第三十星 秘魅咲
「う…ん……?」
屈んだ状態になっていた身体を起こす。…変な体勢で寝てたみたいで、身体が痛い。
「あっ、やっと起きた。おはよ、星柚音ちゃん。」
「…うん……?」
「よく眠れた?」
星柚音、というのは私の日本名。私をその名で呼ぶこの声は……
「……楓さっ、痛ぁっ!?」
「あぁ、もう。いきなり無理に動いちゃダメだよ。さっきまで変な体勢で寝てたんだから。」
「うっ…ご迷惑をかけます…」
“秘魅咲 楓”。お父さんの1つ下の妹で、今はお父さんの代わりに社長業務に就いている。そこから分かる通りお父さんこと“秘魅咲 雹星”は社長で、私こと“秘魅咲 星柚音”は社長令嬢となる。……まぁ、私は権利放棄してるようなものだけど。
「あの…私はどれくらい…?」
「ぐっすり寝てたよー?受付の人に聞いたら5時には来てたっていうし、いろいろやってたとしても5時間くらいは寝てたんじゃないかな?…今、11時だし。」
「…えっ!?」
楓さんの言葉に驚いて立ち上がると、私の膝から本が落ちた。その本を楓さんが拾ってくれる。
「この本…ダメとは言わないけどまた読んでたの?」
「あ…はい。」
「…兄さんだけじゃなくて私もちょっと出てるの、実は恥ずかしいんだけどな…」
私が読んでた本は星元から5年後くらいまでの出来事を記載してあるもの。今上天皇を中心に、日本の変化やSi Skillの研究、それから今上天皇とその護衛達の旅物語…等々、色々記載されてる。…これが実話だって言うんだからこの世界の変化が凄まじいものだっていうね。
「…私がお父さんの軌跡を知るのに、一番身近な手掛かりですから。この本は…」
「…だってさ、兄さん。少年時代の兄さんのこと、知りたいんだってさ。……意識がある頃に、話してあげればよかったのに。ねー?」
「あはは……」
…“秘魅咲”家は代々日本皇室に仕える護衛役の一族。そう、私は楓さんから聞かされた。そして、星元当時、現在の今上天皇の護衛役として傍にいたのが私のお父さん。私が読んでいた本の中に出てくる、“少年”がそれにあたる。それ故に、お父さんは強い。…ううん、お父さんだけじゃなくて楓さんやその下の妹さんも相当強い。当然ながら私にもその秘魅咲の血は流れているわけで、それ故なのか戦闘技能の習得はかなり容易だった。
「そういえば、工場の方は大丈夫なんですか?」
「んー?大丈夫だよ、私がやることってあまりないし。社長である兄さんがいないから社長代理をしてるけど、あんまやることないんだよね…」
今上天皇の指示でお父さんは護衛から外れ、工場を設立・経営するようになった。そのお父さんの代わりの護衛役としてその妹である楓さんが護衛役に任命された。その後、お父さんが植物状態に陥った時は今上天皇が即座に手を回し、この星花神国営病院15階への入院許可、及び楓さんの社長代理任命と楓さんの妹さんの護衛役任命が行われた。
「何か工場に用事でもあった?蘭ちゃんから連絡受けてステラーシップ見てきたけど特に損傷無かったし、蘭ちゃんの機械部分修復とかでもないだろうし……」
「えっと…私の各武器のメンテナンスをお願いしようかなって……」
「各武器……あぁ、物理刃太刀“星影”と物理矢和弓“惑星空虹”……それから可変武器“サイノカワ”のことでいいのかな?」
楓さんの言葉に頷く。ランも、私のステラーシップも、私の武器達も……ほとんどがお父さんが社長の工場、“国営秘星岸関隕星鉄鋼総合工業”で製造されたもの。…正確には、お父さんが私のために独自に作ってくれてたもの。社長だからといって工場の資材を使った訳じゃなくて、お父さんがが独自に集めた素材を使って作ってくれてたらしい。…何気にお父さん、元・Xランク流れ星だからやろうとすればできたんだろうね……ちなみにそんなことをしてて付いた異名が“器物創造の魔術師”。流れ星としての異名は氷属性使いでSi Spellをメインに使ってたことから“雪魔杖”なんだけどね。
「星影を見せてもらってもいい?」
「あ、はい。」
星影を取り出して楓さんに渡すと楓さんが軽く星影を抜いた。
「………そこまで損傷はなく見えるけど………それでも結構使い込まれた痕跡があるねー。」
「……」
「……うん、この子も喜んでるよ。星柚音ちゃんに大切に使われて嬉しい、って。惑星空虹も出してくれる?」
言われて惑星空虹も出して楓さんに渡す。
「…私、結構乱暴に使ってると思うんですけどね。」
「損傷△…っと。酷い人だと一切手入れしない人とかいるからね。壊れるまで使ってそのまま捨てるって人、私今まで何人もみてきた。最後、サイノカワも出して?」
サイノカワを渡すと同時にそれは確かに、と思う。特に楓さんは武器作製や武器修理が本職みたいなところあるから私より多くの人を見てきてるはず。
「そうでなくとも星柚音ちゃんはこの子達を大切に使ってくれてるんだと思うよ。…ん、とりあえずみんな預からせてもらうね。明日にはメンテナンス終わらせるようにしておくけど……大丈夫?」
この大丈夫、とは武器がなくなるけど大丈夫か、の意味。一応徒手空拳も鍛えてはいるんだけど…
「無理そうになったら精霊達にお願いするので大丈夫ですよ。」
「マスターのことは私達が守りますよ、楓嬢。安心してください。」
ウーネがそう言うけど、楓さんは精霊と言葉を交わす力を持ってないから聞こえないんだよね…
「んー…分かった。……っと。そろそろお昼だね……えーっと?」
「……ごめんなさい。」
「虚食状態かぁ……まぁ、仕方ないよ。また今度一緒に食べようね。」
楓さんの言葉に頷く。
「…あ、星侵害孤児の子達のことも儀式の前々日には受け入れられるように準備しておくね。」
「あ……ありがとうございます。」
「いいってば。儀式後に戻ってくるのは嫌でしょ?」
「……はい」
「あの男、星柚音ちゃんは何も用がないのに呼び出してくるもんねー。職権乱用だよホント…」
楓さんはそうボヤきながら病室を後にした。




