第十四星 ステラースキルとは -六星属性-
「…あ、そろそろ時間か……」
授業を止めてから10分。私はザニア上空で3体の星侵獣と対峙していた。
「ていうか、“クリスタルアッド・アズマンティナ”とか久し振りに見た気がするんだけど……」
“クリスタルアッド・アズマンティナ”。英文にするとCrystal add Azmantynaとなるんだけど……add、の名から分かるようにこの星侵獣はアズマンティナという名の星侵獣に金属性第五段階“水晶”が付加された存在。そして、アズマンティナというのはアズマントの亜種……といっていいのか進化といっていいのか。そんな存在。
「とりあえず、終わらせようか。」
詠唱省略で日属性、月属性、火属性、水属性、木属性、金属性、土属性の針を3本ずつ生成する。それを見たクリスタルアッド・アズマンティナが逃げようとする───
「逃がさないよ」
各属性1本ずつ───つまり1体につき7本の針を正確に突き刺す。授業停止から10分経つまでの間に属性装甲は“天青石の投擲剣”で砕いて、かつ再生阻害しておいたから問題なく刺さる。
「北方に座す斗は死を司る呪詛の七星。南方に座す斗は生を司る祝福の六星。汝に刻まれし斗は北方の呪詛。刻まれた死に怯えながら冥府へ至れ───」
詠唱を完了してから予め用意しておいた“死の針”を投げる。
「───“七死星”!!」
着弾と同時に七星属性の針が一斉に光る───まぁ、本当は最後に放った“死の針”なんて必要ないんだけど…
「…うん、討伐完了っと。」
属性付加されていたとはいえアズマントとほぼ同位置に存在する星侵獣。一番弱い火力でも十分だった。星素分解を確認した後地上に降りる。
「お疲れ様でございます、スティラ様。」
「いや、いい標的だったし大丈夫だよ。」
クリスタルアッド・アズマンティナは属性付加されていたとはいえ私の刀が通らない相手じゃない。にも拘らずSi Skillのみで戦ってたのはマスターからの依頼。
「ところでスティラ様、最後のSi Skillはもしや…」
「うん、“七死星の呪詛”だよ。」
「…やはり。七死星───北斗七星を身体に穿たれた者は問答無用で死に至るという呪い、ですな。まさかこの眼で実際に目にすることができるとは…」
「そんなに便利な物じゃないけどねー。」
相手の強さによっては属性の段階を上げないといけなかったり、複数打ち込む必要があったり…あとは起動させるまでに消費する星素の量が結構多いのも難点。…ていうか……
「…スティラ様?」
「…うん?」
「一層表情が暗くなりましたので…少々、不安になりまして。」
……あぁ、またか…深いところまで思考が行くところだった。
「何でもないよ。さ、授業を再開しなきゃ。」
そう言ったあと私は教壇に立つ。
「……授業を再開するけど……いい?」
全員に対して聞いて、頷いたのを確認してから黒板に向き直る。
「じゃあ土属性の次からね。“生命”の地。第一段階“地”、第二段階“震動”、第三段階“生”、第四段階“現世”、第五段階“燐灰石”、第六段階“地球”。対応星座は“牡牛座”…つまり星座宮は“金牛宮”。対応斗星は“天同”……なんだけどこれ英名ついてないはず。ラテン語で“プリマ・トウアル・サディラ”。いて座φ星ね。」
名前無いのよね、いて座φ星って……
「例によって第六段階の名称から分かる通り“地球”の属性。性質は……“生命”、“共鳴”、“反響”、“重力”……かな。」
地属性の特徴は、と…
「さっきの時間に話した土属性よりも強固な土台を作れるのが地属性。似た属性だけど、こっちは生命を育むのに強い適性を持つ。その理由は“地球”という星が比較的安定している星だからだね。」
火水風地…どれかの元素に偏りすぎているわけではなく、太陽系の中で太陽との距離が遠すぎず近すぎず。他星人が比較的地球の大気に適合しやすいのもあって、たまに“奇跡の星”と呼ばれることもある地球。Si Skillのお陰で核物質廃棄とか放射能汚染の問題も解決されてるし。まぁ日本は魔境だけど。日本は魔境だけど。
