第二十九星 歴史
日本標準時───西暦2032年7月7日18時45分。
その日の天気は快晴で、天の川のよく見える七夕だった。
そんな日に───突如としていくつもの流星、即ち流星群が降り注いだ。
天の川と流星群の共演。歴史的に見ても、例を見ないような光景だった。
写真を撮るもの、動画を撮るもの、ただただ見とれるもの───行動はそれぞれではあったが、最終的な行動は“願い”だった。
“流れ星に願い事をすると願いが叶う”───そんな言葉に従い、願いを込めた。
……それだけならば、まだよかったかもしれない。
その日は七夕。奇しくも“願い”が関係する日。
そして、日本は以前より異世界や魔法の概念が好まれていた地。
故に、願い事の中に“魔法が使えますように”というようなものもあった。
それが1つだけであれば話は終わる。
子供達は確かに魔法や異世界に憧れを持ち、それを願いとして記すかもしれない。だが大人達はあり得ないと分かっているからこそ記さない。
しかし───天の川と流星群、あり得ないような事象が目の前で起きたのならば?小さな望みに賭けて願う者もいるだろう。
たとえ1本1本の糸が細く、脆くとも重ね合わせれば大きな織物となるように。たとえ1本では容易く折れる矢が3本纏めれば非常に折れにくい矢の束となるように。
“魔法が使えたら”、“異世界に行けたら”という幻想を望む願いは紡ぎ紡がれ、大きな願いとなり───
「───だぁっ!!」
日本標準時、西暦2032年7月7日18時52分。
「うん?」
「おん?」
「…え?」
東京都千代田区千代田1-1。
「……あ?ここどこ……いや、あんたら誰……?」
「いや、それは私の台詞なんだが…とりあえずここは皇居と呼ばれるところで、私の自室だ。」
「は………?皇……居…?」
───皇居の一室にて、異世界への門が開かれた。これが、後に“星元”と呼ばれる出来事である。
異世界からの最初の来訪者は名を訪ねられた際、少し考えてから“星の賢者”と名乗った。
星の賢者は同じ部屋にいた少女に請われ、自らの魔法を見せた。
火の魔法。最も普通であり、最も基本的と言ってもいい火を生み出すだけの魔法。
あろうことか、少女はその魔法を見ただけで再現してみせた。
これには星の賢者はもちろんその場にいた少年と青年も驚き、どうなっているのかを観察した。
そして魔法を知る星の賢者が言うには、これは魔法ではなく別のものだ、ということだった。
しかし、魔法ではないが何か周辺の力や体内の力を使っているのは確かだという。
星の賢者が門を通って一度異世界へ帰り、弟子達と共に戻ってきて細かく徹底的に調べたところ、どうやら使用しているのは星が発しているエネルギーだということが判明した。
このエネルギーは体内と環境のエネルギーを合わせて“星素”と名付けられ、これを使う術式を“星惑交魔技”と呼ぶようになった。
さて。夜が明けた後にこの事を青年が当時の天皇に伝えた結果、当時の天皇は頭を抱えた。
変わらぬ日常であったはずなのに突如として舞い込んできた非日常。頭を抱えるのも無理はない。
故に、当時の天皇は考えることを放棄。その時点で生前退位を行い、皇位を青年に譲渡。日本標準時西暦2032年7月8日9時05分、あまりにも唐突すぎる生前退位と即位が行われた。
あまりにも唐突なその出来事に、国民全員が慌てるなか、天皇となった青年はさらに困惑することを全国民に聞こえる放送で告げた。
この世界は昨日を境にガラリと変わった、異世界と繋がり魔法が確認された、どうやらその魔法は我々も使用できる。
その言葉に気が狂った人間が天皇になったのかと不安になったものもいたが、皇居から放送された映像でそれが真実だと知ることになる。
映っていたのは天皇になった青年とその側にいる少年少女、そしてローブを着てフードを被った男。少年と少女は以前から青年と仲の良かった友人であったためいても不思議ではない。だがローブを着てフードを被った男は誰の見覚えもなく、怪しまれていた。
放送音声と映像音声は若干のズレがあったが言葉が全く同じだったために事前に用意された動画の線は否定された。そうでなくともインターネット上での国民の発言を少年が逐一拾い、実行していたために否定できる部分は少なかった。
まず、謎の男こと星の賢者は大量の水を何もないところから呼び出した。やはり合成だという人間もいたが、青年の許可と共に火を生み出し、水で少年の隣にあった机を破壊、そして燃やした。その数秒後に水で火を消し、机を修復してみせた。傷1つなく直してしまったから合成を疑われたが、少年が机を物理的に破壊し、それを星の賢者が修復するという行程で黙らせた。
