第五十一星 総帥の力
たいへん遅くなりました。
思い付きで書いてるとこうなる…
私の刀と陛下の細剣が衝突する。
私の刀は武器適性と努力が乗った刃、陛下の細剣は陛下の努力が乗った刃。陛下は適性だけであれば努力だけで押し返してくるほどの人間だから、努力を乗せていなければ───つまり、努力を重ねていなければ押し負けていた。
「ほほっ、手強いのぅ!」
「全力出してないくせによく言うよ!!」
細剣は陛下の適性武器種じゃない。それなのに全力を出さずに拮抗するのはそれだけ積んできた努力の量が多いということにほかならない。
「全力を出していないのはお主もじゃろうて!!」
「適性外武器種で適性武器種に追いつけるのが普通はおかしいんだってば!!」
お互いの刃はお互いの刃に阻まれてお互い届かない。普通なら剣が折れそうなものだけどここはVR空間。そうでなくとも星素を通して耐久力強化はできるから問題はない。
現実では足を悪くしている陛下が立てているのもVR空間だからっていう理由。一応現実でも立つ方法がないわけじゃないらしいけど、マーリン曰くそれを使うと身体に負担がかかるのだとか。
「“花吹雪”!!」
「“氷河”!!」
私が使った花属性の花吹雪と陛下の使った氷属性の氷河。違う属性のSi Skillが衝突する。これらは全部Si SkillだけどVR空間のシステムで再現されたもの。だからこそ詠唱省略でも詠唱のある場合と同じ程度の威力を発揮できる。……システムによっては詠唱がないと使えなかったり詠唱があったほうが強かったりするけど今回は関係ない。
花吹雪は私を中心に護るように展開される花びらと相手を攻撃するように動く花びらの2種類がある。どちらも相手の視界を阻害することには変わりないから───
「“氷柱弩砲”、“新星弩砲”、“竜巻弩砲”、“重力弩砲”、“宝石弩砲”───」
「ぬっ!」
「───全弩砲門連射状態、一斉掃射」
花吹雪に隠されたその大きな砲弾が私の言葉に従って陛下に殺到する。連射状態にしてるからそのまま撃ち続けられるけど───
「───ほほっ、良い攻撃じゃ!身体が温まってくるのぅ!!」
そんな声とともに煙の中から影が飛び出す───見間違いをするはずもなく陛下だ。摩天楼ステージの特徴である高層ビル群、その壁を走ってこちらに向かってくる。
弩砲門よる攻撃を停止させ、脚力強化で跳躍。考えることは似ているようで、私は刀を、陛下は細剣を振るう───
「「“加速”!!!」」
───瞬間、同じ宣言をした私達の時間感覚が引き伸ばされる。同じ時間感覚の中で、恐らく外からは見えないであろう剣戟を繰り広げる。
陛下はその多大な努力によって適性に追いつくどころか適性を超えることがある。それが複数あるだけでも異次元レベルであるというのに、もう1つ異次元に近いものがある。
それが、“大脳反応速度”。もっと言うならば反応速度とその反応速度についていける身体。既に還暦を迎え、身体中にガタが来てもおかしくない時期であるというのに、その反応速度と身体能力は現役の流れ星であった20年前と何も変わらない。
確かに陛下は20年前に足を悪くして立つことが難しい。しかし、陛下は車椅子に乗った状態で上半身だけで戦うとしても普通に強いのだ。ギルドや自衛隊の教育所で模擬戦と称して陛下自ら現役の流れ星や自衛隊員の相手となることもしばしば。
……今回のこれだって、陛下にとっては“遊び”のようなもの。かつて“最強”の名を手にした人の実力は伊達じゃない。
「「…っ!!」」
思考も身体も加速している故に視界に増え続ける火花。それを払いながらも剣戟を続け、徐々に加速を重ねていく。
身体加速───いや、高速移動時に身体が重くなるのは空気が身体の動きを阻害するから。それはVR空間でも空間座標描画処理間隔によって同じことが言える。等倍時間でしか描画処理されないそれは高速移動による急激な座標移動に対応しきれない。
たとえ240fpsであったとしても1フレームあたり約0.004秒。簡単に1000倍速に達する私達にとってそれは非常に遅いわけで。
高速移動時に自傷ダメージを受けるのも似たような理由。進む方向に対する慣性が非常に強くかかることで内蔵が暴れ、内出血を引き起こす。どんなものであれ使い方を間違えれば凶器になる。それがたとえ、自らの内臓であっても。……“力”と同じだね。
そも───このVR空間は現実と同じ時間感覚、同じ空気感、同じ物理現象感覚で作られている。宇宙を翔ける者とはいえど、無重力空間で戦うことよりも有重力空間で戦うことの方が多い私達は必然的に大気のある空間で戦うことが多くなる。
大気は元々私達が高速移動することなんて考えていない。慣性もまた、私達が高速移動することなんて考えていない。私達が加速中に空気抵抗を強く受けるのは…また、私達が加速中に自傷ダメージを受けるのは、世界そのものの理が元より高速移動のことを考えていないからだ。
ただ、ゲームセンターに置いてあるようなこれだと1つ欠点があって───それ故に私も陛下も加速を停止させる。
「「……“激流砲”」」
静かに相対してから同じ水属性Si Skill。皇居やギルド総本部、あと各訓練所においてあるようなこれであれば性能が非常に高いから無言Si Skillの再現が可能なんだけど、ゲームセンターのは少し性能が落ちる関係で無言Si Skillが使えない。
それ故に術式の高速化ができず、加速中にSi Skillを使えないという状態になる。
……まぁ、そもそも加速術に適合する人なんて少ししかいないから問題は少ないんだけど。
「“不明煙”」
「……」
多種多様なSi Skillを使っている陛下だけど、実際のところ陛下は私のように呪いを持っているわけじゃない。だけどその代わりに膨大な霊力と膨大な神力、そして努力を続けて道を切り開こうとする忍耐力を持っている。
陛下が神力を持っているのは天皇だかららしい。でも、その神力を持っているからこそなのか自分の適性外の術式や属性を簡単に扱う。
“日本と流星の象徴たれ”───その概念故にあらゆる術式を扱える擬似的な現人神になっている、とは天照様の言葉。神様扱いされるのは本人は嫌がるけど、憧れとか強者として崇められてたりはしたと思うからそれ由来の神力なんじゃないかな。
「“冠擲弾”」
日属性第三段階Si Skill、冠擲弾を起動する。爆弾系の攻撃だけど、冠爆弾よりも強力な爆発を引き起こす。デネボラで使ったのは“冠の魔爆弾”だからまた別物なんだけど。
「“疾風炸裂”!!」
「“水流螺旋”、“石礫”───」
天属性第三段階に対してSi SkillとSi Skillを繋げる技術、“魔技連鎖”を使って───!!
