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第13話 聖女の帰還

 団長のベッジの怪我を治療した後、ドーラは大テントに案内をされて他の団員の治療をしていた。

 先ほどは祈りがないことでカリウスに不信感を与えてしまったので、ドーラは今回の治療中では下を向いてブツブツと祈りを捧げているふりをしている。

 しかし、思いのほか怪我人の数が多く、ドーラはすぐに治療に飽きてしまったようだ。

 昨夜は寝ていないと言うこともあり、ドーラは睡魔に襲われて頭を上下に激しく揺らしている。

 最早、祈りの真似をするどころか、単純作業をこなすかのようにドーラは淡々《たんたん》と怪我人の治療をこなしていくのであった。

 カリウスは勿論、その場にいる団員全員は、そのあり得ない光景に言葉を失っているようだ。


「ふう、これで全員終わりか」


 なんとも言えないその場の空気を気にも留めず、ドーラは満足そうにやりきった顔をしている。


「あ、ああ…… お疲れ様…… たった一人でこれだけ大勢の怪我人の治療をおこなったのだ。体への負担も相当なものがあっただろう。体調の方は大丈夫かい? 疲れてはいないかい?」


(やっぱり疑われてるのかな? カリウスさんや他の団員の人達が、なんかそわそわしている。これは早めにここを離れた方がよさそうだな)


「えっと、大丈夫です。あの…… それでお金なんですが……」


「勿論、報酬は弾まさせてもらうよ。ついてきてくれ」


 ドーラはカリウスに案内をされ、別のテントへと移動をした。

 テントの中は雑然ざつぜんとしており、ここまでの騎士団の余裕のなさが感じられる。

 カリウスは貴重品が入っている頑丈そうな箱から袋を取り出した。


「ドーラには申し訳ないが、今すぐに払える報酬はこの金額になる。しかし、これだけ大人数の治療をおこなったのだ。特に重傷だった団長の治療報酬を加味かみすると、この金額ではまだまだ少ないだろう。ドーラは旅をしているのだよね? もし旅の途中で王都へ寄ることがあるのなら、その時はぜひ騎士団を訪ねてくれ。残りの報酬だけでなく、きっと王からの褒美もあるだろう」


 ドーラは渡された袋の中身を確認した。

 袋の中には金貨20枚ほどが入っている。


(この国の金貨の価値は分からないけど、魔族領だと金貨20枚もあれば私一人なら一年は暮らしていける。まあ、当面の資金はこれで何とかなるかな。王都に行けばさらに報酬をもらえるみたいだけど、王様から褒美をもらうのは後々面倒くさそうだしあまり気がすすまないな……)


「ありがとうございます。これで旅が続けられます」


 ざわざわ


 何やらテントの外が騒がしくなっているようだ。

 団員の一人が慌てた様子でドーラのいるテントへと入って来る。


「カリウス副団長! ベッジ団長が目を覚ましました!」


「本当か! 分かったすぐに行く! ドーラはここで少し待っていてもらえないか? 目覚めた団長からもきっと感謝の言葉があるだろう」


「わかりました」


 カリウスは大急ぎでベッジのいるテントに走っていった。


「んー、気になるからスコープワームで団長さんの様子を覗いておこう。まだ夜明け前だけど、団長さんに挨拶をしたらすぐにアダマスの街へ向かいたいな。あまり長くここに居ると、ボロが出て神官じゃないのがバレちゃいそうだしね。街まではまだ距離があるけど、ここからは歩いて行こうか。ダイフクに乗る方が移動は早いんだけど、振動が凄くてまた気持ち悪くなりそうだし」


「ワン……」


 ダイフクは尻尾をらして残念そうにしている。


 __ベッジは夢を見ていた。

 暗い海の底に沈んでいく様な感覚の中、自身の体から魔素が消えて無くなるのを実感する。

 おそらく、自分はこのまま死んでいくのだろう。

 ベッジがそう覚悟をした次の瞬間、自身の体に魔素とは違う白くて暖かい何かが流れ込んでくる。

 遠くで何かが光っている。

 なんて美しい光だろう。

 もっとあの光に近付きたい。

 ベッジはその光に手を伸ばし、そして目を覚ました。


「いったい…… 何があったのだ? 確か私はあの時、ドルビィを名乗る男に体をつらぬかれて……」


 ベッジはドルビィに貫かれた腹部を両手で確認する。


「傷が治っている? それに今見た夢は……」


「団長! 無事ですか!?」


 息を切らせながらカリウスがテントの中へと入ってくる。


「カリウスか。いったい何があったのだ? 何故、俺は生きている?」


 状況を把握はあくできていないベッジに、カリウスがここまでの経緯を説明する。


「なるほど、そんな事があったのか…… それで…… その少女は今どこに?」


「別のテントで待機をしてもらっています」


「ふむ…… たった一人で…… いや護衛の犬とやらが一緒なのか。それでも、街を離れれば魔物に出会うことも少なくないと言うのに、犬一匹しか連れずに少女が旅をするか…… 祈り無しでの大神官を越える治療の力…… 《《名》》は名乗ってはいたのだな?」


「はい、ドーラと名乗っていました」


「《《名》》はある…… 白い髪の少女に白い毛の犬…… いや、そもそも普通の神官に祈り無しでの治療など不可能だ」


 ベッジには思い当たるふしがあった。

 この場にいる全員も同じ事を想像していた。

 しかし、それは神話上の存在である。

 実在はしていたが300年も昔の存在である。

 聖属性の魔法……

 祈りによって聖女の力を借りるのではなく、直接その力の行使を行う魔法……

 聖女とその使徒にのみ扱える力である。


「魔神の眷族の出現…… なるほど、そう考えると辻褄つじつまは合うな……」


 ベッジはベッドの脇に立て掛けてあった剣を抜き、刀身に映る白く変化した自身の髪を見つめた。


「……ここで考えていてもらちが明かない。まずはその少女に会ってみるとしよう。カリウス、少女の所に案内をしてくれ」


「はい」


(あ、これ完全に疑われてる)


 スコープワームでその様子を観察していたドーラがあせりの表情を見せる。


(魔神の眷族がとか辻褄がとか言ってたな。もしかして私は魔神の仲間だと疑われてる? って剣を抜いて何をするつもり? まさか、私のことを討伐する流れ? んー、これはあれだ…… 逃げよう)


 ドーラはディメンションワームで監視に使っていたスコープワームを回収した。


「逃げるよダイフク」


「ワン」


 ドーラとダイフクは急いでテントの外へと出た。

 遠くからベッジが歩いて来る姿が見える。


「あ、こっちに気付いて走ってきた」


 ドーラはダイフクにまたがった。


「ダイフク! 逃げろ!」


「ワン」


 ピュー


 砂煙を巻き上げながら、ドーラは暗闇の中へと姿を消していった。

 突然の出来事に呆気に取られたベッジは立ち尽くしている。


「な、何てスピードなんだ…… やはり間違いない! 聖獣フェンリルに乗って大地を疾走する! まさに神話に語られるお姿そのものだ! 聖女様がお戻りになられたのだ!」


 完全に間違いである。


 暗闇を前にして興奮しているベッジの元にカリウスが駆けつけてきた。


「カリウス! 急いで王都に戻るぞ! 一刻も早く聖女様の帰還きかんを報告しなければ!」


 ドサッ


 カリウスは膝から崩れ落ちる。


「ああ…… ド、ドーラたん…… い、行かないで……」


「カ、カリウス?」


 カリウスはロリコンになっていた。

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