第十九星 星霊様
授業を終えてから2日…星界標準時星暦25年6月24日6時15分。私は船内の一室で報告書を書いていた。
「んー…」
内容は索敵具現体が発見した星侵獣、“アズマンティナ・ネスト”と“アズマント・ネスト”の討伐報告。…まぁ、“巣”って呼ばれるタイプの星侵獣。これがいる限り該当の星侵獣は産まれ続ける。…つまりザニアでのアズマント・クラウドの多数発生やアズマンティナの多量発生の元凶。…敢えて言おう、“めんどくさい”。だって“巣”って報告書必須だし。
「……やっぱりあまり人が来ない関係上…巣とかできやすいんだよね…」
アズマントの巣は11年は存在したみたい。幸いアズマント自体はアズマント・クラウドになる前に討伐できたことが多かったらしくて被害は特になかったらしいけど……放置しすぎでしょ、ホント。
「…お茶、淹れよ」
一区切りついたところで羽根ペンを置いて席を立つ。近くに併設されてる食器棚を開けたと同時に扉を叩く音。
「はい?」
「主スティラ、カウンターマスターがお見えです。」
「マスターが?」
なんだろう?何かあったのかな?
「なんか複雑な話だったら上がってもらって?」
「いえ、簡単な話ですので外で構わないと…」
「……?分かった、今行くよ。」
手に持っていた急須を置いて部屋から出る。割と入り組んでる通路を通ってステラーシップの入り口から外に出る。
「マスター?」
確かに外にマスターは待っていた。…けど…私に気づいてない?
「マスター…?」
「……はっ。お、おはようございます、スティラ様。大変申し訳ありません、少しばかり眠っていました。」
「いや、いいんだけど…」
っていうか今の“睡眠”というよりは“気絶”だよね?
「無理はしちゃダメだよ?」
「はは…肝に銘じます。」
「……それで、何か用?新たな星侵獣でも現れた?」
一応可能性はあるから聞いてみる…けど、マスターは首を横に振った。
「いえ、別件です。…その、ですね。」
「…?」
「───“星霊様”が、スティラ様方にお会いになりたいそうです。」
「……星霊様が?」
───“星霊”。読んで字の如く、“星の精霊”。星を守護する星の意思そのもの。星の神、と言ってもいいかもしれないけど。
「なんで、星霊様が私に?」
「さぁ…私には分かりません。今朝、唐突に言われたものですから。」
「ふーん……」
とりあえず今はマスターとランと一緒に星霊様の元に向かってる。カウンターの方にあるっていうのは確認済みだったけど……
「……到着しました。」
「…主スティラ。いつ見ても、大きな樹ですね。」
ランの言葉に頷く。───“星大樹”。星霊様が住まう樹。世界樹みたいなものだと思えば問題ない。
「星霊様。渡り星のスティラ様、およびラン様をお連れしました。」
「………」
星大樹の前で星大樹を見つめる美しい女性。……間違いない、あの人がここの星霊様だ。
「……懐かしい、気配がします。」
こっちを見ずに彼女が呟く。
「懐かしい……ちょうど、20年ほど前に感じた気配が。」
「……」
「…最初に1つ、問わせてください。」
そう告げてから星霊様は私達の方を向いた。
「あなたはリリーティアと……“流水槍”と、何か関わりがありますか?」
「………っ」
その、名前を聞いて。…私は一瞬言葉に詰まった。
「……母を……ご存じなんですね。」
「……それでは、あなたは………」
繋ぐ問いに静かに頷く。
「……“流水槍のリリーティア”。彼女は、私の実の母親です。」
「……あぁ。道理で、雫の面影のあることです。」
雫、というのはお母さんの日本名。…20年前、か……
「雫は……彼女は今、お元気ですか?」
「……母は……」
…お母さんは
「………17年前に、亡くなりました」
「……………なんと」
私が告げた言葉を理解した瞬間、星霊様は目を伏せた。
「……申し訳ありません、辛いことを思い出させました。」
「いえ……」
「……お名前を、改めて伺ってもよろしいですか?」
「……スティラ、です。こっちはラン。」
「スティラ……それに、ラン……」
星霊様は顔をあげて私達をまっすぐと見た。
「失礼、名乗るのが遅れました。57年前よりザニアの星霊を務めています、“ミティア・ザニアリシル”といいます。」
「……スティラ、です。本名…姓は、ちょっと。」
「今、ここにいるということは…雫の時と同じく、貴女にとってそれは“忌み名”でしょうから、構いません。」
お母さんを知っているってことは、私の本名が忌み名であることも理解してる…か。
「さて。遅くなりましたが、この星を侵す巨龍、並びに増え続ける群体の討伐、誠にありがとうございました。貴女方のおかげでこの星は平穏を取り戻せました。この星の代表として、感謝申し上げます。」
