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第119話 ライムの真実

 ライムから放たれた光の槍が、自動書記モードのため動くことが出来ないドルビィへと直撃する。

 眩い希望の光は一瞬でドルビィの全身を包み込み、絶望に染まったその体を分解していく。


 シュー


「よし、やっぱり聖属性の魔法が有効だった。ま、弱点が効かない存在なんて、そう滅多に居るわけがないしな。アダマスの森で出会ったあのレイスが特異な存在なんろう」


 拳を握りしめて勝利を確信しているライムのことを、ミーシャが真剣な表情で見つめている。


「……驚いたぞライムよ。聖属性とは原初の時代の魔法じゃ。長い時を経て魔素が薄くなったこの時代の者には、到底扱える術式ではないはずなのじゃ。それこそ、聖女の加護もなしに聖属性の魔法を発動するなど…… 唯一この時代で使える者がいるとすれば、法国に引きこもっている語り部のあやつくらいじゃろうな。いや、そうか…… ライムはハーフスケール族じゃったな。ハーフスケール族とは巨人族が姿を変えた種族じゃ。我々ドラゴンと同様に、巨人族もこの星の魔素から生まれた存在。たとえ何世代が過ぎようとも、その魔素は劣化をすることなく子孫へと受け継がれ続ける。しかし、聖属性の術式は遥か昔に失伝をしておるはずじゃ。語り部のあやつと接触が出来るのは、法国でもほんの一握りの権力者だけのはず。ライムよ、お主いったい誰からその術式を教わったのじゃ?」


「ああ、これか…… 今から30年ほど前の話になるが、精霊巫女の修行中にうっかり高位の精霊らしき存在を呼び出してしまったことがあるんだ。当然、修行中の私は魔素不足に陥ってしまい、危うく死にかけてしまった。何とか死ぬ直前に持っていた依り代にその精霊を移すことが出来たんだけど、殺しちゃいそうになったお詫びにってその精霊が聖属性の魔法を教えてくれたんだ」


「精霊に教わったじゃと? 何奴じゃ? 光の精霊である聖女は、今は身動きが出来ぬ状態のはず…… この星で聖属性を使える精霊など、聖女以外に我は知らぬぞ?」


「さあ? 私も何か胡散臭い奴だと感じて正体を問い詰めたんだけど、大丈夫だあって笑いながら何処かに消えてしまったんだよ」


「フシュー、事実としてライムが聖属性の魔法を教わったのじゃから、その精霊は実在をしたのじゃろうな。可能性は低いが、ひょとしたらそやつは他の星の精霊なのかもしれぬな」


「他の星の精霊だって? もしかして宇宙人か? いや、この場合は宇宙精霊ってことになるか」


「そうじゃ。この宇宙には、我々の星以外にも数多くの文明があるのじゃ。あまりにも星々の距離が離れているため、肉体を持つ我々ではその往来は不可能じゃが、最上位精霊のような高次元生命体であれば他の星への移動も可能じゃろう。ただし、意図しての移動は出来ぬがの。予期せぬ偶然などが重なった時に、希に起こりうる現象じゃ」


 ミーシャの説明を聞きながらリリスは頷いている。


「そやで、深い繋がりがある者同士は魂が引かれ逢うんやで。ライムはんは、前世でその精霊となんか関係でもあったんちゃうか? どうやら、ライムはんの魔素にはもう一つ別の魂が宿っているようやし」


「別の魂だと?」


「せや、ライムはんは転生者や。本来、魂とはその星の輪廻の輪によって循環されるんや。生物は死んで生まれ変わっても、魂は同じ星のものでリサイクルがされる。せやけど、ごく稀に星の輪廻の輪から外れて外宇宙に出てしまう魂もあるんや。今のうちとライムはんは、魔素がリンクしているから間違いないで。あんたの魂には、別の星の魂が混じっとる」


「え、マジで? 私にはもう一人の記憶なんてないぞ?」


「当たり前や、記憶とは脳に刻まれる情報なんや。生まれ変わって別の体になれば、過去の記憶も無くなるに決まってるで」


「そうなのか…… いきなり転生者とか言われても実感がわかないな……」


「なんや、もう一つの魂が気になるんか? しゃあないな、魂に情報の残思が残ってるかもしれへんから少し見てやるわ。ふむふむ…… なるほどね、どうやらあんたの前世は竜兵だったようや。巨大な組織のリーダーとして、元の星では大活躍をしていたらしいで」


「竜兵だと? 私の前世は、他の星のドラゴンの戦士だったのか?」


「うちに分かるのは、あんたが竜兵と呼ばれていて、周囲からも慕われていたことだけや…… ん、この術式はなんや? これは何かの加護かいな? うちは巨人族にこんな加護を与えた覚えはないで? ……もしかしたら、さっき話をしていた精霊が残したのかもしれへんな」


「あの精霊の加護だって! どんな加護を私は貰ったんだ?」


「えーっと、何々…… リアクション? とっさに表現を体で表す時、自身の行動が大袈裟になる。その際に追加効果が発生する。なんやこれ? 意味分からんわ」


「追加効果だと…… そう言えば、時々頭の上にタライが落ちてきたりするんだ…… あれってこの加護のせいだったのか…… なんてはた迷惑な加護なんだ……」


 ライムとリリスの会話を無視していたミーシャが、険しい表情で口を開く。


「くだらない話しなどしている場合ではないぞ。ドルビィが復活してきおった……」


 聖属性の攻撃により体が崩壊していると思われたドルビィであったが、崩壊は途中で止まり失われた体が再生されはじめていた。


「馬鹿な! 何で体の崩壊が止まっているんだ!」


「……確かに、邪神に対して聖属性の魔法は有効じゃ。じゃが、それだけでは駄目なのじゃ。邪神の圧倒的な回復力に対抗するには、希望と絶望を同時に与えなければならぬのじゃよ……」


