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第四十七星 魔境の夜・終

やっと終わる……

実は作品内の狂界外ではそこまで時間が経っていません。

これは狂界外と狂界内の時間の流れが違うのもあるのですが…

狂鐘は残り時間を告げるものであって、時間の刻みを告げるものではないのです。

0時の鐘───終わりの鐘は狂界が消えるまで鳴り続く。鳴り響く時間は約10分。そして鳴り響いている最中も狂界は消滅していく。


「───儀式」


私達の仕事は、その狂界が消え去るまでの間に全ての脅威を狩り尽くすこと。もしもできなかった場合、その脅威は狂界外で暴れようとする。狂界が消滅して元の空間に戻った時、脅威が生き残っていてなおかつその場に無関係の誰かがいた場合。脅威はその誰かを殺すだろう。


京都と東京以外の他の地点はそこまで心配していない。この二地点ほど数は多くないし、優秀な人材もちゃんといるから。今の私がなすべきことは、目の前の神擬きを殺すこと。


「“神裁き”、執行。」


神裁きを成すには───神の力を借りなければならない。神の名を借りなければならない。


加速してゴッディブルの背後に回り込み、呪刀を片手で八相の構えのように身体に対して平行に立て、目を瞑って刀身に空いている左手を当てて言葉を紡ぐ。


「───神名拝借。天津甕星、禍津日神、加具土命、伊邪那美命───天照大御神。」


そこまで唱えてから目を開けると呪刀の雰囲気が少し変わっていた。先程まで呪いを吐き出すだけだったのが、神力を帯びたものに。


「輝く光は抵抗の化身なり。穢れを以て穢れを制せよ。神を殺す焔を以て紛い物を誅せよ。原初の死を以て死へと誘わん───主よ、貴殿の光を以て総てに希望と導きを。貴殿の光は暗雲を裂き、暗闇を照らす光である。」


───術式、完成。


「裁定儀式“神裁き”───終ノ告(おわりのつげ)“神殺し”。」


言葉と共に横薙ぎ。ゴッディブルの首を落とす。


「バケ、モ……ノ……」


「……殺神完了。」


私が呪刀を納めると共に星素分解が始まった。


「……化け物、か。」


呪刀に込めた呪詛の解呪を始めると共にため息をつく。


「…そうだよ。私は人間の形をした化け物。…化け物なら化け物らしく、死んだらこの世から跡形もなく消えてしまえばいいのに。私の身体は、それすら許さない。」


私の目的を話した時、“非常に手の込んだ自殺”と苦笑いされることが大半。…事実、そうなのだと思う。目的を果たすまで死ぬつもりはないとはいえ、その目的によって私は自らの命を捨てようとしているのだから。


……正確には、この“身体”とこの“力”を。


力に関しては言うまでもなく、呪いだから。具体的に言えば、私の非常に強大な力を兵器として用いれば向かうところ敵なしになってしまうから。……私の強大な力があの馬鹿のような野望を持つ人間の手に渡れば、世界征服も夢ではなく、それに歯向かうことすらできなくなってしまうから。


では身体はどうなのかというと。…私の身体は眼球や髪の毛、皮膚の一欠片…果ては老廃物まで総てが強力な触媒───術式を発動させるための補助材になる。私は詳しいことは分からないけれど、知り合い曰く“術者としては手に入れられるのなら喉から手が出るほど欲しい最高級の触媒”とのことだった。…実際、お父さんはこれに気付いてたみたいで、私達が昔住んでた家のトイレとかお風呂場とかの排水機構、あそこに小型のブラックホールが固定されてた。


「はぁ……」


……実際の話をすると。目的を果たす前に死ぬ方法は1つ思いつく。その方法は至って単純、“ブラックホールに何の保護もなく身を投げる”こと。そうすれば私の身体はブラックホールに飲み込まれて塵に還るだろう。それからもう1つ、これはほぼ不可能なことだけど“私が産まれたことをなかったことにする”こと。“私”がそもそもいなければこの私の状況は起きなかったのだから、それをなかったことにすればいい。


…ただ、結局のところそれではこの現状は変わらない。いずれ今の私のように苦しむ人が現れる。…だから。呪いを呪いとした元凶の一族である私が終止符を打つ。たとえ犯罪者と罵られようと、呪い持ちを巡る争いと呪い持ちの兵器化利用を禁じる。たとえ大量殺人鬼と蔑まれようと、アルコリアの一族を老若男女問わず根絶やしにする。もしかしたら気休め程度にしかならないかもしれないけれど、何もしないより状況は改善するだろう。


