第116話 復活のドルビィ
シュ
転移魔法を発動したリリスは、自身の体が保管されている悪魔の岩山内部にある部屋へと姿を現した。
「ぷはあ…… はあ、はあ…… ミ、ミーシャ様に逆らってもうたわ…… その場の勢いと言うても、こうなったら後戻りは出来へんで…… 大体、うちがここまでする必要はあったんか? あいつらは何がしたくて何で争ってんねん。ほんま勢いって怖いわあ…… まあ、ええわ。せっかくの機会だし、うちの武勇伝として精霊新潮にでも記事を書かせて、精霊界でのうちの好感度を上げたるわ。えっと、この仮面をうちの体に被せるんやったな。確かに、うちの体ならばミーシャ様にも対抗が出来る力はあるけど、アダム様とミーシャ様は古くから友好関係にあるんや。おい、仮面の中の人! あんたはアダム様の眷族らしいけど、その辺のフォローはきっちりと頼むでえ!」
ブーン
リリスの言葉に答えるように、叡智の仮面は僅かな光を放つ。
「ほんま大丈夫かいな…… まあ、ええわ。えっと、うちの体は何処かいな」
リリスは部屋の奥にひっそりと立つ自身の体を見つける。
「あったあった…… って…… なんやこれ! うちの体の中に邪神が寄生してるやないか!」
リリスは自身の体を見上げながら立ち尽くしている。
「……どうなってるんや? なんで邪神は動いてへんのや? よく考えたら、うち今の状況とか全然説明されてないんやけど? どういう状況? これに仮面を被せてほんまに大丈夫なんか?」
ブーン
再び叡智の仮面が光を放つ。
「せやかて、これ最悪級にヤバい状態やないか。邪神は寄生した者の強さによってその脅威度も変わる。ただの一般人に寄生をしたとしても、アダム様とメンヘラ地雷系女のイブとの二人がかりでないと対処が出来へんのやで。そんな邪神がうちの体に寄生している? ユグドラシルの集めた魔素を利用して作った、最上位精霊に匹敵する魔素を宿したこの体に?」
ブーン
「阿呆か! 出来るわけないやろ! こんなのが動き出しでもしたら、精霊界から全ての最上位精霊が地上に降りて来ても勝てへんで! あかん、駄目や。あんたには悪いが、うちはこの船から下ろさせてもらうわ。アダム様の眷族がこんな愚か者だったなんて信じられんで」
「ドルビィは頭は良いが、少し抜けている所があるのはあたいも同意をする。大地の精霊のお前が馬鹿でなくて安心をしたぞ」
「うひ!」
突然うしろから声をかけられたリリスは、驚いてその場から距離を取るようにして飛び跳ねる。
部屋の入り口にある転移陣の上には、ミーシャを取り押さえ終わったラトが立っていた。
「ふう、どうやら間に合ったようだな。おい、大人しくその叡智の仮面をこっちに渡…… あれ? 叡智の仮面はどうした?」
「……あかん、やってもうた」
飛び跳ねた勢いでリリスの手から離れた仮面が、邪神が寄生をするリリスの体の顔部分にピッタリとはまっていた。
ピカー
目も眩むような光がリリスの体から発光をする。
「クックック、ようやく自由に動かせる体を手に入れる事が出来ました。リリスさん、ここまで私を運んでくれたことに感謝しますよ」
リリスの体を手に入れたドルビィは、手を握りしめながら五感をリリスの体に馴染ませている。
ラトは険しい表情をしながらリリスの体に話しかけた。
「おい…… お前はドルビィなのか? それとも……」
「何を言っているのですか? もちろん、私は偉大なる魔神様の眷族のドルビィです。それ以外の何者だと言うのですか? それよりもラトさん…… 私はあなたがドーラさんの軍門に下っている事にとても落胆をしています。あなたは魔神様を…… 眷族の皆を裏切ったのですか?」
