第12話 ミミズ少女の作戦
「き、君が治療をしたのかい?」
「はい、そうです」
(よし、作戦大成功! ほんのちょっとだけ、耳からスレイブワームを入れて体液を流し込む。これくらいの怪我なら一瞬で治癒が出来たな。思った通りに、少量のワームの体液なら髪の毛の色も変わらなかった。なんか、一瞬だけスレイブワームに思考を誘導されちゃってたみたいだけど、すぐに抜いたから思考を操られていた事もバレてなさそう。名付けて…… 先っちょだけなら入れてもセーフ作戦! ふひひひ、天才の発想だね)
ちなみに先ほどのカリウスがドーラに抱いた好意的な感情は、スレイブワームによりドーラに対して好意的になるよう思考を誘導されたためである。
彼の名誉の為に、敢えてもう一度言おう。
カリウスはロリコンではない。
「もしかして、君は神官見習いなのか?」
「え? 違いま…… そうです。私は神官見習いです」
(よく考えたら、普通の人に怪我の治療とか出来ないよな。どうやら勘違いをしてるみたいだし、この際、神官のふりをしてごり押ししよう)
「い、祈りは?」
「はい?」
「聖女様の力を借りるためには、天に祈りを捧げる必要があるだろ?」
(え? 神官の治療って祈りがいるの? 神官のことなんて詳しくないから、そんなの知らないよ? まずい、疑われてる……)
「い、祈りましたよ。やだなー、気付かなかったんですか? ちょっと、動きが速すぎたかなあ。ふひひひ…… オエー」
(ヤバい…… ようやく落ち着いてきたのに、また吐き気が……)
「そ、そうか。君の名前を聞いても良いかな?」
「ド、ドーラと言います」
「私はカリウスだ。街から離れたこんな場所で、ドーラはいったい何をしているんだい?」
「えっと、旅の途中です。偶然近くを通りかかったのですが、何やら怪我人が多そうだったので声をかけました」
「旅の途中? なるほど。修行中の神官見習いは、色々な街を巡って聖女様への信仰を高めると聞くな。しかし、君のような幼い少女が一人でと言う事例は聞いたことがない」
「ダ、ダイフクも一緒です! 強いんですよこの子!」
「ワン」
ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。
「ダイフク? 見たところ普通の犬のようだが…… この犬が君の護衛をしているのか?」
(ヤバい! 完全に不審がられてる! 疑念を持たれたら駄目だ。とにかく強引に話を進めよう)
「えっと…… ここに来たのにはお願いがありまして…… 実は旅の途中で財布を失くしてしまい少し困っているんです。他の怪我人の方の治療もするので、出来ればお金を少しだけいただけないかと……」
「怪我人の治療を? うーん、それはとても助かるのだが……」
カリウスは戸惑っていた。
はっきり言って普段の彼なら、少女の言うことは何一つ信用しないだろう。
だが、先ほどドーラに頬を触れられた時、カリウスはほんの一瞬だがこの少女のことを愛おしいと感じてしまったのだ。
そういった趣味は持っていないカリウスであったが、あの時この少女の為になら命を投げ出しても良いとさえ思ってしまったのだ。
それ故に、カリウスはこの少女のことを疑えない。
疑いたくないと思っている。
カリウスは考えた……
もしかしたら、自分はロリコンだったんじゃないかと。
この日この時、新しい扉が開いたんじゃないかと。
「カリウスさん? どうしたんですか?」
「え? あ、ああ…… すまない、少し考え事をしていた。怪我人の治療だったね。もちろん、治療への対価はちゃんと払う。団の皆を助けてくれ、ドーラ」
「はい、よろこんで」
自身の感情の変化に戸惑うカリウスであったが、一旦その事は心に仕舞い団員の治療を優先するのであった。
契約が成立したドーラは、団長のベッジが眠るテントへと案内をされる。