「次行くよー。“大気”の天。第一段階“風”、第二段階“微風”、第三段階“疾風 ”、第四段階“暴風”、第五段階“翠玉”、第六段階“天王星”。対応星座は“水瓶座”…つまり星座宮は“宝瓶宮”。対応斗星は“天相”……“カウス・ボレアリス”。いて座λ星ね。」
ラムダ……ギリシャ文字の11字目なんだよね、これ。実際ギリシャ文字って昔から色々なところで使われてるから五体満足で健康に生きててギリシャ文字を全く知らないってことはほぼないと思う。α、βはもちろんのことμとπ、ωあたりは形だけでも見たことがあると思うんだよね。…多分。
「例によって第六段階の名称から分かる通り“天王星”の属性。性質は……“大気”、“酸素”、“清涼”、“圧力”……かな。」
天属性は流れ星にとって結構必須級の属性。特に私みたいな近接型にとって宇宙服の代わりにできる天属性はほぼ必須。いくら小型化した宇宙服があったとしても、食べたり飲んだりすることで宇宙服を着たときと同じような効果を発揮するものを使ったとしても、宇宙服を壊されたり効果が切れたりしたら命の危険があるし。ちなみに大気圏外、つまり空気の無い宇宙空間で宇宙服を身に付けてない私達が普通に活動できる理由がこれ。
「天属性は言ってしまえば四元素の風属性そのものね。だけど扱っているものが厳密には風ではないから“風属性”とは呼ばれない。気を付けてね、魔法と違ってSi Skillに風属性は存在しないから。」
逆を言えば魔法には存在するということだけど…まぁそれはそれ、これはこれ。そもそも私が知ってる限り異世界への扉は地球にしかないから地球外生命が魔法に触れる機会なんて………そうそう無いだろうし。
「次、三つ目…“流動”の海。第一段階“池”、第二段階“湖”、第三段階“川”、第四段階“海”、第五段階“藍玉”、第六段階“海王星”。対応星座は“魚座”…つまり星座宮は“双魚宮”。対応斗星は“七殺”……“ポリス”。いて座μ星ね。」
星の名前って全部伝わってるわけじゃないし、現役の流れ星でも全部覚えてる人は少ない。私だって比較的覚えてる方だけどバイエル名はともかくとして英名から中国名、ラテン語名全部覚えてるなんて胸張って言えるわけじゃないし。
「第六段階の名称から分かる通り“海王星”の属性。性質は……“流動”、“潮”、“水面”、“干満”……かな。」
海属性は結構曖昧。…いや、他の属性も曖昧と言えば曖昧だけど。七星属性…特に五行と同じ木火土金水属性みたいな分かりやすく明確な属性概念が存在するわけじゃないからどうしても曖昧になるんだよね。
「海属性は水属性よりも大量の水を扱いやすい。でもその反面、一点集中の高圧水弾は扱いにくい。集中の水、範囲の海みたいに使い分けるのがいい感じかな。」
ちなみに応用で。海属性を一点にまとめて圧縮、超高圧力の水弾として扱うことも可能だったりはする。すごく制御難しいけどね。
「それで…あ、これが明確に名前がついてるのでは最後だね。“死滅”の冥。第一段階“血”、第二段階“破砕”、第三段階“死”、第四段階“常世”、第五段階“天青石”、第六段階“冥王星”。対応星座は“蠍座”…つまり星座宮は“天蠍宮”。対応斗星は“天幾”……“ヌンキ”。いて座σ星ね。」
段階名が割と物騒だけど……まぁ。
「第六段階の名称から分かる通り“冥王星”の属性。性質は……“死滅”、“輪廻”、“浄化”、“冥界”……かな。」
物騒なのは仕方ないんだよね。明確な“死”、現世ではなく幽世を意味する系統の属性だから。似ているところでは月属性とか水属性かな。地属性とかみたいな“維持する”、ではなく“鎮める”に近いタイプなんだよね。…ただし。
「日属性もそうだったけどこの属性はかなり危険。使い手の力が相手の力を上回れば第一段階“血”ですら問答無用で死に至らしめることができるからね。…こんな小さな針であっても。」
