第二十一星 聞きたい
「さて…と。……とりあえず、2人ともこの星を出ることは決まったことだけど……私、明日ここを発ってから行く場所って太陽系の地球なんだけど。とりあえずの行き先は地球でいいの?」
本当の目的は太陽系由来のボムの補充なんだけど、色々呼び出しかかってるから地球にも寄る。……この時期には絶対に戻るって分かられてるんだよね、ホント。
「…っと…わよはそっで大丈夫けろ。…エレナは?」
「私も…」
「…分かった。とりあえず、2人の身元引受先決めないとね。何人か当てがあるから当たってみるけど…」
「ま、待つけろ、身元引受…??」
ルシリールの言葉に小さく首をかしげる。
「ルシリールには前も似たようなこと言わなかったっけ?“流れ星でもないあなたに危険を冒させるわけにはいかない”って。流石に流れ星じゃない人間をそのまま連れまわすのはできないよ。…その辺り、エレナは気付いてそうだけど。」
「え、あ、はい…」
「どっちみち一度地球で私達はお別れになるかな。それが永遠のものになるか一時的なものになるかは知らないけど。」
まぁ、ともかく。
「早く身元引受先決めるよ。申し訳ないけど日本、ギリシャ、アメリカ、イギリス、ローマの中から選んでね。…ちなみにおすすめは日本ね。」
「…あの、スティラさん?日本って“魔境”じゃなかったでしたっけ…?」
「“魔境”って呼ばれる日本だけど私達“呪われた者”にとっては一番住みやすい場所だよ。理由は…まぁ、見れば分かる。」
ついでに魔境って言われる理由も見れば分かる。
「とーか、スティラさんが身元引受人にならよかなけろ?なでスティラさんが引き受けんけろ?」
「え?……知らないの?」
「「「…??」」」
あ、この反応は知らないか。割と有名な気もしたんだけど……あ、いや……ギルド側が隠蔽してるのかな?
「私、家ないよ。」
「……へっ?」
「だから、私家ないんだってば。戸籍はあっても住所はないよ。」
「「「………」」」
3人が顔を見合わせる。表情的にうまく呑み込めてないんだろうけど…マスターが一番最初に復帰した。
「どういう…ことでしょう?」
「どういうことも何もそのままの意味なんだけど。私は地球上に家がない。いわばこの船が私の家のようなものだけど…比喩でも何でもない、戸籍はあっても住んでいる記録はないよ。」
「…スティラ様も星侵害孤児なのですか?」
「…いや、私の場合は…孤児かな、普通に。」
別に親族全員がいなくなったわけじゃないけど…まぁ。
「話を戻すけど、どこがいい?日本、ギリシャ、アメリカ、イギリス、ローマ…この5国なら私の知り合いがいるから連絡は付けられるよ。」
「…スティラさん。一番お勧めできない場所ってど───」
「アメリカ。」
「……まだ、言い切ってなかったんですが…」
お母さんの出身地だからってお勧めできる場所ではないからね…日本はお父さんの出身地だけど、私の経験上一番お勧めできる。…とくに、呪われた者にとっては日本は非常に生きやすい場所で、アメリカは非常に生きにくい場所だ。なんでこう、両親の出身地が極端なんだろうね。
「…なら、日本でお願いするけろ。」
「私もそれで、お願いします。」
「分かった。…ってことは」
端末を開いて連絡先を出す。私の端末は昔のガラパゴス携帯と同じデザインだけど、私はこれが何気に好き。
「……あった」
目的の名前を見つけて電話をかける。…仕事中じゃないといいけど。……あっ、繋がった。
〔はい、もしもし?〕
「あ、えーと…おはようございます?」
〔まだ9時くらいだから“おはようございます”で大丈夫だよ、スティラちゃん。どうかしたの?〕
「…とりあえず、ご無沙汰しています。“楓”叔母さん。」
“秘魅咲 楓”さん。私の叔母さんで、お父さんの1つ下の妹さん。
〔うん、声聞くのも結構久しぶりかな?元気だった?スティラちゃん。〕
「えぇ、まぁ……お父さんの方は元気ですか?」
〔兄さんはいつも通りだよ。〕
いつも通り…か。
〔それで、今日はどうかしたの?地球に帰ってくる前に電話してくるなんて。〕
