第101話 ドルビィvs邪神
バーン
封印の間へと駆けつけたドルビィは、勢いよく部屋の扉を押し開けた。
扉の向こうでは、呆然と立ち尽くすカムジの後ろ姿が見える。
「ド、ドルビィ様!」
「カムジさん! 無事でしたか! ギル殿は!? 邪神の封印は!」
「ギギギギギギ」
ドルビィが部屋の奥に視線を移すと、そこには両手をつきながら歯ぎしりをするギルの姿があったが。
「く、間に合いませんでしたか!」
「ギシャアアア」
大きく開いたギルの口から、無数の糸が網のように封印の間へと張り巡らされた。
「なるほど、蜘蛛の特性を持った邪神のなのですね。これは我々を逃がさないという、貴方なりの意思表示でしょうか? クックック、狩る者と狩られる者、果たして貴方はどちらなのでしょうね? カムジさん、急いで部屋の外に避難をしてください! この糸を燃やし尽くします! バーストフレア!!!」
カムジは青ざめた顔をして、封印の間の扉から外の通路へと飛び退いた。
ゴウ
無詠唱で放たれた炎の上級魔法によって、封印の間が炎に包まれる。
「アチチチ! 部屋の中が火の海だ! ドルビィ様は無事か? 邪神は!?」
バーストフレアの炎は、一瞬で邪神の吐き出した糸を全て燃やしつくしていた。
邪神に寄生されたギルの体にも火傷を負わせているようだが、みるみる内に火傷の痕が消えていく。
「クックック、張り巡らされた糸は全て排除が出来たようですね。ギル殿の体にも、多少のダメージを与えることが出来ています。どうやら、切り倒されて魔素不足のユグドラシルでは、完全な状態での孵化とはいかなっかたようですね。邪神に寄生された者を救う方法はありません…… ギル殿には申し訳ありませんが、またとない絶好の機会です。邪神が力をつける前にギル殿の体ごと……」
「ギギギギギギ」
ズボ
ギルの背中から4本の蜘蛛の足が現れる。
シュ
ギルは一瞬でドルビィの目の前に移動をすると、鋭い蜘蛛の足をドルビィの首筋目掛けて振り抜いた。
ポロリ
切断されたドルビィの頭部が封印の間に転がり落ちる。
「ド、ドルビィ様!」
「ギギギギギギ」
響き渡る悲痛な絶叫に反応した邪神は、絶望して立ち尽くすカムジへとゆっくり歩み寄っていく。
(クックック、させませんよ。氷結牢獄コキュートス)
首の無いドルビィの体から放たれた、最上位封印魔法による絶対零度の冷気がギルの体を包み込む。
ピキピキ
「ギギ、ギ……」
一瞬にして邪神は氷柱の中に閉じ込められた。
ドルビィは床に転がる自身の頭部を拾いあげると、切られた首元と頭部をつなぎ合わせる。
「クックック、高々首を落としたくらいで油断をしましたね。ですが、この程度の物理的な封印では時間稼ぎにしかならないでしょう。カムジさん、一旦ラトさんの待機している部屋に移動をします。不完全な状態での孵化とは言え、我々だけでは邪神を倒すには力不足です」
「ラ、ラト様の所にですか? まさか、ラト様にも協力をして頂くおつもりなのですか? いくらなんでも、その案には賛成を出来ませんが……」
「いえ、ここに駆けつける前に救援を呼んでいるのです。間もなく、あの御方があの部屋へとお越しになるでしょう」
「あの御方…… なるほど、そう言うことでしたか」
氷に閉じ込められたギルをその場に残して、ドルビィとカムジはラトの待っている部屋へと向かった。
ガチャ
「お、戻ったかドルビィ! あ、カムジも来ていたんだな。それで、父上はどこだ? もちろん無事なんだろ?」
ドルビィとカムジは真剣な表情で目配せをする。
「ラトさん、落ち着いて聞いてください…… ギル殿は封印の解かれた邪神に寄生をされてしまいました。間に合うことが出来ず、ギル殿を救うことが出来ず申し訳ありません……」
「は? 何を言っているんだ? 邪神が復活して父上が寄生された? ははは、冗談がキツいぞドルビィ……」
事態を受け入れられないラトは、無理やり笑顔を見せている。
「……カムジさん、詳しい経緯をお聞かせ頂けますか?」
「……はい。ラト様が封印の間に入ってしまったことをギル様に報告をして、急いでギル様と私は封印の間へと向かいました。駆けつけた封印の間には、ラト様とドルビィ様の姿はありませんでした。その後、ギル様は真っ先に邪神の封印の確認をしたのです。そして…… そして……」
カムジは下を向いて歯を食い縛っている。
「なるほど…… 邪神の封印が弱まっていたために、運悪くその瞬間に邪神が解き放たれてしまったのですね?」
「……いえ。邪神の封印を確認するために、うっかりギル様は封印の石櫃を開けてしまったのです」
「……」
「……」
何とも言えない微妙な空気が三人を包む。
「父上! 何て…… 何てうっかり者なんだ!」
「ギル殿…… いつか致命的なミスをするのではないかと心配をしていましたが、よりにもよって邪神の封印をうっかり解いてしまうなんて……」
何とも言えない微妙な空気が三人を包む。
「そ、それで…… 父上を救う方法は? ドルビィは何でも知ってるんだろ? 何か方法はあるんだろ?」
「残念ながら、私には分かりません。少なくとも、今まで邪神に寄生をされて、元に戻れたと言う事例は聞いたことがありません」
「そ、そんな……」
ポワ
部屋の入り口付近にある転移陣に光が灯り、重苦しい空気の漂うその場に何者かが現れる。
「転移のスクロールは予備が少ないのに、それでも呼び出すとは余程の緊急事態なのかい? 歓迎式典の準備をしたいから、我々にはのんびりと旅をして来て欲しいと言ったのはドルビィだろ?」
「申し訳ありませんね。どうやら、のんびりと旅を楽しんで頂く状況ではなくなってしまったようです。転移のスクロールで来て頂けたのはエイスさんだけですか?」
「スクロールの予備は二枚だけだ。魔神様には、悪魔の岩山頂上にある転移陣へと移動をして頂いたよ。事態が深刻のようだったから、真っ先に魔素の回復へと向かいたいとのことだ」
「おい、ドルビィ。このエルフ族は誰なんだ?」
「ラトさんは初対面でしたね。紹介をします。魔神様の眷族にして私の家族の一人、露出狂のエイスさんです」
「ドルビィ…… その紹介は止めてくれないか? 私は露出狂でも何でもないのだが……」
「クックック、失礼。何故だか、よく半裸になってしまうエイスさん、と言えば良いでしょうか?」
「……間違ってはいないが、私には全くそんな気がないんだよ。魔神様も言っていただろ? もしかしたら、私には何らかの呪いがあるのかも知れないって」
「半裸になってしまう呪いだと? そんな呪いが存在するのか? お前、もしかして呪いを免罪符に性癖をさらけ出していたりしないか?」
ラトは不審者を見る目でエイスを見つめる。
「ふむ、どうやら最悪の初対面になってしまった様だね。君がラト君か。ドルビィから話は聞いているよ。私はエイスだ。はっきり言って、私はドルビィよりも強いよ」
やれやれと言う感じでドルビィは肩を竦めている。




