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第24話 アダマスの防衛戦

 クリスと冒険者達がワイルドウルフ迎撃の打ち合わせをしていると、ようやく準備を終えたギルド長のロレンが正門前へとやって来た。


「ご苦労様クリス。あとは私が現場の指揮を引き継ぐから、君は一足先にギルドへと戻ってなさい」


「はい、分かりました。もしかして、ギルド長も戦うんですか?」


「予期せぬ奇襲とかならまだしも、これだけ手筈てはずを整えているのならば、私が戦闘に参加をしなくても大丈夫だろう。ちょうど良い機会だから、街の防衛訓練のために利用をさせてもらうとしよう」


「そういう事を言って、足元をすくわれても知りませんよ?」


「ふふふ、ちゃんと準備はしてきたから大丈夫だよ」


 ロレンは冒険者ギルドから持ってきたイスを正門の前に置いて腰を掛けた。


「はあ…… 準備ってイスの事じゃないですよね?」


 あきれた顔でため息をつきながら、クリスは冒険者ギルドへと戻っていった。

 クリスと入れ変わるようにして、教官のアレクが正門前にやって来る。


「おいロレン、本当に俺も参加をしなくていいのか?」


「ああ、構わないよ。札付きのAランクである君が出るほどのクエストでもないだろ? これだけお膳立ぜんだてをされているんだ。貴重な実戦経験の機会を無駄にしたらそれこそもったいない」


「はあ、これだからエルフ族ってのは好きになれないんだ…… 危険と判断をしたら俺も戦いに参加をするからな。何よりも、人命が最優先だ」


「その時は好きにすればいいよ。さてと…… ギルドの調査によれば、現在のワイルドウルフのリーダーは特殊個体のようだ。ふふふ、どれ程の者か楽しみだよ」


 しばらくすると、一匹のワイルドウルフがロレンの視界に入って来る。

 ワイルドウルフは正門に冒険者が待ち構えているのを確認すると、すぐさま背を向け後方へと戻っていった。


「来るよ」


 ドドドドドド


 地鳴りのように大地を蹴る足音を響かせながら、ワイルドウルフの群れが正門の冒険者達へと突っ込んで来た。

 二十匹以上いるワイルドウルフの群れの後方に、一匹だけ額に角を生やした個体が見える。


「あの角付きが群れのリーダーだね」


「ギルドの報告に上がっていた特殊個体か。群れの数はそう多くはないが、あの角付きは何かしらの特殊能力を持っている可能性もあるぞ」


「冒険者の指揮を取っているのはバウスだね。彼なら冒険者としての経験も豊富だし、あまり無理な戦い方はしないだろう」


「経験豊富ねえ…… ま、怠け者のバウスには良いリハビリになるかもな」


 そんな期待と不安を一身に背負わされたバウスは、額に手を当てて正門へと接近をするワイルドウルフの群れを確認する。

 バウスは落ち着いた様子で冒険者達に指示を出した。


「よし、打ち合わせどうりにやるぞ! 札付きが前衛を務めるから、青腕は後方からの支援に徹しろ! 術者は魔法の準備をしておけ。無駄撃ちはするなよ。攻撃魔法は前衛を突破されたときにだけ仕掛けろ!」


