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第117話 ライムvsドルビィ

 トン


 ドルビィは悪魔の岩山頂上へと降り立って周囲を見渡した。


「……ムロさんは魔素不足で眠っているだけの様子ですね。ここまで協力してくれたことに心から感謝をしますよ。全てが終わった暁には、約束の術式を刻んでさしあげますので、今はゆっくりと眠っていて下さい。さてと……」


 ドルビィはラトを抱き抱えているライムへと顔を向ける。


「ライムさんですね? はじめに言っておきますが、貴方では私には敵いません。当然、そこで不様に鼻を鳴らしている蜥蜴風情も同様です。ドーラさんを呼んでください。私の目的は彼女だけです」


「ド、ドルビィ! 誰が蜥蜴じ…… ぶ、ぶひ!」


 ドルビィに飛び掛かろうとしたミーシャの首根っこをライムは片手で締め上げる。


「ミーシャは大人しくしていろ。お前とドルビィの間に因縁があるのは聞いているが、今のお前は自身の魔素を失って弱体化しているんだろ? まあ、ミーシャに本来の力があったとしてもあれは無理だろうがな。まいったね…… こんな化け物が現れるなんて聞いてないよ……」


「ライムさんは聡明な方の様ですね。貴方のような人物にはとても好感を持てます」


「そいつはどうも…… だが、お前とラトは家族みたいな関係だと聞いているぞ? その家族に対して、これは少しやりすぎじゃないのか?」


 ライムは腕の中で意識を失くしているラトに視線を落とす。


「これは家族からの躾ですよ。私は心から家族の事を愛しているのです。それに、この程度の攻撃で死ぬことがないのは、あの犬コロで体験をしていますのでね。むしろ、半端な攻撃では今のラトさんを止めることは出来なかったでしょう」


「ま、よそ様の家族関係に口を出すのは止めておこう。一般人には理解ができない家族構成のようだしな。だが、ドーラを呼べと言うお前の言葉には従えないな」


「……何故です?」


「お前の意見に従うのが気に入らないからだ。お前とラトの付き合いに比べれば遥かに短いが、私はラトのことを仲間だと思っている。仲間が傷つけられたというのに黙っていられるか。お前がドーラに害をなす存在というのなら尚更だ。何があろうとも私はあいつの事を裏切らない」


「ドーラさんの眷族となったことにより、心が支配をされてしまったのですか?」


「さあ、どうだろうな。ただ、ドーラはとんでもなく常識知らずな奴なんだよ。大人の私たちが正しい方向に導いてやらないと駄目なんだ。だから、お前の相手は私がしてやる。そもそも、私からドーラに連絡をする手段もないしな。もうすぐ日が暮れる。あいつがダークエルフの里に戻って来る前に、私がお前のことを倒しておくとしよう。ミーシャは邪魔だから離れて見ていろ」


 ライムはミーシャを後方へと放り投げた。

 ミーシャは家畜のように鼻を鳴らしながら地面を転がっていく。


「ぶひ! ば、馬鹿な事を申すでないライムよ! お主がドーラから力を授かったと言うても、今のドルビィの力は人知を越えた神の領域じゃ! 恐ろしい邪神の力に加えて、最上位精霊に匹敵する魔素を宿した体を手に入れたのじゃぞ! お主一人で勝てるわけがなかろ! 我も一緒に戦うぞ! ドルビィと戦うために我はここにいるのじゃ!」


「ミーシャ様、私も戦います! たとえドルビィ様が相手であろうと、ラトお嬢様をお守りするのがカーラング家に使える者の責務です!」


 自らを鼓舞するかのように声を上げる二人であったが、その体は小刻みに震えていた。

 そんな二人に顔を向けながらライムは笑っている。


「無理をするな。そんな状態では二人ともまともに戦えないだろ? 中途半端な戦力は邪魔なだけだ。カムジはラトを連れて里の宿屋に避難していろ。主の事を思うのならば、何が最善かを間違えるなよ? あ、そうだ。ムロのことも頼んでいいか? 観光地で騒ぎを起こしといて、このまま見逃すわけにはいかないからな。この様子であれば拘束する必要はなさそうだし、宿屋のベットにでも寝かしておいてくれ」


「わ、我が戦力外じゃと……」


「分かりました…… ライムさんもご武運を」


 反論を出来ないミーシャの横を、カムジはラトとムロを肩に担いで山道へと走っていった。


「……ライムさん。貴方のような人物と敵対しなければならないのはとても残念です。安心をしてください。貴方を殺すまではしません。ドーラさんが助けに来るまでの間、少しばかり苦しんでもらいます」


 戦闘態勢を取ったドルビィに対して、ライムは不適な顔をしながら人差し指を立てる。


「なあ、ひとつ提案があるんだが」


「提案?」


「普通にお前と戦ったら、私なんかじゃ一瞬で倒されて終わりだ。それじゃあ、あまりにもつまらなさ過ぎるだろ? 魔術師の間でドルビィの名は有名だ。史上最強の魔術師を考える時に、真っ先に議論に上がる名だからな。だが、本当にそうなのか? 昔の人物が過大評価をされるのなんて良くあることだ。私は自分こそが最強の魔術師だと思っている。まあ、少し前に一回負けてしまったが、あの敗戦のおかげで私はさらに強くなれただろう。どうだ? ここはひとつ、私と魔法対決でもやってみないか?」


