出狂の変態糞エルフが!」


「はあ? 変態は君の方だろ? まったく…… 成長速度の遅いダークエルフとは言え、三百歳を越えればもう子供じゃないんだ。毎日毎日、飽きもせずに女性の格好をしてアジトの中を走り回って…… いったい、何が楽しいのやら……」


 少女に見えるラトと呼ばれる男は、可愛いらしい青いゴスロリ風のドレスで身を包んでいる。


「あたいは可愛い服が好きだから女の格好をしているんだよ! 差別主義者の馬鹿エルフには、多様性すら理解ができないのか! これだからエルフ族っていうのは、全種族から嫌われているんだよ!」


「別に、君が女性の格好をすること自体には否定をしていないだろ? 多様性とは互いに妥協をしあってこそ、はじめて成立がするものだ。まあ、僕には女性の服を着る君の気持ちは理解が出来ないけどね。ラトのように自分の考えだけを他人に無理やり押し付けようとする行為は、多様性ではなく傲慢な画一性というんだよ。そもそも、君のエルフ族に対する偏見こそが、差別的な考えだとは思わないのかい?」


「ぐぬぬぬ、半裸の露出狂のくせに正論を言いやがって…… 魔神様なら、全肯定で可愛いと褒めてくれるのに……」


「魔神様は優しいからだよ。ホワイトな組織運営を目指していたからね。魔神様が怒る時なんて、ドルビィの奴が自分勝手なことを仕出かした時くらいだよ」


 エイスの言葉でラトはここに来た目的を思い出した。


「そうだ、ドルビィのことだよ! アイツは今どこで何してるんだ! アイツのわがままで計画をごり押したくせに、等の本人は仕事をほっぽり出して消息不明っていったいどう言うつもりだ!」


「そんなの知らないよ」


 エイスは迷いなく答えた。


「無責任なことを言ってんじゃねえ! 今の組織のリーダーはお前だろ! お前がドルビィの計画を許可をしたからこそ、あたいも渋々アイツの勝手を見逃してやったんだぞ!」


「それこそ、僕を批判するのは筋違いだ。僕だって、あの計画にはあまり乗り気ではなかった。ラトや他の眷族たちが何もドルビィに反論ができなくなり、一番年上と言うだけで組織のリーダーを押し付けれてる僕に最終判断を迫ったからじゃないか」


 どっちもどっちである。


「そうだな…… 今のは少し言い過ぎだった。責任を押し付けて悪かったな」


「いや、僕も少し興奮してしまった。すまない、謝罪をする」


 二人は少し馬鹿そうだが、仲は良いようである。


「それもこれも全部ドルビィのせいだ。アイツはいつも自分勝手に行動をしやがる」


「だが、ドルビィの言っていることも理解は出来る。人族と魔族が休戦などをしなければ、我々もこんな強引な手段に出なくても済んだのだがな」


「ふん、休戦なんて長くは続かねえよ。争いのない世界には、平和も訪れねえ。そこに待ち受けるのは、考えることを止めた人形だけだ。矛盾しているようだが、それこそがこの世界の心理なんだよ。あたい達が何もしなくても、遠からず黒の魔素は溜まっていただろう。だいたい、魔神様は勝手な行動を絶対に許さねえ。聖女の結界から解放されたとしても、こんなことがバレたらどうなるか…… お前も分かるだろ?」


 二人は以前ドルビィが受けた制裁を思い出し震えている。


「ああ、忘れもしないよ…… ドルビィが独断で人族の国を滅ぼした時のことだろ? 半日もの間、廊下に正座をさせられて魔神様から説教を受けていた……」


「晩飯のオカズも減らされてたぞ……」


「「ひ、ひい……」」


 二人は真っ青な顔で震えている。


「と、とにかくだ! ドルビィのヤツが帰って来ないとあたいは困るんだよ!」


「ラトは何をそんなに焦っているんだい? 君はドルビィのことを嫌っていただろ? 小言がうるさいとか、元人族だから魔素が小さいとか、いつもドルビィのことを馬鹿にしていたじゃないか?」


「べ、別にあたいは焦ってなんかないし、アイツのことを嫌ってもいねえよ…… ドルビィとの付き合いがあたいは一番長いから、色々とプライベートでの頼み事とかがあるんだよ」


 ラトは目を泳がせて明らかに動揺をしている。


「ん? そういえば君…… そんな服を持っていたかい?」


「ドキ!」


「ま、まさか、ドルビィに買いに行かせたのではないだろうね? 何てことを…… 確かに、ドルビィは人族の体をしているから、人族の国での行動がしやすい。だからと言って、仮面を被った中年のおじさんに、そんなお姫様みたいな服を一人で買いに行かせるなんて…… きっとその店の従業員は、ドルビィのことを変態不審者だと誤解をしてしまっただろう…… なんて可哀想なドルビィなんだ……」


「だ、だ、だって仕方がないだろ! あたい達は三百年もの長い間、ずっとアジトに引き込もっているんだ! ドルビィのエンチャント魔法のおかげで服の劣化が遅いとはいっても、いい加減にあたいは新しい服が欲しかったんだよ!」


 ラトは拳を握りしめて、床を叩いて号泣をしている。


「ふむ…… 確かに、ラトの言うことも一理あるか。新しい服があれば、私も小まめに洗濯をしなくてもすむな……」


「だろ? そうだ! いっそのこと、ドルビィを買い物大臣に任命したらどうだ? アイツのどうでもいい計画なんかよりも、よっぽどあたい達にとって重要な案件だろ?」


「おお、それは素晴らしい提案だ! ラト、みんなを食堂へ集めてくれ! ドルビィが帰ってくる前に、断れないように我々だけで話を進めてしまおう!」


「よっしゃ、まかせろ!」


 ラトは大喜びでエイスの部屋から飛び出していった。


「それにしてもドルビィは何処で何をしているんだ? まさか、何者かにやられたのか? 万が一、ドルビィが倒されているとなると面倒だぞ。どんなことがあっても、大鎌デスサイスと叡智の仮面の回収だけはしなければ、色々と厄介なことになる可能性が…… いや、それはないな…… 魔素量だけを見れば眷族の中では少ない方だが、ドルビィにはそれを補う経験と魔術知識がある。間違いなく、今のこの世界でドルビィは最強だ。ドルビィを倒そうとするのならば、超越者とエレメンタルドラゴンが手を組むような異常な状況でしかありえないだろう。ドルビィを殺すには、ドルビィの体の秘密を解き明かす必要がある。何よりも、あの無詠唱の転移魔法から放たれる大鎌デスサイスでの一撃は必殺だ。もしも、ドルビィが倒されている状況であるのならば、残りの眷族が総出で動いたとしても…… まさか、邪神が復活した? ふふふ、さすがにそれは杞憂だろうな。残された邪神の封印は二つ。ダークエルフの里とエルフの隠里にある。何かしらの異常が発生をすれば、すぐに報告があるはずだ…… いや、ダークエルフはまだしも、エルフ族は…… 我が種族ながら信用出来ないのが恥ずかしい…… まあ、お人好しのドルビィのことだ。どうせまた何処かで不幸な子供でも救っているのだろう。それよりも今は眷族会議が先だ。ドルビィに買ってきてもらう物を皆で考えないとな」


 エイスはクローゼットを開けて替えの上着を探した。


「ふむ、洗剤をケチったせいで着替えがないな……」


 エイスは上半身裸のまま食堂へと向かった。

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