第16話 ミミズ少女と大盛デカライス
「は? なんて? すまん、もう一回言ってくれ」
どうやら、アレクは自身の聞き間違いだと思っているようだ。
「大盛デカライス…… です」
「お腹すいたのかドーラ? ご飯食べに帰るか?」
(うう、リサちゃんの純粋な突っ込みが耳に痛い…… そういう感じの名前だったんだよ! ちょっと違うかもだけど……)
「……まあ、銘についてはこの際なんでもいい。ドーラはその武器を何処で手に入れたんだ? 魔剣なんて子供のお小遣いで買えるような代物でもないだろう?」
「え、えっと…… この街に来る途中で、仮面を付けたロリコンの変態おじさんに貰いました……」
「なに! 変態ロリコンおやじに貰っただと? おい、ドーラ! そいつから何か変なことはされなかっただろうな!」
「え? と、特に変なことは…… あ、でも最後に間接キスはしてあげたかな?」
間接キスとも言えなくもないが、死の接吻という表現の方が正しいだろう。
「ド、ドーラちゃん…… まさか、パパ活ってやつをしているんじゃ……」
「な、何ですかそれ? わ、私は犯罪まがいのいかがわしいことは何もしてませんよ!」
話が鎌の話題から、どんどんと変な方向にそれてく。
アレクとクリスは、緊急で変態仮面の討伐クエストを発行すると大騒ぎしている。
「……事情は分かった。ま、俺の気のせいだろうな。普通に考えて、あれをこんな少女が持っているわけないか」
何か思う所があるようだが、アレクは自分の思い込みだと一人で納得をしているようだ。
それ以上深くは追及されなかったことに、ドーラは安堵の表情を浮かべている。
(よく考えたら、ドルビィさんはこの鎌は魔神の武器だっていってたし、人前でむやみに出したのは失敗だったかな? まあ、ワームのことがバレるよりは、これくらい大した問題じゃないよね)
魔神の武器を持ってる少女など、大問題以外のなにものでもないだろう。
しかし、ドーラにとっては自分の秘密さえバレなければ、あとは許容範囲のようである。
「よし、ドーラ。その鎌であの人形を攻撃してみろ」
アレクの指差した先には、鉄の鎧を装備した人形が立てられている。
訓練用に土魔法で作られた人形で、硬化のエンチャント魔法が施されているらしい。
「遠慮は要らないぞ。うちのギルドに所属している、土魔法が得意な冒険者に作らせた特別製の土人形だ。並大抵の攻撃では傷一つ付けられないだろう。むしろ、下手な攻撃をすればお前の腕の方が怪我をすると思え。気合いを入れて攻撃しろよ」
「はい、わかりました」
(武器なんて使ったことないけど、どう攻撃すればいいのかな? 確かドルビィさんはこの鎌に自分の魔素を流していたな。多分あれで鎌の切れ味とか強度が変わるんだろうな。でも私の魔素量だと流しても大して変わらなそうだし…… まあ、武器が壊れない程度に優しく振ればいいか)
ドーラは人形の前に移動すると、無造作に鎌を横に振った。
「ほい」
ゴン
軽く振ったようなドーラの攻撃であっだったが、人形の装備している鉄の鎧を容易く切り裂いた。
しかし、傷がついたのは鎧の部分だけで、アレクの言っていた通りに鎌の刃は人形の表面で止められていた。
「ほう、凄い切れ味だ。ふむ、鎌の刃に刃こぼれもない。思った通り、相当な業物のようだな。ドーラの武器の扱いが上達すれば、鎧だけでなくこの人形まで絶ち切る事が出来るかもしれないぞ」
(まあ、こんなもんだよね。これ以上強く振ったら、鎌の方が耐えられなそうだしな。私もドルビィさんみたいに、魔素を使って鎌の強化が出来れば…… そうだ! 魔素の変わりにアイアンワームを使って鎌の強化をすれば良いじゃん!)
