第四十二星 魔境の夜・捌
スティラちゃんが日属性を使う際に日属性最大火力たる日属性第六段階の太陽ではなくわざわざ日属性第三段階の冠を使うのはちょっとした理由があります。
それを今話の最後の方で明かします。
アリアナの本気は普通では目で追いきれない。アリアナ自身が“風の秘者”であるが故に、常人と比べて操れる風の量が段違いであるから。動体視力強化かけてないと私でも見えないし。
そもそも“秘者”とは、遥か昔───狂界の術式基盤が構築されるよりも前から存在した、四大元素それぞれに長けていた術者の一族のこと。それぞれ…火の秘者“氷岬”、水の秘者“翡翠河”、風の秘者“日風見”、土の秘者“避雷月”。狂界が構築され、現世に魑魅魍魎が現れなくなってからはそれぞれの最初の文字を“秘”とし、人知られず日本と日本皇室を守る国守。忍者に近いけどちょっと違う。
「お行きなさい───“暴風の飛刃”!!」
声しか聞こえないアリアナが黒鬼に投げたのはチャクラム。次いで一瞬等速に戻って姿を現したアリアナが振るった桜色の刀身を持つ刀は秘飾魅家に伝わる名刀で、“霊刀・花薙”というもの。
「スティラさん!」
「いくよ───」
アリアナの合図に待機させてた2つの魔法を起動させる。1つの魔法で手元に現れるは電気で出来た鎚。柄だけでも私の背丈よりもかなり大きいものだけど、構成要素は魔力だけだから筋力補助とかかけてなくても軽々と振り上げられる。
「“神鳴の───巨鎚”!!」
北欧の雷神の名を冠するその魔法は非常に一撃火力が高い。それ故に硬い黒鬼でも簡単に潰れるし、打ち上げようとすれば簡単に打ち上がる。でも、魔力だけで構成している関係上、役目を終えたら消滅させることが出来る。
「感覚を取り戻す余裕なんて与えませんことよ───“抜打ノ風斬羽”!!」
抜刀の構えからの“風斬羽”。羽が舞い、そこから発生した風が周囲を傷つける。
私が狂界で最初に放った“氷花”と同じように、“抜打ノ”という言葉を最初に付けることで抜刀術になる。ちなみにこれ、霊術の一種で“秘守術”っていうらしい。
「いい加減お逝きなさいませ、“炸裂風刃”!!」
アリアナが黒鬼に花薙を突き入れたかと思うと、突如黒鬼が多量出血して消滅した。……確か、花薙を中心に無数の風の斬撃を発生させる技。つまり、さっきの黒鬼は内蔵をぐちゃぐちゃに斬りつけられたわけで……
「…うわぁ」
「何を引いているんですの?スティラさんもできるでしょう?」
「いやできるけどさ…」
改めて考えてみると恐怖だよね、あれ。
「■■■■■■!!」
「……っと。“風貫鍼”……“芯凍身”」
小さく付与魔法と秘守術の名を呟いてから背後から襲ってきた黒鬼に氷咲を少し無理矢理ではあるけど突き刺す。うぅ、硬さで手が痺れる。けど……
パキパキッ、と何かが凍るような音がする。黒鬼の体内から。その音が聞こえ始めると共に黒鬼の動きが止まり、私は氷咲を黒鬼から引き抜く。
「……わたくしとしては、涼しい顔をして生きたまま氷漬けにするスティラさんの術の方が恐ろしいですわよ。」
「氷漬けにする過程で死んでるけどね。」
ただ霊力と集中力持ってかれるんだよね……連発はできない。
「そんなアリアナが恐ろしいって言ってる技でも“不死”は殺せないんだから、そこまで使い勝手もよくないよ。」
「…そう、ですわね。わたくしの炸裂風刃もそうですが、不死には大したダメージにはなりませんもの。」
「痛みを感じる存在であるならアリアナの炸裂風刃の方が効果的だよ。私のは発動させた場所から凍らせて身体全体を停止させるだけであって、傷つけるわけじゃないから。」
「スティラさんの場合心臓から凍らせていくこと多いですわよね…」
「それを言うならアリアナだって心臓を中心に斬撃発生させてるでしょ。」
「……言われてみれば、わたくしもあまり変わりませんわねー…」
『……ねぇスティラ、アリアナ。話し声だけ多方向から聞こえるの違和感なんだけど…』
明葉からの念話に少し苦笑いする。実際今は戦闘中で、私は“神鳴の巨鎚”を起動したときに同時起動させた魔法でアリアナと同速で動いてて……同じ速度にいる最後の黒鬼を翻弄してるところだし。
『明葉さん、道乃さん、そちらの殲滅は終わりましたの?』
『うん、終わったよー。ごめんね、時間かかっちゃって。』
『流石はかの有名な安倍晴明と蘆谷道満ですわね。あの数の鬼で倒れるほどではありませんか。』