そういいながら手元に1本の針───太さ0.7mm長さ40mmくらいのものを生成する。…まぁ、これはただの金属性の針なんだけど。これがもし冥属性で作られているならば人間の子供くらいであれば簡単に殺せてしまう。…それほど、危険な属性でもある。殺さないようにすることができるのは置いておいて。
「残るはこれ含めてあと2つ…まずは“基礎”の無。第一段階“無”、第二段階“力”、第三段階“気”、第四段階“純粋”、第五段階“金剛石”、第六段階“星”。対応星座は“双子座”…つまり星座宮は“双児宮”。対応斗星は“天梁”……“ナマウサディラ”。いて座τ星ね。」
ここからはちょっと毛色が変わる。ていうかτとか基本聞かないでしょ……
「第六段階からは分かりにくいと思うけど……この無属性は“数多の星”───この宇宙上に存在する“総ての天体”を意味する属性。その特性は“基礎”、“希望”、“物理”、“天体”。」
魔法なのに物理、というのは……まぁ。
「如何に属性適性がなくても無属性第一段階“無”だけは誰でも扱える。この属性は総てのSi Skillの基礎、総てのSi Skillの基盤。私達のSi Skillはこの無属性Si Skillの上に重ねて発動してる。…無意識にね。」
ホント、無意識に発動してるんだよね…例えば刃に火を纏わせる“火の刃”。例えば狙撃弾に火を纏わせる“火の狙撃弾”。実はどちらの詠唱も“エネルギー”から始まってる。それは詠唱省略の無属性Si Skill。“力の刀身”、“力の魔弾”という無属性第二段階“力”のSi Skillが星素の潤滑層として機能してる。
「あとで教えるのはこの無属性Si Skillだからねー。…そして」
これで最後。
「最後。“抹消”の虚。第一段階“虚”、第二段階“不明”、第三段階“虚数”、第四段階“虚無”、第五段階“黒曜石”、第六段階“穴”。対応星座は“蛇遣座”。対応斗星は“天府”……“アスケラ”。いて座ζ星ね。…この星を襲った星侵獣、“ドラギュート・フーリス・ジ・アスケラ”はこの星から差し向けられた刺客と言っても問題ない。…一応は。」
“星の刺客”って実際よくわかんないんだよね……
「分かりにくいと思うけど…っていうか基本分かんないと思うけど。この虚属性は“虚数の穴”───分かりやすく言えば“ブラックホール”を意味する属性。その特性は“抹消”、“絶望”、“特殊”、“虚無”。」
…割と怖い特性持ってるけど、危険なのはどの属性だって同じなんだよね、実際。…“力”っていうのはそういうものだもの。
「さっきの時間に話したけど…日属性を鎮圧するなら月属性を使わないといけないっていう話。実は月属性じゃなくて虚属性でもできる。ただし、こっちは一方的な打ち消し。月属性を使うよりも危険性は高い。使うならちゃんと機能の方向性を持たせること。」
私がそういうと、全員が首をかしげた。
「…あっと、方向性っていうのは…“何を”打ち消すのかっていうのを指定することね。これは虚属性じ
ゃなくてもできるんだけど…例えば……ルシリール、ちょっといい?」
「わよ…けろ?」
「ん、そこで立ってればいいから」
「??」
私に言われるままに立つルシリールに向けて“海の矢”を展開する。
「ちょっ!?」
「動かないで───防ごうともしないで。」
短く言って“海の矢”を射出する。射出された矢はルシリールに当たった途端消え去って海水の塊となってルシリールに降りかかる。
「つ、冷たけろ!?」
「まぁ、海水だし。…それよりルシリール、何か気が付かない?」
「け、けろ…?」
…あ、これは気付いてないね。
「いい、ルシリール?今あなたは私の“海の矢”で海水を被った。そしてその水の冷たさをあなたは感じた。…これは理解できるよね?」
「…できる、けろ。」
「じゃあ、あなたの服はどうなってる?」
「…服?……はへっ?」
あ、やっと気づいた。って、みんなも気づいたみたいね。
「ルシリールが着ているのは白いワンピース。白、という色は…というか、白色の生地は水に濡れると“透ける”。でも───ルシリールが今着ている服は、透けてない。」
