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第120話 主役の到着

 シュー


 崩壊を仕掛けていたドルビィの体の再生が完了した。

 詠唱中であった儀式魔法は中断されたようで、展開されていた魔法陣も消えており、悪魔の岩山を覆っていた結界も無くなっている。


「……どうやら、私は聖属性の攻撃を受けたようですね。どの様にしてライムさんが聖属性魔法の術式を知ったのかは分かりませんが、私を倒せる魔法がないと言うライムさんの言葉で油断をしてしまいました…… いえ、油断などと言ってはライムさんに失礼ですね。ライムさんは本当に戦いが上手い。心から尊敬をしますよ…… ん? ライムさんの姿が見当たりませんが……」


 周囲を見渡しながら、ドルビィは不思議そうに首を傾げている。


「……ライムなら全裸で砂漠の中を走って行きおったぞ」


 呆れたような表情をしながらミーシャが答えた。


「ぜ、全裸でですか?」


「せやで、何を恥ずかしがっているんやろうな? この場にいる全員が裸でいるっちゅうのに。むしろ、服を着ていたライムはんの方が少数派やないけ」


 確かにリリスの言う通りではあるが、この場に残っている三人は皆本来の姿から変わっているので、ありのままの自分を見られたライムと比べては可哀想である。


「……状況が理解できませんね。ライムさんは戦いの最中なのに、服を脱ぎ捨てて何処かに走っていったのですか? 行動がまったく読めない…… ライムさん、本当に恐ろしい方です…… ですが、居なくなってしまったのでは仕方がありませんね。勝ち逃げをされたようで悔しいですが、今は気持ちを切り替えるとしましょう。どうしますか? ライムさんと比べると見劣りをしますが、次はミーシャさんが私と戦うのですか? そうですね、なんならリリスさんも一緒に戦っても構いませんよ?」


「……そうやな、うちも力になるで! ドルビィはんと一緒にミーシャ様を倒したるで!」


 いつの間にかリリスはドルビィの足元に移動をしていた。


「こらリリス! 貴様裏切るつもりか!」


「はあ? 何を言うてんねん。始めからうちは、どっちの味方でもあらへんで。いきなり呼び出されて、何で戦っているのかも良く分からんのや。うちはただ勝ち馬に乗るだけや。それに、ミーシャ様は魔素を失っていて、めちゃめちゃ弱体化をしてるみたいやんけ。そんなしょうもない魔素で怒っても、全然怖くなんかあらへんで。ドルビィはん、遠慮しないで殺っちゃってええでえ」


「……」


 リリスのあまりの節操の無さに、ドルビィはあきれ果てた顔をしている。


「く、リリスの癖に調子にのりよって…… 力を取り戻したらお仕置きをしてやるのじゃ……」


「クックック、惨めですねえ。弱いくせに人望もない。そんな雑魚蜥蜴のミーシャさんには、私の手に入れた真の力をお見せして差し上げましょう。そう、邪神の力をです!」


 ボコボコ


 ドルビィの腹部から6個の目が出現し、背中から6本の昆虫の足が飛び出した。


「ふむ、邪神の力を解放しても問題なく制御を出来ます…… クックック、素晴らしい! 今この時、私はこの世界で最強の力を手に入れたのです!」


「フシュー、何と言うおぞましい姿なのじゃ…… まさに邪悪の権化…… この星に…… いや、この宇宙にあってはならぬ力なのじゃ……」


 シュ


 ドルビィがおもむろに1本の足を振り下ろすと、斬撃は衝撃波となってドラゴン形態のミーシャの足を切断する。


 ブシュー


「があ! 我の足が!」


「痛いですか? 軽く足を振っただけなのですがね。エレメンタルドラゴンは殺しても何度でも甦りますので、時間をかけてゆっくりと苦痛を与えていきますよ」


 シュ


 再び振り下ろされた斬撃がミーシャの翼を切断する。


「ぐっ…… 我の鱗をこうも易々と…… じゃが、我もやられてばかりではないぞ!」


 ミーシャは大きく口を開いて、全力のブレス攻撃を撃ち出した。


 シャー


 ドルビィは口から無数の糸を吐き出すと、自身とリリスの周りをその糸で囲った。


 ドカーン


 ブレスの衝撃でドルビィの後方の岩山が大きく破壊されている。

 しかし、糸の結界によって守られたドルビィとリリスには、ミーシャのブレス攻撃は届いていないようだ。


「この程度の攻撃などは防御をする必要もないのですが、依り代の体のリリスさんでは一瞬で燃え尽きてしまいますからね。リリスさん大丈夫ですか?」


「ドルビィはん…… 見た目はキモいけど、あんたええ奴やな…… それに比べて、うちにまで攻撃をしてくるミーシャ様は酷いドラゴンやでえ」


「邪悪の力に屈したお主になど言われとうないわ! 己の保身ばかり考えておらずに、この星の精霊ならこの星のために戦うのじゃ!」


「やれやれ、あんな愚か者の言葉など聞く必要はありませんよリリスさん。そもそも、私はこの星をどうこうするつもりなどありません。私の目的はただ一つ、再びドーラさんと会うことだけです」


