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第20話 ミミズ少女への疑惑

 ドーラ達が他愛ない世間話を交えながら歩いていると、一行の視界にアダマスの森が入ってくる。

 先程までは穏やかな表情のフィーネであったが、その表情を一変させて入念に装備の点検をはじめた。

 採取専門の非戦闘員であるフィーネは、普段は目立つ武器などは持ち歩かずに、動きやすい軽装備でクエストを行っている。

 しかし、今日は戦闘の想定をしているらしく、長剣や投擲用のナイフなどを持ってきていた。

 非戦闘系の冒険者であっても、年に数回はギルドで行われる戦闘講習に参加をしているとのことだ。

 ただ、扱い慣れていない為か、その動きにはぎこちなさが見られる。


「ふう…… 森の入り口に来ただけでこんなに緊張していちゃ駄目ね。これじゃあ、まるで私の方が新人冒険者みたいだわ。ドーラちゃんは森に来るのはまだ二回目なのに、ずいぶんと落ち着いてるわね?」


「あ、はい。魔物が出てきたらダイフクが何とかしてくれるので」


(ダイフクよろしくね。もしもゴブリンが現れても手加減をするんだよ。吠えて追い返すくらいでいいからね。念のために、サーチワームで周囲の魔素の警戒をしながら進んでいこう。なるべく魔物と出会わないように移動をしないとな。こんなことなら、ダイフクにもサーチワームを渡しておけば良かったかな? 宿屋に帰ったらダイフクにもサーチワームをあげるね)


「ワン」


 ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。


「それじゃあ、まずはドーラちゃんのお手並みを拝見させてもらおうかな。薬草を探すのにはダイフクちゃんの鼻を使ってるの?」


「はい、そうです。じゃあダイフクお願いね」


「ワン」


 ダイフクは森の奥へと歩きだす。

 もちろん匂いで探しているのではなく、森の各地に配置してあるスコープワームと視界を共有して探している。

 薬草の匂いは昨日のクエストで覚えたが、さすがに距離があると匂いだけで探すのは効率が悪いようだ。

 スコープワームで薬草の位置を確認しながら、ダイフクは躊躇ちゅうちょすることなく森の奥へと進んでいく。


「ワン」


 ダイフクは立ち止まり、薬草のある場所に向かって吠えて教えた。


「へー、驚いたわね。こんな簡単に見つけられるなんて、ダイフクちゃん凄いね」


「ダイフク偉い」


「ワン」


 ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ。


(ふひひひ。私が能力を使えない時とかに、変わりにダイフクに能力を使ってもらうのは便利だな。言葉がしゃべれない犬のダイフクなら、万が一怪しまれても深く追及が出来ないからね。これからもダイフクには私の分まで頑張ってもらおう)


 その後も、ダイフクによって容易に薬草採取の作業が進んでいく。


「参ったわね…… これじゃあ、私が教えられることなんて何もないわ。ドーラちゃんも、森の中での移動には慣れているみたいだしね。 ……どうしたのドーラちゃん? 何か見つけたの?」


 生い茂った木々の遥か遠くを気にしているようなドーラの姿に、フィーネは奇妙な違和感を感じていた。


(んー、向こうからゴブリンが三匹近付いて来てる。一匹は昨日のゴブリンよりも大きめの魔素だ。こっちには気付いていないようだけど、このまま進んで来たら鉢合わせしちゃうな。何かあると面倒だし、ゴブリンから離れるようにフィーネさんを誘導しよう)


 ドーラは見ていた方向と逆の方向を指差した。


「ダイフク、今度はあっちの方に行ってみようか」


「ワン」


 ドーラは急いでその場を離れようとしたが、どう言うわけかフィーネはその場に立ち止まったまま話をはじめる。


「ドーラちゃん、ちょっといいかな?」


「……はい、何ですか?」


「実はね、今日ドーラちゃんに同行をさせてもらったのは、新人冒険者への世話焼きだけが目的じゃないんだ」


(んー、このタイミングでその話がきたか。なるべく早くこの場所を離れたいんだけどな……)


「昨日、私もアダマスの森でクエストをしていたんだけど、その時に遭遇したゴブリンの様子が変だったのよ。まるで、何かに怯えているような…… そのゴブリンはとても気が立っていて攻撃的だったわ。普段は冒険者を見ると逃げ出すはずのこの森のゴブリンが、昨日は私を見つけるや否や、逃げずに襲いかかってきたの。私は戦闘を避けてゴブリンから逃げたのだけれど、逃げ切れずに崖淵へと追い込まれてしまったわ。その時、突然現れた赤バンドを付けた何者かに助けられたのよ。アダマスの冒険者ギルドに所属している赤バンドは少なくないけど、特段に優秀な新人がいると聞いたことはなかったわ。それで、昨日から冒険者活動をはじめたドーラちゃんの噂を聞いて、受付のクリスに頼んで今日同行をさせてもらったの」


(やっぱり赤バンドを見られていたのか。次にあの方法をやる時は逆の手でやろう)


「でも、今日ドーラちゃんに同行をしてわかったわ。確かにダイフクちゃんの鼻は優秀だけど、ドーラちゃんの動きが素人なのは非戦闘員の私にもわかる。ドーラちゃん、疑ってごめんね。なるべく早く私を助けてくれた人を探し出したかったんだ。その時のお礼を言いたいのはもちろんだけど、ゴブリンの異変を一緒に説明して欲しかったの。私の証言だけだと、いくら説明しても他の冒険者に信用をしてもらえなかったわ。この森での被害がでる前に、何とかしないと……」


(私への疑いが晴れたのは良かったかな? まあ、フィーネさんを助けた手は私の手なんだけどね。正体を探しているのも悪意があるわけでなく、善意からの行動だというのも理解できた。ゴブリンがもう直ぐそこまで近づいて来ているし、早く話を終わらせてこの場から離れよう)


「その時にフィーネさんを助けに現れた手が、私の手だと勘違いをしたんですね? 手だけしか手懸かりがないのなら、同じ赤バンドをつけてる新人の私を疑うのはわかります。別に気にしてませんよ。それよりも、あっちの方が気になるので急いで行ってみませんか?」


 ドーラは後ろを向いてゴブリンのいる方向と逆の方向を指差した。


「手だけ? 私は赤バンドを付けた何者かとしか言っていないわよ? 何故、私のことを助けたのが手だけということを知っているの?」


「ドキッ!」


(し、しまった…… 当事者にしか分からない情報を、あえて伏せて会話をしていたのか…… やっぱりフィーネさんは優秀なんだな…… んー、駄目もとでしらをきってみよう)


「えっと…… フィーネさんが街からずっと私の手を気にしていたので、想像力豊かな年頃の私の勘違いかと…… ふひひひ」


「……」


「ふひひひ……」


「……ふふふ、冗談よ。ドーラちゃんの動きがが素人だと感じたのは事実だし、魔素量が最低クラスなのもクリスから聞いているわ。まあ、ダイフクちゃんは優秀だから、採取専門の新人テイマーとしては、将来が楽しみな有望株の冒険者だけどね」


「……ありがとうございます」


(ちょと言い訳が苦しかったかな? 完全に疑惑が解けたって感じではなさそう。現状は保留ってところか。うう、フィーネさんの優しい微笑みが胸に刺さって痛い…… んー、それよりも困ったな…… 少し話が長くなりすぎちゃったみたいだ……)


 ガサガサ


「ウガー」


 ゴブリンが現れた。

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