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第98話 ラトとドルビィ

「ドルビィは何処に居る?」


 カーラング家の屋敷にある食堂では、夕食の準備をしているメイドにラトが詰め寄っている。


「ドルビィ様ですか? 本日も執務室において、ギル様と歓迎式典の打ち合わせをしております。魔神様をお出迎えする準備でお忙しそうですので、あまり邪魔をなされてはいけませんよラト様」


「む、父上と仕事中か。それなら仕方がないな。会いに行くのは夕食の後にするか」


「うふふ、ラト様はドルビィ様のことがとても好きなんですね」


「別にそう言うわけじゃないけど、ドルビィは色々な知識に詳しいからな。あいつと話すのは嫌いじゃない。それに、会いに行くと珍しいスクロールをいっぱいくれるしな。その部分は好きだな」


「うふふ、ドルビィ様は子供にお優しい方ですからね。聞いた話によりますと、国内外を問わずにあらゆる種族の身寄りのない子供たちを、自身の経営する孤児院で引き取っているらしいですよ。もちろん、亜人種との戦争状態にある人族の子供たちもです」


「ふーん、敵対している人族の子供をね。あいつはそんなことをしているのか。どうみても、変態不審者みたいな怪しい風貌をしているのにな。人は見た目で判断が出来ないってことだな」


 ドルビィがダークエルフの里に来てから数日が経っていた。

 予定によると、魔神が戦いで消耗した魔素の回復をするために、パワースポットとして知られている悪魔の岩山へと訪れることになっている。

 魔神が到着をするのにはまだ日数があるのだが、以前からドルビィはダークエルフの里との親交も深く、出迎えの調整を兼ねて里へと先行して来たのだった。


 ドタドタ


 バーン


「おい、ドルビィ! なんか面白い話を聞かせろ!」


 夕食を済ませたラトが勢い良くドルビィの寝室へと飛び込んでくる。


「おやおや、ラトさんですか、扉はもう少し静かに開けないといけませんねえ。もしも、部屋の中で紅茶などを飲んでいる人物がいたら、驚いて紅茶をこぼしてしまいますよ」


 ドルビィはソファーで寛ぎながら本を読んでいた。


「む、悪かったな。どうにも僕は我慢するのが苦手な性格でな。父上にもよく怒られてしまうんだ」


「クックック、子供が元気なのはその国が平和な証ですからね。まあ、良いでしょう。今日は何の話をしましょうかね。そうですね、それでは大地の精霊の呪いについてのお話でもしましょう」


「大地の精霊の呪い?」


 ラトは目を輝かせながらドルビィの話に耳を傾けた。


「その昔、大地の精霊がユグドラシルを切り倒した神話は、ラトさんも知っていますよね?」


「当たり前だろ。悪魔の岩山で暮らしているダークエルフ族なら、子供だって知っている有名な話だ。大地の精霊が巨人族と力をあわせて、天を突くように聳え立つユグドラシルの大樹を切り倒したんだろ?」


「その通りです。では、ユグドラシルを切り倒した後、なぜ巨人族はこの世界から姿を消したのか、ラトさんはご存じですか?」


「巨人族についての話は、その神話以外で聞いたことがないからな。大昔に存在した原初の種族だし、災害や流行り病などで滅んでしまったんじゃないのか?」


「ラトさんの考えは、あながち間違いではありまでんね。ただし、巨人族は滅びたわけではありません。大地の精霊の呪いによって、その姿を変えられてしまったのです」


「姿を変えられた?」


「巨人族は魂の根源たる己の魔素に、強制的に肉体活性をする術式を刻まれてしまったのです。未来永劫子々孫々へと至っても、決して解けることのない呪いですね。その結果、巨大な体を誇っていた巨人族は普通の人族のように小さくなり、子供から大人へと成長することが出来なくなってしまったのです。竜種に匹敵をする膨大な魔素も、術式の維持に充てられることにより失ってしまったのです。それが、現在ハーフスケール族と呼ばれている種族の発祥ですね。ただし、普通の人族の大きさになりたいと願ったのは巨人族ですので、大地の精霊も悪意をもって呪いをかけたのではありませんがね。小さくなりたいと言う巨人族の願いを、過大解釈してしまったのでしょう」


「肉体活性か……」


 ラトは胸に手を当てて自身の体を眺めている。


「肉体活性の秘術に興味がおありですか?」


「僕にも出来るかな?」


「そうですね、ラトさんの魔素量は平均的なダークエルフの子供と比べても、非常に膨大な魔素量を有しています。ですが、肉体活性の術式を行使維持するのにはそれでも不十分ですね。クックック、ラトさんはまだまだ成長途中の身です。これから数百年と時が経って、ラトさんが大人の体へと成長をすれば、きっと肉体活性の秘術も扱えるようになるでしょう」


「数百年か、そんなに待てないなあ。大地の精霊に頼めば、僕にも肉体活性の術式を刻んでくれるかな?」


「お止しなさい。巨人族のように、二度と解けない呪いになってしまいますよ? 以前、ギル殿に頼まれて大地の精霊の脱け殻を調べたことがありました。その時に、ハーフスケール族の呪いについても少し調べたのですが、実に無駄の多く未熟な術式でしたね。上位精霊の仕事のいい加減さが伝わりましたよ」


「そう言えば、カーラング家が大地の精霊の体を代々管理しているんだよね。僕はまだ見たことがないんだよな」


「中身のない物言わぬ人形のような体ですが、その肉体には膨大な魔素を秘めています。魔神様の命令により、ダークエルフ族によって人目につかない隔離された場所で厳重に保管をされています」


(人目につかない場所か…… もしかして、地下室にあった転移陣の先に、大地の精霊の脱け殻が保管されているいるのかな?)


 その日の深夜、好奇心に耐えられないラトは屋敷の皆が寝静まるのを待つと、一人地下室の転移陣のある部屋へと向かうのだった。

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