第三十三星 休息
ランからのメッセージで来てたステラーシップを停めた場所に行くと本当に私のステラーシップが停まってた。
「ただいま。」
「お帰りなさいませ、主スティラ。」
ステラーシップに入ると同時に告げると、奥から声が返ってくる。ランだ。
「リミルやアリアナ、あと賢者達から連絡あったりした?」
「いえ、ありませんでしたよ。」
「そう。…ルシリールとエレナは?」
「自室でゆっくりなされてますよ。お呼びしましょうか?」
「いや、今はいいや。…私、お風呂入ってくるね。」
「それでしたら新しいお召し物の方、ご用意させていただきます。よろしいですか?」
「ん……お願い。…夜に依頼だから夜に溶け込めるようなものにできると嬉しいけど。」
私がそう告げた時、ランが何かを思い出した表情をした。
「…そういえば、主スティラ。楓様より剣を預かっております。主スティラの武器を預かっているのでその代用、とのことです。」
「剣……わかった。あとで預かるよ。」
剣……かぁ。まさかとは思うけど…
「…まぁいいや、お風呂入ってくる。」
「行ってらっしゃいませ。」
その言葉を最後に私は大浴場に向かう。…“星素”や“魔力”といった力は元々不定形なもの。それに方向性を与えて特定の動きができるようにしてる。この船を動かすためのエネルギーとしても使われる星素は、船内の様々な用途によって変換されて使用後はまた星素に変換されて星素を濾過してもう一度使われる…みたいな、水の循環みたいな動きで廻り続けている。星素属性変換機能はあっても星素濾過循環機能は他のステラーシップには少ない特徴。…それもそのはず、星素濾過循環機能は理論構築と機構構成が非常に難しいものだし。
「…あれ、お風呂沸いてる……?入退室ログ参照……なるほど、数十分前にエレナが入ってたのね。」
お風呂場の湯気に入退室ログを見てみたらエレナの記録があった。現在の温度は…38℃。
「換気と再給湯と…へぇ。割と高めなんだ、あの子……」
沸かした直後の温度は42℃だったみたい。私に合わせると普通は高いんだけど…私が上がった数分後くらいがエレナにはちょうどよかったのかな。
「……ん、沸いたかな。」
”大浴場“というだけあって広いし大きい。あと異空間化してるからこそ出来ることだけど、私のステラーシップには大浴場が10ある。それぞれ女性、男性、両性、無性、混浴で2ずつ。で、今私がいる大浴場は混浴用。階段から一番近いのがこの第一大浴場なだけで、混浴大浴場に入っている理由はそれだけしかない。実際、このステラーシップにいたのは私とランの女性2人だけだったわけだし。私を狙う刺客達は…まぁ。どうせあの場所から出れないし、あの場所にも少し大きめのお風呂はあるし。
「別に私が設計した訳じゃないから、お父さんはたとえ私を狙う刺客達であっても清潔な状態を保たせることが出来ないのは私が嫌がるって分かってたんだろうな…」
潔癖性ではないけれど嫌なのは事実だし。そんなことは置いておいて、かけ湯をした後45℃にしたお風呂に浸かる。
「───ふぁぁぁぁぁ……」
あ、力抜けた……
「お疲れでしたか、やはり…」
「肉体の疲れというよりは精神の疲れだと思うわよ?」
「ご主人、大丈夫ー…?」
「だいじょうぶ~……」
「ボクには大丈夫に見えないよ?ここまでぐにゃぐにゃになるのは結構珍しいし。」
「仕方ないよ、スティラはホントにあの男嫌いだから…呪いが“呪い”である原因ってあの男なわけだしさ。」
「ホント、厄介ねー……他の元素精達も困ってるわよ、自分の好みの人に寄り添えなくて。」
「我々元素精はたとえ相手が我々の姿を視えずとも力を貸すことはできますからね…」
「それを精霊魔法と判断されて、呪い持ちだと思われてその人が駒にされるのはボク達元素精の望むところじゃないからねー。」
元気っ娘、先導者気質の火元素の純精霊“サナ”。
静かな娘、奉仕者気質の水元素の純精霊“ウーネ”。
臆病な娘、自然体気質の風元素の純精霊“シルヴァ”。
ボクっ娘、分析者気質の地元素の純精霊“ノア”。
令嬢風娘、高圧的気質の第五元素の純精霊“エティ”。
この五名が私と一緒にいてくれてる純精霊達なんだけど……かなり性格がバラバラだったりする。でも各々仲が悪いとかはなくて、発言力弱そうなシルヴァの意見もちゃんと通る。
「……ん?ご主人ご主人、ランさんが外からこっち見てるよ?」
「…はぇ?らん?」
私が声をかけると湯気の奥からランが姿を現した。
「……索敵された感覚はありませんでしたが……純精霊様ですか。」
「のあがおしえてくれたの…」
「なるほど……ところで、大丈夫です?少し意識が緩いようですが…」
「ちょっとまってぇ……」
ステラーシップは私にとって一番安全な場所。基本的に常に意識を張ってる私はこの大浴場だと数十分くらい本当に緩くなる。でもそろそろ……
「……ん………何?ラン。」
「おや、再起動しましたね。…10分くらいですか、よほどお疲れだったようで。」