「ふーん、邪神が寄生をする体を奪ったのにドルビィは自我を保てるのか。そうだよな、なんの算段もなしにお前がそんなことをするわけないよな。まあ、一先ずその疑問は置いとくとして…… あたいは誰も裏切ってなんかないぞ。あたいがドーラお姉様に嫁いだ事は、アジトの皆も喜んで祝福をしてくれた」
「皆が祝福を?」
「ああ、そうだ。て言うか、お前は今まで何をしていたんだ? アジトにも全く連絡をよこさずに…… いや、お前は変わってしまった…… ユダの頼みを聞いて賢者の体に転生をしたあの時から…… だが、己の魔素を失い記憶だけの情報生命体となった今のお前なら、賢者の悪意に侵された魔素からも解放をされているはずだ。今のお前なら、とっくに気付いているんだろ?」
「……そうです、私は腐りきった賢者の魔素に魂を歪められていたのです。その為、あろうことか魔神様からの命令に逆らって、この星を再び戦乱の世へと歪めようとしていたのです」
「それなら……」
「もう遅いのですよ」
「遅い?」
「今の私には賢者の悪意はありません。この世界を戦乱の世に陥れる気もありません。ですが…… すでにあの時の記憶が、この叡智の仮面に刻まれてしまったのです」
「なんの記憶だ?」
「……いえ、なんでもありません。とにかく、ドーラさんの存在は危険なのです。今は安定をした状態でいるようですが、いつ何処で彼女が暴走するかもしれない状態なのですよ。これは私がやらなければいけない事なのです」
「お姉様が危険だと? 暴走をするかもしれないって、それはお前の主観だろ? そんな根拠のない憶測で、お前は邪神が寄生をしているその体を手に入れたのか? お前の方こそ、本当に邪神の侵食から自我を守りきれるのか? いや、守る必要がないのか…… なるほどね、そう言うことだったのか。馬鹿なあたいにも、ようやく理解が出来たぞ」
「クックック、そうです。今のこの私には、邪神に操られる魔素自体が存在をしないのです。おそらく、ドーラさんも今の私と同じような状態なのでしょう。ですが、情報生命体の私とは違い、ドーラさんには若干ですが魔素が存在をしています。事態は一刻を要するのです。私は魔神様が愛したこの星を守るため、再びドーラさんと相対しなければならないのです。ラトさん…… たとえ家族同様の貴方であっても、私の邪魔をするというのならば容赦はしませんよ?」
「お前はどんな事があっても、子供に手を上げるような奴じゃなかった。己の信念を曲げてでも、お前はお姉様と戦うのか? それがお前の選んだ道なのか?」
「いえ、違うのです…… 私はドーラさんのことを救いたいのですよ…… 話はここまでにしましょう。ラトさん…… ドーラさんとの戦いに貴方は少し邪魔ですね。全てが終わるまでの間、ゆっくりと寝ていてください」
ドカーン
悪魔の岩山頂上を突き破りながら、空高くへとラトが吹き飛ばされる。
「なんだ! 何が起こった?」
人型になったミーシャの頭を拳で締め上げながら、ライムは上空を見上げた。
ドサッ
「ラト!」
「ラトお嬢様!」
ライムとカムジは上空から落下したラトへと駆け寄る。
「う、うう……」
シュー
ラトは腹部半分を消し飛ばされていた。
どう見ても致命傷の傷であるが、傷口はブクブクと音を立てながら再生をしている。
ラトの無事を確認したライムは、頂上に出来た大穴へと顔を向ける。
「ラトがやられただと? 素の能力で超越者クラスの強さがあったラトが、そこからさらにドーラから力を与えられて負けるなんて事があるのか? 悪魔の岩山の中で何があったんだ?」
ラトが飛び出してきた大穴からリリスが這い上ってくる。
「あかん! 逃げるんや! こんなん誰にも止められんわ!」
スー
悪魔の岩山頂上に空いた大穴から、リリスの体を奪ったドルビィが姿を現した。
「ドーラさんは何処ですか?」