次に、少女が少し力んだかと思うと少女が手を伸ばした方向に炎の壁や火の玉が展開された。これには星の賢者が部屋内にいては手助けした可能性があると指摘され、星の賢者が部屋の外に出て別室を映すカメラに映ったのを確認したとしても変わらない出力であったために手助けはないと証明された。その際、星の賢者は音の届かない部屋で付近にあった本を呼んでいたためにタイミングを図ることもできないだろうと。後に星の賢者が言った言葉では、あれは魔法ではないから自分の補助は効かない、とのことだった。魔力感知に関しても、魔力ではないから感知できない、と。
最後に、魔法のぶつかり合いを見たいとのことで星の賢者が呼び戻された。少女は乗り気だったが、星の賢者は乗り気ではなかった。星の賢者は“賢者”と呼ばれるに相応しい実力をもつ存在。対して少女はつい先日魔法を知った初心者だ。そんな悩みをよそに、魔法の撃ち合いは始まった。
……当然ながら、結果は星の賢者の圧勝であった。ただし、星の賢者が手加減していたとはいえ少女は善戦していた。…というか、戦いの中で少女は自らの魔法を開拓・強化していった。火、水、風、地───星の賢者が戦いの中で見せたからとはいえ、それを即座に再現して取り入れるのは少女の適応力と才能だろう。星の賢者は今更ながら少女の素質が凄まじいものだと感じた。
放送の最後、青年は国民達全員に向け、詳しいことが分かるまで他の者たちは使わないように、と告げた。
各調べはこちら側で進め、随時情報は共有すると。
…そして、放送から2週間後。正式に、“星惑交魔技”の扱い方が全世界に周知された。
その後は様々なことが立て続けに起こった。
星花神国営病院の設立。
星惑交魔技の各属性術式定義。
各天体の再観測、及び星間ギルドの成立。
亜空間航行の使用技術確立。
宇宙翔ける船“星間飛行船”の製造方法確立。
西暦から星暦への年号変更。
日本標準時から星界標準時への名称変更。
日本内閣の全解体、及び再編───
それから、特殊能力保有者の観測。
これら非常に様々なことが起こる中、異常な程星惑交魔技の扱いに長けた者や強力な星惑交魔技を扱える者達が現れ始めた。
その世代は子供から大人まで幅広い世代に分布した。
全員に共通するのは“想属性”の適性があったこと。
星惑交魔技発祥たる日本皇室と“原初の魔技の娘”と呼ばれるようになった少女、そして傍にいた護衛役であった少年と星の賢者はその規則性を探るためにそれぞれの人々の経歴を洗った。
やがて、魔法を知る星の賢者が規則性を見出した。
星の賢者が言った。異世界側の魔法の根幹は想像力であり、より強い想像ができれば強い魔法を扱いやすくなる、と。
元々想像したものに対して四大元素を割り当てることで魔法として具現化しているものだ、と。
強力な星惑交魔技を扱える者達は“想属性”の属性適性を少なからず持っているものばかりであり、それがこの現象の規則性になっている、と。
その言葉にピンとこなかった他の者達は星の賢者に更なる説明を求めた。
すると、星の賢者は簡潔に言った。
想像力の塊である“中二病”が。創作力の塊である“創作者”が。想像力を糧とする“想属性”に非常に強く嚙み合った、と。
唖然とする他の者達に星の賢者は重ねて続けた。
それが自らの想像力で生み出されたのであれば、如何に本来自らが扱える力を越えていたとしてもそれを完全に制御できることにも納得ができる、と。
自らの想像力で生み出されたのであれば、それを自らで操るのは容易いだろう、と。
その説明に他の者達は納得した。
成人にも満たず、星素を多く持つわけでもない少年が炎の巨人を生み出し、それを正常に制御して見せたということがあったからだ。
その少年は火属性の属性適性などなかったというのに、どうやったのかと不思議に思われていた。
調査班の一人が星の賢者に問うた。それではこれに危険はないのか、と。
星の賢者は首を傾げてから告げた。魔法もそうだが、想像力を維持できなくなるとそれは不安定になる、と。
不安定になった術はそのまますぐに消えるか消えずに不完全に残るか。不完全に残ったとしても数分もすれば消えるが、最悪の場合その不完全な術式で術者が死ぬ、と。
全員が顔を青くする中、星の賢者は小さくため息をついて告げた。力というのはそういうものだ、と。
制御を誤れば簡単に人を殺すのが力だ、と。
ならば想属性の制御を失った際の対策はあるのか、と天皇たる青年は問うた。
星の賢者は少し考えたのち、不完全な制御とはいえ少しの行動くらいは効くだろう、と告げた。
効かないならば即座に結界で自らを守ればいい、と。
もし不安であれば、自動的に結界を展開する装置を作ればいい、と。
そして、そのための協力は惜しまない、と。
そうして───現在につながる様々な装置や物が生み出されていった。