ドーラは指先からアイアンワームを出して、こっそりと鎌の強化をしてみた。
ズズズズ
鎌の刃から黒く重々しい気配が漂う。
(うん、いい感じだな。これなら、ちょっとだけ力を入れて振っても折れないよね)
「アレクさん、もう一度やってみてもいいですか?」
「ん? 別にかまわんが、さっきと何か変わるのか?」
「はい、使い方を少し思い付きました」
「使い方? ふむ、分かった。何が変わるかわからんが、ドーラの納得するまでやってみろ」
ドーラは人形の前で再び鎌を構えた。
(それじゃあ、今度はほんの少しだけ力を込めて……)
「ほい」
ドカーン
気の抜けたドーラの掛け声に反して、訓練場には凄まじい衝撃と爆音が鳴り響く。
「きゃあああ!」
「うおおおお!」
突然の出来事に顔を背けるアレクとクリスに、瓦礫の破片が襲いかかる。
アレクは瓦礫とともに吹き飛ばされて、訓練場の端まで地面の上を転がっていった。
クリスはその場にしゃがみこんでいるが、飛んでくる瓦礫はダイフクが前足で全て払い落としたため無事のようだ。
ダイフクに乗っていたリサもくらくらと目を回しているが、どこにも怪我はしていないようである。
ゴゴゴゴゴゴ……
空高くまで舞い上がった砂煙が消えると、人形のあった場所には何も残っていなかった。
「あ、人形が無くなっちゃった。んー、そんなに力は入れてなかったんだけどな。ごめんなさいアレクさん」
アレクはゆっくりと立ち上がり、人形が置いてあった外壁沿いを見つめている。
「い、いや…… 人形が無くなったとか以前に……」
ドーラはアレクの指差している方向に顔を向ける。
(あ、やっちゃった……)
「外壁が無くなってるんだが……」
訓練場の外壁は広範囲にわたり消滅をしており、街の外が丸見えになっていた。
(んー、もしかしなくてもこれはヤバいよね……)
「大盛デカライス…… 何て威力なんだ……」
アレクはその場に呆然と立ち尽くし、クリスは外壁が無くなったことに頭を抱えていた。
外壁を壊したことを謝罪したドーラは、あらためて受付の前で待つようにアレクから指示をされる。
待っている間にドーラは再度魔素の測定をさせられたが、結果は先程と同じく最低のランクであった。
しばらくすると、クリスが何かを持って受付へと戻ってくる。
「お待たせドーラちゃん。はい、これが冒険者のFランク証ね」
渡されたのは赤色のリストバンドだ。
D~Fの冒険者は見習い期間と言うことで、青黄赤のリストバンドが冒険者証の替わりになっているらしい。
Cランク以上の冒険者になるとベテラン冒険者として認められ、ランクの刻まれたプレートの札が与えられる。
ドーラは一番下のFランクだが、これは冒険者としての実力の評価ではなく、誰でもはじめはFランクからのスタートのようだ。
ドーラは渡されたリストバンドを腕にはめる。
「これで冒険者登録は終わりね。クエストの依頼は、入り口の横にある掲示板に張り出されているわ。掲示板にあるクエストは一般依頼になっていて早い者順だから、明日からは早起きしてギルドに来なさい。冒険者のランクが上がれば、掲示板に掲載されている一般依頼の他にも指名依頼などが受けられるから頑張ってね」
「はい、ありがとうございました」
「それとね、少し言いにくいんだけど…… ギルド長からドーラちゃんに、これを渡せって言われてね……」
クリスはドーラに一枚の書類を渡した。
ドーラは渡された書類を無言で読んでいる。
「……」
「どうしたドーラ? ギャンブルで有り金ぜんぶ溶かしたような顔してるぞ?」
リサの言葉がいっさい耳に届いていないかのように、ドーラは無言で冒険者ギルドから出ていった。
ふらふらとゾンビのような足取りで歩くドーラのことを、すれ違う街の住人は心配な目で見つめている。
「ど、どうしようダイフク……」
「ワン?」
「外壁の修理費用、金貨1000枚だって……」
借金生活のスタートである。




