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第14話 アダマスの街

 アダマスの街の朝は早い。

 鉱山地帯と近接している街であるため、採掘さいくつ作業などを生業とする住民が多いからだ。

 この日も朝早くから鉱山へ向かう作業者達が、正門の守衛しゅえいに見送られながら現地へと足を運んでいた。


「ふう、本日も異常なし。あと少しで明け番も終わりか。今日は天気も良いせいか、空気がうまくて最高の朝だな。気分も良いことだし、帰りに冒険者ギルドにでも寄ってバウスと酒でも飲んでいくか。怠け者のあいつのことだし、どうせあいも変わらずにクエストをさぼって朝から酒場で呑んだくれているだろうしな」


 守衛が清々《すがすが》しい朝を向かえて深呼吸をしていると、遠くから汚物をらしながらゾンビのように歩いてくる一人の少女いた。


「よ、ようやくついた…… オエー 何て最低な朝だろう…… オエー よく考えたら、私って魔族領を出てから一睡いっすいもしてないじゃん…… 旅ってこんなにつらいものだったのか…… はっきり言って舐めていたよ…… オエー」


 睡眠をとらずに旅をする者など存在しないだろう。

 ドーラが旅立ってからの数日間で、色々な出来事が起こったのは不憫ふびんではある。

 そんなドーラの姿を、守衛は心配そうに見つめていた。


「お、お嬢ちゃん大丈夫かい? ずいぶんと具合が悪そうじゃないか。口からニョロニョロとした物が垂れてるぞ? 何か変なものでも拾い食いをしたのか?」


「い、いえ…… ただの犬乗り酔いです…… オエー」


「ワン」


 ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。


「犬乗り酔い? 言葉の意味は良くわからんが、とにかく凄い体調が悪そうだな」


「寝不足なのも相まって特に酷いです…… オエー や、宿屋の場所を教えてもらえますか? オエー」


「見たことのないお嬢ちゃんだけど、もしかしてこの街の住民じゃないのか? まさか、その若さで一人で旅をしているのか? まったく、最近の若者は命知らずな事をするな。宿屋は門を潜って大通りを真っ直ぐ進むと見えてくるよ。そこでゆっくりと休むといい」


「あ、ありがとうございます…… 行くよダイフク…… オエー」


 早朝ということもあり、人影もまばらな大通りをドーラはフラフラとした足取りで進んでいく。

 時折すれ違う住人は、汚物を撒き散らしながら歩くドーラの姿に驚いているようだ。

 しばらくして宿屋が見つかり、ドーラは吸い込まれるようにして中へと入っていった。

 宿屋は一泊ニ食付きで銀貨五枚だった。

 長期宿泊の契約なら一ヶ月で金貨一枚という話なので、ドーラは長期宿泊を希望して前払いで金貨一枚を支払う。

 宿屋のあるじは宿泊中の決まり事などを説明しようとしたが、ドーラの惨状さんじょうをみて、すぐさま二階にある部屋へと案内をしてくれた。

 ドーラはゾンビ歩きのまま後を付いていき、部屋に入ると一直線にベットの中へと潜り込むのだった。


 そして数時間が経った。


「んー、よく寝た」


 目を覚ましたドーラは、カーテンを開けて窓の外を眺める。

 どうやら、ぐっすりと熟睡じゅくすいをしてしまったらしく、窓の外はすでに夕暮れ時の景色に包まれていた。


「んー、起きたら街の様子を見てまわろうと思ってたけど、少し寝すぎちゃったみたい…… あれ? ダイフクが居ない? 何処に行ったんだろ?」


 ドーラはサーチワームで周囲の魔素の探索をした。

 どうやら、ダイフクは宿屋の一階にいるらしい。

 ダイフクのほかにも、大きな魔素と小さな魔素の反応もある。


「大きい魔素は朝受付に居た人だな。小さい魔素はダイフクと重なるようになってる。何してるのかな? 見に行ってみよう」


 ドーラは部屋を出て一階へと下りて行った。


「何してるのダイフク?」


「ワン」


 幼女がダイフクの背中に乗っていた。


「誰だお前? この子はダイフクじゃないぞ。フェンリルだ」


「フェンリル? 違うよ? この子はダイフクだよ?」


「なんだと! この聖女様に逆らうのか!」


「リサ! 宿屋の中で騒ぐんじゃない! お客さんに迷惑だろ! って目を覚ましたのかい。えっと、ドーラちゃんだったかい? すまないねえ。娘のリサがあんたの連れで遊んじゃってね。聖女様ごっこらしいよ。まったく、都会なら学校に通っている子もいる年齢だって言うのに、この子は何時まで経っても子供なんだから困ったものだよ。ああ、どうせ私のことは覚えていないだろ? あんた、死にそうな顔をして宿屋に来たからね。私はこの宿の主、マームさ。よろしくね」


