第二十二星 ザニアを発つ
「忘れ物はない?」
「ないけろ。」
「私もないです。」
「そう?ちゃんと確認した?」
「…スティラさん、なんというかお母さんみたいです。」
エレナの言葉に詰まる。…まぁ、別にいいんだけどさ。本当のお母さんがすぐそこにいるのにそれを言うかな。
「…娘とルシリール君をお願いします、スティラさん。」
「エレナのお母さん…本当によかったんですか?」
「えぇ、娘達が選んだ道ですので。」
…納得はしているようだけど、少し悲しそう。
「…スティラさん?」
「はい?」
「いえ、何か思いつめたような表情をしてましたから。」
「……そんな顔、してた?ラン。」
「まぁ…はい。」
…ということは私が気が付かなかっただけかぁ…
「……“漆黒の緞帳”」
「…!?」
「スティラさん。貴女はそんなものを羽織っているように私には見えます。…私の娘、エレナは紫の羽織でしたが。私が見ることのできるこれは、もしや…」
不安そうな表情をするエレナのお母さんに小さく頷く。
「…“呪衣視眼”、ですか。人が背負う呪い…特殊能力を視覚的に見ることができる想属性Si Skillですけど…エレナのお母さんは、結構珍しいものを使うんですね。」
私がそういうとエレナのお母さんが笑った。
「私のは、呪いではないのですね。昔から、自然に見えていたのです。人によって羽織っていなかったり、色が違ったり。他の方に相談しても知らないと返されるばかりで怖かったのです。」
「……なるほど。」
エレナのお母さんをよく見ていると分かったけど、大星素容量ではないけれど星素の制御が苦手なのか常に漏れ出してる状態だった。それを無意識にSi Skillに変換して、違和感を打ち消していた…か。
「呪いではないと聞いて安心しました…けれど、娘の苦しみを理解してあげることはできませんね。」
「……」
苦しみ…か。
「…改めて、娘をよろしくお願いします。」
「…できるだけ、エレナたちが安全にいられるように努力しますね。」
…願うならば、総てが終わった時に五体満足で帰れることを。
「……」
「さ、行こ、ラン。」
「はい、主スティラ。」
エレナのお母さんがきょとんとした表情をしていたけど、そのままステラーシップに戻る。ランも入ったのを確認してステラーシップの扉を閉める。
「…さて、と……って、なんで2人とも入口にいるのさ」
「え、えと…」
昨日の内に船室の清掃はしてあるし、船室や食堂とかの場所も説明してある。…はずだし、荷物も各船室においてあるはず。なんで…
「「え…えと…!ふ、不束者ですがこれからよろしくお願いします…!」」
「いや三つ指つくなし。結婚するわけでもないんだし。」
ていうかルシリール一瞬方言外れた?
「…まぁ、いいや。」
気を取り直して制御室まで移動。船体の操縦に関するコンソールとか操縦桿とかはここだし。
「さて…と。確認だけど、これから私達が向かうのは“地球”。…で、ザニアを出る前に1つだけ言っておくことがある。」
「「?」」
「私がいいって言うまで絶対にこのステラーシップから外に出ないで。」
「…どういう、ことですか?」
どういうこと、か…
「地球は確かに安全な場所だし住みやすい場所。…なんだけど、呪われた者にとってはかなり危険な場所だから。安全を確保できるまで、降ろすわけにはいかない。って言っておけばいい?」
「危険…けろ?」
「そ。…ま、あとで説明してあげるよ。このステラーシップ内は異空間化してるから、中に誰がいるのかとか探知しきれない。呪われた者がステラーシップ内にいるとしても、それを探知されることはない。だから比較的安全なんだよ。」
呟きながらコンソールに触れる。触れたことでスイッチが入り、ステラーシップ内が揺れる。
「ザニアから地球まで、大体265光年。…ま、普通なら絶対辿り着けない距離だけど…」
「スティラさんがここにいるのが辿り着ける証明、ですよね?」
「そうね、エレナ。」
ワープドライブを起動する。亜空間の状態からザニアから太陽系までの航行日数を予測計算───40時間で到着と推定。
「とりあえず明後日には着くかな。」
「速かないけろ…!?」
「いや、遅い方」
「ですね。少々亜空間の状態が悪いようですね…」
調子がよければ今日中には着いたと思うけど。
「行くよー。一気に揺れるからしゃがんでるか近くの手すりに摑まってるかしてなさいな。」
2人とも手すりに摑まったのを確認して操縦席に座る。それを検知して起動待機状態だったステラーシップが地面から離れるのがモニターで確認できる。
「わ、わ、わ……も、もう飛んでるけろ!?」
「凄く…静かに飛んで……」
「…じゃ、行くよー。ワープドライブ開始。」
私が呟いた瞬間、ステラーシップが大きく揺れる。亜空間に入る時、亜空間から出る時は空間ズレが起こるから大きく揺れる。そんなものだから亜空間に生身で入る場合は要注意、結界の球体で覆っておかないと捩じ切れる。そんなことはともかく、私たちはそうしてザニアを発った。