総ては、呪い持ちが───特殊能力持ちが自由に生きられる世界にするために。そのためなら、私は“星の生贄”になっても構わない。


「みゃぅ」


「…ん?」


鳴き声に視線を下に向けると、1匹の白猫と1羽の鳩が私を見上げていた。


「……こんばんは、“キャスパリーグ”、“ルフェリル”。」


この2匹は私の知り合いの使い魔。…ここにいるってことは。


「こちらにいましたか。探しましたよ、キャスパリーグ。」


「ルフェリル。ダメでしょー、行き先も告げず出て行っちゃ。」


「…こんばんは、“マーリン”。それに“ルローネ”。来てたんだ。」


「来てましたけど……こんばんは、なんですかね?」


「時間的にはおはようですよ、スティラ。狂界も終わりますから。」


キャスパリーグの主人で、白銀の髪に青色の目をした人───正確にはエルフがマーリン。ルフェリルの主人で紫色の髪に緑色の目をした人───正確には鳥人がルローネ。2人とも異世界の住人で、星の賢者の弟子。2人とも私より年上なんだけど、敬語いらないっていうからそのまま話してる。


ルローネは星の賢者の一番弟子で、ほぼ全ての精霊魔法を得意としてる。世界を1つ救える程度の力は持ってて、世界樹の精霊様に聞いた話ではたった1人で数万単位の魔物の軍勢を食い止めたらしい。異世界側では勇者とも言われているとか。ただ、本人はただ単に世界樹に仕える者であって勇者ではないって言ってるけど。


マーリンは星の賢者の二番弟子で、魂や時間に関係する魔法を得意としてる。他に精霊魔法も使えるけど精神干渉系が強くて搦め手で戦うのがほとんど。あと相手の使い魔の制御を奪い取るとか。


「何か用事でもあった?」


「いえ、わたしは特にはないですね。」


「私もありませんよ。強いて言うなら貴女方を東京まで送る手助けをしに来たくらいでしょうか?キャスパリーグ達があなたの方に駆けて行ったので追ってきただけですから。」


「…そっか。それは嬉しいんだけどさ……」


…うん、それは嬉しい。嬉しいのだけど……


「…マーリン。」


「はい?」


「なんでネグリジェ?」


「…おかしいです?」


「一応寝間着だよ、それ?」


マーリンの服装は若草色のネグリジェ。ルローネの服装はミニスカートのメイド服。この服装で近接物理戦闘もこなすんだよね、この2人…2人ともドロワーズ履いてるから蹴り技や倒立撃ちなんかも問題ないのかもだけど…


…うん?そういえば…アレがない…


「…マーリン。もしかして私の精神に干渉してる?」


「えぇ、してますよ。船に着くまで精神干渉しておくつもりでしたけど…迷惑でした?」


「いや…ありがと。」


精神干渉系は簡単に言えば洗脳の術式。…そういうと聞こえは悪いけど、結局のところ使い方次第。正しく使えば善に作用するし、間違って使えば悪に作用する。それが“力”というもの。


そのまましばらく喋っていると、鐘の音に混じって風を切る音が聞こえた。そろそろ狂界も消えるかな。


「あ、いたいたスティラー!って、わ!?また結構壊したねー!?」


「明葉。…修復大変だね、ほんと。」


「これは…凄まじいですわね。」


アリアナの言葉に苦笑いしたところで狂界が完全に消え、私が破壊した痕跡も見えなくなった。明るくなり始めている空を見上げるとそこには月齢27.8の月。


「星暦25年6月30日4時20分、狂界対処終了……っと。みんな、お疲れさま!狂界の修復は少しずつやるから今回はこのまま解散!」


明葉が無線でそれを全員に伝えた後、マーリンとルローネの転移術式で東京に、私はそこで別れてマーリンと一緒にステラーシップへと戻った。

夜のお話終わったー!!

長かった……

あと作品内の時間を忘れかける…ちなみに西暦換算で2057年6月30日です。

……力というものは使い方で善にも悪にもなる。明確に分かりやすい例は核物質じゃないですかね。善の方向に用いれば原子力発電のように人の役に立つものになり、悪の方向に用いれば原子爆弾のように人の命を奪うものになる。極端な例かもしれませんけど。

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