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第四十星 魔境の夜・陸

……これってまだ平和な方なのかな?

少なくともスティラちゃんにとっては平和な方です。

「臨」


矢が放たれる。中りを確認した道乃が更に矢を番える。


「兵」


矢が放たれる。緑鬼を逸れた矢は不可思議な挙動で鬼まで再誘導され、緑鬼に中る。


「闘」


矢が放たれる。私が高速で動くことで緑鬼の速度を殺し、緑鬼から道乃への妨害を阻止する。


「者」


私がどう動こうと、道乃の矢が私に中ることはない。だからこそ道乃は私が派手に動いて緑鬼の意識を派手に引いてもそれを気にせずに矢を放つ。


「皆」


1張の弓から6本の矢が同時に放たれる。その矢は普通の挙動を持たず、一度広がってから集束するような挙動をする。


「陣」


上方に放たれた矢が空中でバラけ、矢の欠片といっていいものが緑鬼に中る。


「列」


上空に向けて放たれた矢が吸い込まれるように緑鬼に中る。


「在」


私がいた場所に矢が刺さる。それと同時にこれまで放たれた矢が淡く光を帯び始める。


「前」


私が詠唱省略で生成し、投げた氷の針と同じ場所に最後の矢が放たれる。


「───儀式“九字切射法”」


道乃の口から紡がれた最後の言霊に反応して矢が───正確には、矢に刻まれた術式が破魔の力を発揮する。


「■■■■───!!!!!」


「…しぶといわね」


「そうだね……」


基本的に緑鬼は速い代わりに装甲が脆い。…なんだけど、今相手にしてる緑鬼は装甲が硬い。軽く小突くくらいだと対して傷入らないし。


「どこかに緑鬼を補助してる鬼がいるんだろうけど…」


「…この中から見つけ出すのは困難ね」


現在第四波。パターン“鬼軍の津波”。大量の怨霊や亡霊と共に鬼が現れる。


「“(つぶし)”───“(ほろび)”!!」


今、私と道乃の視線の先には大量の怨霊を一人で引き付けてる明葉の姿がある。…恐らくだけど、この大量の怨霊の中に緑鬼を補助している鬼がいる。……私よりも背の低い、“小鬼”で。ただ、それを大量の怨霊の中から見つけろって言われると…


「……無理でしょ」


「そうね…覚悟はできてるわよ、スティラ?」


「……はぁ」


少し頭が痛くなりながらも道乃を抱える。


「いつも言ってるけど、身体にかなり負荷はかかるからね?」


「覚悟の上だって言ってるでしょう?それに、霊術だけじゃなくてSi Skillもそこまで軟に鍛えてないわ。」


「…そう。じゃあ…一気にギア上げるから」


そう言って───加速。シルヴァの風の刃を周囲に展開したまま緑鬼の周辺を飛ぶ。


「臨」


道乃が緑鬼に向けて手元で生成した矢を放つ。


「兵」


道乃が生成した円盤のような物が弧を描くような軌跡を通って緑鬼に当たる。


「闘」


掴みかかろうとしてくる緑鬼の手を蹴り飛ばし、怯んだところに道乃が剣を投擲する。


「者」


シルヴァの力で風を強く纏ってさらに加速。更に不規則かつ高速で動き回って緑鬼の感覚を鈍らせる。


「皆」


道乃が言霊と共に大量の槍を作り出す。…これやる度にいつも思うけど、これだけ上下前後左右不規則に動いても酔わない道乃の三半規管どうなってるの?


「陣」


道乃が生成した円盤に術式の陣が描かれているのを確認した後、地上に降りて緑鬼を中心とした円を描くように滑るような動き。


「列」


私がやっているのは地面に術式陣を描く作業。それ故に複雑な場所は凄く細かく、激しく動くことになるんだけど…それを気にせず次々に言霊を発せる道乃が私は凄いと思う。


「在」


言霊を武器に刻み、恒久的に言霊の力を乗せる。一時的な付与じゃなくて、絶対に外れない刻印。私はこれ割と苦手だし時間かかるんだけど……道乃はホントに簡単そうにやる。とはいえ、道乃が今使ってるのは霊力で構成した疑似的な武器だから役割を果たすとすぐに消えてしまうものだけど。


「前」


九字の最後、“前”の言霊と共に放たれた矢が特殊な軌道を描いて緑鬼の頭に中った時、私が描いていた陣も描きあがる。これで───


「「───“破滅撃”!!!」」


道乃が撃ち込んだ九字刻みの武器。私が描いた九字刻みの紋陣。それを合わせて───内部と外部から同時に“九字”を起動させる。


「■■■■───!!!!」


「スティラ!!投げてちょうだい!!」


「っ!!」


筋力強化の段階を上昇させて道乃を上空に投げる。空中で反転したのを確認してから緑鬼に視線を合わせる。


「“風精矢(シルフィード・アロー)”───幻影展開ファントム・エクスパンド


私が使うのは精霊魔法。それに加えて殺傷力のある本物と殺傷力の無い偽物を混ぜる“幻影展開ファントム・エクスパンド”を利用してどれが本物かを分からなくさせる。魔力そのものの反応は全く同じだから、普通は一目見ただけでは見分けがつかない。


