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第2話 ミミズ少女とロリコン男

 ローリーは上から覆い被さるようにして、ドーラの肩を床に押し付けている。


「……どうした? 何故、抵抗をしない? 怖くて声も出ないのか? これから自分が何をされるか理解しているのか?」


「……」


 ドーラは無言でローリーのことを見上げていた。

 泣き叫ぶような反応を期待していたローリーだったが、平然とするドーラの態度に若干じゃっかん不気味ぶきみさを感じているようだ。


「……おい、何故黙っている?」


「ローリーさんの事は父からよく聞かされています。最近、私を見る目が怪しいから、もし二人きりになったら気を付けろと言っていました。ふひひひ…… 家に来てからのローリーさんは、ずっと鼻息が荒くなっていますよ。もしかして、間抜けな表情になっている自覚がないのですか?」


「な、何だと!」


 ドーラの口から出た人を小馬鹿にすような言葉に、ローリーは怒りの感情をあらわにしている。

 しかし、ドーラからしてみればローリーの行動は予想通りだったらしく、特に驚くようなことではなかったようだ。


「くそ…… 昔から思ってはいたが、無表情で感情の読めないガキだ…… まあ、いいだろう…… どうせ抵抗をしても無駄だろうからな。お前のような非力ひりきな半魔では、抵抗しようにも指一本すら動かせないだろう? へへへ、このまま朝までたっぷりと可愛がってやる。大人まで生きていられない半魔は本当に最高だよな。まるで私のために存在しているかのようだ」


 正体を現したローリーの変態ぶりに、ドーラは完全にあきれ果てた表情をしている。


(うわ…… 父から聞いてはいたけど、想像以上にロリコンをこじらせているな…… 仕事上での建前とは言え、よく父はこんな変態と仲良く交流をしていたと感心するよ……)


 ローリーは馬乗りの状態でドーラの手を掴むと、自身の口元へと引き寄せて指を舐め回した。

 この後の展開を想像しているのか、顔は醜くにやけて鼻息もさらに荒くなっていく。


「じゅぽ、じゅぽ…… むふふふ、心配はするな。大人しく言うことを聞いていれば、今後の面倒は俺がみてやる。まあ、半魔のお前の体ではもって数年の命だろうがな。むふふふ、美味、美味……」


 ローリーは美味しそうにドーラの指をしゃぶっている。


(うわ、気持ち悪い…… んー、流石に不愉快になってきた…… ローリーさんが何を舐めているのか教えてあげよう)


「じゅるじゅる、美味、美味…… ん? 何だ? 何かが口の中で動いて…… 痛、いだだだだだ!」


 口の中に激しい痛みを覚えたローリーは慌てて立ち上がり、よろめきながら後方へと後退りをした。


「血? なんで? お、お前いったい何をした!」


 ローリーは口元から流れる血を必死にぬぐっている。


「くそ、痛い…… 口の中を何かに噛まれたような……」


「ふひひひ、大丈夫ですか? 駄目ですよ、無闇に危険な物を舐めたりしたら」


 ウネウネ


 ローリーはドーラの指先で何かが動いていることに気が付く。

 そして、その正体を知り驚愕きょうがくをした。

 ドーラの指先からは、醜いミミズような生物が鋭い牙をき出しにして動いていたのだ。


「な、何だ…… そ、れは…… あ……」


 次の瞬間、ローリーの目の前は真っ白になった。

 全身から大量の汗を吹き出しながら、ローリーは地面へと膝をつける。


「これはポイズンワームです。強力な毒を持っているのでまれたら大変ですよ。以前、魔の森に迷い混んできたワイバーンに使ってみたら数秒で死んでました。今のは警告のために毒を弱めておいたので、それでローリーさんが死ぬことはないから安心してください」


