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第18話 ミミズ少女の初クエスト

 冒険者登録をした翌日、ドーラはまだ夜明け前の人もまばらな大通りを冒険者ギルドへと向かい歩いていた。

 別にやる気を出して早起きしたのではなく、前日の昼間に寝過ぎてしまった為、夜になっても眠れなかっただけのようだ。

 冒険者ギルドに到着をして中に入ると、早朝にもかかわらずクエスト掲示板の前には多くの冒険者達が群がっていた。

 ドーラが遠巻きに人混みを見つめていると、それに気付いたクリスが顔をほころばせながら挨拶をしてくる。


「おはようドーラちゃん。言われた通りに、ちゃんと早起きが出来たみたいね。やる気があって感心感心」


 クリスはクエストの依頼書を掲示板に貼っている最中のようで、その手には数多くの依頼書が握られている。


「おはようございますクリスさん」


(早起きをしたんじゃなくて、寝てないだけなんだけどな。なんか誉められてるみたいだし、昨日の昼間に寝過ぎていたのは内緒にしておこう)


「今日は冒険者としてのドーラちゃんの初任務だし、最初は簡単な依頼からはじめるのを進めるわ。薬草採取のクエストとかはどうかしら?」


 ドーラは掲示板に貼り出されている依頼書を確認する。


「んー、そうなるとこれかな? 報酬は薬草1束で銀貨1枚。分布域は、鉱山方向とは反対側にあるアダマスの森か。他に目ぼしいクエストはないかな…… あれ?」


 ドーラは変態ロリコン仮面の討伐クエストという依頼書を見つけた。


「……」


(見なかったことにしよう……)


 ドーラは薬草採取クエストの依頼書を掲示板から剥がし、クエスト受付へと向かい依頼の受注を申請をする。

 申請の際、採取する薬草の特徴や森で魔物などに遭遇した時の対処法も教わる。

 受付の話によると、強い魔物は森の中で各々の縄張りを持っており、彼らの生息域に近付かなければ滅多に出会うことはないという話だ。

 無闇に縄張りに近付てはいけないと、ドーラは受付で厳重に注意をされた。


「それじゃあ、行ってきます」


「初クエストなんだから無理をしたら駄目よ。危ないと思ったら、すぐに帰って来なさいね」


 心配そうに見つめるクリスとは裏腹に、ドーラは呑気に手を振りながら冒険者ギルドを後にした。

 アダマスの森は街から一時間ほど歩いた場所にある。

 さすがにダイフクに乗って移動するのには懲りたのか、時間にも余裕があるのでドーラは徒歩でのんびりと移動することにした。

 ダイフクは少し残念そうな顔をしている。

 アダマスの森に到着する頃にはすっかりと空も明るくなり、ドーラは爽やかな森の景色にとても満足しているようだ。


「魔族領にいた頃は、ずっと魔の森で暮らしていたからな。やっぱり森の景色は落ちつくね。なんか、帰ってきたって感じがするよ」


 魔族領を出てから数日しか経っていないが、ドーラは雰囲気を大事にするタイプなので、わざとらしく感傷にひたってみた。


「さてと…… 薬草はどこかな?」


 ドーラは周囲を見渡してみたが、それらしい植物は見当たらなかった。


「んー、この辺には無さそうだな。もっと森の奥の方に行かないと駄目かな? ダイフクは匂いとかで薬草を見つけられない?」


「ワン」


「そっか、薬草の匂いを嗅いだことがないから分からないか」


 ドーラがニヤニヤとダイフクを見つめている。


「ふひひひ、それでは私がダイフクに森の歩き方というのを教えてあげよう」


 ドーラは得意気な表情で前方の地面を指差す。


「ディメンションワーム」


 黒いもやが指差した地面から広がっていく。

 広範囲に広がった黒い靄の中から、ワームの群れが一斉に森の各地へと散らばって行った。


「結構大きそうな森だから、多めにワームを出しておくかな。しばらくの間はクエストでこの森に通うことになるし、この際森全体をワームのテリトリーにしちゃおう」


 ワームが森の隅々にまで行き渡ると、次は森の各地にスコープワームを配置する。

 準備が終わったドーラはスコープワームの目を使い、森の中を観察していった。


「さてと、薬草は何処かな…… あ、あった。あっちにもある。ダイフクわかった? これが森の歩き方だよ」


「ワン……」


「無茶を言うな、参考にならない? んー、そっか。それじゃあ、ダイフクにもスコープワームをあげるね」


 ドーラの指先からスコープワームが現れて、ダイフクの口の中へと入っていった。


「どう? これでダイフクもスコープワームを使って、森の全体が見れるようになったでしょ」


「ワン」


 ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。


「よし、それじゃあ薬草の採取を始めよう。どれくらいの量を採取しようかな? 新米冒険者の私がたくさん取りすぎると怪しまれそうだし、他の冒険者が採取する分も無くなっちゃうからな……」