「えっと…ですね。…星侵害孤児の身元引受を2人分お願いしたいんですけど…」
〔ん、いいよー。〕
早っ…
「頼んだ私が言うのもですけど、そんなにすぐに決めちゃっていいんですか?」
〔大丈夫だよ、スティラちゃんの頼みだし…私が出来ることなんてそこまでないんだからそれくらい頼りにして?〕
「…ありがとう、ございます……あ、でも…」
〔ん?〕
呪いのことも話しておかないとかな。
「2人とも“呪われた者”でして…1人は“単独呪詛”なんですがもう1人は“四重呪詛”なんです。」
〔あー……いや、大丈夫だよ?だって日本だし。〕
……“だって日本だし”。これで納得できるの普通おかしいと思うんだ。このあたりも魔境って言われる所以だね。
「それでは、よろしくお願いしますね。」
〔ん、準備できたらこっちから連絡するねー。スティラちゃんが太陽系を発つまでには連絡入れられるようにするよ。〕
「…すみません、ご迷惑をおかけして。」
〔いいのいいの。…あ、スティラちゃん。〕
電話を終わろうとしたところで呼び止められる。
「はい?」
〔今回も…行くの?〕
「…はい」
〔ん、分かった。分かり切ってはいたけど一応ね。じゃあ、またねー。〕
その言葉を最後に電話が切れる。…結構自由な人なんだよね、楓さん。…社長代理なのに。………いや、もっと自由な人がいるか。
「というわけで、受入れ先が決まったんだけど。……ルシリールとエレナって出星手続きまだだよね?」
「「……あ。」」
出星手続きというのは日本で言う転出届。流れ星になればこれも必要なくなるんだけど…まぁそれはそれ。
「出星手続きは私の方でやっておくから2人は一度家に戻って持っていきたいもの纏めてきたら?」
「…いいんですか?」
「いいよ、別に。私は作業してるからランと一緒に行ってきなさいな。」
…あ、そうだ。
「ラン、ついでに食材とかの補充お願いしてもいい?足りないものは書いておいたから。」
「畏まりました。エレナ様、首都の案内の方お願いしてもよろしいですか?」
「あ、はい……あの、スティラさん」
「うん?」
「…先ほどから……いえ、一昨日からずっと思ってたんですけど。どうしてスティラさんは何も食べないんですか…?」
「……」
…それかぁ。
「…“虚食状態”」
「え?拒食症…ですか?」
「んーと…知ってる?“虚食状態”───“拒む”じゃなくて“虚ろ”って書く方。」
「い、いえ…」
「私も知りませんね。」
「わよも知らないけろ。」
んー…どう説明したものかな。
「簡単に言えば食べれなくなる症状。“食べにくい”じゃなくて“食べれない”、ね。食欲の消失、味覚の消失、空腹感の消失……それから、空腹による餓死・栄養失調の無効化。正直な話、もう“生き物”と言えるか分からない状態かな。そうだね……」
…6月か。確か今回の虚食状態の始まりは…1月かな?ってことは
「もう5ヶ月は何も食べてないかな。」
「え……!?」
「さっき言ったでしょ、エレナ。食べたい時に食べておきなさい、って。虚食状態になると飲み物くらいしか喉を通らないよ。」
呪いに近いけど…これは体質とかじゃなくて星元…西暦2032年以後に発覚した病気の一種だからね。そして一度これになると再発が多い。
「虚食状態から抜けると一気に空腹は感じるようになるけど、それも一瞬のこと。大体数日でまた虚食状態になる。割と地獄だよ、ホント。」
「……」
「それでも料理とか好きだから作ってるし、ランがいるから作ってられる。ランは戦闘的なこと以外にも精神的なことで私の支えになってくれてるんだよ。」
「…元々、私の製造理由は主スティラの支えとなることですからね。…とはいえ、まさか食事機能が支えになるとは思いませんでしたが。」
それはそう。
「聞きたいことはこれで終わり?」
「あ、はい…」
「ん。じゃあ、一度家に戻って準備してきなさいな。私の方も色々と準備しておくから。」
そう言った後ランを含めた4人を送り出して、出星手続きの準備に入った。…ちなみにマスターはただの付き添いだったらしい。




