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第97話 回顧

 カーラング家の地下室で違和感を察知したカムジは、報告のためにドーラたちが宿泊をする宿屋へと訪れていた。


「侵入者だと?」


「はい。念入りに侵入の痕跡を消していましたが、地下室の中の空気が新鮮すぎでした。おそらく深夜から早朝にかけて、入り口の扉が開かれたためだと思います。侵者入の目的は分かりませんが、盗まれた物などは特にありませんでした」


「物的被害がないということは、まさか悪魔の岩山への転移陣が目的か?」


「あ、いや…… ラトお嬢様にはまだ伝えていなかったのですが、実は地下室の転移陣は…… えっと、その……」


「ん、どうした? 転移陣に何かあったのか?」


「……も、申し訳ありません! 実は、100年程前に転移陣の部屋で鍋をこぼしてしまいまして、床の汚れを拭き取っている時に誤って転移陣の術式も消してしまいた!」


 ポカーン


 予想外の間抜けな理由を聞いてラトは唖然としている。


「な、なんで転移陣の部屋で鍋なんかを? は! もしかして…… 新技の開発か?」


「はい…… 誰にも見られたくなかったので転移陣の部屋を使わせてもらったのですが、特訓に熱中をし過ぎてしまい、うっかり夕食に作った鍋に足を引っ掛けてしまいました……」


 カムジはこう見えておっちょこちょいなのである。


「やってしまった事はしょうがない。むしろ、お前のミスのおかげで、侵入者の目的を阻止することが出来たのかもしれないんだからな」


「寛大なお言葉、ありがとうございます」


「それにしても道化の新技か… 見るのが楽しみだな」


「ふふふ、機会があれば近いうちにお見せ致します」


「ともあれ、あたいも確認のために地下室を見ておきたいな。もう一度じっくりと調べれば、侵入者の痕跡も見つかるかもしれない。でも、あたいはお姉様の作業の手伝いで忙しいしな……」


「作業の事は気にせずに行ってきていいよ。ラトのいない分は、フィーネさんに頑張ってもらうから平気だよ」


 相変わらずフィーネの意見を考慮しないドーラであった。

 フィーネに手柄を奪われる心配をするラトであったが、カーラング家の生き残りとして責務を全うする義務感は残っているようだ。


「わかったです…… すぐに侵入者のことを捕まえて、あたいも作業に復帰をするです。よし、カムジは明日の早朝に、カーラング家の跡地で待っていてくれ。あたいも起きたらすぐに向かうことにする」


「は、かしこまりました」


 翌日の早朝、カムジとの約束通りにラトはカーラング家の跡地へと足を運んだ。


「お待ちしておりました」


 先に到着をしていたカムジはラトに挨拶をするが、どこか不機嫌そうな顔でラトはため息をついている。


「いかがなさいましたか?」


「はあ、ミーシャがお姉様の作業について行きやがった。このままでは、フィーネだけでなくミーシャにまで手柄を奪われてしまう…… くそ、あたいの方が上手く作業が出来るのに……」


「作業とはなんですか?」


「パンツを見せる作業だ」


「パ、パンツをですか?」


「そうだ。ドルビィの魔素を宿したレイスにパンツを見せることにより、最上位精霊に匹敵する魔素を与えて、肉体創造の秘術でそのレイスに実体を持たせる作業だ」


「は、はあ…… 情報量が多すぎて私では理解出来ませんが、とにかく凄い作業だと言うことは伝わりました。さすがは、ラトお嬢様の認めたお方です。ドーラお嬢様は偉大なお方なのですね」


「そうだぞ。お姉様の力は、明らかにこの世界の常識を逸脱している。もしかしたら、この世界で何かが変わろうとしているもかも知れないな」


「ドーラお嬢様のお力ですか…… しつこいようですが、本当に邪神とは何の関係性もないのでしょうか?」


 ポカ


 真剣な表情のカムジの頭をラトは軽く叩いた。


「馬鹿なことを考えるな。邪神との関係性なんてものはない。あたいがそうのに敏感なのは、お前も知っているだろ? お姉様の力はなんと言うか、そうあれだ、最強だから凄いのだ。何故ドラゴンは強いのか、そんな当たり前なことを気にする者はいないだろ?」


「はい、ラトお嬢様の目に疑いなどありません! ドーラお嬢様を疑った自分が愚かでした! 強者として生まれたのなら強くて当たり前です!」


「ふふ、それでいい。それじゃあ、パパッと地下室を調べて用事をすませるか。早く帰れば、午後の作業にはあたいも参加が出来るかもしれない」


 ラトとカムジは地下への階段を下りていった。


「転移陣のあった部屋には、今は何もないんだよな?」


「はい。たまに私が特訓で使うだけですので、防犯システムも今は稼働していません」


「あの部屋には嫌な思い出しかないからな。出来れば行きたくなかったのだが、そんなことばかりも言っていられないか。カーラング家の生き残りとして、過去と向き合う時が来たのかもしれんな……」


「……」


 重苦しい空気に包まれながら、二人は無言で地下室の通路を進んでいった。

 しばらくして、ラトは目的の部屋の前へと辿り着く。

 呼吸を整えながら、ラトはゆっくりと扉を開いた。


 ****


「ここは何の部屋なんだ?」


 重く堅牢な扉がゆっくりと開いて、まだ幼いであろうダークエルフ族の少年が部屋の中を覗いている。

 幼いと言ってもダークエルフ族は長命な種族であるため、少年も普通の人族などと比べれば、それなりに長い年月を生きた年齢になっているだろう。

 少年の覗く部屋の中央には、魔法陣らしき術式がうっすらと光を放っている。


「あれは転移の魔法陣か?」


 ダークエルフ族はエルフ族と同じように、この世界において魔素の保有量に優れた種族である。

 それ故に、これらの種族の子供は、幼い頃から魔術的な知識を学んでいる者が多い。

 この少年も年齢の割に、それなりの魔術知識を学んでいるようであった。


「何処に通じている転移陣なんだろう? 気にはなるけど、勝手に地下室に入ったのがバレたら、また父上に叱られちゃうからな。今日の探検はここまでにしておくか」


 少年は部屋から出ようと転移陣に背を向けた。


「クックック、懸命な判断ですねえ。この転移陣の通じる先は、貴方のような子供には少々危険な場所ですので」


「誰だ!」


 背後から聞こえる声に驚きながら、少年は慌てて振り返った。


「クックック、怪しい者ではありませんよ。私の名はドルビィと申します。偉大なる魔神様の眷族です」


 転移陣の中心に顔半分を仮面で隠した怪しい男が立っていた。


「魔神様の眷族? もしかして、今日屋敷に来ると聞いていた客人か?」


「はい、その通りです。魔神様がダークエルフの里に到着するよりも先に、先行して私が訪れていたのは正解でしたね。さあ、早く地下室から出るとしましょうか。ここは埃っぽくていけません。ええと、貴方のお名前は何というのですか?」


「僕の名はラトだ」

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