「希望と絶望だと? どう言うことなんだミーシャ?」


 ライムの疑問にリリスが説明をする。


「消滅魔法やな。光と闇の異なる属性を同時に与える事によって生み出す魔法や」


「消滅魔法だと? そんな魔法は聞いたことがないぞ?」


「当たり前じゃ。消滅魔法を発動できるのはこの星で二人のみ。魔神が対象に己の絶望を強制的に付与をして、それを聖女の希望の力によって強制的に浄化をする魔法なのじゃ。それゆえに、邪神を倒すのには魔神と聖女が力を合わす必要があるのじゃよ」


「魔神と聖女が協力する魔法って…… 今のこの状況では不可能じゃないか……」


「く、ドーラは何処で何をしておるのじゃ…… 悔しいが、ドルビィの言っていた通りなのじゃ…… 今のこの世界で、奴に対抗を出来るのはドーラしかおらぬ……」


 重苦しい空気がその場に流れる。

 そうこうしている間にも、ドルビィの体は再生を続けていた。

 絶望をしている二人を見ながら、リリスが不思議そうな顔をして口を開いた。


「なあ、戦いが始まってから疑問やったんやけど、何でライムはんは本気を出して戦わんのや? ドルビィはんに勝てるかどうかは別として、ライムはんが本気を出さないのには、何か理由でもあるんか?」


 リリスの発言にライムは困惑した表情で答える。


「……何を言っているんだリリスちゃん? 私はずっと本気で戦っているぞ?」


「それは今の姿での本気やろ? 本来の巨人族の姿に戻れば、肉体も魔素も今の何十倍もの強さになるやろ?」


「は? 巨人に戻るって、いったい何を言っているんだ? リリスちゃんは私たちハーフスケール族に、人族の子供の姿のままになる呪いの術式を刻んだんだろ?」


 リリスは人形の体で跳び跳ねながら、ライムへ怒りの声をあげている。


「はあ? 呪いの術式って、あんた何を言うとんねん! うちは巨人族が人族の姿にも変われる、肉体活性の術式を刻んだんやで…… って、あれ? ちょ、ちょいまち…… あ、これって術式が一方通行になってんやないか…… うち術式を刻みを間違えてたみたいやで…… てへぺろ」


 人形の体であるリリスは、存在しない謎の舌を出しててへぺろをしている。


「ま、間違えただと?」


「当たり前やないか。何でうちがそない嫌がらせをせなあかんねん。うちは全ての生命に希望を与える最強のアイドルやで?」


「ま、待ってくてれ…… そ、それじゃあ術式の修正すれば、ハーフスケール族は元の巨人族の姿に戻れるのか?」


「せやで。ほんなら、今からライムはんの術式を修正してやるわ。ちいと待ちいや」


 カチ


 リリスがライムの体に手を当てると、ライムは体の中で歯車が噛み合うような不思議な感覚を覚えた。


「お、おお…… 何か分かるぞ…… 一週間ぶりに便秘が治ったような爽快な感覚がする……」


 ライムとリリスの会話を無視していたミーシャが、険しい表情で口を開く。


「ドルビィの再生が終わるぞ! ライムよ! 巨人族に戻れるようになったのなら、急いでその力を解放するのじゃ!」


「え、わ、分かった! よく分かんないけど、おりゃあ!!!」


 ライムは拳を振り上げながら適当に気合いを入れてみた。


 ズズズズズズ


 ライムの気合いに呼応して、みるみるうちにライムの体は巨大化をしていく。

 その体は今までの数十倍ほどに巨大化をして、悪魔の岩山麓の街からでも、ライムの全身が確認できるほどの大きさだった。

 当然であるが、体が大きくなったことによって、ライムが着ていた服と装備は全て弾け飛んでいた。

 突如として現れた巨人の姿を見て、ダークエルフの里は大騒ぎになっている。


「な、何だあれは! 悪魔の岩山頂上に巨人があらわれたぞ!」


「きゃー! あの巨人の女性って服を着てないわよ! エッチー」


「あれ? もしかして、あれって精霊巫女じゃないか? な、なんて大きさだ…… とんでもないおっぱいの大きさだ!」


 ダークエルフの里で起こっている騒ぎに、悪魔の岩山頂上で全裸で仁王立ちしているライムも気がついた。


「え、ちょっと待って…… わ、私、裸になってるじゃないか!」


 ライムは慌てて大事な部分を両手で隠している。


「そらそうやで。服まで巨大化するなんて都合のいい話はあらへんでえ」 


 現実的なリリスの言葉に続けて、ミーシャもフォローになっていない擁護をライムに送る。


「ライムよ、些細なことなど気にするでない! リリスの体を奪ったドルビィも全裸で戦っておっただろう! 我だって、大事な部分は鱗で隠しているが、実質いつもスッポンポンで暮らしているのじゃ! むしろ、何も着ていない方が爽快感があって気分がよいのじゃ!」


 ライムは顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。


「う……」


「う?」


「う…… 訴えてやる!」


 ライムは悪魔の岩山頂上からダークエルフの里の外にある砂漠地帯へと飛び降りた。


 ドーン


 ドスーン、ドスーン、ドスーン


 ライムは砂煙を巻き上げながら、砂漠地帯の奥へと姿を消していった。

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