『だけど、かなり時間かかったから昔ほどの力はないわね。時代の影響か、それとも私達の鍛練不足か……まぁ鍛練不足でしょうけれど。』
……時代の影響に関しては私だと本当に分からないことだね。
『…言っておきますが、明葉さんと道乃さんは他の陰陽師や流れ星と比べて複数の鬼や星侵獣の対処に時間がかかってない方ですわよ。そうですわよね、スティラさん?』
『なんで私に振るの。…事実だけど。あと道乃は使い魔出すと色々と…だからね…』
『あの存在達を使い魔として認識していいのか未だに迷うのだけど…』
『慣れ……だと思うよ?私も最初のうちは慣れなかったし。』
『四神が使い魔の明葉が言うと説得力があるのかどうか分からないわ……』
『……ともかく、他の鬼の殲滅は終わりましたのですよね?でしたら……』
視線をこちらに向けてくるアリアナに頷く。
「先手、失礼しますわね───地を這う風よ、我が声に従い天へと至る螺旋を描け。全てを破壊し尽くさんとする災いの顕現を。声が風に導くは破壊の願い───!!」
天属性Si Skill。アリアナの得意属性は天と花。特に天属性は異名の1つである“凶刃の風神嬢”の名が示すように非常に高い適性を持つから……とりあえず明葉と道乃の場所に防御結界。
「───“翠玉巨大竜巻”!!」
アリアナの声に呼応して突如現れる巨大竜巻……まぁ、こうなる。狂界内だからまだいいけど、外でこんなの使ったら大惨事だってば…
「スティラさん!大きいのお1つ、お願いいたしますわ!」
「……わかったよ。こうかいしませんね?」
「しませんわ!」
「本当に、こうかいしませんね?」
『ドカンと1発いっちゃってー!』
『こっちも問題ないわ、思いっきり叩き込んじゃいなさい!!』
…明葉と道乃がそう言うなら、まぁいいか…
「───大地を照らす光よ、全てを滅ぼす礎とならん。あらゆる全てに死をもたらす狂気の炎。」
日属性とは───光の属性、太陽の属性であることは間違いないのだけど、その本質は“核”の属性。光でも、紅炎でも、冠でも。少ないとはいえ人体に有害な放射線が含まれる。ただし、冠まではそこまで多くの放射線は含まれていない。せいぜいレントゲンとかで使われる程度。だからこそ私は…特に地球上では多少火力が下がっても冠を使うのだけど。
「我が声の導きに従い、我が言霊の凶刃に沿い、終焉を告げる爆炎となれ───」
狂界内のような、本来の世界と隔絶された場所であればその限りではない。狂界内でいくら物を壊そうが、いくら放射能汚染を引き起こそうが、狂界外にそれが漏れることはない。誰にも被害が出ないのならば、私は全力を振るうことができる───!!!
「───“第二の小太陽”!!!」
宣言が完了すると───超高温の紅い球体が現れ、それが爆発すると共に周囲一帯が焦土と化した。当然黒鬼の姿はなく、明葉と道乃、アリアナの姿だけがあった。
「わ、ぁ………なにこれ!?」
「まさか、これほどまでなんて……ホント、敵じゃなくてよかったわ……」
「………なんですの、ホントに…放射線量測定器の反応が異常になってますわよ……」
まぁ簡単に言えばここ、核爆弾の爆心地だし。あとこれでも全力じゃないわけですが。
「……そんなことより、みんな身体は大丈夫?何か異常ない?」
「問題ないよー。」
「私も問題ないわ。」
「わたくしも問題ありませんわ。」
「ならいいけど…」
鬼門の再構築を確認しないといけないんだけど…その前に、焦土と化した場所全域に立ち入り禁止線張らないとね。月属性の結界で身体を覆ってないと危険だし。
……え、伊邪那美様や天照様達はどうしたのかって?アリアナが来た頃にはもう別のところ行ってたよ?
「……ん。鐘。」
「4時の鐘ですわね。もうそんなに経ちましたか。」
夜明けは近い。…狂界外でどれくらい経っているかは知らないけど。
日属性は実は割と禁忌に近い属性です。
それでもほぼ普通の火と同じような危険度で扱えるのが日属性第三段階の冠までなのです。
そしてその日属性に対して正常に対応できるのが月属性です。
あと、狂界内は確かに結界によって本来の世界から隔絶された場所ですが、全員が狂界外に出たからといってその結界を破棄するわけじゃありません。あとで全部浄化したり修復する作業が待ってます。
狂界は日本全土を覆っているので全域浄化と全域修復はかなりの霊力・妖力・神力・星素・魔力を喰らっていきます。これにはスティラちゃんも協力するので特に問題はないですかね。