「……団長のベッジだ。はっきり言って重傷だ。本来であれば、急いで王都にある大神殿へと連れていき、大神官に治療を頼まなければならないほどの危険な状態だろう…… しかし、一刻を争う状況だというのに、我々は足となる騎馬を失ってしまったのだ。団長には時間がない。このままの状態が続けば、王都へと帰還することは厳しいと思う…… どうだ? 治療は出来そうか?」
(さっきテントに運ばれてた人だな。遠くから見てはいたけど、これは想像以上に怪我の具合が酷いな。と言うか、体に穴が空いている。生きているのが奇跡に思える状態だな)
「さすがに、これはちょっと……」
「……いや、すまない。神官見習いに頼むには難しいと分かっていた。無理を言って悪かったな。団長の事は気にせず、他の団員の治療を優先してくれ」
(んー、怪我を治すこと自体は簡単なんだけどな…… でも、これは先っちょだけでなく、完全に奥まで挿入しないと無理そう……)
ドーラは悩んでいた。
そして、すぐさま結論にたどり着く。
(ま、バレなきゃ良いよね)
ドーラは深く考えるのが苦手なのである。
「カリウスさん。少しの間だけテントの外に出ていてもらってもいいですか?」
「治せるのか!?」
「はい。ただ、集中力が必要なので、出来れば一人にしてもらいたいのですが」
「分かった! 少しでも可能性がるのなら、君に全てを任せよう!」
カリウスはドーラに深く頭を下げ、テントの外へと移動をする。
「ダイフクは誰も中に入ってこないように、入り口の前で見張っててくれるかな?」
「ワン」
ダイフクは返事をすると、テントの外に出て入り口の前に座りこむ。
「よし、これなら万が一にもワームを見られる心配はないよね」
ドーラは指先からスレイブワームを出した。
長く伸びたそれをベッジの耳に近付けると、体をうねらせながら頭の奥へと入っていった。
「よし、完全に奥まで入った。後はワームの白い体液がこの人の体の隅々《すみずみ》まで流れるのを待つだけ。眠っているから思考誘導や意思共有も気付かれないよね」
ほどなくして、ベッジの髪の色が黒から白へと変化をした。
ぽっかりと空いていた体の穴も綺麗に塞がり、その顔色にも生気が満ち溢れている。
生まれたばかりの赤子のように、艶々《つやつや》として珠のような肌だ。
「んー、やっぱり髪の毛が白くなっちゃった。まあ、ストレスとかで髪が白くなることもあるって本で読んだことあるし、これくらなら別に怪しまれないよね。ワームの体液で身体強化もされちゃってるけど、死の淵から甦った謎のパワーとか適当な言い訳で誤魔化せばいいか。時間が経てばワームの体液も薄まって、たぶん元通りの状態に戻るよね」
ドーラはポジティブな性格なので、常に良い方向へと物事を考えるのであった。
治療の終わったベッジの耳からワームの回収をして、ドーラはテントの外で待つカリウスへと報告をする。
「お待たせしました。治療が終わりましたよ」
「はひ? も、もう?」
カリウスは変な声を出した。
慌ててテントの中にカリウスが入ると、そこには穏やかな表情で寝ているベッジがいた。
ベッジの髪は白く変化をしているが、呼吸も安定しており、少し前まで生死を彷徨っていたとは思えない様子である。
「き、傷は? 体に空いた穴は?」
カリウスがベッジの腹部に視線を移すと、ポッカリと空いていた穴が綺麗さっぱりと塞がっていた。
「な、なんだと…… 大神官であったとしても、治療には丸一日の祈りを捧げる必要があるほどの重傷だったんだぞ……」
(しまった…… 外に出るのがちょっと早すぎたかな? 普通の神官の治療とか良く分からないんだよな…… こうなったら、カリウスさんの疑念は勢いで誤魔化そう!)
「い、いやあ…… 今日の祈りは絶好調だったなあ…… ふひひひ(笑)」
カリウスは小さな声で呟いた。
「奇跡だ……」