「連鎖、“石流”!!」
「ほほっ、合体技とはのう!!」
「“花舞”、“雪化粧”───格差連鎖、“花吹雪”!!」
「のうっ!?」
「“冠擲弾”、“冠擲弾”、“冠擲弾”、“冠擲弾”、“冠擲弾”、“石油蒸留霧・常圧”───複雑連鎖」
「六連鎖じゃと……!?」
「───“巨大冠油脂焼夷弾”!!」
「のぉぉぉぉぉ!?」
私の放ったSi Skillは巨大な爆炎となって陛下を襲う。油脂焼夷弾というのはその和名の通りに油脂を使う焼夷弾───普通の銃弾や爆弾みたいに爆発で対象を破壊するのではなく対象に着火して焼き払うのを目的としたもの───の一種で、かなり強力なもの。油脂、って言っていながら燃焼剤は石油でも対象になるんだけど。
ナパーム弾の場合は石油常圧蒸留によって精製されるナフサに各種薬剤を混ぜたナパーム剤を使う。それをゼリー状にして焼夷弾の燃焼剤として使ったのがナパーム弾。
……使われたのは今から約100年前の第二次世界大戦頃なのもあってもう当時を生きていた人はほぼいないけど、当時の人が見たらトラウマものかもね…ナパーム弾そのものでないにしろ、強力な爆発を引き起こすのには変わりないし…
「……で。」
爆心地の少し上を見上げる。まだ煙は立ってるけど薄っすらと人影が見える。
「この程度で倒されるおじいちゃんじゃないよね……」
「流石にヒヤッとしたわい!!」
煙の中から飛び出してくる陛下の動きに合わせて刀を振る───
「っ!?かはっ…!」
攻撃を相殺しきれずに吹き飛ばされ、壁に激突する。軽く崩壊した壁の石は私の身体の上には乗らず、すぐに動ける状態だったためそのまま立ち上がる。
「っ……“大鎌”か!!」
陛下の姿を見て状況を把握。陛下の手には細剣ではなく漆黒の大鎌が握られており、陛下自身も漆黒の外套を纏っていた。
「死……神…!」
曰く───その者、闇夜のように暗き外套に身を包み、総てを拒絶するような漆黒の刃を振るう。振るわれし漆黒の刃は不死すらも拒み、あらゆる総てに等しく死を与えるであろう。拒絶の刃を振るうは己の仲間のために。たとえ人であれ、魔であれ、神であれ───不死であっても、仲間の障害となるならばそれを殺してみせるだろう。
仲間と共に生きるために、相手が何者であろうと男は最前列で敵を裂き、死を与えるのだ。人々はその男を敬意と畏怖を込めてこう呼んだ。
自らの障害となる総てを殺す死神の頂点。死神の中の死神、死神達が総じて頭を垂れる者───“死神王”と。
「ほれ、本気を出さんと終わってしまうでの?スティラの力はこんなものではなかろうて。」
「……言ってくれるね…そっちはまだ全力じゃないっていうのに……」
現時点でもかなり力量差がある……さすがは初代最強。…でも、私自身も二代目最強の娘として負けられない部分はある。
「……」
刀のパラメータを再調整。現実では他の刀を呼び出せばいいだけだけど、こっちじゃそうもいかないから。
───さっきよりも少し重く。加えて、新たな刀を生成。それから服装を変更。新たな刀を抜き放って構える。
「ほっほっほ、そうこなくてはのう……」
曰く───その者、星空の如き煌めきを宿す羽衣に身を包み、総てを浄化するような純白の刃と総てを映すような白銀の刃を振るう。振るわれし二つの刃は星の輝きを宿し、あらゆる総ての願いを映し出すであろう。輝きの刃を振るうは己の望みのために。願いの刃を振るうは顔も知らぬ誰かのために。たとえ人であれ、魔であれ、神であれ───不死であっても、望みと願いの障害となるならばそれを殺すだろう。
その望みと願いの果てに自らの死が待とうと、美しく、そして儚く星のように娘は輝く。人々はその娘に希望と謝意を込めてこう呼ぶのだ。
自らの身体を燃やし尽くさんとし、他者の願いを叶えんとする星。数多の願いを背負う流星の剣を携える者───“星剣姫”と。
「身体も温まったことじゃ……本気で行くとするかのう」
大鎌を担ぐ陛下に隙はない。私も二刀を静かに構えて───
───加速術も使わず、常人が正確に知覚できる速度を超える。
死神王と星剣姫の由来。
死神王はともかく星剣姫は少し辛い由来な気がする…




