第二十八星 見舞
ギルド総本部を出たあと、数時間ほど飛んで地球の日本に降り立つ。Si Skillのお陰で生身───結界で覆っているので生身といえるかどうかはともかく───での光速移動が可能になったことで移動はかなり楽にはなってる。
「……」
降り立った場所は病院の前。割と速度は加減してきたはずだけど時間は5時。
「……早すぎたかな」
考えていても仕方ないから病院内に入る。扉の開くその音に気付いた受付の人が私に気が付く。
「あっ…おはようございます。」
「おはようございます。朝早くにすみません。…それで…その。」
問いにもなっていないようなその言葉に受付の人は頷く。
「…いつもの通り、です。」
「…そう…ですか。…入っても?」
「はい、大丈夫ですよ。こちら、いつもの通りお持ちください。」
特殊来院者パスを出され、それを受け取る。
「いつもありがとうございます。」
「…いえ……ごゆっくりどうぞ、スティラさん。」
お礼を言ってからエレベーターに。扉を開けて中に入った後、特殊来院者パスをエレベーターボタンの下にある黒パネルにかざす。その後14からB2までの16個もの数がある階数ボタンを何も押さずに扉を閉める。閉まったのを確認した後さらにもう一度閉めるボタンを押す。
〔特殊認証を確認しました。上へ参ります。〕
アナウンスの後エレベーターが動き始める。
「…はぁ。いつもの通り、か…」
ため息をつきながら電子案内板を見つめる。星花神国営病院───それがこの病院の名前。国営病院の名の通り国が運営している病院で、星元直後に設立された日本で最も安全な病院。今もその防衛機能は拡張され続けていて、一種の核シェルターにもなっている場所。地球に帰ってきたときにはいつもここに来る。
〔お待たせしました。15階です。〕
少し考え事をしていたら目的階層の15階に着いた。…割と早いからあまり待ちはしないんだけど。
「“隠蔽解除”」
私の言葉に物が雑多に置かれている風景から普通の通路に変わる。…いつ見ても凄い、この結界。…さて、と。
「…1525号室まで遠いんだよね…」
1階につき25の病室が存在するこの病院。つまり私の目的の病室は一番奥となる。…そして、一般の人は入ることのできない15階は“皇室関係者専用病棟”。必然的に皇室の人間になる、ということでもあるのだけど……実は、この病棟に入れるかどうかを判断するのは天皇皇后両陛下だったりするので一般人であっても入ることは可能だったりはする。
「……ここだ」
目的の1525号室の扉を叩く。その、皇室関係者専用病棟の最奥に───
「…来たよ、お父さん。」
私のお父さん───“秘魅咲 雹星”は、静かに眠っている。
「元気……なわけないか。とりあえず窓、開けるね?」
秘匿されている病棟ではある15階だけれど、部屋や廊下にある窓から外の景色は見えるし自然の風も入る。でも、外見だけではこの病院は14階建てにしか見えない。この15階自体が非常に強力な結界で覆われていて、さらに病院内外で結界があって…っていう感じで存在を隠蔽しているからだけど。この病院に入っている人には15階は倉庫としか説明されてないし、実際隠蔽解除しないと倉庫にしか見えないから気にする人もいない。
「……」
「……5年、か…」
ギルド総本部では“殺された”と言ったお父さんだけど。…厳密には、生きている。ただし───植物状態で。…5年前から。
「……あ、水も変えなきゃね。」
お父さんの隣の机に置いてある6つの花瓶、1つ花瓶を残して飾ってある5輪の花。枯れた白のユリ、白のハナニラ、枯れかけた青のワスレナグサ、白のコチョウラン───それから、ピンクのアルストロメリア。昔お父さんが言ってた話では今ここに飾ってあるアルストロメリア以外の花達は“命の花”と呼ばれる魔法の花。一応分類的には魔道具らしい。花=命で、花が咲いていればその花に対応する存在は生きていることを証明している…とか。私はあまり詳しくないけど、枯れた白のユリはそれに対応する存在が既に死んでいることを示す。…そして、そのユリは……お母さんの花だった。
「ウーネ。花瓶の洗浄ときれいな水、お願いしていい?」
「お任せください、マスター。」
私の声掛けに現れたのは体が水で構成された女性。───水元素の純精霊。水元素精の一種で最上位個体。個体の強さとしては星幽>妖精>純妖精>精霊>純精霊だから非常に強力な水元素精なのは間違いない。…私の精霊使役の呪いこと“全精霊声紋”は全ての元素精の純精霊に言葉を届けられるっていう馬鹿げたもの。…まぁ、超呪詛なんて全部馬鹿げたものだけど。
「終わりました、マスター。」
「ありがとう、ウーネ。」
水の入った花瓶を受け取って花を戻していく。
「今日もお花の方綺麗にしておいたからね、お父さん。」
「……」
返事はない。…まぁ、植物状態だし……というか、何気に死んだことにされてるのもお父さんを守るためだし。
「……はぁ」
小さくため息。…お母さんもお父さんも、事故で今の状態になった。お母さんは呪いも何も持ってない、普通の人だったから即死だった。でも、お父さんは“星素生命維持変換”を持っていたからか一命は取り留めた。ギルドには死去と報告されてはいるけど。事故の内容は同じ交通事故で、お母さんは正面衝突、お父さんは相手の信号無視だったとかって。……それがただの事故だったなら、私もあの男に殺したなんて言わない。でも、どちらの現場にもあの男の姿があった。ちなみに事故を起こした当人…つまりお母さんの時の運転手、お父さんの時の信号無視をした相手も即死状態だった。…過去視をした楓さん曰く“人をこんな風に操るのはアルコリアの手口だ”、って。実際にその場にいたことからも……その場で駒にして使い捨てにしたか、元から使い捨ての駒として用意していたかのどちらかだ…って。
「……嫌になるね…ホントに。ごめんね、お父さん。」
「……」
「…ホントに……ごめんね」
…私の住む家がなくなったのも、あの男のせいだと言われている。“帰る場所”という逃げ場をなくし、完全に自らの手に納めるための一手。そのためにあの男は私達の住んでいた家を燃やした。…燃焼を起動させる駒となった人ごと。遺体には他人の星素残滓は残りにくいのもあるし、いくらアルコリアの星素残滓が残ってても“自分は指示を出していない”で終わってしまうから。状況証拠しかないから決め手にはならないし。事故はともかく、家の火災は不自然すぎたから明確にあの男の仕業だと言われている。…遺体の心臓部を発火点として家中に燃え広がったとか不自然でしかないし。そもそもあの家は私とお父さんしか住んでいなかったのだし。鍵を持ってるも私とお父さんと楓さんだけで、全員持ってるのは物体移動情報でも確認できてた。
「……どれだけの人が、あの男の手によって死ねばいいんだろうね。お父さん。」
「……」
「人を駒としてしか見ないあいつらなんて大嫌い…」
アルコリアの一族にとって───私やお母さんみたいに人を駒と見ようとしない方が異端だ。私とお母さん、あとそれからお母さんの妹さんはその呪縛と言ってもいいそれを逃れた。そしてそういった異端者は一族同士であっても駒として扱われる。異端者は一族から処分されるか確保されて駒として使われるかのどちらかになる。お母さんの場合は“私”が新たに現れたゆえに処分された。……だから。家族を失った全ての元凶は、私だ。
「…もう……やだ…………」
そんな小さい呟きに、返る言葉はなかった。