上空を見ると滞空したまま大量の霊力矢を展開させている道乃の姿。全部本物───展開させている矢の数は私の方が多いけど、本物は道乃の方が多い。


幻影被覆ファントム・コーティング……血を魅せよ、裁きを下す。裁かれたならば自らの死を受け入れよ。冥府の女王がその矢を引く───“常世の壊矢ディスタント・ブレイクアロー”」


大量の風精矢の中に冥属性の“常世の壊矢”という矢を一本だけ紛れ込ませる。本来であれば色の違いで一目でわかるけど、幻影被覆ファントム・コーティングというSi Skillを使って風精矢に見せかける。


「安らかに───そして静かに、早急に去ね!!」


私の叫びと共に全ての矢が放たれる。上空からは道乃の矢、地上からは私の矢───虚像現像入り混ぜた矢の密集射撃。特に私の矢には致死の矢が含まれているから───


「未完儀式“終幕宣告(エンドコール)”」


私が告げて、私の矢が刺さった直後に消滅が始まった。


「ふぅ…」


「しぶとかったわね……」


「そうだねー…」


道乃も降りてきたところで明葉に群がる怨霊達を殲滅する。途中黄鬼の小鬼が6匹くらいいたから“鬼斬法・極”で斬り祓っておいた。道理で緑鬼が硬いわけだよ…


「お、終わった~……ごめんね、私処理しきれなかった…」


「いやあの数はそうそうないからね…それに鬼混じってたでしょ?」


「怨霊や亡霊だけならともかく、鬼まで混じっているとそれは無理よ。」


「鬼……10体くらい…いたねー…狩った数そこまで行ったらもう数えてなかった…」


「「………」」


…硬いわけだよ。ほんと。


「これこれ、気分を落としている場合ではないであろう?次が来るのであろう?ほっほっほ。安倍の娘よ、気をしかと持ちなされ。」


「…あ、はい…」


声とともに現れたのは槍を携えた女性。若く見えるけどこの人…いや、この神……


「ほっほ。よろしい、では婆やは少し暴れてくるとするかのう?鬼門は任せるぞ、人の子らよ。」


そう言って槍を手元で回しながらふらふらと近くの怨霊を倒しに行った。


「……ねぇ、スティラ。あの人…ううん、あの神様って誰?」


「私も知らない方ね…スティラなら知ってるのかしら?」


「…知ってるけど。あの人が来るの珍しいね。」


あまり姿現さないんだけどなぁ…まぁいいや、とりあえず───


「───その矛使いながら暴れすぎて大地まで壊さないでくださいよ、“伊邪那美(イザナミ)”様ー!!」


「「ぶっふ!?」」


あ、2人が吹いた。


「ちょっ……まっ…“日本創造神”……!?」


「なん、で……こんなところにいるのよ!!」


「いや私が知ってるわけないでしょ…」


あと、あの人が現世にいると黄泉国の方が心配になるんだけど。大丈夫?秩序とかズレてたりしないの?一応、考え方によっては黄泉の女神本人自ら怨霊達を迎えに来たとも取れるけどさ。


「…っていうかスティラ?あの矛を強調して言ったってことは、まさかあの矛って…」


「ん?“天沼矛(あまのぬぼこ)”だよ?」


「やっぱり…」


「スティラ…貴女は軽く言ってるけどぶっ飛んでる神器じゃない…」


国生みの神器だからねー…変に地面に触れさせたりすると地面を割ったり隆起させたりするから扱いは危険なんだよね…


「…あ。鐘。」


「…6時の鐘……やっと半分…」


ざっくり分かってるだけで今回いたのが17体。最悪の場合残り51体の鬼を狩らないとかぁ…

どんなに硬く、強い存在であっても何度も攻撃していればいずれ倒せる、が緑鬼を倒した方法です。

実は道乃ちゃんはここで書いた2回以外にもすでに3回ほど九字を強化された緑鬼に対して放ってます。

九字ってそもそも非常に高威力の霊体系特効攻撃なので、そんなの5回も…内部から叩き込まれた上、外部から1回叩き込まれれば流石に……

…で。伊邪那美様は明葉ちゃんが言ってますが日本創造神です。そして天沼矛は日本を創るために伊邪那美様と伊邪那岐様にそのさらに上位の神様より渡された矛です。追加で話すと伊邪那美様は黄泉国…死者の世界の神でもあります。それ故か死=破壊…日本列島を破壊するという力があります。

でもそれは変に扱った場合の話であって、ただただ戦うだけでは日本破壊までは起こりません。

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