 バウスは指示を出しながら、飛び掛かってきたワイルドウルフに剣を振り下ろす。


 ブッシュ


 ワイルドウルフの体深くに剣が食い込み、そのまま地面へと叩きつけられた。


「とどめの一撃っと」


 バウスは再び剣を振り上げるが、別のワイルドウルフがバウス目掛けて飛び掛かってくる。


「やべ」


 ドン


 バウスの前に現れた風の障壁が、襲いくるワイルドウルフを弾き返した。


「ナイスタイミングだ後衛! その調子で支援を頼むぞ!」


 後方からの的確な支援魔法もあり、前衛の札付きはワイルドウルフの進行を阻止しながら確実にダメージを与えていく。

 攻めあぐねた様子のワイルドウルフは、群れを二手に分けて左右へと回り込んだ。


「俺以外の前衛は左の対応をしろ! 戦士系の青腕は前に出てこい! 俺ともう片方を叩くぞ!」


 冒険者も二手に分かれて対応をし、それ以上のワイルドウルフの侵入を許さないでいる。

 その様子を椅子に座ったロレンが嬉しそうに眺めている。


「うんうん、ちゃんと落ち着いて対応をしてるね」


「あれでバウスは優秀だからな。毎日酒場に入り浸っているが、向上心さえあればもっと上のランクを目指せる奴だ」


「ははは、いつも彼は酒場で一人お留守番をしているからね」


 ここまでの戦況は、明らかに冒険者が優勢に立っていた。

 目立った負傷のない冒険者に比べ、戦闘継続が不可能になったワイルドウルフが徐々に戦列から離脱していく。

 この状況に痺れを切らしたワイルドウルフのリーダーが、ゆっくりと前線に歩いて来た。

 それを見た他のワイルドウルフは、一斉に冒険者達から距離を取った。

 次の瞬間、ワイルドウルフのリーダーの額の角から、うっすらとした光が輝きだす。


 バリバリバリ


 左側の群れを対応していた札付き冒険者の頭上から、無数の雷が辺り一面へと降り注いだ。


「うわあああ!」


 予期せぬ角付きの特殊能力による攻撃に、札付き冒険者は雷の攻撃をまともに食らってしまった。

 その攻撃自体に深手を与えるほどの威力はなかったようだが、相手の体を痺れさせて動きを止めることが目的の攻撃のようである。

 左側の札付き冒険者の動きが止まっている隙に、二手に分かれていたワイルドウルフは合流をして一気に戦線の突破を試みてきた。


「後衛、攻撃しろ!」


「ファイアボール!」


 バウスの指示により、後衛は準備していた攻撃魔法を発動する。


 ドーン


 先頭を走っていたワイルドウルフの体が炎に包まれた。

 その光景に後続のワイルドウルフが二の足を踏んでいると、痺れのとれた札付き冒険者は再び陣形を整えてワイルドウルフと対峙をする。


「ふむ、雷を操る能力か。厄介な能力だけど威力はそれほど高くないようだね。殺傷自体が目的ではなく、相手の行動を阻害するのが狙いかな?」


「あれが角付きの切り札だとすれば、後は時間の問題だな。油断をせずに、確実にワイルドウルフの戦力を削っていくだけで終わるだろう」


「さて、バウスはこの戦いをどう終わらせるのかな?」


 戦闘が始まってから一時間ほどが経過をした。

 互いに消耗をしているが、ワイルドウルフはすでに半数以上が戦闘不能な状態である。

 このまま勝負がつくかと思われたその時、リーダーの角付きが単独で正門に向かって駆け出して来た。


「お、玉砕覚悟か? わははは、いいだろう。最後はリーダー同士の一騎討ちで決めるとしようか! お前らは手を出すなよ!」


 バウスが角付きの進路を塞ぐように剣を構える。


 タンタンタン


「は?」


 角付きはバウスの手前で高く飛び上がると、そのまま空中を駆け上がり後衛の頭上を飛び越えて街の中に消えていった。


「や、やられた…… 空中を走れるとは読めなかった…… って感心している場合じゃない! 俺は奴を追って街に戻る! 残りのワイルドウルフは任せたぞ!」


 角付きを追って街に戻ろうとするバウスのことを、ロレンは落ち着いた声で呼び止める。


「街の中のことは心配要らないよ。ここに来る前に彼女へ話を通して来たからね。バウスは残りのワイルドウルフの処理に集中をしてくれ」


「彼女って…… ああ、なるほどね。わははは、それはあの角付きには気の毒なことだな」


「笑ってる場合じゃないよ。後で彼女にどやされる覚悟をしておくんだね」


「……へい」


 ロレンの言葉に意気消沈しながらも、バウスは改めて残りのワイルドウルフの討伐に集中をするのであった。


「アオーン」


 街の中に侵入した角付きは、街の住人を威圧するかのように遠吠とおぼえをする。

 事前にギルドからの避難指示が出ているため、街の大通りには人は歩いていない。

 それでも、街の中でワイルドウルフの遠吠えが聞こえれば、そこに暮らす住人にとっては恐怖でしかないであろう。

 そのことを理解しているのか、角付きは狂暴な笑みを浮かべながら大通りを進んでいった。


 ガチャ


 角付きの進行方向にある建物から一人の女性が出てきた。


「なんだいなんだい、街の中まで入り込まれているじゃないか。事前に襲撃の準備を整えていたと言うのに、バウスの奴はだらしがないねえ。まったく、ロレンの奴も宿屋の女将に面倒ごとを押し付けるんじゃないよ」


 エプロンをつけたマームが呆れたように頭をかいている。


「グルルル」


 最初の獲物が現れたと、角付きは嘲笑うかのように咽を鳴らしている。

 そして、鋭い牙を剥き出しにしながらマームに向かって襲いかかった。


 ゴン


「ギャフン!」


 凄まじい速度で繰り出されたマームの豪腕が、角付きを街の正門前まで吹き飛ばす。


 ゴロゴロ


 角付きは地面に叩きつけらるように転がっていき、血を吐きながら体を痙攣させている。


「あらいやだ。もしかして、死ねなかったのかい? 手加減をしすぎて苦しませちまうなんてねえ。ずいぶんと勘が鈍っちまったもんだよ」


 角付きは瀕死の状態のようだが、かろうじて意識はまだあるようだ。


「とどめは聖女様がさすぞ!」


 宿屋からリサが出てきた。


「こらリサ、外には出るなと言っただろ!」


 倒れた状態の角付きが、宿屋から出てきたリサをにらみつける。

 次の瞬間、額の角にうっすらと光が灯った。


「ん? なんだい?」


 マームは角付きの異変を感じ取り、リサを守るようにして角付きと向かい合う。


 ピリッ


 周囲の空気が振動し、角付きの顔に笑みが浮かぶ。


 バリッ


 雷による攻撃が発動しようとした瞬間、角付きの頭上に黒いもやが現れた。


「ギャフ?」


 角付きは黒い靄から現れた手に頭を掴まれると、そのまま靄の中へと連れ去られてしまった。


「……だからなんなんだい?」


 あっけに取られているマームの後ろで、リサは勝利のポーズを取っている。


「はあ…… 馬鹿やってないで早く家に戻りな!」

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