 ライムの言葉を聞いたドルビィとミーシャは、驚きを隠せない表情をしている。


「……馬鹿なことを。魔法での戦いで私に勝てる者などこの世界に存在をしません」


「フシュー、ライムよ…… 先日も言ったが、お主は自己評価が高すぎるのじゃ…… お主と今のドルビィでは、大人と子供以上に魔素の総量が違いすぎる」


 そんな二人のことを嘲笑うかのように、ライムはドルビィへの挑発を続ける。


「あれれ? もしかして怖いのか? あ、そうだったな。お前は自身の魔素を失っていたんだな。今のその大地の精霊の体では、お得意の無詠唱魔法も使えないんだろ? 魔法での勝負に自信がないのなら、尻尾を巻いて逃げてもいいんだぞ」


 あまりにも安いライムの挑発に、ドルビィは目を閉じて笑いだした。


「少しでも時間を稼ぐつもりなのでしょうが…… クックック、面白いですね。心から貴方に対して好感が湧いています。いいでしょう! 魔法による戦いでこの場の雌雄を決しましょう!」


「お、いいねえ。私もお前みたいなの嫌いじゃないぞ。どことなく、あの人に雰囲気が似ているしな。おーい、リリスちゃん。お前も危ないから私の後ろに避難をしていな」


「え? あ、ああ。わかったわ……」


 リリスは走ってライムの横を通り過ぎようとする。


「何があっても手出しは無用だぞ?」


 そう言ってライムはリリスの頭に手を置いた。


「……あ、ああ。もちろんやで。うちに奴の相手はちいーっと荷が重すぎるさかい」


 ニヤリ


 ライムはリリスに向けて軽く笑みを浮かべる。


「準備は出来ましたか? それでは始めましょうか」


 ドルビィは無造作に指を立て魔法を詠唱した。


「クアドラプルファイアボール」


「詠唱が速い! 高速化をしてるのか!?」


 ドルビィの指先から放たれた四つの火球がライムへと襲いかかる。


「く、アースウォール」


 ライムが魔法を詠唱すると、前方の地面が盛り上がり土の障壁が出現する。


 ドーン


「ぐわ!」


 火球が激突したアースウォールは砕け散り、防ぎきれなかった火球の一つがライムの肩へと直撃する。


「痛たたた…… 魔法の四重化かよ。二重化でも一部の高位の魔術師にしか出来ないんだぞ…… そんな高等技術を軽々とやってくれるね……」


 ライムは攻撃を受けた肩を押さているが、さほどダメージは受けていないようだ。


「ライムさんも中々の詠唱速度でしたよ。ただし、完全に火球を防ぐには、障壁を二枚以上にする必要がありましたね」


「簡単に言ってくれる…… 私は詠唱の高速化も無詠唱化も出来ないんだよ。それじゃ、今度はこっちの番だ!」


 ライムは両手を突き出して魔法の詠唱をする。


「ストーンバレット」


 ライムの掌から硬化された石の弾丸が発射された。


 ドン


 ドルビィはその場から動かずに、自身の掌でストーンバレットを受け止める。


「ふむ、中級魔法にしては中々の威力。よく魔素が練られています。エンチャントの硬度も申し分ありません。どうやら、ライムさんは土系の魔法が得意の様ですね。ですが、もっと高位の魔法でないと私にかすり傷すら与えられませんよ?」


「それならこれはどうだ! ストーンスラスト!」


 ライムが魔法を詠唱すると、ドルビィの足元から無数の石の棘が突き上がる。


「フライ」


 ドルビィは詠唱を高速化した飛行魔法を発動して、上空へと飛び上がって回避をする。


「まだだ! ショット!」


 ライムが指を鳴らすと、地面から突き出した石の棘が上空のドルビィへと発射された。


「ほう、面白い攻撃ですね。ウインドカッター」


 ドドドド


 風の刃が襲いかかる石の棘を全て相殺した。


「くそ、詠唱が早すぎて先手を取っても対応をされてしまう」


「クックック。いやいや、中々工夫をされた良い攻撃でしたよ」


「ふん、当たらなければ意味がない。それじゃあ、もう少し工夫をしてみようかね」


 ライムは再び魔法を詠唱する。


「またストーンバレットですか? その程度の魔法では私に通じないと先程お見せしたはずですが」


「ストーンバレット!」


 ドルビィは先程と同様に、片手を突き出してストーンバレットを受け止めようとした。

 その直後、ドルビィは自分の体に巨大な影が差したことを察知して上空を見上げる。


「は?」


 空を見上げたドルビィの眼前には、巨大な岩石が迫ってきていた。


 ドーン


 ドルビィは落下してきた岩石に押し潰されながら、悪魔の岩山頂上へと衝突をする。


「よっしゃ、ようやく攻撃が当たった」


 ドルビィは岩を持ち上げながらゆっくりと立ち上がる。


「どう言うことですか? これは上位魔法のロックプレスです。間違いなく、先程ライムさんが詠唱した魔法はストーンバレットでした。いったい何をしたのですか?」


「さて、何でだろうね? 種を聞かれて素直に答える馬鹿がいると思うか? この戦いでお前には何もさせない。最後までずっと私のターンだ」


「クックック、面白い…… ライムさん、ますます貴方の事が気に入りましたよ」

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