 ドーラは不審に思われない程度に10束分の薬草を集めた。


「これで銀貨10枚か。宿代は前払いで1ヶ月分を払ってるし、私とダイフクの1日の生活費ならこれくらいで十分だよね。さすがに薬草の採取だけで借金を返済するのは無理だから、慣れてきたらもっと稼げるクエストとか受けてみよう。さてと…… クエストは終わったけど、帰るのにはまだ早すぎるよね? んー、もう少し時間を潰さないと怪しまれそうだし、この後どうしよう……」


 森の中での移動はディメンションワームを使ったので、昼になる前に薬草の採取は終わってしまった。


「ワン」


「え? 昼寝でもすればいい? そういえば昨日の夜は寝れなかったしな。改めて言われると少し眠くなってきたかも…… ダイフクはどうする?」


「ワン」


「そっか、スコープワームで森の中を観察してるか。じゃあ、何かあったら起こしてくれる?」


「ワン」


「うん、よろしく。それじゃあ、おやすみ…… グーグー」


 生活のリズムが昼夜逆転している気もしたが、ドーラは細かい事を気にするタイプではないのでそのまま眠りについた。

 数時間後、ダイフクに肩を揺すられてドーラは目を覚ます。


「ふわー、よく寝た…… どうしたのダイフク? 何かあった?」


「ワン」


「え? 冒険者がゴブリンに襲われている?」


「ワン」


 ドーラはダイフクが指定した場所をスコープワームで確認をする。

 若い女性の冒険者がゴブリンから逃げている姿が見えた。


「この森のゴブリンは人を襲わないって聞いたけどな」


 受付から聞いた話では、アダマスの森にいるゴブリンはとても臆病な性格をしており、冒険者を見たらすぐに逃げ出すとの説明を受けていた。

 仮にクエスト中にゴブリンと遭遇をしたとしても、こちらから攻撃を仕掛けなければ襲われる事はないので、無闇に危害を加えてはいけないと注意をされている。


「んー、もしかしてゴブリンのこと攻撃しちゃったのかな?」


 女冒険者は青色のバンドを腕に付けていた。

 Dランクの冒険者ということは、ある程度の経歴を持つ冒険者である。

 駆け出しの冒険者がゴブリンを攻撃してしまったと言う感じではなさそうだ。

 身に付けている装備も比較的に軽装なもので、採取クエストなどをメインにする非戦闘系の冒険者のように見えた。

 ドーラは助けるべきか悩んだが、あまり目立つ行動などは避けたいので、その冒険者が逃げ切れるかどうかを見守る事にした。


「あ、そっちに行くと崖があるから駄目だよ」


 冒険者は崖淵に追い込まれてしまった。


「んー、これはもう逃げ切れないかな…… 仕方がない、えい」


 ドーラはディメンションワームで目の前に黒い靄を出してその中に手を突っ込んだ。

 次の瞬間、冒険者に迫っていたゴブリンの頭上からドーラの手が現れてゴブリンの頭を鷲掴みにする。

 突然の出来事にゴブリンがもがいていると、その様子に気付いた冒険者は一目散にその場から逃げていった。


「これでよし。冒険者には私の手しか見られてないから、誰が助けたのか分からないよね?」


 その場から冒険者の姿が見えなくなるのを確認して、ドーラは掴んでいる手を離してゴブリンを解放する。

 かなり長い時間ドーラは熟睡をしていたようで、辺りは日も沈みかけ夜が迫っていた。


「暗くなってきたし、そろそろ帰ろっかダイフク」


「ワン」


 ドーラはアダマスの森を出て街へと帰還する。

 この時のドーラは気付いていなかった。

 この日の自身の行動により、アダマスの森が恐怖の大魔境に変貌してしまったことを。

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