「…それどころか、わよの身体も濡れてないけろ!!」
そう、ルシリールが濡れてるのは髪の毛だけ。
「これが方向性を持たせるということ。私は今、海属性に対して“髪の毛だけを濡らす”という方向性を持たせた。事実、ルシリールは頭から海水を大量に被ったのに髪の毛しか濡れなかった。これが方向性を持たせなければこの場でルシリールはびしょ濡れになってたよ。」
「そ、それは恥ずかしいけろ…」
「男の子だといってもその服じゃ裸を見られるのと同義だからそうでしょうね。…おいで、ルシリール。髪の毛洗って乾かしてあげる。」
「……お願いするけろ」
私の前に来て座ったのを確認した後、水属性、火属性、天属性の球を展開する。そのあとに金属性で硝子と水銀を用意してルシリールを覆うようにマジックミラーの箱のようなものを作る。ルシリール側からは外の様子が見えるし、私からもルシリールの姿は見える───けど、他の人からルシリールの姿は見えない。ちなみにこれって真面目に難しい操作だったりする。
「冷たい方がいい?暖かい方がいい?」
「暖かい方でお願いするけろ…」
「分かった。」
水属性と火属性を上手く合わせて“お湯”に。…これ難しいんだよねー。水剋火───水は火を消し止める、だから。
「このままで説明再開するけど…この時間に説明した六属性。地天海冥無虚の属性は、対応斗星───南斗六星に準えて“六星属性”…“南斗六星属性”と呼ばれてる。」
Milk Dipper。英名とかは他には特にない。あるとすればγ²星“アルナスル”、δ星“カウス・メディア”、ε星“カウス・アウストラリス”、η星“アルカブ”を合わせてTeapot。…日本じゃあまり使われないけど。
「さらに、ここまで話した十三属性を全部まとめて“黄道属性”なんて言う人もいる。…虚属性を除いた十二属性が“黄道属性”だっていう人も多いけど。虚属性である蛇遣座は黄道十二宮にないし。」
お湯を一旦止めて量子変換ポーチから出したシャンプーを使ってルシリールの髪を洗う。
「んっ…」
「……とりあえず七星属性と六星属性の解説は以上かな。何か質問は?」
「…んっ…と…わよからよかけろ?」
「…いいけど、色っぽい声出さないの。」
「手つきが優しいのが悪いけろ……」
なんか酷くない?
「それで、何?」
「確か……ランさん…やったけろね。なんだったけろ…ふりーず?とかいう属性使ってたけろ。あれは何だったけろ?ここまで話してくれたにはなかたけろ。」
フリーズ…
「…よく覚えてるねー……最後には意識失ってたし覚えてないかと思ったんだけど。」
「わよ、音を聞くのと覚えるのは得意けろ!」
「…そう。泡流すから目と口、閉じてなさい。」
「ん、んぅ…」
再度お湯を出して泡を洗い流す。
「いいなぁ…」
「そこ、聞こえてる。」
最初に質問してきた子だね、今の。女の子だったはず。
「そうね…“フリーズ”。気づかれてなければ話すつもりもなかったんだけどね。まぁ、無理か。ん、ルシリールの髪乾かしたらそっちの解説に移るね。それまで休憩。」
あらかた洗い流した後、火属性と天属性を使って“温風”を作り出す。
「……あと、さっき“いいなぁ”って言った子。……ええと、名前は?」
「え…わ、私…?」
「そう、貴女。名前は?」
「エ、“エレナ”です。“エレナ・ラメリフィル”…」
「エレナね。ルシリールの髪を乾かした後にでもやってあげるけど、どうする?」
「…いい、んですか…?」
「正直に言ったからね。…実際、こんなところでやってたら気になるのは当然でしょ。」
知っててやってたし。
「貴女が一番最初に、正直に言ったから、特別に。他の子たちは授業が全部終わった後から私がザニアにいる間に私の元まで言いにくればやってあげるよ。」
あ、嫉妬の視線っぽいの消えた。
「…でもエレナ、ここでやるってことは鏡で隠すとはいえ皆に見られるけど大丈夫?あなたルシリールと違って女の子でしょ?」
「だ、大丈夫、です……」
「そう…?」
……よくわかんないけど。本人がいいならいいのかな。