「子供じゃない! 聖女様だ!」


 リサは両手を振り上げて怒っている。


「遊んであげてたんだ。偉いねダイフク」


「ワン」


 ダイフクは尻尾を振って嬉しそうだ


「へー、ずいぶんと賢い犬だね。言葉も理解してるみたいだし、もしかしてあんたテイマーかい?」


「いえ、違いま…… そうです、私はテイマーです」


(よく考えたら、普通の子供が犬と会話をしてるのは不自然だよね。都合よく勘違いをしてくれたし、この街に滞在たいざいしている間はテイマーって事にしておこう)


 マームは興味深そうにドーラのことを見ている。


「ふーん、なるほどねえ…… もしかして、この街へは冒険者になりに来たのかい? この街は鉱山に近い土地柄で、武器や防具といった装備品が安く手に入るからね。それを目的にして、あんたみたいな駆け出しの冒険者がうちの宿にもよく来るよ」


(冒険者か…… 駆け出しが多いのなら私でもやれるかな? しばらくはこの街に滞在する予定だし、お金を稼ぐのにはちょうど良いのかも知れない。働かないと騎士団からもらった報酬なんて、すぐに無くなっちゃうからね。借金生活だけはしちゃ駄目だって、父もよく言っていたしな)


「よし、フェンリル! パトロールに行くぞ!」


 リサが宿屋の出口を指差した。


「ワン?」


「馬鹿なこと言ってんじゃないよ! もうすぐ日が暮れる時間じゃないか!」


「大丈夫だ、夕御飯までには帰ってくる。いて、いててて」


 マームはリサの首根っこを掴んで睨みつけている。


(んー、日が沈むまではまだ時間はあるし、リサちゃんに道案内を頼もうかな? そんなに大きな街じゃないし、夕御飯までには帰ってこれるよね)


「リサちゃんだっけ? それなら冒険者ギルドまで案内をしてくれないかな? 私はこの街に来たばかりで道が分からないんだ」


「ふふん! いいぞ! この聖女様に任せるのだ。お前は才能がありそうだから、きっといい冒険者になれるぞ!」


「はあ、馬鹿の相手をさせてすまないね。夕御飯の準備はしておくから、あまり遅くならないうちに帰って来ておくれよ」


「わかりました。ダイフクは、リサちゃんが落っこちないように気を付けて歩いてね」


「ワン」


「ダイフクじゃない! フェンリルだ!」


「はいはい、わかりました。それじゃあ行ってきます」


 ドーラは宿屋を出ると、リサに案内をされながら冒険者ギルドへと向かった。

 ダイフクの背中に乗ったリサの姿を見て、すれ違う街の住人は楽しそうに笑っている。


「おや? リサちゃん、今日はずいぶんといさましい姿だな」


「リサじゃない! 聖女様だ!」


「ははは、それは凄い。この街に聖女様が居るなんてビックリしたよ。今度クエストで怪我をした時には、是非とも聖女様に治療を頼むとしよう」


 どうやらリサは顔が広いらしい。

 駆け出し冒険者が集まる街の宿屋の娘と言うこともあり、マームにお世話になった冒険者も多いのだろう。

 すれ違う街の住民の皆が、リサのことを気にかけているようだ。

 冒険者ギルドは宿屋からさほど遠くなかった。

 宿屋を出てから大通りを数分歩いていくと、ドーラの視界に目的の冒険者ギルドが見えて来る。


「ついたぞ。この時間はクエストから帰ってきた冒険者で人は多いが、混んでいるのはクエストの受付だけだ。一般の受付は逆に空いてるから、冒険者登録をするなら問題ないぞ」


「ありがとう。リサちゃんは詳しいね」


「リサじゃない! 聖女様だ!」


「そうだね、ありがとうね聖女様」


 満面の笑みで満足そうにしているリサの頭を優しくでながら、ドーラは冒険者ギルドの中へと入っていった。

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