 ローリーの意識は朦朧もうろうとしていたが、ドーラの語る言葉は耳へと届いていた。

 だが、その非現実的な言葉に酷く混乱をしているようだ。


「ど、毒? ポ、ポイズンワームだと? な、何故そんな化け物がお前の指先から……」


 さやに収まった剣を杖がわりにして、ローリーは必死に立ち上がろうとしている。


「私は生まれつき体が弱かったようです。半魔の体だからではなく、生まれて直ぐに死んでしまうような未熟児みじゅくじだったみたいです。その為、母は死にかけの私の体内に女王ワームを寄生きせいさせました」


「はあ、はあ…… じょ、女王ワームだと? な、何だそれは? そんな魔物は聞いたことがないぞ?」


 毒の効果が弱まってきたのか、ローリーは体の自由を取り戻してきたようだ。

 呼吸を整えながら必死に立ち上がると、ドーラから距離を取るように後退あとずさりをする。


「んー、魔物ではないようですよ? 父から詳しい説明は聞いていませんが、私を生かすために母が何処かから持ってきたようです。女王ワームは私の血を栄養にして成長をして、吸った血の代わりに自身の体液を私の体に流しています。その為、私の血の色は赤から白に代わり、髪の毛も真っ白になってしまいました。まあ、そのお陰で私は未熟児として生まれながらも、今日まで元気に生きてこられたんですがね。女王ワームの体液は魔素の代わりにもなっているようで、魔素の少ない私の体を活性化させて健康な体にしてくれました」


 ローリーは何ひとつドーラの言葉を理解できなかった。

 しかし、覚悟を決めて剣を持つ手に力を入れると、鋭い目付きでドーラをにらみつける。


「……どうやら、お前は正真正銘の化け物だったようだな。こんな化け物を魔族領に連れてくるなんて、いったい先輩は何を考えていたんだ……」


「さっきまで私を襲おうとしていたロリコンの癖に、ずいぶんと失礼なことを言ってくれますね」


「黙れ! 魔族軍の部隊長として貴様のような化け物を放っておくことは出来ん! この場で俺が退治をしてくれよう!」


 ローリーは鞘から剣を抜き、ドーラ目掛けて斬りかかった。


 ガン


 鉄と鉄とがぶつかり合うような硬質な音が響き渡る。

 衝撃で手が痺れたローリーは剣を地面へと落としてしまった。


「な、何が起きた!」


「アイアンワームの体液を体にまとわせました。ローリーさん程度の力では、鉄のように硬くなった私の体にかすり傷をつけることすら出来ませんよ」


 ドーラの首元に絡みつくように動くワームが見える。


「く、さっきの奴とは違う種類の化け物も飼っているのか!」


「はい、沢山いますよ。なにしろ十年以上もの期間、女王ワームは私の体に卵を産み続けてきましたから」


「ば、化け物め…… 子供と思えないその達観たっかんした振る舞い…… すでに精神まで化け物に支配をされているのか……」


 ローリーは落とした剣を拾い上げて再び戦闘態勢をとった。

 しかし、その表情には恐怖の感情が隠せなくなっている。

 そんなローリーの怯えた様子を見て、ドーラは深いため息をついた。


(はあ、さっきから私のことを化け物化け物って…… 何か少しイラついてきたな…… んー、殺す前にもう少し脅かしてやろうかな?)


 カパ


 ドーラは無表情のまま口を大きく開いた。


 オエー


 ドーラの口の中から、無数のワームが部屋中へとき出される。

 吐き出されたワームは、波打つように地をってローリー目掛けて襲いかかる。


「ひー!」


 あまりに非現実的な光景を目の当たりにしたローリーは、一目散に家の外へと飛び出して魔の森の中へと逃げていった。


「行っちゃった…… ふひひひ、ちょっとグロ過ぎたかな?」


 迫真の演技の成果に満足をするドーラであったが、ローリーが立っていた場所に水溜まりのようなものを発見する。


「んー、この量は汗じゃないよね? 散々《さんざん》失礼なことをしておいて、人の家まで汚していくなんて……」


 ドーラは家の外に出て森の方向を見つめるが、ローリーの姿は既に見えなくなっていた。


「……ロリコンの癖に逃げ足だけは速い。まあ、逃がさないんだけどね」

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