「……何故じゃ? 何故、お主はそこまでドーラに固執をするのじゃ?」


「……言いたくありません」


「言いたくないじゃと? 己の魔素を失ったお主は、賢者の悪意からも解放をされているはずじゃ! 本来のお主であれば、ドーラのような子供に危害を加えるようなことなど決してせぬじゃろう! いや、賢者の悪意は無くなろうとも、その時の記憶は叡智の仮面に記録をされている…… そうか! 分かったぞ! お主がかたくなにドーラに固執をする理由が!」


「ド、ドキッ! な、何がですか! 私にはやましい事など一切ありませんよ!」


 ドルビィは両手を突き出して明らかに動揺をしているようだ。

 その様子を見たミーシャは、確信をしたようにゆっくりと笑いだす。


「フシュ、フシュシュシュ…… どうやら図星のようじゃの…… 賢者の悪意に狂っていたお主は、ロリコンの変態不審者に成り下がっていたらしいのう。ドーラがお主と出会った時、いやらしい視線を感じたと語っておった。その時のお主の感情は、記憶として全て叡智の仮面に刻まれているはずじゃ! ズバリ! お主はドーラに惚れているのじゃ!」


 ミーシャはドルビィを指差しながら問い詰める。


「やめろー! それ以上言わないでくれー!」


 ドルビィは耳を塞ぎながら地面にうずくまった。


「フシュシュシュ、日頃から子供は守るべき対象だと偉そうに語っておったが、あろうことか、お主はその子供のドーラに恋をしたのじゃな? 自身より強い女性がいると、すぐに惚れてしまうお主の癖は相変わらずのようじゃのう。フシュ、フシュ、フシュシュ! 堕ちたのドルビィ! この変態ロリコン男が! いや、違うのう。今のお主は女性の体じゃから、ロリコン女と言うのが正しいのか。フシュシュシュ、今のお主は変態属性がてんこ盛りじゃのう! おお、そうじゃ思い出したわ! お主が我に突っ掛かってくるようになったのも、我に告白をしてフラれた後からじゃったのう。フシュシュシュ、まるで好きな子に意地悪をする思春期の子供のようじゃのう。ぎゃははは、滑稽すぎて腹がよじれるのじゃ!」


 ミーシャは大笑いしながらドラゴンの巨体で転げ回っている。


「ミーシャ様、性格悪いで…… そんなんやから、ドルビィはんに恨まれているんや……」


 ミーシャの態度にリリスがドン引きしている。

 ドルビィはゆっくりと立ち上がると、感情が消えたような目でミーシャを睨み付ける。


「……殺す」


 シャー


 ドルビィは上空に向けて、口から無数の糸を吐き出した。

 吐き出された糸は複雑に絡み合い、上空に巨大な白い剣を作り出す。


「この剣は硬いですよ。この世のあらゆる物質を切り裂く事が出来ます。邪神と魔神様の戦いの際に出来た、砂漠の裂け目を埋めるのには苦労をしましたからね。さらに、エンチャントマジック」


 ドルビィが魔法を詠唱すると白い糸の剣は黒く変色をして、その刀身からは禍々しい漆黒のオーラが漂よってくる。


「自身の体から生み出した剣と言うだけあって、大鎌デスサイスの様にとても良く魔素が馴染みますねえ。これから貴方の体を頭から真っ二つに両断します。エレメンタルドラゴンは死しても甦るがことが出来ます。ですが、死の苦しみからは決して逃げることは出来ません。さて、ドーラさんが来るまでの間、いったい貴方は何度の死を体験することになるのでしょうね?」


 ミーシャは上空に浮かぶ巨大な剣を見上げながら震えている。


「ま、待つのじゃ! いくらエレメンタルドラゴンは不死と言っても、我は痛いのは嫌なのじゃ! 頭から真っ二つになどされとうないのじゃ!」


「クックック、ゆっくりと切り裂いてさしあげますよ。肉体的苦痛と精神的苦痛を存分に堪能してください」


 ブオ


 上空からミーシャの頭めがけて、ゆっくりと漆黒の剣が振り下ろされる。

 ミーシャは足と翼を切断されているために、その場から動くことが出来ずに剣を見上げている。

 本来ドラゴンの翼は飾りで浮遊能力は特性のはずなのだが、ミーシャは混乱をしているためか回避行動が出来ないでいるようだ。


「うわあああああ!」


 ミーシャは顔をそむけながら目を閉じた。


 コツン


 悪魔の岩山に乾いた音が鳴り響く。

 何かの異変を感じたミーシャは恐る恐る目を開いた。


「お、おおおお! ようやく来おったか!」


 ミーシャの眼前に出現した黒い靄の中から、ドーラがひょっこりと頭を出している。

 ドルビィが振り下ろした剣は、ドーラの頭に当たって止まっているようだ。

 ドーラはそのままミーシャの鼻先を両手で掴むと、鬼気迫る表情で声を荒げた。


「緊急事態ですミーシャさん! お金を貸してください!」

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