原因は分かりきっていますが、とランは呟いた。
「用件は?」
「そうでした、リミル様からお電話です。お繋ぎしますか?」
「リミルが?まぁ……入浴中でいいなら。」
「あちらも入浴中だそうですよ。」
いやなんで入浴中にかけてきたの。
「……いいや、リミルと繋げてくれる?」
「畏まりました、お繋ぎします。繋がりましたら私は失礼します。」
「ん。」
ランが操作すると私の前にホロスクリーンが現れる。“Connection Pending”から“Connecting:Start Projection”に変化する。…投影、ってことは……
「繋がりました。それでは私はこれで失礼します。」
「あ、うん、ありがとね。」
〔ん……?あ、スティラー。元気ー?〕
「……入浴中に、しかもビデオ通話でかけてきてたんだ、リミル…私が誰か男の子と入ってたらどうするの?」
〔スティラならその辺考えるでしょ?〕
「……まぁ。」
だと思った、と言って通話先で湯船に寄りかかる金糸雀色の髪の女の子。“リミル・コスモリルエル”。低い身長もあって女の子…というか幼女にしか見えないけど20歳は越えてるらしい。出会った時は合法ロリだー、なんて言ってたけど、普通に強いんだよねこの子…いや、成人に対して“この子”は失礼か、“この人”だね。
〔実際、スティラが男の子と入浴してるのが想像できなかったっていうのもあるけど……〕
「怒るよ?事実だけど。」
〔事実なんじゃん……〕
「…そういえば、私に連絡できるってことはまたこっちに来てるの?」
実は、リミルはこの世界…私が今いる地球のある世界と、その地球と繋がった異世界の二つの世界を“この世界”と表現するけど、それとはまた更に別の異世界から来た世界転移者。元々この世界に来たのは単なる事故だったらしくて、リミルの世界で転送魔法が暴発してこの世界に来た…らしい。私が生まれるよりも前の話だから何とも。で、今はリミルとそのお姉さん5名、計6名はたまにこの世界に行き来してるけど、私達がリミルの世界に行くことはできないのが現状。…行ったところで何も変わらないだろうから別に気にしないでいい気もするけど。
〔ん、例のところにお邪魔してるよー。〕
「まぁ、そうだよね。その大きさのお風呂あるの、私の記憶だと異世界でもあそこくらいしか思いつかないし。」
〔ねぇねぇ、スティラー。近いうち会えるかな?〕
「…どうだろ、色々忙しくなるだろうし。…儀式もあるから。」
〔あー、“七夕の儀式”かぁ。〕
リミルの言葉に頷く。今回、あまり太陽系に長居できない理由がこの“七夕の儀式”。余裕をもって7月5日の朝くらいには発っておきたい。
〔ってことは番なんだね、私達。〕
「番…ってことは、リミルが今年の?」
〔うん、私が今年の“彦星の神官”だよー。改めてよろしくね、“織姫の神官”様!〕
そう言って笑顔を向けるリミルに小さく頷く。“番の神官”とは七夕の儀式において、自分と相手方の神官をまとめて指す言葉。…いつからか、そう呼ばれるようになったらしい。一説では神官となった2人は恋人になることが多かったとかなんとか……
〔それにしても、スティラが織姫の神官に選ばれてるの何年連続だっけ?〕
「んーと……7年かな。」
「いえ、10年ですよ。最初の3年は雹星が断っていましたから。せめて小学生前半は流れ星としてではなくどこにでもいるような1人の子供として過ごしてほしかったそうです。」
え、初耳なんだけど……ていうか
「ウーネ達はそれ知ってたんだ?」
「雹星が精霊を通しておしえてくれたのよ。…伝える機会がなかったとはいえ、黙っていたことは謝るわ。」
「いや、別にいいんだけどさ……」
……なんで10年連続で私を神官として呼んでるのさ。
「…あ、話変わるけどさ。」
〔んー?〕
「さっきの警告ありがとね。」
病院にいた時に来てた術式具現体はリミルが主。
〔え?…あー、いや別に予め仕掛けておいた時限式だったから今の私が何かした訳じゃないんだけど。〕
「だとしても、今夜何かが起こるってことが分かったから。ありがとね、リミル。」
〔……無理はしないでよー?〕
「問題ないよ。」
〔…………まぁいいや、なんか困ったらちゃんと言うんだよ?〕
「ん。」
実際、リミルもSランクの流れ星。ただ、その実力からXランク相当…なんだけど、リミルは頑なにXランクへの昇格を拒否してる。…いや、リミルだけじゃないか。リミルの家族全員がXランク昇格を拒んでるっけ。
〔…長々と話しすぎちゃったかな。私はこの辺で失礼するねー。…あ、のぼせる前にちゃんとお風呂から上がるんだよー?〕
「…ん。」
〔ばいばーい。〕
その言葉を最後に通話は切れた。
「……私も上がろ。」
お風呂から上がって用意されていた服を着る。それから大浴場の外でランから剣を受け取って、天文室に。地球の星空を表示してゆるりと近場の椅子にもたれ掛かる。
「……」
緩やかに、確実に。時は刻まれて流れていく。




