第四十五星 魔境の夜・拾壱
無理矢理間に合わせました。
なので文字数的にはいつもと同じ感じです。
ギィン、と金属と金属のぶつかり合う音が響く。金の弓と呪いの刀がぶつかり合った音。
神殺しの呪いを付与した刀とはいえただの人間が鍛えた代物。鍛えたのが神であれば神をその武器や鎧ごと一太刀で葬るようなものになるが、鍛えたのが人であれば武器すら一撃で砕けないものとなる。
おまけに相手は月神。月の力が強くなる狂界内では非常に強者の部類───場合によっては最強ともいえる存在。
ただ───
「……闇深き月よ」
月の力が強くなるのならば、同じ月の力である月属性も強くなるのは同じ。呪刀を納めて詠唱を開始する。
「光を喰らう化生となれ。自らの在り方を以て光を隠せ。月の魔は新生し、日を喰らい、いつしか存在を狂気に導かん───!!!」
私の手元で紫色の光が蠢く。地面に叩きつけると共にSi Skillの起動準備が整う。
「“新月の大顎”!!」
大地から紫色の大顎が現れ、ゴッディブルに喰らいつく。それを確認して更に新たな術式を準備する。
「薄く光る月よ、その光を刃と成せ。日の光を返す輝きを以て存在を示せ。その輝きは闇を裂く微かな導となり、死の罰をもたらす凶刃なれば───!」
先程の紫色とは違い、白く輝く光が私の手元に現れる。その光はすぐに形を変え、出現した紫色の柄を握ると同時に地面を蹴る。
「“三日月の大鎌”!!」
宣言にて刃まで構築すると同時にゴッディブルに接近して両刃の大鎌で袈裟斬り。
直後筋力強化に加えて重量倍加、慣性増加をかけて同じ軌跡を辿るように左切上。
左切上をした時の慣性で回転するなかで星素供給を切ることで大鎌を消し、左腰の鞘に納めていた氷咲を右手で抜刀すると同時に左切上。
風を炸裂させて回転の向きを逆転、右腰の鞘に納めていた呪刀を左手で抜刀、氷咲と共に二連袈裟斬り。
地面に着地したら飛び退いてゴッディブルの行動を見る。直後、紫色の大顎が内部からの爆発で消し飛ぶ。
「……かすり傷、か。」
かすり傷にしかならないのは何となくわかってた。実際のところ、アルテミス様の姿を持った以上、強力な月属性を内包するゴッディブルに月属性はあまり効かない。
“新月の大顎”は月属性で構成された大顎が相手を噛み砕くSi Skill…なのだけど、同じ月属性……それも月の神が相手となると足止め程度にしかならない。
「…単独討伐脅威度X、“ゴッディブル”……面倒な相手だね、ホントに…」
無音で放たれた矢を加速状態下の呪刀で弾きながら呟く。
神擬き───ゴッディブルは脅威度Xの星侵獣。ただし、そう判定された理由は強さではなく倒し方が問題。神“擬き”であるとはいえ、ゴッディブルは神と同じ力を持つ。
神と同じ力を持つということは───普通の方法では絶命させることができない。神を絶命させるための方法である、“神殺し”が必要となる。だけど、神殺しの武器なんて持ってる人も鍛えられる人もそうそういない。だからこそ、私のような“神裁き”ができる人間が重宝される。
そもそも、“神裁き”とは───神霊や星霊と契約し、その力を借りて人が神を殺す儀式である。伊邪那美様やハデス様曰く本当の神でも殺せるらしいけれど、それは置いておく。
神は神殺しでなければ殺せない。それは神擬きであるゴッディブルにも当てはまる。当てはまってしまう。…故に。神を殺す術を持たぬ者は足止め程度しかできない。だからこその“規格外”。特定の者以外は対峙しても討伐できぬ。
「っ!“不明鏡”───“重層”!!」
ゴッディブルが放ってきた砲撃を詠唱省略虚属性Si Skillの多重展開で跳ね返す。
続けて打ち込まれる砲撃に鏡が耐えきれないと判断して氷咲を地面に突き刺して秘守術を起動、私ごと氷塊で覆う───
「……っ…リミッター解除も視野に入れないとね。」
氷塊を形成したと同時に砕かれる鏡に苦笑いしながら呟く。氷咲に星素を流して“銘”に対しての具現化を働きかける。
「…咲き誇れ」
“咲”。銘に与えられたその文字は通常は花に使われるもの。故に氷咲は火元素系統以外に言霊が作用することで花属性を扱える刀となる。
私の言葉で現れた茎の棘が私の肌を傷つける。傷からの出血と血液に乗せた呪詛を吸って白かった花が赤く、紅く、黒紅色に染まる───
「乱れ咲け───“死呼びの血薔薇”!!!」
死呼びの血薔薇───殺傷力のある黒紅色の薔薇を咲かせる花属性冥属性複合Si Skill。ただし、咲かせるには術者か生贄の血液と殺意が必要で、咲かせる範囲や咲かせる頻度、咲かせる度合によっては術者が死に至るかなり危険なもの。
今回私が咲かせたのは致死量の薔薇。普通の人間であれば失血死してる量。…だけど、呪いによって不死である私には関係ない。
“星素生命維持高精度変換”、並びに“星素生命維持変換”を保有する者は不死であっても不老ではない。しかし不死であっても永遠に生き続けるわけではなく、寿命と封印化死亡という2つの方法で死に至る。とはいえ封印は非常に難しく、その他には寿命以外で死に至ることがないゆえに、自らの生命活動に必要なものをいとも容易く材料にできる。
…それは、私も例外じゃない。あの男が放ってくる刺客も私を殺す気でいるだけで殺せない。確かに部位欠損状態…特に臓器欠損なんかだと多少動きが鈍くなるけどその程度。だからといってあの刺客たちに捕らえられるわけにはいかないけど。
「……“満月」
「っ、シルヴァ!!」
「ま、任せて……“風精術喰花”……」
「炸裂砲”」
シルヴァの展開した精霊魔法がゴッディブルの炸裂砲を食い尽くす。着弾時に炸裂するあの砲撃は防御するよりも打ち消したり吸収する方がいい。
「サナ…“吸収魔力譲渡”」
「任せてっ!2倍にしてお返しするよ───“火精反壊撃”!!」
サナの宣言と共にゴッディブルを非常に強い火炎が襲う。…これでも倒せないんだから、めんどくさい。
「“罪茨の円盾”」
私の足元から生える茨を前に展開させて円盾にする。更に力を込めて血薔薇の花を増やす。出血が加速し倦怠感が襲う───どうでもいい。これでダメージが出るのなら、それで。
「……1時の鐘か」
どこかで鐘が鳴る。刻一刻と近づくタイムリミットまでに倒しきるには……
「…リミッター解除。」
リミッターを1つ、外す。それだけで、十分。
「───“破壊衝動”、解放」
瞬間───強い衝動に襲われる。
───さぁ。目に映るもの、総て壊し尽くせ。
黒赤色の薔薇の花言葉は“死ぬまで憎みます”、“憎悪”、“恨み”。
私が花の色まで指定する場合、何かしらの意味があることが多いです。
それでは皆様良いお年を。