星霊様が私達に頭を下げる。私達としては、そう感謝されることをしたつもりはない。
「…“星喰雌龍”を放置し、民間に被害を出してしまったのはこちらの落ち度です。怨まれこそすれ、感謝されるなど。」
「……」
私の言葉に星霊様が小さく笑う。
「似ていますね…やはり。性格も、考え方も、雫の生き写し。…かの龍を放置し続けていれば、今よりも大きな被害は確実。被害を受けた集落には申し訳ありませんが、集落1つで済んだのはむしろ幸運です。貴女もそれはご存知でしょう?」
「…それは、そうですが。」
確かにあの龍が現れて集落1つで済んだのは幸運。…だけど、集落が滅びたということは必然的にたくさんの人が亡くなったということになる。…それが、私には辛い。
「…“多くが助かったのだからそれでいい”。そう考えるのは私も好きではありませんが。…終わった後では、もうどうすることもできないのですよ。」
「…そう、ですね」
…過去は、変えられない。短い時間であればともかく、長い時間を変えることはできない。
「私達星霊は、そんな不幸にも命を落とした者達を記録します。自らの任期に喪われた命を忘れぬように。私達は何もできないというのに、もうこんなことが起こらなければいいと願いながら。」
「……」
星霊様は星の守護者ではあるけれど、“星”そのものの守護者でしかない。星に住む人々の守護者ではないから、人を救うための力は持たない…ことが多い。星霊様の性格はその星霊様によるけど…ここの星霊様は、人を救うための力を持たないのを辛いと感じるタイプみたい。
「…少し話を変えましょう。貴女方がかの龍と戦い、この星に住まう子らに制御の術を教え、かの群体を滅すのを、私はこの樹より観ていました。」
あ、見てたんだ…
「…その中で、気になることが。スティラ、私は……貴女の内から、いくつもの力を感じました。雫の娘であれば、遺伝によって水の力はあるでしょう。…ですが、それだけではない。水…いえ、貴女が使っていたのは火ですか。そしてそれ以外にも強大な力を感じたのです。…もしや、貴女は…?」
不安そうな表情での問いに、静かに頷く。
「…1つ“超特大星素容量”、2つ“全属性最高位適性保持者”、3つ“全属性精霊声紋”、4つ“超特大魔力核”、5つ“狂気完全耐性”、6つ“霊界契約者高適性”、7つ“四段派生行使適性”、8つ“無媒体超高純度星素凝縮適性”、9つ“全武器自在利用適性”…10つ、“星素生命維持高精度変換”、です。」
私が告げた言葉に、星霊様が言葉を失った。
「………けて」
「……?」
「………ふざけて、いるのですか」
その声は、怒りが混じっていた。でも、その怒りは私に向けられたものじゃない。
「“十重超呪詛”……そんなもの、たった1人で背負うものではありません……!!」
「……」
「スティラ、貴女は───貴女は、その小さな身に…!どうして、そこまでの呪いを背負っているのですか!?」
…どうして、か。
「ただただ“呪われた者”であるのならまだいいのです!ですが、貴女のそれは───貴女のそれは、星霊達の間で“もしも”と言われ続け、実在の認識を拒否し、可能性を否定し続けていたもの!!総てを狂わせる大厄災!!何故、貴女のような少女がそれを背負っているのです!!」
「…わかりません」
「っ……そう、ですよね…申し訳ありません、取り乱しました。」
「…いえ」
星霊様がそのまま俯く。…総てを狂わせる大厄災、か。
「……星霊様。…“願い星”を、ご存知ですか?」
「…“願い星”、ですか?最果ての星“エアレンデル”、その更に先にあるといわれる“あらゆる願いを叶えるといわれる星”のことですね?確か24年ほど前に一度起動したと……」
そこまで言ってから星霊様は驚いた表情で私を見た。
「…まさか、貴女は……っ」
「………」
「……止めても、無駄なようですね。」
諦めたように星霊様はため息をついた。…説得されるものだと思ったけど。
「貴女のような表情をしている人は止めても無駄です。…いくら説得しても、貴女みたいな人は話を聞きませんから。」
「…」
「……辛い道になると思います。苦しい道になると思います。…それでも、貴女はその道を駆け抜ける覚悟があるのですか?」
「…えぇ、もちろん。…そのために、私はここにいるのですから。」
「…そうですか」
私の回答を聞いた星霊様は大きなため息をついた。
「…約束してください」
「…?」
「絶対に、貴女の目的を達すると。」
「…はい。」
「…私の用事は終わりです。下がって構いません。」
「…失礼します。」
そう言ってから私達は星大樹前から去った。




