第102話 邪神討伐作戦
「お前がドルビィよりも強いだと? ドルビィは魔素量が少ないけど、色々な魔術知識があるし中々にすごい奴だぞ。露出狂の変態エルフは何か取り柄はあるのか? お前の魔素も僕より小さいようだが?」
「な…… ふふ…… ま、まあ、私の力を見たことがないから、そう感じるのかも知れないのだろうね。ふははは、驚愕するといい! 魔神様の眷族になる前の私は、何を隠そうあの伝説の魔女と恐れられたト……」
ポカ
これでもかと仰け反っているエイスの顔面に、ドルビィは恐ろしく速い手刀を喰らわす。
「はあ、今は馬鹿なことをしている暇はありませんよ。端的に現状の説明をします。邪神が生まれてしまいました。不完全な状態での孵化ですが、状況は一刻を要します」
「イタタタ…… 邪神の孵化とは、それは笑えない状況だね。今の魔神様は聖女との戦いで著しく魔素を消耗されている。そもそも、魔神様が万全の状態だったとしても、邪神を滅ぼすには聖女との協力が必要不可欠だ。まったく、最悪の時代に孵化をしてくれたものだな。それで、どうするつもりなんだい? 聖女と連絡を取って、一時的な休戦を申し出でてみるかい? 到底、あちらが受け入れるとは思えないがね」
「幸いな事に、不完全な孵化による影響のため、邪神はその力を発揮できていないようです。コキュートスでの一時的な拘束にも成功をしました。邪神が再び動き出すまでの間に、魔神様が魔素の回復をすることが出来れば、我々だけで邪神を滅ぼすことも可能だと思います」
「な、なあ…… 父上はどうなるんだ? 魔神様が来たのなら、父上を救うことも出来るのだろ?」
「残念だが手遅れだね」
「エイスさん…… 言い方を考えて下さい」
非情なエイスの言葉にラトは膝から崩れ落ちた。
「僕のせいだ…… 僕が好奇心で封印の間に入ってしまったから……」
「ラトさん、それは違います。ラトさんが封印の間に足を踏み入れた段階で、すでに邪神の封印の効力は弱まっている状態でした。あのままの状態で放置をしていれば、遠からず邪神の誕生は避けれなかったでしょう。ある日突然、邪神がこの世界に解き放たれていれば、ダークエルフの里はもちろん、この世界に甚大な被害が出ていたのは自明の理です。こうして対処をする時間が与えられたことは、不幸中の幸いとも言えます。そもそも、実際に邪神の封印を解いてしまったのは、うっかり石櫃を開けてしまったギル殿です。ラトさんが気に病む必要なんて何もありませんよ」
微妙な空気が周囲を包む。
「ははは…… ま、まあ、遅かれ早かれ邪神の誕生が避けられないのであれば、ギルはその身を挺してこの世界を救った、勇敢なダークエルフとして語り継がれるんじゃないかな」
エイスの下手くそなフォローに、ドルビィは顔に手を当て目を覆っている。
「エイスさん…… 悪意が無いのは分かっていますが、貴方は少々空気が読めない節があるので、余計な発言は少し控えて下さい…… そもそも、邪神の脅威を退けられるかどうかはこれからです」
「……大丈夫だドルビィ。いまは悲しんだり後悔している余裕なんてないのは理解をしている。それで、僕たちはこれからどうするんだ?」
涙を脱ぐいながらラトは顔を上げた。
「邪神がコキュートスの拘束から抜け出したら、我々は時間を稼ぎながら悪魔の岩山頂上へと邪神を誘導します。おそらく、今の魔神様では魔法を放つのは一度が限界でしょう。その一撃で邪神を倒せることを願います」
「なんだそれ? 行き当たりばったりじゃないか。そんな作戦で、本当に邪神が倒せるのか?」
「ははは、魔神様なら必ずや邪神など滅ぼして見せるさ。そうなれば、いよいよ聖女の存在意義もなくなる。あいつらの悔しがる顔を想像すると、笑いが堪えられないよ」
緊張感のない素振りでエイスは笑っている。
「……分かった、僕とドルビィの二人で何としても時間を稼ぐぞ」
ラトはエイスのことは無視をする方向に決めたようだ。
「ふふふ、ラト様。私のことを忘れないで下さい。ギル様の弔い合戦です。三人で力を合わせて時間を稼ぎましょう」
ドルビィ、ラト、カムジの三人は手を重ねて誓いをたてる。
「あ、あれ? 四人の間違いだろ? ははは、全く君たちも意地が悪いなあ」
頬をひきつらせながらエイスも手を重ねる。
「クックック、冗談ですよ。エイスさんの力には、期待をしていますのでね。さあ、この星を救う戦いに向かいましょう」
決意を固めた四人は、邪神のいる封印の間へと再び舞い戻った。
しかし、封印の間には砕けたコキュートスの氷だけが散らばっているのだった。
「おい、邪神はどこだ? この部屋には何もいないぞ?」
「ふむ、どうやらコキュートスの拘束からは、すでに抜け出しているようだね」
「……警戒を怠らないで下さい。封印の間にある転移陣の術式は邪神には反応をしません。必ず、この部屋の何処かに潜んでいるはずです」
四人は背中を合わせながら邪神の強襲に備えている。
緊迫する状況の最中、カムジが部屋の片隅に何かを発見した。
「あ、あれは……… ドルビィ様、部屋の角に穴が空いています!」
カムジが壁に空いた穴を指差した。
「まさか、邪神は穴を掘って悪魔の岩山の外に向かったのですか?」
「ちょっと嫌な予感がするね。岩を掘り進んで行ったにしては、掘り返した跡が綺麗すぎる。もしかすると、邪神は悪魔の岩山を食べることにより、孵化に不足していた魔素を取り込もうとしているのかもしれないな」
「なあ、それってヤバイんじゃないか? 邪神が力を取り戻してしまったら、魔神様は邪神に勝つことが出来るのか? 魔神様は本調子じゃないんだろ?」
ドルビィは探知魔法を使い邪神の居場所を探る。
「どうやら、邪神は悪魔の岩山頂上に向かって岩山の内部を進んでいるようですね。邪神自らで頂上へ向かうのは好都合ですが、まだ早すぎます…… このままでは、魔神様が魔素を回復する前に邪神が頂上へと出てしまいます」
ドルビィは封印の間の転移陣に手を置いて、術式の移動先を書き換える。
「転移先を悪魔の岩山頂上の転移陣に書き換えました。魔神様の回復を邪神などに邪魔はさせません! 我々は悪魔の岩山頂上で邪神を迎え撃ちましょう!」
四人は転移陣に入って悪魔の岩山頂上へと移動をした。




